ねこのフレンズ

楠乃小玉

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五十四話 ドカンちゃんの一番長い日(前編)【修正版】

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 「あ~今日は本当に充実した一日だったね、
 さっそく木戸さんにネコが大丈夫な草花を教えなきゃ」
 「そうだね、ドカンちゃん!」
 ドカンちゃんとチカンちゃんはニコニコ笑いながら家に帰ってきた。
 
 が

 家の前に猿渡がいる。
 何でこんなところに。

 ニタニタ笑いながら腕を組んでこっちを見ている。

 「何してんの引きこもり。引きこもりはちゃんと家に閉じこもってなきゃだめじゃん」
 
 「何の用ですか」

 「お前なにしてんの?」
  
 「あなたには関係ないです」

 「お前さ、前から思ってたんだけど、
 自転車の前かごに入れてんの何?」

 
 
 ドカンちゃんは無表情のまま猿渡を見る。

 「チカンちゃんですけど?」

 「何それ?」

 「チカンちゃんです」



 その時である!


 「ドカンちゃん!心に夢や未来への希望の無い人間は私の事が見えないんだ!

 夢も希望もない、怠惰な日常に縛り付けられた人間の発言をしてるくせに
 私の姿が見えているってことはそいつは妖怪なんだよ!
 騙されないで!こいつは妖怪だ!!」

 チカンちゃんが猿渡りをビシッと指さして言った。

 「正体を現せ妖怪め!正義光線だー!びびびびびびびびー!」
 
 チカンちゃんが目から光り光線を発射する。
 すると猿渡の頭から見る間に角が生えてきて、
 口から牙がのびてきて顔色は紫色になった。

 「え?え?マジで?猿渡って妖怪だったの?」

 ドカンちゃんが驚く。

 「何驚いてんだよ!こんな人でなしが人間のわけないじゃん!!!」

 チカンちゃんがピョンピョン跳ねながら叫ぶ。

 「本当に、本当に妖怪なの?」

 「そうだよ、あいつの正体は妖怪だったんだよ!
 だからあんな奴の言うこと聞かなくて正解だったんだよ!」
 自信満々にチカンちゃんが答える。

 「おのれ、よくも俺様、事故非丁ジコヒテイ様の正体を見破ったな!
 おのれ!ゆるさんぞ!!引きこもりに明るい未来など
 断じてゆるさん!お前らの末路はこうなるのだ!」
 
 そう言って事故非丁が両手を広げると、地面から無数の腐った死体が
 わき出してきた。

 「くるし~、もういじめないで~」

 「死んだら楽になれるっていったのに~いったのに~」
 
 ズルズルに腐って溶けて目が飛び出しているような死体が無数に地面から
 這い出してくる。

 ドカンちゃんは驚愕して立ちすくむ。
 
 
 「戦うんだ、ドカンちゃん!」
 チカンちゃんが叫ぶ。
 「だめだよ、あの子たちはボクと同じなんだ。ボクと同じ
 引きこもりで、登校拒否で、ニートで、苦しくて苦しくて
 死を選んじゃった子たちなんだ。そんな子たちと
 戦うことはできない!」

 「戦わなきゃ!噛まれたらドカンちゃんもゾンビになっちゃう!」

 「でも!でも!」
 ドカンちゃんは動けない。

 「くるし~うが~」
 
 腐った死体が、いままさにドカンちゃんに噛みつこうとする。
 が、そこで腐った死体の動きが止まる。

 「見て!無数の糸が!」
 チカンちゃんが叫ぶ。

 無数の純白のシルクの糸が腐った死体の体に巻き付き、
 動きを止める。

 「ほほほっ、タイシルクの強度をなめないでいただきたいものね」
 それはカオマニーだった。
 「すごい!すごいよ!」

 よそ見しているチカンちゃんに腐った死体が襲いかかる。
 「う、うわあああー!」
 チカンちゃんがしゃがみ込む。
 その上を勢いよく水柱が通過し、腐った死体をはね飛ばす。

