異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri

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第一章

朔視点前半

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小学2年生の時、俺は誘拐されそうになった。
腕を掴まれ無理やり引き摺られて車に乗せられそうになった時を思い出すと、今でもゾッとする。
あの時、近くにいた男の人が助けてくれなかったらどうなっていたか。
それでも、7歳であんなめにあったんだ。
人間不信になるには充分だった。
俺はそれから下校途中にある誘拐されそうになった通りを通るたび足が竦むようになり、不登校になった。
外に出るのが怖くなった俺のために母が転校を提案してくれた。



新しい家についてもなんの感情も湧かなかった。
母が近所の挨拶回りに行くというので僕もついていくことにした。
夏休みだった。
インターホンを鳴らして大体出てくるのは女の人で怖くはなかったけど母の後ろにずっと隠れていた。
僕と同じ息子がいて、呼んでくるからというのを聞いて、心の中で会いたくないと咄嗟に思った。
男の人はどうしてもダメなんだ。
けれどこの女の人の息子がすぐに呼ばれて出てきた。
同い年だから当たり前だけどあの男よりかはずっと小さくて、でも僕よりうんと大きくて、咄嗟に母の服をギュッと掴み後ろに隠れた。
相手を不快にさせてしまったかもしれない。
母を困らせてしまったかもしれない。
でも、あのトラウマは消えないんだ。
母が女の人と喋っている間にこっそり顔を上げると、男の子と目が合ってしまう。
でも、その瞬間、男の子が僕と目線が合うように屈んでくれた。
目線が近付いて拍子抜けして唖然としてしまう。
が、男の子はなにも言わない俺を気にすることなく、ふわりと微笑んでくれた。
急に心臓がドクドクと高速に動き始め、顔に熱が溜まっていく。
その温かい笑顔から不思議と目が離せなくなっていた。
n目の前の世界が、少しだけ柔らかくなった気がした。
ふわりと微笑んでくれたその顔を、僕は息をするのも忘れて見つめていた。

「月島真白、月島真白、ましろくん!えへへっ」

あれから家に帰った僕は彼の名前を脳に焼き付けるように何度も何度も連呼した。
緊張せずに呼ぶ練習も兼ねて。
彼の名前を呼ぶたびに、胸があたたかくなった。

学校で会ったら絶対に声をかけて仲良しになるんだ。
それで、親友になって僕のいちばんの友達にするんだ。
真白は優しいからきっと仲良しになってくれる。

僕は明日が楽しみで楽しみで仕方がなかった。
微笑んでくれた顔が何度も浮かんで眠れなかった。
そんな僕を見て母も「仲良くできそうな子がいてよかった」と喜んでいた。



朝早く目が覚めて、車に乗って登校する。
初めての場所でドキドキしたけれど、教室で真白を見つけて安心した。
簡単な挨拶だけして、席に着くように言われた。
先生があそこだって言ってたけど緊張でよく見れてなかった。
どこに座ればいいんだろう。
キョロキョロしていると、真白くんが「こっちだよ」って声をかけてくれて、隣に座らせてくれた。
真白くんは本当に優しくて大好きだ。
でも、真白くんに話しかけられるたび心臓が変になる。
ドキドキして、真白くんの顔もまともに見れなくなって、返事もちゃんとできているか自信ない。
それでも、真白くんが変わらずに毎日話しかけてくれるから嬉しかった。
真白くんがそばにいてくれるから僕は学校で楽しく過ごすことができた。
次第に友達もできて一緒に遊ぶようにもなったけど、真白くんとは相変わらずで、話しかけてくれるのに、僕は緊張して曖昧な態度しか取れなかった。
この前にも移動教室で一緒に行こうって言われて、飛び上がるほど嬉しかったのに、また心臓がドキドキして真白くんがキラキラして見えちゃうから、落ち着かなくて、最近仲良くなったばっかの友達のところに逃げちゃったんだ。
その時の真白くんの悲しそうな顔が浮かぶ。
さすがにこのままだったらまずい。
真白くんに嫌われちゃうよ。
真白くんが僕に冷たくなるのを想像して心がスッと冷たくなる。
そんなのは嫌だ。
でも、どうしたらいいんだろう。
毎回ドキドキしてまともに話せなくなるから、仲良くなるチャンスが掴めないでいる。
きっと、このドキドキさえなくなれば普通に話しかけられるのに。
次こそはちゃんと話すんだ。
真白くんの顔を見て、できたら、一緒に遊ぼうって仲良くなりたいっていうんだ。

仲良くなった友達の悠真に頼んで仲良くなるために普通に話すシュミレーションをしてもらった。

「…………」

「いや、はやく言えよ」

「ちょっと待って、心の準備が!」

「遊ぼうって誘うだけだろ、なんでそんな心の準備が必要なんだよ」

「う、うるさいな。目の前にいるのはたかが悠真でも、真白くんだって意識すると全然心持ちが違うんだ」

「うん、俺は傷ついたぞっ。」

「あ、あのさ、一緒にあそぼう」

「続けるんだ」

相手は悠真だけど、真白くんだと思うだけで恥ずかしくて顔が真っ赤になるから俯いてしまう。

「いいよ~」

悠真が気だるげに返事をする。

「やった!ちゃんと言えた!」

「それを本番でやるのかよ」

「そうだけど」

先までイヤイヤ付き合ってる感じだったのに急に優しくなって僕の頭を意味深に撫でる。

「頑張れよ」

悠真の手の温もりが、少しだけ心を軽くしてくれた。
明日はきっと、真白くんとちゃんと話せる。

そう信じていた、あの時までは。

おかしい。
いつもならすでに真白くんから声をかけてくれてる頃なのに。
今日は学校に着いて自分の席について支度をしてもなおまだ真白くんからの「おはよう」がない。
どうして……?


