36 / 51
二章
対峙
しおりを挟む
フルゥと再び合流し、僕らは王城へと向かった。
だが、王城の敷地へ足を踏み入れた瞬間、フルゥは見えない壁に弾かれ、ふわっと後ろへ吹き飛ばされた。
「やっぱり、入れないんだね」
フルゥは体を起こして苦笑した。
その声は明るいのに、悲しみを含んでいるように聞こえた。
「フルゥはここまで。でも、せめて、君たちに祈りを授けよう。君たちの力だけで、王に打ち勝つんだよ」
手を広げたまま体から光が溢れ、僕たちの身体にふわりと降り注ぐ。
疲れが一気に吹き飛んで体が軽くなった。
こんな効果のある祈りの魔法ができるのは特別な存在にしかできない。
不思議そうにレミーユやオルフェンが目を瞬かせる。
僕はフルゥを見上げる。
小さな身体に似つかない大きな力。
フルゥが魔法を一から教えてくれたから、僕はこの世界に呑まれずにやってこれた。
本当は一緒に戦いたいだろうに、ここで見送ることしかできない。
そんなフルゥの期待に応えられるように僕は返事をした。
「うん。必ず勝って、会いに戻るよ」
優しい声で、そして強い決意を込める。
フルゥの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「うん……待ってるよ、真白」
「心配しなくていいのよ。真白は強いんだから」
レミーユが横から穏やかな声で微笑む。
「さあ、王のもとへ急ごう」
オルフェンが短く告げると、僕たちは互いに頷き合い、前を向いた。
もう振り返らずに、そのまま王城の奥へと歩き出した。
玉座の間は静まり返っていた。
昼下がりの光が高い窓から差し込み、白い石床にまっすぐな影を刻んでいる。
その中央へ、僕たちは無言のまま足を踏み入れた。
特別な儀式があるわけでもないため、兵士の数は最小限。
王の左右に二人、背筋を伸ばして立っているだけだ。
玉座に座る王は、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべていた。
「おや? どうしたのだ、そなたら。
まさか魔王討伐が終わったとは言わぬだろうな?」
それは、どこにでもいる優しい老人の声。
けれど今の僕たちには、その柔らかさこそがぞっとするほど不気味だった。
胸の奥が、ぐつぐつと煮え立っていた。
喉の下あたりで、何かが押し上げてくるみたいに熱い。
王の柔らかい声が響くたびに、その熱がさらに膨れ上がる。
「……しらばっくれるなよ」
僕は怒りに任せて口を開いた。
王の肩が、わずかに揺れる。
「僕たちは、お前を倒しに戻ってきたんだ」
玉座に控えていた兵士たちが一斉に剣を構え、
凍りつくような無表情でこちらを睨む。
「我を倒す? 馬鹿な。魔王に洗脳でも受けたか」
王は淡々とした声で言い放った。
「わたしたちはすべて知りました。異世界の人々の魂のことも、封じられた書庫に隠された王家の罪も」
「王の血が薄まり、力を失ったのは哀れだが
そのために無関係な命を踏みにじっていい道理など、どこにもない!」
レミーユとオルフェンの言葉に王は沈黙したまま動かなかったが、
やがて、まるで面倒事に巻き込まれたようなため息をついて立ち上がった。
「そんな荒唐無稽な話を誰が信じる?ありもしない罪を、王家に着せようとは愚かしい。虚言で国を乱すつもりか。まったく、身の程をわきまえよ。王に逆らうというのは、命を賭して行うものだぞ。まだ引き返す余地はある。今なら見逃してやらんこともないが——」
「証拠なら目の前にあるでしょう、陛下」
レミーユは王の言葉を遮り、古い書を開いて掲げた。
先ほどと同様、空中に文字が浮かび上がり、先ほどの記録が明るみになる。
それを見た王の口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「なるほど。あの書庫の封印を破れる者が、まだこの世に残っていたとはな」
その声は先ほどと変わらず落ち着いているのに、
眼の奥だけが、鋭く冷たい光を宿していた。
「魔王を倒した後で、ゆっくりお前たちから魂を取り出すつもりでいたが。予定を少し、早めるとしよう」
その瞬間、王の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がり、
空気がびりびりと震え始めた。
僕は魔法をいつでも放てるように構えた状態で一歩前へ出た。
「逃げる気はない。僕たちでお前を終わらせる!」
王の瞳がぎらりと光った。
次の刹那、幻惑の膜がはがれるように、王の輪郭が揺らぎ
その姿が、本性を露わにしていく。
だが、王城の敷地へ足を踏み入れた瞬間、フルゥは見えない壁に弾かれ、ふわっと後ろへ吹き飛ばされた。
「やっぱり、入れないんだね」
フルゥは体を起こして苦笑した。
その声は明るいのに、悲しみを含んでいるように聞こえた。
「フルゥはここまで。でも、せめて、君たちに祈りを授けよう。君たちの力だけで、王に打ち勝つんだよ」
