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十二話 夜が更ける(1)*
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寝台がふたりの重みでぎしりと軋む。
それが合図だったかのように、ジヴァンが悠真の脚衣に手をかけた。優しい手つきだった。赫物を素手で仕留めるほど強靭な腕力をもつというのに、まるで泡に触れるよう。
気恥ずかしくて、直視できない。悠真は胸の上衣を握りしめた。
白い素肌をさらした脚で、秘部を隠そうと膝を立てる。膨張する羞恥からの抵抗だった。
「思っていたより、軽い火傷だったみたいだな」
「ん……」
ジヴァンの厚い手のひらが、悠真の左腿を撫でてくる。おもわず甘い声がもれた。
昨晩の火傷はとっくに痛みが引いていた。そのため指摘されるまで、その存在を気にも留めていなかったと気づく。
「全然、痛くなかったから、そうかも」
「だろうな。痕にすらなっていない――」
綺麗だ。
そう、聞こえた気がした。
鼓動が高く跳ね上がる。頭では火傷のことだと理解しているのに、心が混乱した。
悠真は昔から自分の体が好きではない。どうしても、悠希とは同じになれない部分だったからだ。
双子として生まれてきたのだから。
同じでなくてはいけないのだから。
そうして自分を律してきたのに、
――どうして、嬉しい、なんて……。
悠希がどれだけ悠真を肯定してくれても、得られなかった身軽さを感じた。
ジヴァンの権能が関係しているのだろうか。それとも満月がまた、悪戯に悠真の心情をかき乱しているのか。わからない。
悠真はジヴァンから逃げるように、壁へと顔を逸らす。はじめての経験と感情に、恥ずかしさが増すばかりで、居たたまれなかった。
幸い、洋燈の火が小さいおかげで、室内は薄暗い。頬の熱っぽさが、ばれることはないだろう。
静寂な室内で、耳が拾うのは自分の鼓動ばかり。そこに――ぐじゅり、と何かが潰れる音が響いた。
異質な音へと視線を向ける。
ジヴァンの拳から、透明な粘液があふれ出ていた。
「なに、それ」
「無垢な果実。普段は風呂の代わりや医療で使われる植物だ……表向きにはな」
ジヴァンが悠真の片膝を掴み、軟弱な防壁をたやすく崩す。
「男同士では、ここに使う」
「う……っ」
粘液を絡めた指先が、秘部に触れてきた。ぬるりとした感触。ゼリーのようで気持ち悪かったが、それは一瞬のことだった。
皺をのばすよう丁寧に塗り込まれ、自然と腰がみもだえる。同時に自分の陰茎が揺れるさまが見えた。ひどく猥りがわしく、目にいたい。
悠真は胸の上衣を、口元まで引き上げる。それらをなんとか視界から隠そうとした。
「あっ……あっ……」一本の指が秘部に問うよう、浅い抜き差しを繰り返してくる。「ああ……っ」気づけば二本。悠真の意思とは関係なく、深く、ゆっくりと誘い込んでしまった。
痛みはないが、少し苦しい。
浅く息づき、呼吸を整えようとした。しかし股のものを柔く握られ、うまくいかない。
「あ……っ、ジヴァ、ん……」
悠真は男を止めようと手を伸ばす。
空しい抵抗だった。
前に与えられる刺激によって、思うように力が入らない。ジヴァンの手に指を沿えただけ。ふたりで悠真の陰茎を扱くような姿となった。揉まれ、擦られ。昨晩のように滾りだす熱に、脳が焼かれそうだ。
「動かすぞ」
ジヴァンが窺うように、悠真の中を探りだした。
筋張った指が秘部で律動する。波打つように、快楽が押し寄せた。
「あうっ……そ、こぉ……っ」
一点を通過するたび、さらにそれは強くなる。「あっ、あっ、あっ」次第に律動の激しさが増していった。
前と後ろを同時に攻められ、快楽の濁流に溺れそうになっていく。
悠真は枕の端を掴み、頬をうずめた。
気が飛びそうだった。
そのため結合部の粘着音が、軽やかな水音に変化していたことに、気がつかなかった。
「も、い……く……っ」
きつく目を瞑り、ジヴァンの手に精を解放する。
