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それぞれの夢
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自分のスーツ姿を鏡で見ていた。
「よし! 私、イケてる。大丈夫!」
自分のスーツ姿を見ながら、私自身に勇気付けていた。
そう、今日はなんといっても最終面接なのだ。
自分の顔を鏡で見てから、気合いを入れるため顔をバンと叩いた。
大事な書類がカバンに入っていることを確認して部屋を出た。
階段を駆け下りて、母親が私に声をかけてきた。
もう分かってるよ。いつものあれだよ。
私が頑張る時にいつも渡してくる。
本当にそれが不安にさせるんだよ。
頑張れ、頑張れって。
私なりに頑張ってるんだよ。
「はい、これ。頑張ってね!」
「……」
笑顔で話しかけてきた母親は右手にのど飴を持ち、私にのど飴を渡そうとしていた。
私は靴を履いて、後ろを振り返って母親と向き合った。
「どうしたの? 持ってきなさい」
「いらない」
「どうしたの? いつもは持ってくじゃない」
「いらないって! 私はのど飴なくたって頑張れるから、母さん。私は私なりに頑張ってるから。自分の手で掴んでくるから」
睨めつけるように母親を見てから、外に出た。
母親は私のことを呼んでいたが、そんなの気にしなかった。
自分がやりたいと思える仕事を見つける。
それを叶えるために私は前を向いて、真っ直ぐに背筋をピンと伸ばして歩いた。
数日後
「内定もらえました!」
私は出版社に採用された。
だが、田中さんの出版社ではない。
漫画と小説をコラボしている会社である。
漫画を描きつつも、その原作漫画を小説化していくのだ。
私が掴んで得た会社だ。
私は松岡さん達に報告した。
「良かったな、本当に。どうなることかと思ったけど」
松岡さんは、この間の出来事がなかったかのように私が就職できたことを心よく祝ってくれた。
まだ彼の心は不完全なはずなのに。
「良かったじゃん」
「良かったわね。つ―か、あんた就活生だったのね。知らなかったわ」
松岡さん達らしい言葉でねぎらってくれた。
今日は、全員集合していた。
コバさんとくるみさんは、バイトがないから暇だから来てみたと言い、古本屋『松岡』に来ていた。
「ありがとうございます」
床に座っていたので、私は立ち上がり松岡さん達に礼をした。
三人は床に座って、一人ひとり楽しみながら新聞を読んだり、酒を飲んだり、雑誌を読んでいた。
私は松岡さんにこっそりと聞いた。
私が就職できたということを聞ききつけて、コバさんとくるみさんが駆けつけてくれたと教えてくれた。
本当に有難くて、やはり優しい人達なんだと思った。
「陽琉、大変だったんだよな。お前らちゃんと聞いてるか!」
「聞いてるよ、ひよっち」
「聞いてるよ。陽和それより、新聞読んでていいの?」
雑誌をペラペラめくって、くるみさんは黒目を動かして松岡さんを見た。
酒を一口飲みコップを右手に握りしめて、コバさんは聞き耳を立てていた。
「全部俺が思ってること言ったから問題ないよ」
「それなら言いけど……なんか人任せし過ぎている気がして」
「そんなことないよ。ちゃんと説明してるし、工事には影響ないから。もしなんかあった場合は、なんとかなるよ」
「……本当かしら?」
