神龍殺しの転生者。、生贄の少女のために龍を殺したら勝手に救世主にされた件〜地位も名誉もハーレムもいらないんだが〜

ウサギ様

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誰かの祈りに応えるものよ

誰かの祈りに応えるものよ⑧

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 状況は非常に悪い。単純な生き物としての強さの違いが大きい。
 短刀を地面に擦らせて発火させるが、既にその火の威力ではマトモなダメージにはならないと判断したのか、怪鳥が攻め手を緩めることはない。

 攻撃手段や怯ませる手段にはなり得ないが、発火は目眩し程度にはなる。

 懐に飛び込みつつ乱雑に短刀を振るい、火で自分の体を隠して横に跳ねる。一瞬だけ見つからずにいられるが、すぐに居場所がバレてしまう。

 フッ、と息を吐き出して地面にある石を短刀の先で弾き飛ばし、火を纏った石が鳥に触れるが、やはり怯みさえしない。

「……傭兵、まだか!」

 俺の声と同時に傭兵の剣が俺の前の地面に突き刺さる。
 火を振りまいていた熱気が急激に収まり、ビキ、という音が聞こえる。

 氷の壁が幾重にも怪鳥の周りに張り巡らされ、中央にいる怪鳥を封じ込めるが……すぐに突破されるだろう。

「ッッッ!! 逃げるぞ!!!!」

 傭兵と同時にその場から走って逃げて、ニエとミルナの元に辿り着き、走る勢いのままニエを抱えて街中を疾走する。
 追いかけてくるものだと思っていたが、意外にも怪鳥はこちらにくることはなく、石像を掴んでから地面を蹴って飛んでいく。

「……行ったか」

 俺はニエと一緒にへなへなと倒れ込み、深くため息を吐く。
 安心をしたいがためにニエの手を何度も握りしめて、軽く抱き寄せる。

「む、無理しないでください……」
「……ニエの方が無理してるだろ。ミルナを運んだり、石を投げたのもお前だろ。……まぁ、お陰で助かったけど、もうするなよ」
「ん、んぅ……でも、生贄として……」

 生贄は関係ないだろ。グッタリと体を弛緩させながら、ニエの体温と匂いを感じることで精神を落ち着かせる。

「あー、傭兵とミルナは大丈夫か?」
「怪我はない……が」

 傭兵はミルナの方に目を向けて、ミルナは青い顔をしながら石像のあった広場を見つめていた。

「え、英雄像が……そんな……ど、どうしよう、これだと……私……」
「ミルナ?」

 俺が声をかけようとすると、傭兵が俺の肩を掴んで止める。

「あー、ちょっと訳があってな。あんまり深入りされると……」
「いや、そういうわけにもいかないだろ。様子がおかしいぞ」

 ニエは心配そうにミルナを見ていて、到底無視してそのまま別れるということは出来そうにない。それに、ミルナの金が入ってる袋は目眩しのために燃やしてしまったしな。

 ……四人分、生活出来るような金はあるだろうか。

「……他言はするなよ? ……宿を二部屋取っているから、そこで話そう。とりあえず、衛兵に捕まる前にさっさと移動するか」

 俺とニエは頷き、四人で傭兵が取っている部屋に移動する。

 ◇◆◇◆◇◆◇

 傭兵はミルナをベッドに座らせて、自分も隣に座る。
 俺とニエが椅子に腰掛けると自然と傭兵とミルナ、俺とニエという風に分かれて向き合うような状況になる。

「……大丈夫か?」
「ごめん、取り乱した」
「……いや、あんなことがあったらな。それで……石像がそこまで重要なのか?」
「あー、それは俺から説明する。……本当に他言はするなよ?」

 傭兵は酔いを覚ますためか、水を飲んでからゆっくりと口を開く。
 俺とニエは真剣な空気にゴクリと喉を鳴らす。

「……お嬢、ミルナの本名は……ミルルーナ・ツユ・レインヴェルトだ」

 そこで傭兵の声が止まり、俺達の表情を探るようにジッとこちらを見つめる。
 ……いや、分からん。全然分からない。ニエに目を向けると、ニエも分からないらしく頭にはてなマークを浮かべてこちらを見ていた。

「お前らが驚くのも仕方ない。これには訳があってな」
「……いや、全然分からないから説明をしてくれ」
「……だから、レインヴェルト家なんだ」
「……ええっと……名家なのか?」

 傭兵が「お前正気か?」という視線をこちらに向ける。

「す、すみません。私達は田舎者なもので……お偉い様のことはあまり分からないです」
「だとしても限度が……」

 呆れる傭兵の言葉を遮るように、沈んだままのミルナが口を開く。

「……王家の名前よ。レインヴェルトは。それで、本来なら王家にミルルーナという名前の人物はいないの」
「はぁ、なるほど」
「……驚かないのね」
「まぁ……多少は驚いてはいるが、なぁ?」
「そうですね。実感は湧かないです」

 知らない国の知らない王女のお家騒動なんてかなりどうでもいい。荷物燃やしたけど大丈夫だろうか、といった心配ぐらいのものだ。
 傭兵はあまりに反応の薄い俺たちを見て怪訝そうに首を傾げる。

「不敬だと処罰されるとか思わないのか?」
「いや、その王女に荷物持たせて酒飲んでた奴が言うなよ」
「……まぁ、それもそうだな。別に今更態度を改めろとは言わねえよ」
「傭兵、あんたは態度を改めなさいよ」

 傭兵の態度は別としても、護衛が一人だけでこんな安宿に泊まっているのだから、王家だというのが真実だったとしてもかなり立場は悪いものなのだろう。
 それこそ、平民と変わらない程度には。

「まぁ、何にせよ混乱されるのよりかはいい。何も知らなさそうだから経緯から話すが、十数年前に西の民族がこの国に取り込まれたんだが、そこの族長の娘が国王との子を設けてな、その子がミルナなんだが……」

 傭兵の言葉をミルナが引き継ぐ。

「母が私を産む前に、母の民族が反抗をし始めたことで母の立場が悪くなって、表向きには婚姻はないことになった。けど、王にも多少の情があったのか、あるいは何かしらの情報が漏洩するのを恐れたのか、その後も母は王宮で生活をすることになったの。だから私は王の血を引くけれど、扱いとしてはこんなものよ」

 かなり簡潔にまとめてくれているが、ニエには難しかったのか助けを求めるように俺の方を見る。

「……それで、なんでこの街に」
「言った通りだ。英雄呼びの儀式のために来た。この国の初代国王は召喚された英雄で、妃がそれを呼び出した巫女だった」
「……つまり、王家の血を引くミルナにも召喚が出来る可能性がある。……いや、違うな、召喚が出来たら王家の血を証明出来る、か」
「ああ、ミルナの母の民族は一部の人間の反抗のせいで大きく立場を悪くしたからな。王家と認められさえすれば、それ以上の立場の悪化は防げるし多少は状況も好転する」

 俺はガリガリと頭を掻いて、ミルナを見る。ただのフリフリのドレスをきたツインテールの少女にしか見えないが……まぁ同じ人間なのだから、見た目で王家とか分かるはずもないか。
 可愛さならニエの方が勝っているしな。

「……分の悪い賭けだな。まぁ気持ちは分からなくはないが、少しばかり考えが浅い」
「ッ……何よ」
「初代妃が呼び出せたってだけだろう。それからの王家は召喚を試さなかったわけじゃないんなら、王家だから召喚出来るって話でもないだろ」
「……でも、出来るかもしれないじゃない」
「試してみるって考えは否定しない。やれることをやればいい……が、どうせダメ元だったんだから、石像を持っていかれても「仕方ない」で諦めたらいいだろ」

 それで「仕方ない」で諦められないほど追い詰められているのならば、英雄が召喚出来ても大それたことは出来ないだろう。

「……でも、他に方法なんてないもの」

 泣きそうになりながらミルナは言い、傭兵は困ったように話す。

「まぁお嬢、何の手掛かりもなしに個人で見つけることなんて出来ないし、国宝でもある石像が盗まれたとなったら国も兵を出して探すだろうから待つのが一番いい」

 傭兵はミルナをそう説得しようとするが、ミルナはよほど追い詰められているのか、待つという選択は到底出来ないように見えた。
 一人でも探しに行く、とでも言わんばかりの雰囲気に……俺は仕方なく口を開く。

「……あるぞ、手掛かりなら」
「……えっ」

 ミルナは驚いたように、あるいは縋るように俺の顔を見つめた。
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