40 / 47
「綺麗ですね」
しおりを挟む
しばらくして慣れてくると、恐怖は薄れて、風とともに走っている感覚になった。彼に身を任せて、流れてゆく景色をぼんやりと見ながら、バイクが奏でる音楽に耳を傾ける。
「テンテン、起きてるよね?寝てないよね?」
とずーっと静かに乗っていたら、リュウくんに心配された。
「はい、ここで寝るなんて、もったいなくてできませんよ。この贅沢な時間をめいっぱい楽しみたいですから」
「ああ良かった、楽しんでくれてるみたいで」
いつも現実を見ないように、布団にもぐりこんで寝ている奴の台詞とは、思えないような言葉が出たと、言ってから気づいて驚いた。この瞬間瞬間を、五感をフル活用して味わっていたい、それぐらい、自分の人生の歴史の中で、滅多にない、記憶を通り越して、直接脳に刻みたい出来事だ。何故か?何故だろう、とにかく気分が晴れやかなんだ。
あっという間に、海が見えるところまで走ってきた。波の音とバイクの音とのハーモニーが、ロマンの塊で映画のワンシーンに入り込んだ気分だ。けれど、こんなあからさまに胸を躍らせている大根役者では、エキストラにもなれないだろう。
「リュウくん、これまじで最っ高っすね!」
「あははっ、めっちゃテンション上がってるじゃん!」
と返したリュウくんもテンションが高くて、二十五歳になってもなお、青春を感じることができた。俺の人生なんか、もう死んだ、と思っていたので、ラスボスを倒したと思わせてからのラスボス最終形態が来たみたいな、裏切られた衝撃が凄まじかった。
「海、すごっ!」
ってコメントする俺、馬鹿っぽっ!けど、コメントを吟味する前に、口から出てしまったのだからどうしようもない。
「テンテーン、こっち向いて」
ズカズカと砂浜に入って、海にすぐさま近付こうとする俺を、後ろから呼ぶ声。振り返ると、リュウくんが置いてけぼりにされたみたいに少し遠くに立っていて、スマホを構えている。
カシャッ。
海を背景に写真を撮られた。被写体が俺でいいのか、という困惑はあるが、写真が撮れて嬉しそうにしている様子を見ると、これも記念だと思えた。
「夢を見てるみたいです」
とぼんやりと呟くと、リュウくんに頬をつねられた。
「痛い?」
といたずらっ子のような笑顔を見せながら。
「微妙に?」
「ふふっ、現実のが夢よりも何億倍も凄いよ。この感触も、ここの空気感も、身体の全部で感じれば、生きてるって思えるじゃん」
片手で砂を掴んで、サラサラと指から降らせるように落とす。その砂粒一つ一つが太陽の光に照らされて、ダイヤモンドの破片のように輝く。夢と記憶の違いは、その正確さと繊細さ。夢は感情にフォーカスが当たるが、記憶は感情だけじゃなく、体感したすべてがある。
「綺麗ですね」
この景色も、その考え方も、あの痛さから、全部全部、隅々まで記憶して、心の中に宝物として残しておきたい。
「そうだね」
と海を眺めるその横顔を、俺は見つめていた。何とも言えない感動で、胸がいっぱいになって、自分でも気づかないくらい、自然に涙がこぼれた。あの大きくて広い海に、醜い自分を飲み込まれたように、心が洗われて、人生をやり直したくらいの清々しさに包まれた。
「テンテン、起きてるよね?寝てないよね?」
とずーっと静かに乗っていたら、リュウくんに心配された。
「はい、ここで寝るなんて、もったいなくてできませんよ。この贅沢な時間をめいっぱい楽しみたいですから」
「ああ良かった、楽しんでくれてるみたいで」
いつも現実を見ないように、布団にもぐりこんで寝ている奴の台詞とは、思えないような言葉が出たと、言ってから気づいて驚いた。この瞬間瞬間を、五感をフル活用して味わっていたい、それぐらい、自分の人生の歴史の中で、滅多にない、記憶を通り越して、直接脳に刻みたい出来事だ。何故か?何故だろう、とにかく気分が晴れやかなんだ。
あっという間に、海が見えるところまで走ってきた。波の音とバイクの音とのハーモニーが、ロマンの塊で映画のワンシーンに入り込んだ気分だ。けれど、こんなあからさまに胸を躍らせている大根役者では、エキストラにもなれないだろう。
「リュウくん、これまじで最っ高っすね!」
「あははっ、めっちゃテンション上がってるじゃん!」
