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ちゅ
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23時。吏人が俺の家のインターホンを鳴らす。俺は吏人が来るからって、部屋着から普段着に着替えたし、髪型も寝癖を直して軽くセットした。何してんだろ、吏人は俺がどんな姿でも変わらず接してくれるのに。
「吏人、お疲れ様。入っていいよ」
「ああ、キラくん。今日も一段と輝いているね」
玄関を開けて出迎えた俺に、抱きつきながら入ってきた侵入者。今にもキスをされそうだ。
「ふふっ、褒めてくれてありがと!」
と嬉しそうな顔をしてやる。職業病か、褒め言葉を純粋に受け取れなくなった。きっとキスしてセックスしたいがために褒めてるんだと思うと、気持ち悪くて仕方がない。
「はあああ、疲れた身体にキラくんが沁みる……」
抱き締めて俺の肩に顔をうずめて、俺の匂いを嗅いで栄養分を補給しているような吏人に、何をしてやればいいのかわからずただ立ち尽くすだけの俺。
「吏人、頑張ったんだね。偉いよ」
とその頭を撫でると、吏人は何故か泣き出してしまった。何で泣いてるの?と聞くと、
「キラくんがいる世界に産まれて、キラくんと出会えて一目惚れをして、キラくんに触れられる距離でいられることが、僕にとってどれほどのご褒美か。キラくんにはわからないでしょ?」
と言われた。そんなの、わかるわけがないと思った。俺は生憎、誰かをここまで好きになったことがないし、人間なんか薄らみんな嫌いだ。
「それほど愛してくれてありがとうね。嬉しいよ」
と、思ってもない言葉で人並み程度に返した。
「キラくん、キスしてもいい?」
「どうぞ。ご自由に」
吏人は俺以外に恋愛をしたことがない。その変わってない下手くそなキスでわかるんだ。子供じみた唇同士を触れ合わせるだけのキス。
「ああ、大好き!愛してる!」
「可愛いね、吏人は」
俺にキスしただけでそんなにも気持ちを昂らせて、馬鹿みたいだ。俺という人間に価値があるのは俺自身でよくわかってはいるが、そんなにも盲目的に神格化されると滑稽に思えてくる。
「これ、夢じゃないよね?」
「うん。夢じゃないよ」
「夢の中ではキラくんと僕は恋人同士なんだ。僕が何してもキラくんは許してくれるし、僕の秘密だって何でも知ってる特別な関係なの」
「それがお前の夢の中で描いた理想ね」
「毎日ね、キラくんの夢を見てるんだ。人格否定されて殴られる日もあれば、優しく抱きしめて慰めてくれる日もある。デートしてはこの世界にないものをたくさん見たし、この世界では経験できないこともたくさんした。だからとっても愛してるんだ」
と俺のことを夢中で語っているような気がするのに、俺とは違う誰かに恋しているように聞こえてしまう。何だか吏人を誰かに取られた気がして、だったら、君はもう酸っぱいぶどうでいいよ、と捻くれた。
「吏人は俺の虚像が好きなんだね。理想と違う俺を見つけたら、きっと幻滅するよ。だったら、理想は理想のままで。俺とは関わらない方が良いんじゃん?」
「どうして、?」
「あー、わかんねぇよな。お前には。もういいよ」
と拗ねて、吏人の腕の中から強引に抜け出して、ソファにふて寝した。
「キラくーん、どうしたの?僕、何か嫌なことしちゃったかな?」
ソファでふて寝する俺の目の前でしゃがみこんで聞いてくる。本当に鬱陶しい。何もわかってないようなその言動もうざったい。
「あっち行けよ。俺はお前のことなんか好きじゃねぇから」
言ってしまった。今まで曖昧な態度をとってきたのに。つい、本心をぶつけてしまった。すると、吏人はソファで横になっている俺に覆いかぶさってきて、俺の顔を掴んで無理矢理キスをしてきた。しかも、やったことないようなディープキスを。
「……んーっ、」
舌を噛まないでって言ってるみたいだった。気持ち悪いから噛むだろ普通。このまま噛みちぎってやりたいくらいムカついてる。
「もういいだろ、離れろ」