腹を圧迫していた指も抜け、やっと、まともに息が吸える状態となった。
茫然と壁を見つめ、息をつく。
下腹部の疼きはいまだ収まらず、むしろ酷くなったようだ。
そっと手で確かめる。
少しだけ、腹が痩せた気がした。
「若いな」
布で手を拭いながらジヴァンが呟く。
その視線の先には、ふたたび頭をもたげようと張りだす、悠真のものが。
悠真は顔がいっきに熱くなるのがわかった。横目で睨みつけ、無駄な抵抗と知りつつ、上衣の裾をぐっと引き伸ばす。すでに服は皺だらけだった。
そんな悠真に「悪いことじゃない」とだけ返したジヴァンが、寝台の端から紙袋を持ち出した。そこから青い小瓶をひとつ転がす。
どうやら無垢な果実の他にも、いろいろと買い付けてきたらしい。
ジヴァンが淡々と店をまわる姿を想像する。
おそらく彼は悠真を連れて歩くことを避けたかったのではないか。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
確かに。ふたりでそういう商品を買うのは気まずい。だがこの男に、そのような恥じらいがあるのだろうか。
悠真は戸惑いつつ、ジヴァンを盗み見る。
彼はなんの躊躇もなく、下衣をくつろげていた。そこから現れた陰茎を目にし、あまりの大きさに息をのむ。
しかしその萎えている様子から、申し訳なくなり、悠真は眉尻をさげた。
ジヴァンの反応は当然だと思う。
お互いが好きでする行為ではない。
必要に駆られて選択しただけ。
悠真のように体の異変がないかぎり、ジヴァンにとっては不自由な状況なのだろう。
そんな行き場のない感情から、ふと湧いた疑問が口を突く。
「ジヴァンは男と付き合ったこと、あるのか?」
寝台が興味深げに、ぎっと軋む。
「こういう状況で訊く話じゃないな」男はかすかに笑うと、赤い瞳を悠真へ向けた。「特定の相手はいなかった――そういうおまえは、どうなんだ」
ジヴァンが小瓶の栓を抜く。陽に灼けた砂のような、軽い香りが漂いだした。
未練や思い出など残っていない、あっさりとした返答だった。逆に訊ねる声音は、どこか慎重で、けれど、悠然とした雰囲気をもつ。
すでに悠真の答えを知っているだろうに。
言葉として聞きたいようだった。
「……あんたが、はじめてだよ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
鼻を鳴らすように顔をそむけたのは、なぜか胸がむず痒かったからだ。
ジヴァンが微かに「そうか」とこぼす。そこには安堵したような穏やかさがあった。
許しを得たように、悠真に身を寄せ、腰を当ててくる。秘部にひたりとのせられた彼の陰茎は、いまだ萎えたままだったが、わずかに滾りだしていた。
そこに香油を一筋かけられる。
印象よりも冷たい刺激に、脚がぴくりと跳ねた。
とうとうするのだ、と緊張がはしる。
「ん……ん……」
ジヴァンが緩やかに腰を動かしてくる。
男の先が秘部に引っかかるたび、声がもれた。同時に下腹部の奥が、脈を打つように疼いてくる。
まるでそこに、心臓があるかのように。
寝台がジヴァンの動きに合わせて軋む。
悠真は壁の薄さが気にかかった。声がもれれば誰かに悟られるかもしれない。
悠真は口を堅く引き結び、両手で唇を押さえ込んだ。
徐々にジヴァンのものが、固くなっていくのを感じる。
彼も悠真と同じように、情欲が芽生えはじめたことに安堵した。
「んんん……っ?!」
途端、男の陰茎がぬるりと窄まりに沈み込む。気が緩んだ肉穴に、うっかり落ちたような感覚だった。
全身を快楽が突き抜ける。たまらず声をあげそうになり、頬に爪を立てた。
「大丈夫か?」
ジヴァンが腰の動きをすぐさま止める。めずらしく声音に戸惑いがあった。本人も意図していなかったようだ。
悠真は頷こうとし、
「ひ……っ」
小さく悲鳴を上げた。
秘部が呼吸するかのように、収縮を繰り返していた。
ぐじゅり、ぐちゅ、ぢゅる――。
香油と空気が混ざりあう。
それはまるで咀嚼するような音だった。
「いやだ……」
