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二章
旅立ち
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ダンジョンでの実践訓練を重ねて、ようやく僕は戦えると言ってもらえるまでになった。
アレンに「背中預けてもいいくらいになったな」と言われたときは本当に嬉しかった。
そして今日。
僕たちは、王城前で行われる出立の儀(旅立つ前の儀式)に参列している。
「真白くん、ついにですね!」
隣のレミーユが、目を輝かせて僕の袖を引っ張る。
広場には整列した騎士たち。
高く掲げられた王国旗が、朝日を受けて赤く揺れていた。
魔王討伐の旅が始まる。
ようやくスタート地点に立てた。
門の前に立つ王のもとへと歩を進めると、自然と背筋が伸びた。
これからは、命の危険と隣り合わせの道を歩む。
昨日までの穏やかな訓練の日々とは、もう違う。
恐いと思う気持ちと、胸が弾むような楽しさとが、半分ずつ僕の心を占めていた。
隣に立つ三人をみる。
アレンの前を見据える凛とした横顔。
レミーユの静かな祈りの仕草。
オルフェンの頼もしい姿。
四人でなら、どんな困難でも乗り越えられる。
自然と、そんな確信が芽生える。
王の前に再び膝をつきながら、僕はそう考えていた。
「勇敢なる者たちよ。そなたらの歩む道は決して平坦ではない。だが恐れるな。国は、民は、そしてこの私も、常にそなたらと共にある。この国の未来を託すに足る者たちよ。胸を張ってゆけ。光は必ず、闇の向こうにあるであろう」
王の言葉にアレンが一歩前に出る。
「陛下の御心に応え、この命を賭して魔王を討ち、この国に再び平穏を取り戻すことを、ここに誓います」
荘厳な響きが広間に反響する。
続いて、レミーユとオルフェンが胸に手を当てた。
「「国王陛下のために!」」
僕も慌てて手を胸に当て、少し遅れて口を開く。
「……国王陛下の、ために」
声が小さく、震えた。
だけど、誰もそれを責めなかった。
王は側近に合図を送り、赤い絨毯の上へと木箱がいくつも運ばれてきた。
蓋が開かれると、布に包まれた武具と旅の物資が整然と並んでいる。
「これらは、そなたらが旅路を進むための装備と糧である。国庫より、余の名において授けよう。受け取るがよい」
アレンがまず一歩前へ出る。
侍従が恭しく差し出したのは、細身の剣。
王家直属の騎士にのみ与えられる紋章が柄に刻まれている。
「勇者アレン。そなたの忠誠と力量は、余がよく知っている。この刃が、そなたの道を切り開くであろう」
「ありがたく頂戴いたします、陛下」
アレンはその剣を慎重に受け取り胸元に掲げた。
続いてレミーユの前に、魔力を増幅する蒼色の杖が置かれる。
「レミーユ、そなたの力は旅路に不可欠だ。魔道を極め、仲間を支えるがよい」
レミーユは静かに微笑み、杖に手を添えた。
オルフェンには頑丈な革の盾と、彼の体格に合わせた戦槌が授けられる。
「その力は、仲間を守るためにこそある。頼んだぞ」
「はっ!」
そして、最後に僕の前にも木箱が運ばれた。
中を覗くと、旅のための必需品である水袋、保存食、魔法石の小袋が入っている。
「真白よ。そなたは異邦の者でありながら、この国の未来に関わる道を選んだ。その勇気を讃え、二つのものを授けよう。これは魔力の乱れを抑え、術を安定させる指輪だ。そしてこのローブは、そなたの魔力を阻まず、旅路でも身を守る加護を持つ」
僕は思わず息をのんだ。
指輪は触れただけで、冷たいのにどこか脈打つような感覚があった。
「……僕に、これを?」
「うむ。魔法の才ある者としての証だ。誇り、励むが良い」
胸が熱くなり、僕は深く頭を下げた。
ローブを羽織ればふわりと温かなものが全身を包み込み、
指輪を指にはめると、金属とは思えないほど確かな重みが指先に宿り、その存在を静かに主張してきた。
アレンたちが横で小さく頷く気配がする。
「……ありがとうございます」
王の言葉が終わると、馬車の列がゆっくりと王都の門をくぐり抜けていく。
通りに並んだ人々が手を振り、笑顔で「頑張って!」と声をかけてくれる。
それに笑顔で応えながら、やがて王都の影が小さくなって言った。
馬車を降りて土の道を歩き出す。
空気が澄んでいて、風の匂いが気持ちいい。
ここから先は、本当に未知の領域だ。
「いよいよだな」
先頭を歩くアレンが、短く言った。
その背中は、もう戦場の空気をまとっているようだった。
「魔王城へ向かう道中、まずは近くの村で物資調達と寝床の確保だ。
村がない区間に入ったら、馬車で休むか……野宿になる」
「そうね。非常食も揃えたし、生きるための物資が尽きないように気を配らないと。
武器やアイテムも使えば減っていくものだから、補充を忘れずにね」
レミーユは落ち着いて見えた。
でも、その声はほんの少し震えていた。
「それにしても、真白くんがこんなに早く僕たちの戦力になるとは思ってなかったよ。頑張ったな」
オルフェンの言葉に、肩の力が少し抜けた。
「ありがとうございます! みんなの足を引っ張らないように頑張ります!」
「真白くんの力は、もう魔物相手に十分通用してるわ。
自信を持っていきましょう」
レミーユが柔らかく微笑む。
二人の言葉は、不思議と胸に深く染みた。
そして僕は、小さく息を吸って、心の中でつぶやく。
『元の世界に、戻るために』
その一言が、僕の人生を前へと押し出してくれる。
怖くても、逃げられない。使命を果たすんだ。
こうして僕たちの旅は、静かに幕を開けた。
――まだ誰も知らない終わりへ向かって。
アレンに「背中預けてもいいくらいになったな」と言われたときは本当に嬉しかった。
そして今日。
僕たちは、王城前で行われる出立の儀(旅立つ前の儀式)に参列している。
「真白くん、ついにですね!」
隣のレミーユが、目を輝かせて僕の袖を引っ張る。
広場には整列した騎士たち。
高く掲げられた王国旗が、朝日を受けて赤く揺れていた。
魔王討伐の旅が始まる。
ようやくスタート地点に立てた。
門の前に立つ王のもとへと歩を進めると、自然と背筋が伸びた。
これからは、命の危険と隣り合わせの道を歩む。
昨日までの穏やかな訓練の日々とは、もう違う。
恐いと思う気持ちと、胸が弾むような楽しさとが、半分ずつ僕の心を占めていた。
隣に立つ三人をみる。
アレンの前を見据える凛とした横顔。
レミーユの静かな祈りの仕草。
オルフェンの頼もしい姿。
四人でなら、どんな困難でも乗り越えられる。
自然と、そんな確信が芽生える。
王の前に再び膝をつきながら、僕はそう考えていた。
「勇敢なる者たちよ。そなたらの歩む道は決して平坦ではない。だが恐れるな。国は、民は、そしてこの私も、常にそなたらと共にある。この国の未来を託すに足る者たちよ。胸を張ってゆけ。光は必ず、闇の向こうにあるであろう」
王の言葉にアレンが一歩前に出る。
「陛下の御心に応え、この命を賭して魔王を討ち、この国に再び平穏を取り戻すことを、ここに誓います」
荘厳な響きが広間に反響する。
続いて、レミーユとオルフェンが胸に手を当てた。
「「国王陛下のために!」」
僕も慌てて手を胸に当て、少し遅れて口を開く。
「……国王陛下の、ために」
声が小さく、震えた。
だけど、誰もそれを責めなかった。
王は側近に合図を送り、赤い絨毯の上へと木箱がいくつも運ばれてきた。
蓋が開かれると、布に包まれた武具と旅の物資が整然と並んでいる。
「これらは、そなたらが旅路を進むための装備と糧である。国庫より、余の名において授けよう。受け取るがよい」
アレンがまず一歩前へ出る。
侍従が恭しく差し出したのは、細身の剣。
王家直属の騎士にのみ与えられる紋章が柄に刻まれている。
「勇者アレン。そなたの忠誠と力量は、余がよく知っている。この刃が、そなたの道を切り開くであろう」
「ありがたく頂戴いたします、陛下」
アレンはその剣を慎重に受け取り胸元に掲げた。
続いてレミーユの前に、魔力を増幅する蒼色の杖が置かれる。
「レミーユ、そなたの力は旅路に不可欠だ。魔道を極め、仲間を支えるがよい」
レミーユは静かに微笑み、杖に手を添えた。
オルフェンには頑丈な革の盾と、彼の体格に合わせた戦槌が授けられる。
「その力は、仲間を守るためにこそある。頼んだぞ」
「はっ!」
そして、最後に僕の前にも木箱が運ばれた。
中を覗くと、旅のための必需品である水袋、保存食、魔法石の小袋が入っている。
「真白よ。そなたは異邦の者でありながら、この国の未来に関わる道を選んだ。その勇気を讃え、二つのものを授けよう。これは魔力の乱れを抑え、術を安定させる指輪だ。そしてこのローブは、そなたの魔力を阻まず、旅路でも身を守る加護を持つ」
僕は思わず息をのんだ。
指輪は触れただけで、冷たいのにどこか脈打つような感覚があった。
「……僕に、これを?」
「うむ。魔法の才ある者としての証だ。誇り、励むが良い」
胸が熱くなり、僕は深く頭を下げた。
ローブを羽織ればふわりと温かなものが全身を包み込み、
指輪を指にはめると、金属とは思えないほど確かな重みが指先に宿り、その存在を静かに主張してきた。
アレンたちが横で小さく頷く気配がする。
「……ありがとうございます」
王の言葉が終わると、馬車の列がゆっくりと王都の門をくぐり抜けていく。
通りに並んだ人々が手を振り、笑顔で「頑張って!」と声をかけてくれる。
それに笑顔で応えながら、やがて王都の影が小さくなって言った。
馬車を降りて土の道を歩き出す。
空気が澄んでいて、風の匂いが気持ちいい。
ここから先は、本当に未知の領域だ。
「いよいよだな」
先頭を歩くアレンが、短く言った。
その背中は、もう戦場の空気をまとっているようだった。
「魔王城へ向かう道中、まずは近くの村で物資調達と寝床の確保だ。
村がない区間に入ったら、馬車で休むか……野宿になる」
「そうね。非常食も揃えたし、生きるための物資が尽きないように気を配らないと。
武器やアイテムも使えば減っていくものだから、補充を忘れずにね」
レミーユは落ち着いて見えた。
でも、その声はほんの少し震えていた。
「それにしても、真白くんがこんなに早く僕たちの戦力になるとは思ってなかったよ。頑張ったな」
オルフェンの言葉に、肩の力が少し抜けた。
「ありがとうございます! みんなの足を引っ張らないように頑張ります!」
「真白くんの力は、もう魔物相手に十分通用してるわ。
自信を持っていきましょう」
レミーユが柔らかく微笑む。
二人の言葉は、不思議と胸に深く染みた。
そして僕は、小さく息を吸って、心の中でつぶやく。
『元の世界に、戻るために』
その一言が、僕の人生を前へと押し出してくれる。
怖くても、逃げられない。使命を果たすんだ。
こうして僕たちの旅は、静かに幕を開けた。
――まだ誰も知らない終わりへ向かって。
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