それからずっと、真白くんの方から声をかけてくることは一度もなかった。
距離が広がったまま、縮める勇気も出ず、焦りだけが日に日に積もっていく。
僕から話しかけないと、でも無視されたらどうしよう。
そんな考えばかりが頭の中を占めて、勉強も手につかない。
めんどくさそうにされたら、きっとその場で泣いてしまう。

だって、もう真白くんと目さえ合わない。
完全に、僕は真白くんの中から消えていた。

昼休み。
真白くんの楽しそうな声が聞こえた。
他の子と一緒に絵を描いている姿を見て、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
その笑顔は、前まで僕にも向けられていたのに。

もう二週間も話せてない。
これ以上我慢できない。
話しかけなきゃ。

「元気?」とか「久しぶり」とか。
平常心で、悠真でシュミレーションした時みたいにやればきっとできるはず。

でも、いざ歩き出すと、真白くんと楽しそうに話す子が羨ましくて、憎らしく思えて、イライラが増していく。
2人の前に立った瞬間、頭の中で考えていたセリフは全部どこかへ消えていた。

「へぇ、楽しそうだね。何描いてるの?」

声が、思ったよりも低く響く。
真白くんが驚いたように僕を見上げ、目を丸くする。
僕の声に、真白くんが少し怯んだように見えた。
その表情を見た瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。

僕が話しかけてくるのが、そんなに嫌なのか。

寂しさを紛らわせるように、隣にいた子を押しやって真白くんの正面にしゃがむ。
――ここは、最初から僕の居場所だった。

ふと、手元の絵を見て、思わず口が動いた。

「真白ってこういうの好きなんだ~」

本当は、「可愛いね」って言いたかった。
けれど口をついて出たのは、笑いに混じった声だった。
真白くんの眉が寄るのが見えて、心臓がざわつく。

「可愛いもの好きって女の子みたいだね」

――ああ、違う、そうじゃない。
僕は何を言ってるんだ。
言えば言うほど、距離が広がっていくのに。

真白くんが身を乗り出して、お絵描き帳を取り返そうとする。
その動きが必死で、胸が締めつけられる。
なのに僕は、なぜか笑ってしまった。
笑わないと、泣いてしまいそうだったから。
だから、わざと笑ってみせた。
口から出たのは、優しい言葉とは正反対のものだった。

「下手くそ」

その一言が、自分の耳にも突き刺さった。
自分で自分を壊していくような感覚。
もう引き返せない。

真白くんの瞳に浮かんだ光を、僕は見ていられなくて、
お絵描き帳を手放して、立ち上がった。

背中に突き刺さる沈黙。
振り返りたいけど、振り返れない。

(ごめん、ごめん、ごめん……)

心の中で何度も繰り返しながら、
僕は教室を出た。

廊下に出ると、冷たい空気が肌に刺さった。
あの日から、僕は真白くんにやたらと話しかけるようになった。
一度話しかけると、たかが外れたように真白くんに構わずにはいられなかった。
毎回、真白くんは迷惑そうにしてたけど、それでもいい。
話さないよりはずっと。


中学生になって、俺は陸上部に入った。運動場で走る練習をしていると、時折真白の吹くトランペットの音が聞こえてきて胸が弾んだ。
せめて委員会では真白と一緒になりたくて、毎回真白のクラスに行って仲のいい友達に真白がなんの委員会に入ったか聞いてもらっていた。
同時に、でも、俺は真白に対する気持ちに違和感を持ち始めた。
真白が他のこと話していると嫌な気持ちになったり、俺に全く興味を示さないことに無性にイライラする。
悠真とか、他の友達にはこんな気持ちになることなんてないのに。
真白に対する気持ちだけ、違った。

ある日、悠真に彼女ができた。
悠真が嬉しそうに紹介してきた彼女は悠真が半年前から片想いしていた子で、2人ともとても幸せそうにしていた。
いいな、俺も真白とこんなふうになれたら、なんて想像してハッとする。

真白の笑う顔が、浮かんだ。
隣にいて、手を繋いで、笑い合う真白と自分の姿を想像してしまった。

俺は一体何を考えたんだ。
真白は男だ。
そういうんじゃない。

身体中が熱くて、息が詰まる。
頭の中が真白のことでいっぱいになって、もう逃げ場がなかった。

そうか。
俺、ずっと、真白に恋をしてたんだ。

それから学校内で、恋愛ブームでもきたのか、カップルが急増した。
俺も放課後や昼休みに女子から呼び出されることが増えていた。
緊張しているのだろう、照れた様子で、女の子が告白してきたとき、いつも脳裏に浮かぶのは真白の姿だ。
その度に俺は女の子の告白を受ける気にならず、丁寧に断り続けた。
どんなに慎重に断ったところで、勇気を出してくれた女の子を泣かせてしまうのは心が痛くなる。
連日、そんなことがあっては精神的に沈んでいた。
悠真は気にすることない、むしろ毎日何回も告白されるモテ男が、毎回断るたびに相手に情を移してたら身が持たないだろ、と心配してくれる。

でも、俺もそっち側だから。
俺が真白に告ったところで勝算はない。
態度では示されなくても心の中では嫌われているとわかってる。
気持ち悪がられて終わりだろう。
そう思うと悲しくなった。

真白がまだ誰とも付き合っていないことだけが俺の救いだった。

それだけが、まだ俺を保たせていた。









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