彼女が心配事をしていたのは、ネコカフェだ。
ネコカフェは、こないだ来た林総理大臣と太橋さんの了承を得てから、すぐに太橋さんと話を設けて話を進めていた。
いろんな手配をして、今古本屋『松岡』は工事をしている最中だ。
うるさい工事音がする中、私達は居間で身を隠して話をしていた。
「大丈夫だから、心配すんな。くるみ」
はいはいと呆れたように彼を見てから、彼女は雑誌をペラッと開いて、凛とした表情を浮かべていた。
「それより、陽和これ見て」
「なんだ」
くるみさんが見ていた雑誌を松岡さんの近くに寄せて見せた。
「私ね、雑誌の読者モデルに採用されたの」
彼は雑誌を見つつ、くるみさんを見て口を押さえ目を丸くしていた。
「すごいじゃないか、くるみ。良かったな!うわあ、良かったな。本当に」
雑誌にはくるみさんがポーズをしていて、可愛い服装を着て初登場くるみと書かれていた。
その内容を見た松岡さんは、目を潤ませていた。
くるみさんは、彼を見て驚いた顔をしていた。
「陽和、そんな泣かなくても……でもね、私の目標はモデル事務所に入ることだから。読者モデルになったからといて、油断は出来ないからね。気を引き締めていかないと」
目に涙を浮かべながら彼女は松岡さんに言った。私達は松岡さんとくるみさんの様子を見ていた。
「……そうだな。目的だけは失わない方がいいな。でもくるみいつの間に受けてたの?」
彼は涙を流しつつも、言葉ははっきりと答えていた。
「今年に入ってから……ひとりの力でやってみようと思って……」
彼女は私と同じく自分の力で試してみたかったのだ。
中年集団と昇哉さんの力を借りるのではなく、自分の力で。
「くるみ、良かったな。おめでとう」
右手に酒を持ちながらコバさんは、ニコッと笑顔を浮かべていた。
だが、その笑顔には輝きが見えなく、目が喜んでいないように感じられた。
「くるみさん、良かったですね。私にも見せて下さい」
「いいわよ、陽和。もういい?」
「ああ、いいぞ。陽琉、見な! 雑誌にくるみがいるぞ」
松岡さんは史上最高の笑顔で私に微笑んできた。
その笑顔にグサッと胸に突き刺さった。
何これ、苦しい。
涙出そう。もうそんな笑顔しないで。
「陽琉?」
松岡さんは、ボケッとした顔で私に話しかけてきた。
瞬時に私は下を向いて俯いた。
「陽琉、どうした?」
私を心配してくれたのかくるみさんが私に話しかけてくれた。
私はくるみさんの声に我に返り、目に涙を浮かびそうになる目を抑えて顔をあげた。
「……あ、はい。大丈夫です」
「本当? 大丈夫?」
くるみさんは腕を組み、私を心配そうに見てきた。
「大丈夫です。松岡さん見せて下さい」
松岡さんに私はそう言うと、松岡さんは黙っていた。
「松岡さん?」
「陽琉、黙ってないでなんか言っていいよ。言いたいことあるんでしょ?」
え? なんで、そんなこと聞くの。
松岡さん、私にそんな優しくしないでよ。私勘違いしちゃうから。
「なんでもないですよ、松岡さん」
私は無理に笑顔を作り松岡さんに言った。
「……そうか、分かった。ほらこれ見ろよ」
松岡さんは、真面目な顔から笑顔で私に言った。
私は、雑誌を松岡さんから受け取った。
だが、その時に私の右手が松岡さんの手に触れた。
その際に、彼は私の手をギュと掴んできた。
なんでそんなことするの。なんで、やめてよ、私のこと好きなの?