と返したリュウくんもテンションが高くて、二十五歳になってもなお、青春を感じることができた。俺の人生なんか、もう死んだ、と思っていたので、ラスボスを倒したと思わせてからのラスボス最終形態が来たみたいな、裏切られた衝撃が凄まじかった。
「海、すごっ!」
ってコメントする俺、馬鹿っぽっ!けど、コメントを吟味する前に、口から出てしまったのだからどうしようもない。
「テンテーン、こっち向いて」
ズカズカと砂浜に入って、海にすぐさま近付こうとする俺を、後ろから呼ぶ声。振り返ると、リュウくんが置いてけぼりにされたみたいに少し遠くに立っていて、スマホを構えている。
カシャッ。
海を背景に写真を撮られた。被写体が俺でいいのか、という困惑はあるが、写真が撮れて嬉しそうにしている様子を見ると、これも記念だと思えた。
「夢を見てるみたいです」
とぼんやりと呟くと、リュウくんに頬をつねられた。
「痛い?」
といたずらっ子のような笑顔を見せながら。
「微妙に?」
「ふふっ、現実のが夢よりも何億倍も凄いよ。この感触も、ここの空気感も、身体の全部で感じれば、生きてるって思えるじゃん」
片手で砂を掴んで、サラサラと指から降らせるように落とす。その砂粒一つ一つが太陽の光に照らされて、ダイヤモンドの破片のように輝く。夢と記憶の違いは、その正確さと繊細さ。夢は感情にフォーカスが当たるが、記憶は感情だけじゃなく、体感したすべてがある。
「綺麗ですね」
この景色も、その考え方も、あの痛さから、全部全部、隅々まで記憶して、心の中に宝物として残しておきたい。
「そうだね」
と海を眺めるその横顔を、俺は見つめていた。何とも言えない感動で、胸がいっぱいになって、自分でも気づかないくらい、自然に涙がこぼれた。あの大きくて広い海に、醜い自分を飲み込まれたように、心が洗われて、人生をやり直したくらいの清々しさに包まれた。
3
あなたにおすすめの小説
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜
立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が
ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時
いつの間にかクラスメイトたちの
配信する動画に映りこんでいて
「誰このエンジェル?」と周りで
話題になっていた。
そして優心は
一方的に嫌っている
永瀬翔(ながせかける)を
含むグループとなぜか一緒に
動画配信をすることに。
✩.*˚
「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」
「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」
そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。
見た目エンジェル
強気受け
羽月優心(はづきゆうしん)
高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。
×
イケメンスパダリ地方アイドル
溺愛攻め
永瀬翔(ながせかける)
優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。
恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸
***
お読みくださりありがとうございます
可愛い両片思いのお話です✨
表紙イラストは
ミカスケさまのフリーイラストを
お借りいたしました
✨更新追ってくださりありがとうございました
クリスマス完結間に合いました🎅🎄
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
月曜9時の恋人 ――上司と部下のリモート勤務録
斎宮たまき/斎宮環
BL
「おはようございます」から始まる恋がある。
在宅勤務の上司と部下、画面越しに重なっていく生活音と沈黙。
誰もいない夜、切り忘れたマイクから漏れた吐息が、心の距離を壊していく。
社会的距離が恋の導火線になる――
静かな温度で燃える、現代オフィスBLの新形。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる