ラブソングは僕よりも愛を知らない

小判鮫

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ひよこ

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あのスーツ姿の冴ちゃんって男に吏人の近況を嫌ってほど探られた。そして、ことごとく文句をつけられた。

「吏人くんと付き合ってるんですよね?」
「吏人くんは貴方のセックスマシーンじゃないんですよ?」

あーーー、うるさいうるさい!反芻するな、俺の脳味噌。大体、マネージャーの分際で吏人と同棲してるのが気に入らない。片や、家事も仕事も全てこなして支えてくれるスパダリ。片や、家事も何もしないでお酒を飲むだけのアル中。ううう、勝手に対比して悲しくなるな、俺!

「お前、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「吏人の好きな食べ物って、何?」

「ふっ、そんなのも知らないで彼氏面してたんですかあ?笑わせないでください」

と、とてつもなく馬鹿にされた。けれど、オムライスだと答えられれば、あぁ、確かに。と納得できるくらい吏人がオムライスを食べる姿は見てきた。

「冴ちゃんさあ、」

「その呼び方やめてください」

「ふふっ、冴ちゃんさあ、こんなにも吏人に尽くしてんのに、キスの1つもしたことないんでしょ?」

マウントを取られて馬鹿にされたので、同じようにマウントを取り返して馬鹿にし返した。

「貴方、まじで殴られたいですか?」

と胸ぐらを掴まれたので、

「この前の二の舞になりたいの?」

と握りこぶしを掴んで、身動きが取れないようにする。冴ちゃんは諦めて、掴んだ胸ぐらを離した。

「……貴方みたいなの、何処がいいのかさっぱりわかんないです」

「吏人から聞かされてるんじゃないの?嫌ってほどね」

「聞かされてますよ、クソ」

と煙草を吸い始める。え、煙草吸うんだと吃驚しつつも俺と好きな銘柄が同じ、ってところが何か妙に引っかかる。

「それ、吏人からくっつかれたくて吸い始めたでしょ」

って冴ちゃんに言ってみると、耳を真っ赤にして煙でむせた。図星なんだな、と思ってしまった。

「ごほっ、別に僕は煙草が好きなだけで……」

「キラくんの、煙草の匂い」

とむくっと吏人が起き始めた。俺は可笑しくなってきてしまった。吏人は寝惚け眼のまま、俺達に近付いてくる。

「ふふっ、俺と冴ちゃん、どっちに抱きつくかな?」

「貴方に決まってるでしょ、何ワクワクしてんですか」

最初、吏人は手前にいた俺の方に抱きついてこようとした。だから、さっと避けて、冴ちゃんの横に並んだ。吏人は考え込み始めた。寝惚け眼でじーっと俺らの顔を見つめてくる。

「さあ、どーっちだ」

親鳥を見失ったひよこを見てるみたいだ。

「キラキラ、」

と俺の金髪を指さした。そして、俺の方に抱きついてきた。

「ほら、やっぱり」

冴ちゃんはつまんなそうに煙草を捨てた。だけど、吏人はそんな冴ちゃんにも抱きついた。

「冴ちゃん、ありがとう」

寝かしつけてくれた感謝を述べるために抱きついたんだ。吏人は煙草の匂いとかじゃなく、ちゃんと冴ちゃんだから抱きついた。

「吏人くん、どういたしまして」

と目頭が熱くなるほど喜んでいる。これが冴ちゃんの幸福なんだとしみじみ感じた。

「俺さ、冴ちゃんのことあんま嫌いじゃなくなったかも」

「あっそ。僕は貴方が吏人くんと付き合っている限り嫌いですよ」

「つれないね~。今度飲み行こうよ」

「お断りさせて頂きます。お酒弱いんで」

「そういう奴ほど酔わせると面白いんじゃん」

「本当に酒瓶で殴って殺しますよ??」

と脅されたので、怖いから「また今度ね」と言っておいた。吏人は俺の膝で眠ってしまったので、そのままベッドに運んで寝かしつけて、俺は自宅へと帰った。
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