 「ふ~間に合ったね~」
 それはサバンちゃんだった。

 「ほほほほほっ、ついに正体を現したわね、木戸健晴!
 ドカンちゃんの目はごまかせても、私の目はごまかせないわ!
 お前達やっておしまい!」

 「あ、いや、木戸さんじゃな……」

 「悪の権化、木戸健晴!今こそ正義の鉄槌を受けるがいいわ、
 皆の者、やっておしまし!」
 
 ドカンちゃんの言葉にロコツに言葉をかぶせてシアンちゃんが叫ぶ。
 
 シアンちゃんがそう言うと、シアンちゃんの後ろからブウンと巨大なトマホークが
 飛んできて、腐った死体を切り裂く。
 「悪霊退治なら私にまかせな!」
 キャリコが叫んだ。

 「やれやれ、静かに新聞も読んでいられませんたぬね」

 そう言ってドラゴンリーが出てきて大きく息を吸い込み、一気に吐く。
 「ドラゴンブレス!」
 そう叫ぶと口から真っ赤な炎をはき出して腐った死体を焼き尽くす。

 「ば、馬鹿な!馬鹿な!」
 事故非丁は大声で叫んだ。

 「いいかげんにしときな!」
 横合いからメインが拳で事故非丁を殴りつける。
 「ぐはっ!」
 事故非丁は吹っ飛んで三回転ほど転がり回る。

 「くそが!くそどもが!

 世の中そんなに甘くないんだぞ!

 お前らなんかが夢みるな!自分の夢なんて捨てて

 地道に嫌な事を我慢して言われた通りにしてろ!
 
 お前なんか、どうせ何をやってもうまくいかないんだ!

 俺はお前のために言ってやってんだぞ!

 お前みたいな才能の無いゴミが夢なんか見るな!!!!

 みんな消えてしまえ-!」

 そう叫んで事故非丁が右手を天空にかざす。
 すると、その手の中から禍々しい剣が出現する。

 「ティルヴィングよ、気をつけて!」
 シアンちゃんが叫ぶ。

 「断言してやる!
 お前なんて、絶対成功しない!!!
 お前の夢や希望なんて全部消えてしまえ!」

 事故非丁はシアンちゃんに剣を向ける。

 「砕けろ!」
 バン!
 大きな音とともにシアンちゃんは砕け散る。
 元に戻らない。
 「シアンちゃん!」
 サバンちゃんが叫ぶ。
 「お前も砕けろ!」
  バン!

 サバンちゃんが砕け散る。
 サバンちゃんも元に戻らない。


 「ああああああああ、シアンちゃんが……サバンちゃんが……」
 あまりの事にドカンちゃんは愕然とする。

 事故非丁が魔剣を振りかざしてドカンちゃんに斬りかかる

 「死ねやああああああー!」
 事故非丁は剣を振り下ろす。

 「だめーーーーっ!」
 その前に、サビ子が飛び出してきた。

 呪いの剣ティルヴィングはサビ子に当たると
 ガツッと鈍い音がして一瞬で錆びた。

 「なんだこれ、なんなんだよお、ティルヴィングは絶対錆びない剣だろ?
 何やってんだよ、錆びるなよ、ポンコツがよお!」
 
 怒りを込めて事故非丁が怒鳴る。
 すると、剣からボロボロとサビが崩れ落ちた。

 「ははは、これで切れるようになったぞ。死ねやドカン!」
 
 魔剣を振り上げる事故非丁。

 が、ドカンちゃんの前にチカンちゃんが立ちはだかる。

 「お前なんかにドカンちゃんが倒せるもんか!
 ドカンちゃんは自分の力で困難に立ち向かったんだぞ!
 クックさんを幸せにしたんだぞ、サイベちゃんの手の毛を三つ編みにして
 扉に引っかからないようにしたんだぞ!
 勇気があって、自分の頭で考えて自分で行動できるすごい子なんだぞおおおおおおー!」
 
 ドカンちゃんが大声で叫ぶと、ドカンちゃんの前に虹色のシールドができた。
 
 「こんなもの!この魔剣の前では無力だ!」
 
 叫びながら事故非丁はティルヴィングを振り下ろす。
 
 ガツン!
 
