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その偽りを愛と呼ぼう
その偽りを愛と呼ぼう⑬
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「そしてもう一人、本戦出場者がいる。そうだな」
「……ふん」
俺がそう鼻を鳴らすと、ニエとシロマが注文したらしい大量のデザートがやってくる。……少し空気を読んでほしい。
今真面目そうな話をしているのに甘味でわーきゃーと盛り上がらないでほしい。
「ほらカバネさん、美味しそうです。えへへ」
「……そうだな。今日はいいけど、甘いものばかりじゃなくてちゃんとした食事も取れよ?」
俺達が注文したものが来たからか、訳知り顔の男は気を使って去っていった。
何か話しかけてくる理由があったわけじゃなくて、ただの親切なおっさんだったのか……。
周りの筋肉率が凄く高いのに、ここの机だけ甘い菓子がたくさん置かれてファンシーな雰囲気になっているせいでものすごく浮いている。
微妙な居心地の悪さを感じるが、ニエが喜んでいるので良しと思おう。
ミルナと傭兵は大丈夫だろうか。そう思っていると、店内がざわつき始める。
どうやら衝撃的なニュースが出たらしい。その内容は、当然のように……昨日傭兵から聞いた、王都での出来事だ。
「ッ!」
思わず立ち上がる。思っていたよりも遥かに早い。
「か、カバネさん、どうしたんですか」
「ニエ、急いで戻るぞ」
「えっ、あの、どうしたんですか?」
「説明は後でする。ミルナを引き止める」
「ミルナさん? 王都……あっ……」
ニエは気がついたらしく、食べる手を止めて立ち上がった。シロマも名残惜しそうに立ち上がる。
まだ少し残っていて勿体ないが、それどころではないだろう。
ミルナが領主の屋敷にいるとは限らないが、荷物を置いているから会えるはずだ。
ニエを置いて行かない程度の早足で歩いていると、道の真ん中で立ち尽くすミルナと、少し離れたところに立っている傭兵の姿が見えた。
「ミルナ!」
「カバ……ネ……。あ……私、どうしよう……どうしたら……」
ミルナはフラフラと俺の方に歩き、俺は覚束ない足取りの彼女を抱き留める。
「大丈夫だ。大丈夫。落ち着け」
思っていたよりも弱々しい反応。隠していた罪悪感が湧くが……俺のやるべきことは、これからおうとにを向かおうとするだろうミルナを引き留めることだ。
「い、行かないと……助けに……」
「落ち着け。一度、戻って状況を整理しよう」
自分の心配する声がひどく空々しい。
心配するフリをしながら泣きかけているミルナの手を押さえて、一人で走って行かないようにする。その狡猾さに嫌気が差すが、それでもこの子を守るためだと自分に言い聞かせる。
「……カバネ、わたし、助けに行かないと……」
「助けに行くにも、一人で行っても何も出来ないだろ。一度落ち着け、みんなでどうしたらいいか考えよう。ミルナは一人じゃないんだ」
「カバネ……カバネぇー!」
泣いて俺に抱き付くミルナを抱き返しつつ、恨みの籠もった目を傭兵に向ける。
上手くやれたというのがひどく心をささくれ立たせる。少女を上手く騙せたなんて、恥でしかない。
ミルナを支えながらゆっくりと戻る。支えている身体はとても軽く、風が吹けば飛んでいってしまいそうなほどだ。
「ミルナさん……」
ニエの心配そうな声が聞こえる。王都が落とされたという唐突で大きなニュースは、闘技大会で集まっていた多くの人が話をしているせいで、歩いているだけでたくさんの情報が耳に入ってきてしまう。
「大丈夫だ。きっと、ミルナの家族は無事だ」
「……うん」
嘘を吐いた。こんなにも残酷な嘘があるのだろうか。
「ミルナが無理をして死んだら、家族が悲しむことになるだろ」