胸がドキドキしている。
「あ、え、ありがとうございます」
彼は、私の目を見て雑誌を渡してきた。
「はい」
私の気持ちのことなんて知らないで、無邪気な笑顔で笑いかけてきた。
もうやめてよ、そんな笑顔をすると自分の夢考えられなくなるじゃない。
「あ、それよりコバ。昇哉さんとあれから連絡できたか?」
酒を飲み終わり彼は、スマホを弄り何かを検索していた。
「……ああ連絡したよ。昇哉さんからまた会ってカメラの話しませんかって言われたよ」
「そうか一歩前進だな。お前ら良かったな。本当に五年もやってきてやっと前進したな。俺、また泣きそうだわ」
さっきも泣いたのに彼は涙が溢れ出ていた。
でもその涙は、嬉しいから泣いているのか悲しいから泣いているのかどちらの涙なのだろう。
彼は相手のために泣いているようだが、自分の悲しさを嬉しさの涙に変えているように私は見えた。
「陽和、もうやめてよ。私もまた泣きそうだよ」
「ひよっち。俺なんてまだまだなんだから」
「いや、そんなことない。少しずつカメラマンになる夢、近づいてるよ」
「ひよ―っぢ」
コバさんは松岡さんの名前を呼び、涙を流しながら彼の胸に抱きついていた。
彼は、コバさんをよしよしと子どものようにあやしていた。
くるみさんも涙を流していた。
その状況に夢を叶えるということは、難しいことなのだと痛感した。
この古本屋『松岡』が出来てから、五年。
夢を叶えるために、自分で努力して、バイトもして、どういうふうに夢を叶えられるのか考えてきたのだろう。
それなのに私は何をしているのだろうか。
就活を終えて、仕事は決まった。
好きな仕事が決まったはずなのに、なんで夢が叶った気がしないんだ。
私の叶えたい夢は、仕事をしながら小説家になることだ。
仕事をしながらでも、本当の夢が叶うのか不安になった。
「……みなさん、いいですね。私なんか夢なんて叶えたのかな」
私は黒目を右に向けて、三人を見ないように心の中で思っていることを言っていた。
「陽琉、そんなことないよ。陽琉は頑張ってるよ。仕事だって決まったし」
彼は、涙を拭いながら私に言ってくれた。
「……分からないんです。私」
私は、また下を俯き言った。
「……何が?」
くるみさんは、鼻をすすりながら私の方をきちんと見て返答してくれた。
「私なりに夢は叶えました。でも、今くるみさんとコバさんを見ていたら、本当の夢は叶えられるのかなって」
くるみさんとコバさんは、動作を止めて私の方を見てきた。
「ふ―ん、夢なんてお前が考えれば考えるほど夢なんて叶わないんだよ。だから、今の現状を頑張ればいいと思うけど、俺は」
コバさんは涙を右手でふき取りながら何もなかったように携帯を弄って、私に向かって言っているように思われる。
「コバさん」
「お前なんて一生考えてればいいんだよ」
彼は、フッと鼻で笑っていた。
「はあ、コバ。珍しくいい事言ったと思ったのに。なんでそんなこと言うかな! 陽琉。私はね夢は叶うって信じることだと思うよ。だからね、私が言いたいことは……」
「陽琉は夢を叶えるために頑張ってる」
松岡さんは、くるみさんの話を妨げて真っ直ぐな目で私に言った。
「陽和。なんで私よりさっきに言うの!」
彼女はさっきに言ったのが気に食わなかったのか、はあ? という顔をして彼を見ていた。
「別にいいじゃん。くるみが言うのが遅いんだろ」
くるみさんに反論して彼は意地悪そうに言った。
「もう! 私さっきに帰る。コバも付いてきて」
子どものように顔を膨らませて、彼女はいじけていた。
「はあ? くるみ一人で行けよ!」
一人で帰ると思いきやコバさんを連れてどこかに行こうとしていた。
「いいでしょ! どっか行くよ」
なぜか私と松岡さんの方を見て、彼は諦めたような声で言った。
「……はあ、分かったよ。行きますよ、くるみ様にはかなわねぇな」
「なんて言った? コバ」
ニコッと彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「はいはい、行きま―す」
くるみさん達はカバンを持ち、二人とも私を見て少し笑いかけてから足早に去っていた。
その笑いが、何を意味するのか理解出来なかった。
「行っちゃいましたね。二人とも」
「ああ、行ったな。くるみ達いてもよかったのに。俺そんなキツイこと言ったのかな?」
松岡さんは、ポツリと私に言い放った。
二人がいないせいか静かに感じた。
私は何を言えばいいか分からず黙っていた。
彼はそれを察したのか、私にさっき程話していた続きを聞いてきた。
「……あのさ、陽琉。さっきのことだけど、俺とくるみが言いたいのは夢を叶えるために陽琉は、頑張ってるってこと」
私は、彼の目を見た。私の為に分かりやすく彼なりの言葉で私に訴えていた。
「……頑張ってるって……なんですか? あの二人みたいに私もやりたい仕事につけました。でも、本当にやりたい仕事には就けていない。就職できても、嬉しいような悲しいような、分からないんです。もう私……どうしたらいいんですか」
私は声を出すこともなく、静かに涙を流していた。
人前で泣いたことなんて、人生であまりなかった。
それなのに人前で泣くのは、何年振りだろう?