吏人のことを叩いて、さっさとその気持ち悪いディープキスをやめろと合図した。吏人は舌を引っ込めると、痛みを気にする様子を見せてから、何故か不気味な笑みを浮かべた。
「キラくん、一緒に死のう?」
「吏人、お疲れ様。入っていいよ」
「ああ、キラくん。今日も一段と輝いているね」
玄関を開けて出迎えた俺に、抱きつきながら入ってきた侵入者。今にもキスをされそうだ。
「ふふっ、褒めてくれてありがと!」
と嬉しそうな顔をしてやる。職業病か、褒め言葉を純粋に受け取れなくなった。きっとキスしてセックスしたいがために褒めてるんだと思うと、気持ち悪くて仕方がない。
「はあああ、疲れた身体にキラくんが沁みる……」
抱き締めて俺の肩に顔をうずめて、俺の匂いを嗅いで栄養分を補給しているような吏人に、何をしてやればいいのかわからずただ立ち尽くすだけの俺。
「吏人、頑張ったんだね。偉いよ」
とその頭を撫でると、吏人は何故か泣き出してしまった。何で泣いてるの?と聞くと、
「キラくんがいる世界に産まれて、キラくんと出会えて一目惚れをして、キラくんに触れられる距離でいられることが、僕にとってどれほどのご褒美か。キラくんにはわからないでしょ?」
と言われた。そんなの、わかるわけがないと思った。俺は生憎、誰かをここまで好きになったことがないし、人間なんか薄らみんな嫌いだ。
「それほど愛してくれてありがとうね。嬉しいよ」
と、思ってもない言葉で人並み程度に返した。
「キラくん、キスしてもいい?」
「どうぞ。ご自由に」
吏人は俺以外に恋愛をしたことがない。その変わってない下手くそなキスでわかるんだ。子供じみた唇同士を触れ合わせるだけのキス。
「ああ、大好き!愛してる!」
「可愛いね、吏人は」
俺にキスしただけでそんなにも気持ちを昂らせて、馬鹿みたいだ。俺という人間に価値があるのは俺自身でよくわかってはいるが、そんなにも盲目的に神格化されると滑稽に思えてくる。
「これ、夢じゃないよね?」
「うん。夢じゃないよ」
「夢の中ではキラくんと僕は恋人同士なんだ。僕が何してもキラくんは許してくれるし、僕の秘密だって何でも知ってる特別な関係なの」
「それがお前の夢の中で描いた理想ね」
「毎日ね、キラくんの夢を見てるんだ。人格否定されて殴られる日もあれば、優しく抱きしめて慰めてくれる日もある。デートしてはこの世界にないものをたくさん見たし、この世界では経験できないこともたくさんした。だからとっても愛してるんだ」
と俺のことを夢中で語っているような気がするのに、俺とは違う誰かに恋しているように聞こえてしまう。何だか吏人を誰かに取られた気がして、だったら、君はもう酸っぱいぶどうでいいよ、と捻くれた。
「吏人は俺の虚像が好きなんだね。理想と違う俺を見つけたら、きっと幻滅するよ。だったら、理想は理想のままで。俺とは関わらない方が良いんじゃん?」
「どうして、?」
「あー、わかんねぇよな。お前には。もういいよ」
と拗ねて、吏人の腕の中から強引に抜け出して、ソファにふて寝した。
「キラくーん、どうしたの?僕、何か嫌なことしちゃったかな?」
ソファでふて寝する俺の目の前でしゃがみこんで聞いてくる。本当に鬱陶しい。何もわかってないようなその言動もうざったい。
「あっち行けよ。俺はお前のことなんか好きじゃねぇから」
言ってしまった。今まで曖昧な態度をとってきたのに。つい、本心をぶつけてしまった。すると、吏人はソファで横になっている俺に覆いかぶさってきて、俺の顔を掴んで無理矢理キスをしてきた。しかも、やったことないようなディープキスを。
「……んーっ、」
舌を噛まないでって言ってるみたいだった。気持ち悪いから噛むだろ普通。このまま噛みちぎってやりたいくらいムカついてる。
「もういいだろ、離れろ」
吏人のことを叩いて、さっさとその気持ち悪いディープキスをやめろと合図した。吏人は舌を引っ込めると、痛みを気にする様子を見せてから、何故か不気味な笑みを浮かべた。
「キラくん、一緒に死のう?」
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