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何それ、変なの
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料理、掃除、ごみ捨て、洗濯……彼のために全て覚えた。彼が俺を必要だと思ってくれるように。
「イル、ありがとね。僕も手伝うよ」
食器洗いをしている俺に、彼はそう言って腕まくりをする。
「いいよ。ご主人様はくつろいでて」
俺は汚れた食器を手放さないで、スポンジで次々に擦っていく。
「一緒にやった方が早く終わるよ」
「嫌だ。俺一人でやる」
これは犬の俺がすべき仕事だと言わんばかりに彼が手伝うのをずっと拒否していた。
「何か欲しいものでもあるの?」
家事をしては拒否しまくる俺を不審がって、彼はそう尋ねてきた。
「あるよ。ご主人様が持ってて、俺が奪えそうにないもの」
「……僕の拳銃?」
なんてとんちんかんな答えを聞いて、ふっと気が緩んでしまった。
「もっと価値のあるものだよ」
と微笑んだ。彼は頭を捻らせて考え込んだ後に、
「んー、ギブアップ!答えを教えて?」
と可愛こぶって俺の腕を掴んで、俺の顔をその可愛い顔で覗き込んできた。その可愛さについ口から零れてしまいそうだったが、
「だーめっ!言ったらさらにくれなそうだもん」
と危ういところで踏みとどまった。
「何それ、変なの」
そう言うと彼は俺の腕を掴むのをやめて、踵を返してソファにドカッと座った。だって「レイラの心が欲しい」なんて言ったって、どーせくれないでしょ?
一通り家事を終えて、ソファで煙草を吸っていると、レイラが横に座ってきて俺にもたれかかってきた。
「どうしたの?」
彼があからさまに甘えてきてるのが微笑ましくて、口説く時のような甘い声でそう尋ねた。
「イルが家事のほとんどをやっちゃうから暇だ」
なんて少し唇を尖らせてるのも愛らしい。
「だってご主人様はお仕事頑張ってるでしょ?」
そう彼の頭を撫でる。
「だけど、僕だって少しは手伝いたい。イルに無理はして欲しくない」
その言葉が本心か、それとも偽心か、俺にはよくわかんないけど、そんなことを言ってくれる彼をあまり疑いたくはなかった。
「無理してないよ、何かしないと落ち着かないだけ」
と煙草の煙を肺の中に入れる。
「じゃあ、たくさんのことを一緒にしよう」
その言葉に一瞬、耳を疑った。
「え、一緒に?」
「何?僕と一緒は嫌なの??」
ちょっぴりムッとして問い詰めるようにそう聞いてきた。
「いや、嫌なわけじゃないけど、家事は俺の仕事じゃん?」
「ううん、2人の仕事だよ。だから僕にも手伝わせて」
そう言うと、彼は指を絡めて俺の手を握ってきて、指切りげんまんするようにその手を上下に揺すった。
「それじゃあ、俺の存在価値がなくなっちゃうじゃん……」
俺は彼から顔を背けて、そう小声で独り言を呟いた。
「何か言った?」
その声で振り返ると、彼は何も知らない純粋無垢な顔をしている。
「別に。ちょっと考え事してただけ」
なんて言って、短くなった煙草を捨てられずにまた吸ってしまう。煙草の火が指を温める。それすらも何だか心地良かった。
「イル、ありがとね。僕も手伝うよ」
食器洗いをしている俺に、彼はそう言って腕まくりをする。
「いいよ。ご主人様はくつろいでて」
俺は汚れた食器を手放さないで、スポンジで次々に擦っていく。
「一緒にやった方が早く終わるよ」
「嫌だ。俺一人でやる」
これは犬の俺がすべき仕事だと言わんばかりに彼が手伝うのをずっと拒否していた。
「何か欲しいものでもあるの?」
家事をしては拒否しまくる俺を不審がって、彼はそう尋ねてきた。
「あるよ。ご主人様が持ってて、俺が奪えそうにないもの」
「……僕の拳銃?」
なんてとんちんかんな答えを聞いて、ふっと気が緩んでしまった。
「もっと価値のあるものだよ」
と微笑んだ。彼は頭を捻らせて考え込んだ後に、
「んー、ギブアップ!答えを教えて?」
と可愛こぶって俺の腕を掴んで、俺の顔をその可愛い顔で覗き込んできた。その可愛さについ口から零れてしまいそうだったが、
「だーめっ!言ったらさらにくれなそうだもん」
と危ういところで踏みとどまった。
「何それ、変なの」
そう言うと彼は俺の腕を掴むのをやめて、踵を返してソファにドカッと座った。だって「レイラの心が欲しい」なんて言ったって、どーせくれないでしょ?
一通り家事を終えて、ソファで煙草を吸っていると、レイラが横に座ってきて俺にもたれかかってきた。
「どうしたの?」
彼があからさまに甘えてきてるのが微笑ましくて、口説く時のような甘い声でそう尋ねた。
「イルが家事のほとんどをやっちゃうから暇だ」
なんて少し唇を尖らせてるのも愛らしい。
「だってご主人様はお仕事頑張ってるでしょ?」
そう彼の頭を撫でる。
「だけど、僕だって少しは手伝いたい。イルに無理はして欲しくない」
その言葉が本心か、それとも偽心か、俺にはよくわかんないけど、そんなことを言ってくれる彼をあまり疑いたくはなかった。
「無理してないよ、何かしないと落ち着かないだけ」
と煙草の煙を肺の中に入れる。
「じゃあ、たくさんのことを一緒にしよう」
その言葉に一瞬、耳を疑った。
「え、一緒に?」
「何?僕と一緒は嫌なの??」
ちょっぴりムッとして問い詰めるようにそう聞いてきた。
「いや、嫌なわけじゃないけど、家事は俺の仕事じゃん?」
「ううん、2人の仕事だよ。だから僕にも手伝わせて」
そう言うと、彼は指を絡めて俺の手を握ってきて、指切りげんまんするようにその手を上下に揺すった。
「それじゃあ、俺の存在価値がなくなっちゃうじゃん……」
俺は彼から顔を背けて、そう小声で独り言を呟いた。
「何か言った?」
その声で振り返ると、彼は何も知らない純粋無垢な顔をしている。
「別に。ちょっと考え事してただけ」
なんて言って、短くなった煙草を捨てられずにまた吸ってしまう。煙草の火が指を温める。それすらも何だか心地良かった。
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