昔から何も出来なくて、誰の役にも立てなくてどうしたらいいかわからなかった。
だから自分に強くありたいと、知識を身につけて男性に負けないくらいの知識をつけたと私は思う。
なのに、今の自分じゃ夢なんて叶えているのだろうか。
不安で、不安で仕方ない。
その不安が分かっているかのように、松岡さんは何故本当の自分を引っ張り出してくれるのだろうか。
「陽琉。無理に頑張らなくていいの。自分なりの答えを探せば……」
「自分のごだえ?」
私は泣きながら、彼に話しかけた。
「そう。自分の答え。自分が今やるべきことは何か。やらなくてはならないこと誰にしもあるはずでしょ」
ニコリと彼は私に笑いかけて、私の頭を撫でた。
その言葉が欲しかったんだ、私。
無理に頑張らなくていい。
その言葉だけで、心が掃除された気分になった。
「……やらなくてはならないこと……ですか。自分が今やるべきこと。そうですね。なんでもう松岡さんにはこう話しちゃうんですかね」
私は涙を拭ってから上目遣いで松岡さんを見た。
私の頭を撫でていた彼の手が急に止まった。
「……はあ、その顔をやめてよ。俺が苦しくなるから」
「え? どういうことですか?」
彼は、両手で顔を隠していた。
私はなんのことかさっぱりわからないので、はてなマークが頭の中を遡っていた。
「……なんでもないよ。それよりも陽琉の気持ちは決まった?」
ゴホンと咳払いをして、彼は私の気持ちを見透かしているように言ってきた。
「はい、決まりました。なんかお騒がせして申し訳ありません!」
「いいんだよ、人間はみんな助けあいながら生きているんだからね」
そう言ってから、彼は私に最高の笑顔で笑いかけてきた。
彼の笑顔は最高であったが、なにか違和感を感じた。
彼らしさがなかった。
彼が笑いかけたら、松岡さん―と呼ぶ声が外から聞こえた。
ネコカフェを工事している人が呼んでいた。
大きい声で彼は、は―いと言ってから、私にゆっくり休んでてと一言放ってから、靴を履き行ってしまった。
カバンから鏡を出して、自分の顔を見た。
その顔は腫れていて、泣いたとわかるほどの腫れ具合であった。
それぞれの夢は、自分のペースで進むもの。
だから、焦らなくて大丈夫。
松岡さん、コバさん、くるみさんはそのことを言いたかったのだ。
夢はまだまだ未知数で信じられないけど、私は私なりの道を歩むとこの日誓った。
「よし! 私、イケてる。大丈夫!」
自分のスーツ姿を見ながら、私自身に勇気付けていた。
そう、今日はなんといっても最終面接なのだ。
自分の顔を鏡で見てから、気合いを入れるため顔をバンと叩いた。
大事な書類がカバンに入っていることを確認して部屋を出た。
階段を駆け下りて、母親が私に声をかけてきた。
もう分かってるよ。いつものあれだよ。
私が頑張る時にいつも渡してくる。
本当にそれが不安にさせるんだよ。
頑張れ、頑張れって。
私なりに頑張ってるんだよ。
「はい、これ。頑張ってね!」
「……」
笑顔で話しかけてきた母親は右手にのど飴を持ち、私にのど飴を渡そうとしていた。
私は靴を履いて、後ろを振り返って母親と向き合った。
「どうしたの? 持ってきなさい」
「いらない」
「どうしたの? いつもは持ってくじゃない」
「いらないって! 私はのど飴なくたって頑張れるから、母さん。私は私なりに頑張ってるから。自分の手で掴んでくるから」
睨めつけるように母親を見てから、外に出た。
母親は私のことを呼んでいたが、そんなの気にしなかった。
自分がやりたいと思える仕事を見つける。
それを叶えるために私は前を向いて、真っ直ぐに背筋をピンと伸ばして歩いた。
数日後
「内定もらえました!」
私は出版社に採用された。
だが、田中さんの出版社ではない。
漫画と小説をコラボしている会社である。
漫画を描きつつも、その原作漫画を小説化していくのだ。
私が掴んで得た会社だ。
私は松岡さん達に報告した。
「良かったな、本当に。どうなることかと思ったけど」
松岡さんは、この間の出来事がなかったかのように私が就職できたことを心よく祝ってくれた。
まだ彼の心は不完全なはずなのに。
「良かったじゃん」
「良かったわね。つ―か、あんた就活生だったのね。知らなかったわ」
松岡さん達らしい言葉でねぎらってくれた。
今日は、全員集合していた。
コバさんとくるみさんは、バイトがないから暇だから来てみたと言い、古本屋『松岡』に来ていた。
「ありがとうございます」
床に座っていたので、私は立ち上がり松岡さん達に礼をした。
三人は床に座って、一人ひとり楽しみながら新聞を読んだり、酒を飲んだり、雑誌を読んでいた。
私は松岡さんにこっそりと聞いた。
私が就職できたということを聞ききつけて、コバさんとくるみさんが駆けつけてくれたと教えてくれた。
本当に有難くて、やはり優しい人達なんだと思った。
「陽琉、大変だったんだよな。お前らちゃんと聞いてるか!」
「聞いてるよ、ひよっち」
「聞いてるよ。陽和それより、新聞読んでていいの?」
雑誌をペラペラめくって、くるみさんは黒目を動かして松岡さんを見た。
酒を一口飲みコップを右手に握りしめて、コバさんは聞き耳を立てていた。
「全部俺が思ってること言ったから問題ないよ」
「それなら言いけど……なんか人任せし過ぎている気がして」
「そんなことないよ。ちゃんと説明してるし、工事には影響ないから。もしなんかあった場合は、なんとかなるよ」
「……本当かしら?」
彼女が心配事をしていたのは、ネコカフェだ。
ネコカフェは、こないだ来た林総理大臣と太橋さんの了承を得てから、すぐに太橋さんと話を設けて話を進めていた。
いろんな手配をして、今古本屋『松岡』は工事をしている最中だ。
うるさい工事音がする中、私達は居間で身を隠して話をしていた。
「大丈夫だから、心配すんな。くるみ」
はいはいと呆れたように彼を見てから、彼女は雑誌をペラッと開いて、凛とした表情を浮かべていた。
「それより、陽和これ見て」
「なんだ」
くるみさんが見ていた雑誌を松岡さんの近くに寄せて見せた。
「私ね、雑誌の読者モデルに採用されたの」
彼は雑誌を見つつ、くるみさんを見て口を押さえ目を丸くしていた。
「すごいじゃないか、くるみ。良かったな!うわあ、良かったな。本当に」
雑誌にはくるみさんがポーズをしていて、可愛い服装を着て初登場くるみと書かれていた。
その内容を見た松岡さんは、目を潤ませていた。
くるみさんは、彼を見て驚いた顔をしていた。
「陽和、そんな泣かなくても……でもね、私の目標はモデル事務所に入ることだから。読者モデルになったからといて、油断は出来ないからね。気を引き締めていかないと」
目に涙を浮かべながら彼女は松岡さんに言った。私達は松岡さんとくるみさんの様子を見ていた。
「……そうだな。目的だけは失わない方がいいな。でもくるみいつの間に受けてたの?」
彼は涙を流しつつも、言葉ははっきりと答えていた。
「今年に入ってから……ひとりの力でやってみようと思って……」
彼女は私と同じく自分の力で試してみたかったのだ。
中年集団と昇哉さんの力を借りるのではなく、自分の力で。
「くるみ、良かったな。おめでとう」
右手に酒を持ちながらコバさんは、ニコッと笑顔を浮かべていた。
だが、その笑顔には輝きが見えなく、目が喜んでいないように感じられた。
「くるみさん、良かったですね。私にも見せて下さい」
「いいわよ、陽和。もういい?」
「ああ、いいぞ。陽琉、見な! 雑誌にくるみがいるぞ」
松岡さんは史上最高の笑顔で私に微笑んできた。
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何これ、苦しい。
涙出そう。もうそんな笑顔しないで。
「陽琉?」
松岡さんは、ボケッとした顔で私に話しかけてきた。
瞬時に私は下を向いて俯いた。
「陽琉、どうした?」
私を心配してくれたのかくるみさんが私に話しかけてくれた。
私はくるみさんの声に我に返り、目に涙を浮かびそうになる目を抑えて顔をあげた。
「……あ、はい。大丈夫です」
「本当? 大丈夫?」