悠真は青ざめ、両手で視界を覆う。
「やっぱり、俺の体、おかしい」
それでも事実を確かめようと、指のあいだから下腹部を覗き込む。
外側はなんの変化もない。しかしその内側では、ジヴァンの陰茎を呑み込もうと、うごめいている。
奥へ。奥へ。もっと奥へ。
自分の体のはずなのに。
別の誰かが、悠真の体を支配している。
そう、震えた時。
「こっちをみろ」
ジヴァンが悠真の片手を引いた。
「抵抗すればよけいに、つらくなる。まずは受け入れてみろ」
眉間に皺を寄せた表情は、結合部の刺激に耐えているようだった。
「どう、やって」
悠真は息も絶え絶えに問う。
意識するほど全身が強張っていく。
「俺に集中しろ」
「しゅう、ちゅう……」
うわ言のように繰り返す。
するとジヴァンが悠真の下腹部に手を沿えた。
「あう……っ」
わずかな力でも、腹の中は圧迫される。
不意に中の陰茎を締め上げてしまい、悠真は声を震わせた。
腹の奥に巣食うケダモノの鼓動より、猛々しく脈打つ存在。
無視など、できるはずがなかった。
「すごい、な……っ」
「んあっ! あ……っ」
ジヴァンが中へ強引に押し入ってくる。うごめく肉壁を服従させるかのようだった。
「そこっ……あっ」
肉体が反発をみせれば、一際快楽をひろう一点を突き上げられる。それを何度も繰り返された。思考がとろけていく。分かれていた心と体が、ひとつになるようだった。
「いや……っ」
指の腹で陰茎の先を撫でられる。甘い痛みに嬌声がもれた。
敷布を握りしめ、逃げようと腰をくねらせる。それがなぜか思うようにいかない。
悠真は動けない焦りから、目蓋をあけた。
いつのまにか自分の体勢が変わっていたことに気づいた。
ジヴァンに腰を浮かされ、結合部が天井を向いていた。いまだ収縮を繰り返す肉穴がよく見え、けれど、男の動きによって引き起こされているかのよう。
腹のケダモノはジヴァンに服従していた。
悠真に覆い被さる男によって、揺さぶられるまま脚が宙を蹴る。
「奥へいれるぞ」
「う、んあっ」
返事をするよりも早く、ジヴァンの先が突き進む。上衣を脱ぎ払った彼の褐色肌が、より近くなった。
「んんん……っ!」
腹の奥が歓喜に震える。
圧迫感よりも快楽が脳を穿つ。
悠真は自制できない声を上げそうになった。
すかさずジヴァンが、それを手で制す。
悠真の声は彼の手のひらに溶けていった。
ぽたり、と額に彼の汗が落ちてくる。
昨晩とは違い、ジヴァンの匂いがした。
麝香のような甘さや、香油のような軽さもない。
焦熱を孕んだ命の香り。
生きているものの香り。
悠真を映す赤い瞳は、煽情を宿し、燦然と輝いている。
なんて、美しいのだろう。
―― 我 ラ ノ 獣 ヨ ――。
悠真は脚をジヴァンの腰に絡めた。両腕を彼の首へまわし、焦がれたように抱きつく。
刹那、最奥で男を咥え込んだ。
「―――っっ!!」
声にならない喜びを叫ぶ。
全身が痙攣し、陰茎から白濁を飛ばす。
腹の中でも男をきつく抱きしめた。
「……くっ」
歯を食いしばった呻き声が聞こえる。
同時に肉壁が濡れ、ひどく熱い。
ジヴァンが放ったもので、悠真の神経は焼き切れたようだった。
手足がずるりと寝台に落ちる。
口元からジヴァンの手が離れ、湿度の高い空気が肺を満たしてきた。
彼がなにか語りかけてくる。
けれど、悠真はうまく聞き取れなかった。
「あ……」
世界が激しく明滅する。
音は遠のき、次第に無音となっていく。
まるで宇宙に投げ出されたようだった。
意識は星のように流れていく。
そして――。
「ち、きゅう……」
すべてが一瞬、赫光となって砕けた。
***
それが合図だったかのように、ジヴァンが悠真の脚衣に手をかけた。優しい手つきだった。赫物を素手で仕留めるほど強靭な腕力をもつというのに、まるで泡に触れるよう。
気恥ずかしくて、直視できない。悠真は胸の上衣を握りしめた。
白い素肌をさらした脚で、秘部を隠そうと膝を立てる。膨張する羞恥からの抵抗だった。
「思っていたより、軽い火傷だったみたいだな」
「ん……」
ジヴァンの厚い手のひらが、悠真の左腿を撫でてくる。おもわず甘い声がもれた。
昨晩の火傷はとっくに痛みが引いていた。そのため指摘されるまで、その存在を気にも留めていなかったと気づく。
「全然、痛くなかったから、そうかも」
「だろうな。痕にすらなっていない――」
綺麗だ。
そう、聞こえた気がした。
鼓動が高く跳ね上がる。頭では火傷のことだと理解しているのに、心が混乱した。
悠真は昔から自分の体が好きではない。どうしても、悠希とは同じになれない部分だったからだ。
双子として生まれてきたのだから。
同じでなくてはいけないのだから。
そうして自分を律してきたのに、
――どうして、嬉しい、なんて……。
悠希がどれだけ悠真を肯定してくれても、得られなかった身軽さを感じた。
ジヴァンの権能が関係しているのだろうか。それとも満月がまた、悪戯に悠真の心情をかき乱しているのか。わからない。
悠真はジヴァンから逃げるように、壁へと顔を逸らす。はじめての経験と感情に、恥ずかしさが増すばかりで、居たたまれなかった。
幸い、洋燈の火が小さいおかげで、室内は薄暗い。頬の熱っぽさが、ばれることはないだろう。
静寂な室内で、耳が拾うのは自分の鼓動ばかり。そこに――ぐじゅり、と何かが潰れる音が響いた。
異質な音へと視線を向ける。
ジヴァンの拳から、透明な粘液があふれ出ていた。
「なに、それ」
「無垢な果実。普段は風呂の代わりや医療で使われる植物だ……表向きにはな」
ジヴァンが悠真の片膝を掴み、軟弱な防壁をたやすく崩す。
「男同士では、ここに使う」
「う……っ」
粘液を絡めた指先が、秘部に触れてきた。ぬるりとした感触。ゼリーのようで気持ち悪かったが、それは一瞬のことだった。
皺をのばすよう丁寧に塗り込まれ、自然と腰がみもだえる。同時に自分の陰茎が揺れるさまが見えた。ひどく猥りがわしく、目にいたい。
悠真は胸の上衣を、口元まで引き上げる。それらをなんとか視界から隠そうとした。
「あっ……あっ……」一本の指が秘部に問うよう、浅い抜き差しを繰り返してくる。「ああ……っ」気づけば二本。悠真の意思とは関係なく、深く、ゆっくりと誘い込んでしまった。
痛みはないが、少し苦しい。
浅く息づき、呼吸を整えようとした。しかし股のものを柔く握られ、うまくいかない。
「あ……っ、ジヴァ、ん……」
悠真は男を止めようと手を伸ばす。
空しい抵抗だった。
前に与えられる刺激によって、思うように力が入らない。ジヴァンの手に指を沿えただけ。ふたりで悠真の陰茎を扱くような姿となった。揉まれ、擦られ。昨晩のように滾りだす熱に、脳が焼かれそうだ。
「動かすぞ」
ジヴァンが窺うように、悠真の中を探りだした。
筋張った指が秘部で律動する。波打つように、快楽が押し寄せた。
「あうっ……そ、こぉ……っ」
一点を通過するたび、さらにそれは強くなる。「あっ、あっ、あっ」次第に律動の激しさが増していった。
前と後ろを同時に攻められ、快楽の濁流に溺れそうになっていく。
悠真は枕の端を掴み、頬をうずめた。
気が飛びそうだった。
そのため結合部の粘着音が、軽やかな水音に変化していたことに、気がつかなかった。
「も、い……く……っ」
きつく目を瞑り、ジヴァンの手に精を解放する。
腹を圧迫していた指も抜け、やっと、まともに息が吸える状態となった。
茫然と壁を見つめ、息をつく。
下腹部の疼きはいまだ収まらず、むしろ酷くなったようだ。
そっと手で確かめる。
少しだけ、腹が痩せた気がした。
「若いな」
布で手を拭いながらジヴァンが呟く。
その視線の先には、ふたたび頭をもたげようと張りだす、悠真のものが。
悠真は顔がいっきに熱くなるのがわかった。横目で睨みつけ、無駄な抵抗と知りつつ、上衣の裾をぐっと引き伸ばす。すでに服は皺だらけだった。
そんな悠真に「悪いことじゃない」とだけ返したジヴァンが、寝台の端から紙袋を持ち出した。そこから青い小瓶をひとつ転がす。
どうやら無垢な果実の他にも、いろいろと買い付けてきたらしい。
ジヴァンが淡々と店をまわる姿を想像する。
おそらく彼は悠真を連れて歩くことを避けたかったのではないか。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
確かに。ふたりでそういう商品を買うのは気まずい。だがこの男に、そのような恥じらいがあるのだろうか。
悠真は戸惑いつつ、ジヴァンを盗み見る。
彼はなんの躊躇もなく、下衣をくつろげていた。そこから現れた陰茎を目にし、あまりの大きさに息をのむ。
しかしその萎えている様子から、申し訳なくなり、悠真は眉尻をさげた。
ジヴァンの反応は当然だと思う。
お互いが好きでする行為ではない。
必要に駆られて選択しただけ。
悠真のように体の異変がないかぎり、ジヴァンにとっては不自由な状況なのだろう。
そんな行き場のない感情から、ふと湧いた疑問が口を突く。
「ジヴァンは男と付き合ったこと、あるのか?」
寝台が興味深げに、ぎっと軋む。
「こういう状況で訊く話じゃないな」男はかすかに笑うと、赤い瞳を悠真へ向けた。「特定の相手はいなかった――そういうおまえは、どうなんだ」
ジヴァンが小瓶の栓を抜く。陽に灼けた砂のような、軽い香りが漂いだした。
未練や思い出など残っていない、あっさりとした返答だった。逆に訊ねる声音は、どこか慎重で、けれど、悠然とした雰囲気をもつ。
すでに悠真の答えを知っているだろうに。
言葉として聞きたいようだった。
「……あんたが、はじめてだよ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
鼻を鳴らすように顔をそむけたのは、なぜか胸がむず痒かったからだ。
ジヴァンが微かに「そうか」とこぼす。そこには安堵したような穏やかさがあった。
許しを得たように、悠真に身を寄せ、腰を当ててくる。秘部にひたりとのせられた彼の陰茎は、いまだ萎えたままだったが、わずかに滾りだしていた。
そこに香油を一筋かけられる。
印象よりも冷たい刺激に、脚がぴくりと跳ねた。
とうとうするのだ、と緊張がはしる。
「ん……ん……」
ジヴァンが緩やかに腰を動かしてくる。
男の先が秘部に引っかかるたび、声がもれた。同時に下腹部の奥が、脈を打つように疼いてくる。
まるでそこに、心臓があるかのように。
寝台がジヴァンの動きに合わせて軋む。
悠真は壁の薄さが気にかかった。声がもれれば誰かに悟られるかもしれない。
悠真は口を堅く引き結び、両手で唇を押さえ込んだ。
徐々にジヴァンのものが、固くなっていくのを感じる。
彼も悠真と同じように、情欲が芽生えはじめたことに安堵した。
「んんん……っ?!」
途端、男の陰茎がぬるりと窄まりに沈み込む。気が緩んだ肉穴に、うっかり落ちたような感覚だった。
全身を快楽が突き抜ける。たまらず声をあげそうになり、頬に爪を立てた。
「大丈夫か?」
ジヴァンが腰の動きをすぐさま止める。めずらしく声音に戸惑いがあった。本人も意図していなかったようだ。
悠真は頷こうとし、
「ひ……っ」
小さく悲鳴を上げた。
秘部が呼吸するかのように、収縮を繰り返していた。
ぐじゅり、ぐちゅ、ぢゅる――。
香油と空気が混ざりあう。
それはまるで咀嚼するような音だった。
「いやだ……」
悠真は青ざめ、両手で視界を覆う。
「やっぱり、俺の体、おかしい」
それでも事実を確かめようと、指のあいだから下腹部を覗き込む。
外側はなんの変化もない。しかしその内側では、ジヴァンの陰茎を呑み込もうと、うごめいている。
奥へ。奥へ。もっと奥へ。
自分の体のはずなのに。
別の誰かが、悠真の体を支配している。
そう、震えた時。
「こっちをみろ」
ジヴァンが悠真の片手を引いた。
「抵抗すればよけいに、つらくなる。まずは受け入れてみろ」
眉間に皺を寄せた表情は、結合部の刺激に耐えているようだった。
「どう、やって」
悠真は息も絶え絶えに問う。
意識するほど全身が強張っていく。
「俺に集中しろ」
「しゅう、ちゅう……」
