殺さないだけ感謝しろ!

小判鮫

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手がかかるほど可愛いもん

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一人きりでシャワーを浴びていると、何故か泣いてしまった。でも、泣いているなんて思いたくなくて、これはシャワーの水滴だって自己催眠するように言い聞かせてた。俺、この暮らしがかなりストレスだ……。誰でもいいから繋がりたい。早く身も心も満たして欲しい。

「イル、髪の毛乾かすよ。ここに座って?」

そのちっちゃい身体で、洗面所までわざわざ椅子を運んできて、ご苦労なことだ。

「いいよ、そんなの自分で……」

「ううん、僕がやりたいの」

こいつは俺に惚れてるような優しさをくれるけれど、俺がこいつを抱こうとするとそれは拒否するんだから、俺のこと好きなのかどうかわかんなくなる。

「イルの髪、きらきら輝いてるね!」

彼はドライヤー片手に、俺の髪を撫でて、嬉しそうにそう言う。

「染めてるだけだよ。元々は黒髪だし……」

「へぇ、黒髪のイルも見てみたいな」

彼は興味ありげに鏡越しに俺の顔を見つめる。

「……嫌だ」

「どうして?」

「弱い自分に、戻る気がするから」

変わりたくて仕方がなくて、髪色を変えて、ピアスを開けて、名前を捨てて、弱い自分を殺したのを、覚えている。けどまだ、弱いままじゃん。

「大丈夫。イルは十分強いよ」

彼はドライヤーの電源を一旦切って、俺に乗っかかるように後ろからハグして、そう伝えてきた。

「ふっ、どこがだよ」

冗談言うなよ、と俺は笑ってしまった。けど、彼の目は真剣そのもので、

「信じて。イルの強さは僕が保証する」

と俺の頭を撫でてきた。俺はその言葉に弱くって、何だか泣きたくなってしまった。

「強い奴に言われても、ムカつくだけだっての!」

涙を見せないように笑い飛ばして誤魔化した。

「そう、」

と真面目な彼はまともに俺の言葉を真に受けて、ちょっぴり暗い表情を見せる。

「ご主人様ぁ、ありがと!」

俺はとびきりのスマイルを見せた。言い終わった後、気まずい空気が流れた。しばらくすると、彼は貼り付けたようなご機嫌になって、

「イル、可愛いね!」

と髪の毛をわしゃわしゃ撫でられた。

「俺って、良い犬じゃない?」

「僕が選んだんだから、当たり前だろ?」

って得意げに鼻を鳴らす。

「あははっ、よく言うよ!めっちゃ手焼いてるくせに」

「手がかかるほど可愛いもんなんだよ」

とドライヤーの電源を切って、俺の髪を一撫で。終わり!というように、両肩を持たれ微笑まれた。
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