くるみさんは腕を組み、私を心配そうに見てきた。
「大丈夫です。松岡さん見せて下さい」
松岡さんに私はそう言うと、松岡さんは黙っていた。
「松岡さん?」
「陽琉、黙ってないでなんか言っていいよ。言いたいことあるんでしょ?」
え? なんで、そんなこと聞くの。
松岡さん、私にそんな優しくしないでよ。私勘違いしちゃうから。
「なんでもないですよ、松岡さん」
私は無理に笑顔を作り松岡さんに言った。
「……そうか、分かった。ほらこれ見ろよ」
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なんでそんなことするの。なんで、やめてよ、私のこと好きなの?
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「あ、え、ありがとうございます」
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「はい」
私の気持ちのことなんて知らないで、無邪気な笑顔で笑いかけてきた。
もうやめてよ、そんな笑顔をすると自分の夢考えられなくなるじゃない。
「あ、それよりコバ。昇哉さんとあれから連絡できたか?」
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でもその涙は、嬉しいから泣いているのか悲しいから泣いているのかどちらの涙なのだろう。
彼は相手のために泣いているようだが、自分の悲しさを嬉しさの涙に変えているように私は見えた。
「陽和、もうやめてよ。私もまた泣きそうだよ」
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「いや、そんなことない。少しずつカメラマンになる夢、近づいてるよ」
「ひよ―っぢ」
コバさんは松岡さんの名前を呼び、涙を流しながら彼の胸に抱きついていた。
彼は、コバさんをよしよしと子どものようにあやしていた。
くるみさんも涙を流していた。
その状況に夢を叶えるということは、難しいことなのだと痛感した。
この古本屋『松岡』が出来てから、五年。
夢を叶えるために、自分で努力して、バイトもして、どういうふうに夢を叶えられるのか考えてきたのだろう。
それなのに私は何をしているのだろうか。
就活を終えて、仕事は決まった。
好きな仕事が決まったはずなのに、なんで夢が叶った気がしないんだ。
私の叶えたい夢は、仕事をしながら小説家になることだ。
仕事をしながらでも、本当の夢が叶うのか不安になった。
「……みなさん、いいですね。私なんか夢なんて叶えたのかな」
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「陽琉、そんなことないよ。陽琉は頑張ってるよ。仕事だって決まったし」
彼は、涙を拭いながら私に言ってくれた。
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「私なりに夢は叶えました。でも、今くるみさんとコバさんを見ていたら、本当の夢は叶えられるのかなって」
くるみさんとコバさんは、動作を止めて私の方を見てきた。
「ふ―ん、夢なんてお前が考えれば考えるほど夢なんて叶わないんだよ。だから、今の現状を頑張ればいいと思うけど、俺は」
コバさんは涙を右手でふき取りながら何もなかったように携帯を弄って、私に向かって言っているように思われる。
「コバさん」
「お前なんて一生考えてればいいんだよ」
彼は、フッと鼻で笑っていた。
「はあ、コバ。珍しくいい事言ったと思ったのに。なんでそんなこと言うかな! 陽琉。私はね夢は叶うって信じることだと思うよ。だからね、私が言いたいことは……」
「陽琉は夢を叶えるために頑張ってる」
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「陽和。なんで私よりさっきに言うの!」