うわ言のように繰り返す。
するとジヴァンが悠真の下腹部に手を沿えた。
「あう……っ」
わずかな力でも、腹の中は圧迫される。
不意に中の陰茎を締め上げてしまい、悠真は声を震わせた。
腹の奥に巣食うケダモノの鼓動より、猛々しく脈打つ存在。
無視など、できるはずがなかった。
「すごい、な……っ」
「んあっ! あ……っ」
ジヴァンが中へ強引に押し入ってくる。うごめく肉壁を服従させるかのようだった。
「そこっ……あっ」
肉体が反発をみせれば、一際快楽をひろう一点を突き上げられる。それを何度も繰り返された。思考がとろけていく。分かれていた心と体が、ひとつになるようだった。
「いや……っ」
指の腹で陰茎の先を撫でられる。甘い痛みに嬌声がもれた。
敷布を握りしめ、逃げようと腰をくねらせる。それがなぜか思うようにいかない。
悠真は動けない焦りから、目蓋をあけた。
いつのまにか自分の体勢が変わっていたことに気づいた。
ジヴァンに腰を浮かされ、結合部が天井を向いていた。いまだ収縮を繰り返す肉穴がよく見え、けれど、男の動きによって引き起こされているかのよう。
腹のケダモノはジヴァンに服従していた。
悠真に覆い被さる男によって、揺さぶられるまま脚が宙を蹴る。
「奥へいれるぞ」
「う、んあっ」
返事をするよりも早く、ジヴァンの先が突き進む。上衣を脱ぎ払った彼の褐色肌が、より近くなった。
「んんん……っ!」
腹の奥が歓喜に震える。
圧迫感よりも快楽が脳を穿つ。
悠真は自制できない声を上げそうになった。
すかさずジヴァンが、それを手で制す。
悠真の声は彼の手のひらに溶けていった。
ぽたり、と額に彼の汗が落ちてくる。
昨晩とは違い、ジヴァンの匂いがした。
麝香のような甘さや、香油のような軽さもない。
焦熱を孕んだ命の香り。
生きているものの香り。
悠真を映す赤い瞳は、煽情を宿し、燦然と輝いている。
なんて、美しいのだろう。
―― 我 ラ ノ 獣 ヨ ――。
悠真は脚をジヴァンの腰に絡めた。両腕を彼の首へまわし、焦がれたように抱きつく。
刹那、最奥で男を咥え込んだ。
「―――っっ!!」
声にならない喜びを叫ぶ。
全身が痙攣し、陰茎から白濁を飛ばす。
腹の中でも男をきつく抱きしめた。
「……くっ」
歯を食いしばった呻き声が聞こえる。
同時に肉壁が濡れ、ひどく熱い。
ジヴァンが放ったもので、悠真の神経は焼き切れたようだった。
手足がずるりと寝台に落ちる。
口元からジヴァンの手が離れ、湿度の高い空気が肺を満たしてきた。
彼がなにか語りかけてくる。
けれど、悠真はうまく聞き取れなかった。
「あ……」
世界が激しく明滅する。
音は遠のき、次第に無音となっていく。
まるで宇宙に投げ出されたようだった。
意識は星のように流れていく。
そして――。
「ち、きゅう……」
すべてが一瞬、赫光となって砕けた。
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これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
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※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
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平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
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けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
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