上 下
2 / 14

2

しおりを挟む
宿に帰って寝転がりながら今日の出来事を振り返る。

改めて考えてみると、番人ケートキーパー討伐については、ギルドも何らコメントして
ないなー。
最下層のボス最終戦を潜り抜けて限界突破した=挑戦者の証あかしを手に入れた連中も、
番人ケートキーパー討伐に挑戦しても、ほとんどが数回であきらめて他のダンジョンに
移っていったからなー。最高でもレベル110くらいだったし。
知る限りの討伐者は皆何かしらの特技を持った異常者ばかりだし、適正レベルとか
わかるわけないか。
レベル200って言ったのは、あくまでも当時のボクのステータスからの推測で
しかないし。まあ前衛職の場合はよくわからんが、魔法使いなら大きな間違いは
ないだろう。うん、嘘は言っていない。
何かしらの特技や特殊スキルを持っていたら、攻撃が効かないってことはないん
だから、彼らはあきらめるべきだろう。まして装備のおかげで無事だったけど、
攻撃が通っていたら後半戦で威力が倍増するブレス攻撃で死人がでるだろうし。

寝よう。


翌日。

ギルドで昨日の収穫を買い取ってもらい、ほくほくしていたらまたジムさんだ。
厄介事のにおいがする。

「こんにちわ、昨日ぶりですね。」

「やあ、こんにちわ。...そこまでいやな顔をされると話しづらいが...」

あ、顔に出ちゃったか。

「すみません、昨日の今日なので厄介事のにおいが...」

ジムさん、苦笑も男前ですねー。

「厄介事か。君にとってはそうかもしれないな。」

表情を改めたジムさんが話し出す。

「オオグロ君。昨日の続きということになるが、君に指名依頼を出したい。
 話を聞いてもらえないだろうか。」

おっと、予想外のお言葉。指名依頼かー。内容と報酬次第だけど、昨日の
今日だしなー。パワーレベリングとか言い出されると長期になるしなー。
よし、吹っ掛けて断ろう。

「内容と報酬次第ですね。聞くだけは聞きましょう。ただし、相棒も同席
 させますよ。」

「それは構わない。我らの宿の食堂に個室をとったので、これからでも
 話を聞いてもらえないだろうか。」

「いいですよ。相棒を呼んでくるのでちょっと待っててください。」

あいつはギルドの食堂で待っているはず。どうせいつものようにマスコット
扱いされているだろうけど。

やっぱりかー。目の前に置かれた串焼きを、満面の笑みを浮かべて頬張って
いる姿は、小動物みたいで皆にマスコット扱いされるのはしょうがない。
姿はまだ子供といっていい年齢のものだしなー。食堂のおばちゃんたちも
周りの知り合いたちも、本当にかわいがっている。

「はい、はい、ごめんねー。シオン、指名依頼の話が出たんだ。これから
 話を聞きに行くから、一緒に来てくれ。」

こちらを見て頷くと、目の前に残った串焼きを両手に持って、こちらに
近づくと片手を差し出してきた。お前、片手に何本持ってるんだ?

「もらった。おごりだって。」

「はいはい。みんな、いつも悪いねー。そんなわけなんで、ここは失礼
 させてもらうよー。」

受け取った串焼きは7本あった。両手に持って食堂を出る。

表で待っているジムさんの元へ向かうと、ちょっと驚いた顔をしている。
ん? ああ、そうか。両手に串焼きを持った2人連れが近づいてくれば
そういう表情にもなるか。

「お待たせしました。相棒が串焼きを大量にもらいましてね。道すがら
 ジムさんもいかがです?」

串焼きを差し出す。

「ああ...ではいただこうか。」

何かを飲み込んだ表情で、串焼きを受け取るジムさん。できた人だ。

串焼きを頬張りながら、彼らの宿に向かう。2本目を食べ始めたら
シオンが手を出してきた。お前、もう残りを食べたのか?

「まあ、お前の串焼きだしな。よく噛んで食べろよ。」

残りを全部渡す。相変わらずの大食漢だねー。平常運転で何より。
彼らの宿に到着したときに串焼きが完食されていたのは当然か。


案内された個室は思ったよりも広かった。小規模な会食用かな?
あちらのメンバーはそろっている。装備は纏っていないが、私服
というわけでもなさそうだな。制服というわけでもなさそうだが、
何となく違和感がある。ひょっとして...

勧められるままに席に着くと、ジムさんが改まった感じで口を
開いた。

「オオグロ君に依頼したい内容だが...」

「その前に。ボクの名はクロウ、相棒はシオン。受けるとなれば
 依頼はギルドを通してもらう必要がありますから、改めて名乗
 っておきます。そちらは受けることが決まるまでは、そのまま
 仮名でお願いします。余計なことは知らない方が安全なので。」

「...そうか。ありがとう。了解した。」

ジムさん、少しも内心が顔に出ないなー。後ろの面々は結構感情が
顔に出てるのに。

「改めて、依頼内容についてだが、番人ケートキーパー討伐に力を貸してほしい。」

ふむ、これはまあ予想の範囲内だな。

「具体的には?一緒に行って討伐すればいいだけですか?」

「さて、そこだ。我らは番人ケートキーパーを討伐する必要がある。
 ただし、基本的には自力でだ。先の戦いで君が指摘した火力不足を
 解消したいがレベル200を目指すのは、どう考えても時間が足り
 ない。討伐は長くても1年以内に成し遂げたい。
 そこで、まず君と共に一度戦闘して、必要な火力を見せてもらい、
 その後どうするかを君を交えて検討したいのだ。」

「ボクは魔法使いで、近接戦闘の火力は無いに等しいですよ。」

「それは解かる。だが、あれに通用するという火力が、我らには理解
 できていないのだ。まず見てみたい。」

さて困った。

「依頼内容としては、2つというわけですね。
 まず、1つ目の一緒に戦闘して必要な火力を確認するという話ですが、
 うーん、難しいかなー。」

「どういうことだろうか?」

「今のボクだと最大火力でなくとも瞬殺できるんですが、逆にダメージを
 与えるだけに抑える手加減の度合いがわからないんですよ。」

「!! それは...」

「シオンを連れて討伐した時は、とにかく討伐すればいいやって、最大
 火力を叩き込んだんですが瞬殺というかオーバーキルでしたし。
 ですから、手加減を間違うと討伐してしまって、依頼を完遂できなく
 なるんですよ。一緒に行って討伐すればいいのであれば、何の問題も
 ないんですが。」

「...」

ジムさんも後ろの面々も無言である。

「もう一つ。多分ご存じないと思いますが、あれとの闘いでは瞬殺出来
 ないと後半戦でブレスの威力が倍増します。そちらの装備はかなりの
 ものでしたが、先の戦いのように装備頼りの防御だとほぼ間違いなく
 死人がでますよ。」

討伐者は皆異常者だけど、あれの洗礼で一度は引いてるからなー。

しおりを挟む

処理中です...