手を広げたまま体から光が溢れ、僕たちの身体にふわりと降り注ぐ。
疲れが一気に吹き飛んで体が軽くなった。
こんな効果のある祈りの魔法ができるのは特別な存在にしかできない。
不思議そうにレミーユやオルフェンが目を瞬かせる。
僕はフルゥを見上げる。
小さな身体に似つかない大きな力。
フルゥが魔法を一から教えてくれたから、僕はこの世界に呑まれずにやってこれた。
本当は一緒に戦いたいだろうに、ここで見送ることしかできない。
そんなフルゥの期待に応えられるように僕は返事をした。
「うん。必ず勝って、会いに戻るよ」
優しい声で、そして強い決意を込める。
フルゥの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「うん……待ってるよ、真白」
「心配しなくていいのよ。真白は強いんだから」
レミーユが横から穏やかな声で微笑む。
「さあ、王のもとへ急ごう」
オルフェンが短く告げると、僕たちは互いに頷き合い、前を向いた。
もう振り返らずに、そのまま王城の奥へと歩き出した。
玉座の間は静まり返っていた。
昼下がりの光が高い窓から差し込み、白い石床にまっすぐな影を刻んでいる。
その中央へ、僕たちは無言のまま足を踏み入れた。
特別な儀式があるわけでもないため、兵士の数は最小限。
王の左右に二人、背筋を伸ばして立っているだけだ。
玉座に座る王は、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべていた。
「おや? どうしたのだ、そなたら。
まさか魔王討伐が終わったとは言わぬだろうな?」
それは、どこにでもいる優しい老人の声。
けれど今の僕たちには、その柔らかさこそがぞっとするほど不気味だった。
胸の奥が、ぐつぐつと煮え立っていた。
喉の下あたりで、何かが押し上げてくるみたいに熱い。
王の柔らかい声が響くたびに、その熱がさらに膨れ上がる。
「……しらばっくれるなよ」
僕は怒りに任せて口を開いた。
王の肩が、わずかに揺れる。
「僕たちは、お前を倒しに戻ってきたんだ」
玉座に控えていた兵士たちが一斉に剣を構え、
凍りつくような無表情でこちらを睨む。
「我を倒す? 馬鹿な。魔王に洗脳でも受けたか」
王は淡々とした声で言い放った。
「わたしたちはすべて知りました。異世界の人々の魂のことも、封じられた書庫に隠された王家の罪も」
「王の血が薄まり、力を失ったのは哀れだが
そのために無関係な命を踏みにじっていい道理など、どこにもない!」
レミーユとオルフェンの言葉に王は沈黙したまま動かなかったが、
やがて、まるで面倒事に巻き込まれたようなため息をついて立ち上がった。
「そんな荒唐無稽な話を誰が信じる?ありもしない罪を、王家に着せようとは愚かしい。虚言で国を乱すつもりか。まったく、身の程をわきまえよ。王に逆らうというのは、命を賭して行うものだぞ。まだ引き返す余地はある。今なら見逃してやらんこともないが——」
「証拠なら目の前にあるでしょう、陛下」
レミーユは王の言葉を遮り、古い書を開いて掲げた。
先ほどと同様、空中に文字が浮かび上がり、先ほどの記録が明るみになる。
それを見た王の口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「なるほど。あの書庫の封印を破れる者が、まだこの世に残っていたとはな」
その声は先ほどと変わらず落ち着いているのに、
眼の奥だけが、鋭く冷たい光を宿していた。
「魔王を倒した後で、ゆっくりお前たちから魂を取り出すつもりでいたが。予定を少し、早めるとしよう」
その瞬間、王の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がり、
空気がびりびりと震え始めた。
僕は魔法をいつでも放てるように構えた状態で一歩前へ出た。
「逃げる気はない。僕たちでお前を終わらせる!」
王の瞳がぎらりと光った。
次の刹那、幻惑の膜がはがれるように、王の輪郭が揺らぎ
その姿が、本性を露わにしていく。
11
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい
マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。
しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。
社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。
新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で……
あの夏の日々が蘇る。
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる