神龍殺しの転生者。、生贄の少女のために龍を殺したら勝手に救世主にされた件〜地位も名誉もハーレムもいらないんだが〜

ウサギ様

文字の大きさ
9 / 42
神龍殺しは少女のために

神龍殺しは少女のために⑨

しおりを挟む

 ◇◆◇◆◇◆◇

 この世に奇跡なんてない。
 あらゆるものには理由があって、結果がある。
 奇跡に見えるものは全て人間には見えないだけで理由がある。

 だから、これは……どうしようもない、運命なのだ。

 龍は弱っていた。長い生の中、かつてないほどに飢えて苦しんでいた。他の龍を屈服させたときよりも遥かに長い戦闘。……弱いのに何故か死なない不死の猿が無限に襲いかかってくるのだ。執拗に目を狙い、飛膜を狙い、鱗の隙間を狙ってくる。
 逃げようとしても食らいついてきて、遂には片目と翼が使い物にならなくなった。

 猿を殺すために吐いた火炎により森は焼けて他の獲物も逃げていった。空気は熱く、肺から水分を奪っていくのを早めた。

 喉が乾く、腹が空く。既に死は目の前に迫っており、半日間暴れ続けたせいで火炎を吐く余裕すらもなくなっていた。
 全身は己の炎で焼けただれ、赤く染まり出した空の色が爛れた皮膚に染みる。

 だが、もはや二度と戻らない翼や目すらもどうでもいい。ただ、この飢えを、乾きを満たしたい。

 猿が音を奏でており、そこに向かうと多くの猿がいた。龍が食うのはどの猿でも良かった。極度の餓えで思考が巡らない龍は怯えて逃げていく猿の群れを見る。

「カバネさん!! カバネさん!! カバネさん!! 逃げて!! 逃げてください!!」

 だから……大声を出していて目立つニエに視線がいくのは当然のことだった。

「ああああ!!!! ニエッッッ!!!!」

 死なない猿が龍を追って駆けながら吠えるが、龍はそれを今更食えるとは思っていない。無視をして当然だ。
 少女は叫ぶ。

「逃げてくださいっ! 私なんて、どうでもいいですからっ! カバネさんだけは! カバネさんだけは……っ!」

 今、この場で彼が逃げたら、ニエの次は他の村人が殺され食われるだろう。けれど少女の頭にはそんな考えは抜け落ちていた。
 ただひたすらに、男の無事だけを願っていた。

 男はそんな少女の叫びを聞いても、一切足の踏み込みを緩めることはせずに、むしろ先程までよりもよほど力強く地面を蹴った。

「ニエ! ニエ! 待ってろ、今……!」

 助けてやる。その言葉を吐こうとした瞬間。脚がガクリと曲がる。
 幾ら思いが強かろうが、当然そこには限界があった。

 救えないのか。恩を返せないのか。男は全力で吠えるが、それでも龍が振り返ることはない。
 地面に倒れていく身体。上に縛り付けられているニエへと必死に手を伸ばし、そのまま地面に倒れる。

「……ニエを、俺は、俺は!!

 ──俺は、何をしているんだろうか。なんで命がけで勝てるはずもない奴に立ち向かったのか。ニエが好きだから、勿論そうだ。勿論そうだが……それなら、攫ってしまった方がよほど手っ取り早く確実だったではないか。

 男は地面に倒れた身体を腕の力で前へと進めながら、「ああ……」と納得する。
 好かれたかったのだろう。好かれたかったから、攫っていくという嫌われる手段を取ることが出来なかった。

「は、はは」

 ──やっと自分の行動の理由が分かった。寂しかったから、見捨てられたくなかったのだ。間抜けな理由だ。たったひとり、知らない世界にいることが怖くて……ニエに縋っていたのだ。

「違うだろ。違うだろ! 俺が、すべきことは……!」

 助けることだろうが、なりふり構わずに。

 男は動かない脚を地面に叩きつけるようにして、腕で地面を押して、その場から跳ねた。

 儀式のために高い位置に縛り付けられたニエを食おうとした龍は、最後に残ったなけなしの魔力で飛ぼうとしたが、龍は極度の餓えにより判断能力が低下し失念していた翼がもう使い物にならないことを忘れていた。

 龍の風と言えども、翼がなければ龍の体を浮かすだけの力はない。

「ッッッ!! ウォオオオオオ!!」

 だから、その発生させた風の魔法が浮かしたのは、翼が潰れた龍の体ではなく、男の身体だった。

 風に乗って高く飛んだ男と縛りつけられた少女の目が合う。

「カバネさん……カバネさん、私は、私はあなたに死んでほしく、ないんです!」
「……無理をさせたな。もう、大丈夫だ」

 龍の身体よりも高くに飛んだ男は、遥か上空から落下しながら龍の頭に短刀を突き下ろす。

 それは短刀を持つ彼すらも理解していないことだった。固い龍の鱗は魔力による強化で成るものであり……本来は、空を飛ぶために軽量化されていて非常に薄く脆いものであることを。

「お前は、龍は……人より強く賢く気高く美しい。そう聞いた」

 鱗の下にあるのは薄い肉と鳥と同じような軽量の骨。それでも易々とは貫けるはずもないが、男は遥か高くから落ちて、着地すらも考えずに短刀を突き下ろしていた。

「だから、お前は……あの子のために死ね」

 龍が堕ちた。短刀は根元まで深く龍の眉間に突き刺さり、鱗を貫き、皮を貫き、肉を貫き、骨を貫き、その切っ先が龍の命に届いた。

 墜ちる巨体。大地が揺れて、けれどあまりにも静かだった。

 神と同等の力を持つ生き物。人類では勝ち目のない正真正銘の化け物が……地に伏していた。

 そこに感動や喜びはなく、ただ誰もがありえない光景を茫然と眺めていた。

 そんな中、一人の男が立ち上がる。龍の血を浴び、全身がボロボロになって今にも死にそうな男が、龍にも、村人にも、あるいは静かすぎる世界にすら興味がないように、ただ一人の少女を見つめる。

 もう一度、愛を告げるため、男は龍を殺した。
 男は龍の上に立ったまま、静まり返った村人達に告げる。

「……俺は龍よりも強い! 俺がこの村の災厄だ! だから、贄はもらっていく!」

 繰り返す。

「ニエはもらっていく。誰であろうと、龍であろうと、渡さない!」

 それだけ言って、男はその場に倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

処理中です...