彼女はさっきに言ったのが気に食わなかったのか、はあ? という顔をして彼を見ていた。
「別にいいじゃん。くるみが言うのが遅いんだろ」
くるみさんに反論して彼は意地悪そうに言った。
「もう! 私さっきに帰る。コバも付いてきて」
子どものように顔を膨らませて、彼女はいじけていた。
「はあ? くるみ一人で行けよ!」
一人で帰ると思いきやコバさんを連れてどこかに行こうとしていた。
「いいでしょ! どっか行くよ」
なぜか私と松岡さんの方を見て、彼は諦めたような声で言った。
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二人がいないせいか静かに感じた。
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彼はそれを察したのか、私にさっき程話していた続きを聞いてきた。
「……あのさ、陽琉。さっきのことだけど、俺とくるみが言いたいのは夢を叶えるために陽琉は、頑張ってるってこと」
私は、彼の目を見た。私の為に分かりやすく彼なりの言葉で私に訴えていた。
「……頑張ってるって……なんですか? あの二人みたいに私もやりたい仕事につけました。でも、本当にやりたい仕事には就けていない。就職できても、嬉しいような悲しいような、分からないんです。もう私……どうしたらいいんですか」
私は声を出すこともなく、静かに涙を流していた。
人前で泣いたことなんて、人生であまりなかった。
それなのに人前で泣くのは、何年振りだろう?
昔から何も出来なくて、誰の役にも立てなくてどうしたらいいかわからなかった。
だから自分に強くありたいと、知識を身につけて男性に負けないくらいの知識をつけたと私は思う。
なのに、今の自分じゃ夢なんて叶えているのだろうか。
不安で、不安で仕方ない。
その不安が分かっているかのように、松岡さんは何故本当の自分を引っ張り出してくれるのだろうか。
「陽琉。無理に頑張らなくていいの。自分なりの答えを探せば……」
「自分のごだえ?」
私は泣きながら、彼に話しかけた。
「そう。自分の答え。自分が今やるべきことは何か。やらなくてはならないこと誰にしもあるはずでしょ」
ニコリと彼は私に笑いかけて、私の頭を撫でた。
その言葉が欲しかったんだ、私。
無理に頑張らなくていい。
その言葉だけで、心が掃除された気分になった。
「……やらなくてはならないこと……ですか。自分が今やるべきこと。そうですね。なんでもう松岡さんにはこう話しちゃうんですかね」
私は涙を拭ってから上目遣いで松岡さんを見た。
私の頭を撫でていた彼の手が急に止まった。
「……はあ、その顔をやめてよ。俺が苦しくなるから」
「え? どういうことですか?」
彼は、両手で顔を隠していた。
私はなんのことかさっぱりわからないので、はてなマークが頭の中を遡っていた。
「……なんでもないよ。それよりも陽琉の気持ちは決まった?」
ゴホンと咳払いをして、彼は私の気持ちを見透かしているように言ってきた。
「はい、決まりました。なんかお騒がせして申し訳ありません!」
「いいんだよ、人間はみんな助けあいながら生きているんだからね」
そう言ってから、彼は私に最高の笑顔で笑いかけてきた。
彼の笑顔は最高であったが、なにか違和感を感じた。
彼らしさがなかった。
彼が笑いかけたら、松岡さん―と呼ぶ声が外から聞こえた。
ネコカフェを工事している人が呼んでいた。
大きい声で彼は、は―いと言ってから、私にゆっくり休んでてと一言放ってから、靴を履き行ってしまった。
カバンから鏡を出して、自分の顔を見た。
その顔は腫れていて、泣いたとわかるほどの腫れ具合であった。
それぞれの夢は、自分のペースで進むもの。
だから、焦らなくて大丈夫。
松岡さん、コバさん、くるみさんはそのことを言いたかったのだ。
夢はまだまだ未知数で信じられないけど、私は私なりの道を歩むとこの日誓った。
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