 大きな音がして魔剣が跳ね返される。

 「ば、馬鹿な!こんな事が」

 「ううううう……」

 体を小刻みに震わせながらサビ子が起き上がる。

 「そうだよ!ドカンちゃんは私みたいな子にも優しくしてくれたんだ!
 お友達になってくれたんだ」
 
 虹色の盾が分厚くなる。

 「そうよ!ドカンちゃんは私と大切なおじいさんとの
 仲を取り持ってくれた素敵な子なのよ!」

 カオマニーが叫ぶ。
 
 「ええい!こんなもの!こんなもの!」

 ガン!
 ガン!

 事故非丁は何度も虹色の盾を叩くがそのたびに魔剣は跳ね返される。

 「馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!」

 ゴリッ!

 鈍い金属音とともに魔剣ティルヴィングが刃こぼれする。

 「バカなあああああああー!こんなチッポケな奴のために
 最強の魔剣が刃こぼれするはずがない!この魔剣は何でも
 願いを叶えるんだぞー!魔剣に命ずる。あの忌々しいドカンを
 あの虹色の盾とともに切り裂け!」
 
 事故非丁が叫ぶと、
 剣の中から天使の羽根をもった女神がふわっと出てきて
 事故非丁に向かって微笑む。

 「何やってんだ、早く殺せ!この役立たずが、ペッ!」
 
 事故非丁は女神の顔にツバを吐きかける。
 しかし、女神は微笑んだままだ。

 「あらあら、頭にカーッと血が昇って忘れちゃったでちゅかあ?
 お願いは三回までなの、おちまい。うふふ」

 パキーン
 
 鋭い金属音とともに魔剣ティルヴィングが砕け散る。

 それと共に女神も霧のように消え去った。

 「いまだよ、ドカンちゃん!」
 「そうだねチカンちゃん!」

 二人は声をあわせる。
 
 「いまーっ、必殺の友情パーンチ!!!」

 ドカンちゃんとチカンちゃんは一緒に事故非丁にパンチを食らわせる。

 「ひてーええええええええええ!!!」

 事故非丁は大声を張り上げながら砕け散ってなくなってしまった。
 
 

 
 サイアがチカンちゃんとドカンちゃんの前に
 やってきてスマホのカラオケサイトを見せる。

 「ミュージックスタート!」
 
 「鬱クラッシュ!ウツクラッシュ!ダダダダンダンダン!ダダダダダンダンダン!
 パソコン立ち上げ文字書くだけーで、ダンダンダン、タララ ダンダンダン!
 チーカーンチャンと話もできーる、タララタタンターン!
 しんじーられなーことばかーりあるのー、ウツーをクラッシュ、
 ウツーをクラッシュ、ほんとのことよー!
 それでもいいわ~近頃少しネガティブマインド飽きた処よ!
 鬱クラッシュ!」

 サイアが歌い終わってポーズを取ると、地面に転がっていた腐った死体にピキピキとヒビがはいる。

 ゴボッ!
 
 そこら中に倒れていたひからびて腐った死体が割れて、中から生々しい人間の手が出てくる。

 「うわ~なんだこれ、俺何してたんだっけ、ヤべッ!漫画の〆切り明日じゃん!
 こんなことしてらんねえわ!あー生きててよかった。あの時自殺してたら、
 今の夢のような生活なかったわ!」

 腐った死体の中から有名漫画家が出てきて、慌ててどこかへ走り去っていった。

 バリバリッ!
 
 また別の死体がひび割れて、ちがう人が出てくる。

  「ふうっ、あれ、俺何してたんだっけ、そうだ、小説の公募に自作小説出したけど
  ずっと一次落ちで、しかも評価オールDで、自殺したくなったけど、
 読者評価方式の新人賞に出したらいっぱい評価もらえて、生きる希望がわいてきたんだった。
 こんなことしちゃいられない!早く次の小説書かないと!!!」

 メキメキッ!

 「あー、何やってたんだっけ、あ、そうだ、俺中卒で、学歴もないし、
 生きてたって良いこと無いって思って電車に飛び込もうとしてたんだ。
 でも、その時、たこ焼きの良いにおいがしてきて、たこ焼き食べよて
 から死のうと思ったけど、たこ焼き屋のオヤジさんに言われて、
 そこで働き出して、今じゃ百店舗のオーナーだよ、
 あんとき死ななくてよかったなあ。一流大学出て過労死してる
 奴もいるのに、俺って幸せだな~、こうしちゃいられねえ、
 店にもどらなきゃ!」
 
 死体の中から出てきた人たちは全員笑顔でどこかへ行ってしまった。


 そんな光景を建物の陰から腐苦尖が見て様子をうかがっている。

 「天罰覿面!八年殺し!」
 プーラが腐苦尖のお尻の穴に深く長剣を突き刺した。

 「ぎゃあああああああああー!」
 
 腐苦尖は大声でわめきながら転がりまわる。
 そして、巻物を何本か落としてお尻を押さえながら逃げていった。

 プーラはその巻物の中身を確認する。

 「呪いの剣ティルヴィングの話をして伏線を張ったシアンはその呪いによって砕け散る。
 呪いによって砕け散るので元には戻らない。伏線回収」
 
 その巻物をプーラは太陽にかざす。すると巻物はボロボロになって消え去った。
 もう一本。
 「サバンはシアンの貼った伏線の呪いの剣の話を聞いてしまったので伏線が貼られる。
 呪いによって砕け散ったので元には戻らない。伏線回収」

 それも、太陽にかざすとボロボロになって消えていった。

 ポニョン!
 スピョン!

 シアンちゃんとサバンちゃんが元に戻る。

 「あーびっくりしたわ、もう元に戻らないかと思ったじゃない」
 「びっくりしたねえ、このまま小さな水滴になって、腕時計の中に入れられて
 声だけの出演とかになっちゃうかと思ったよ」

 「何、いってんのアンタは!」
 パコンとシアンちゃんはサバンちゃんの頭をはたく。

 「あれ?」
 サバンちゃんがきょとんとする。
 「あら?」
 シアンちゃんが目を丸くする。
 「これってもしかして!」
 そう言いながらサバンちゃんがシアンちゃんに抱きつく。
 「ぎゃー!鎮火する!ちんか……あら?しない」
 シアンちゃんはキョトンとするが、そのうち、目からジワジワと涙がこぼれてくる。
 「うわああああー!シアンちゃーん!」
 「サバンちゃん!」
 二人は、強く、強く、抱き合うのだった。

 「いんや~遅れてすまんの~、昼寝しとったら遅れた~」
  そこに頭をかきながらサイベが現れた。

 「あんた、遅いにもほどがあるわよ!」
 シアンちゃんは怒ってサイベの胸ぐらを掴む。
 ジュウウッ!
 音がして水煙がたちのぼる。

 「アイダダダダダダダ!」
 シアンちゃんは驚いて手を離した。

 「なんだ、サバンちゃん以外は今までどうりじゃない」
 「それでいいんだよ、だってシアンちゃんはボク以外の子はダッコしないでしょ」
 「そ、それもそうね」
 シアンちゃんは納得した。

 そんなやりとりを横目で見ながらプーラはもう一つの巻物を広げる。
 「サビ子はドカンに自分が何でも錆びさせてしまうと告白して伏線を張る。
 呪いによってその能力を失い、伏線回収」
 
 プーラはその巻物の中身をしばらく眺めている。

 「……伏線回収!」
 プーラが叫ぶと、巻物は光とともに消え去った。

 プーラは地面に座り込んでいるサビ子のところまで行く。

 そして、自分の大切な長剣を差し出す。
 「これを持ちなさい」

 「え、ダメだよ、錆びてボロボロになっちゃうよ!」
 「いいから!正義のためならボロボロになってもいいから持て!」

 「ううう……」
 ガタガタ震える手をさしだすサビ子。

 その上にゆっくりと、やさしく、プーラが剣を置く。
 剣は太陽の光に輝いて美しく光る。

 サビ子の目からポロポロと涙がこぼれる。
 「サビない……私が触ってもサビない……」

 プーラは満面の笑みを浮かべた。

 「よかったね、サビ子ちゃん」
 ドカンちゃんがサビ子を抱きしめる。
 
 「さびない、なにも……さびない……」
 
 サビ子は目からポロポロ涙を流しながらニッコリと笑った。







 
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