無茶苦茶なことを言う。最悪だ。半ば脅しのような言葉を優しげに言い放つなど、下衆にも程があるだろう。
自己嫌悪をしながら歩いてゆっくりと屋敷に戻った。
俺とニエが寝泊まりしている部屋に入り、窓の近くに傭兵が座ったのを見て、俺は扉の近くに椅子を置いて座る。
「ミルナ、傭兵。……俺達はさっき飲食店で話を聞いただけなんだ。……ただの噂という可能性はないか?」
「……まぁ、それも十分に考えられるな。全て事実だと真に受けるべきじゃない。衝撃的な話がデタラメだったなんて、よくある話だ」
「まぁ、だからと言ってデタラメと切り捨てるわけにはいかないだろ」
予めある程度の落とし所が決まっている八百長議論をする。
傭兵と目配せをして、話の方向性を決めていく。
……この街は情報の通りが良すぎるから、とりあえずは別の田舎街に移動するのがいいだろう。
「攻めて来ている国とかは分かるのか?」
「いや、分からない。情勢として攻めてくる可能性のある国ならあるが……」
「シロマ、詳細な地図を持っていたら貸してくれないか?」
「えっ、あっ、うん。古いのでもいいか?」
「……可能な限り新しいのにしてくれ」
数百年前のとかを出されても困る。
シロマは状況を理解していないだろうが、尋常ではないことは分かったらしく、急いでパタパタと走っていく。
事情を知らないニエが本気で心配そうにミルナの方を見る。
「……ミルナさん、その……私も、何かお手伝い出来ることがあれば」
「……ありがと、ニエ」
ニエのおかげで俺と傭兵から意識が逸れている。その間に軽い目配せをし直す。
シロマが戻って来て、持ってきた地図を見る。
「……関係が不安定、敵対的だった国はこことここと……あとここもだな」
「……現状、どの国の仕業かは分からないか」
「ああ」
「そうなると海路と海沿いは危険だな。占領されたところにノコノコと行くことになりかねない。……どこから王都に向かうにも危なそうに見えるが」
「いや、この山を軍隊が帰ることは出来ないから、ここから王都に向かうのは危険が少ないだろう」
「多少は遠回りになるが……。急がば回れと言うか」
本当は王都が少人数で占領されたらしいので道中に危険はないだろうが……時間をかけて向かった方が、ほとぼりが冷めて安全になる。
「カバネも……一緒に来てくれるの?」
「……まぁ、こうなるとな。乗り掛かった船だ仕方ない」
「ありがとう……カバネ」
礼を言われるのは心苦しい。
俺がミルナを慰めようとしたとき、シロマが俺の服を摘んだ。
「……あ、カバネ……明日は……」
シロマは寂しそうにそう言ったあと、ハッと我に返ったように首を横に振る。
「い、いや、何でもない。何でもないんだ。ああ、すぐに出発するんだったら、荷物とか馬車とか手配するからな!」
明日? ……あっ……と、思い出す。約束をした、また同じ店に行くと……。
しかし、そんな呑気なことをしている場合ではない。だが、寂しそうにしていたシロマを放って行くのも薄情も過ぎる。
「シロマ……その……」
「いや、いいんだ。別にそんな、あんな雑談の中の言葉をそう大事にするようなもんでもない。それより、よく分からないが仲間が大変な状況なんだろう」
見た目に反した大人びた反応。200歳を超えた人としては子供っぽさが残っているようにも思えるそれは、子供が無理をしているようで痛々しい。
傭兵に目を向けると、彼も困ったような反応をする。
シロマとの約束を放棄するしかないのか、という考えの中、ニエがシロマの手を握る。
「約束は果たせません。ですから、その代わりに、一緒に行きませんか?」
いや……それは無理だろ。シロマは子供のように見えるが、一応は研究者で領主の相談役だぞ。
そんなの無理に決まっている。そう考えていたら、シロマは俺の服を引く。
「……一緒に行ってもいいの?」
「いや……」
無理だろ。その言葉を言うに言えず、目を逸らしながら誤魔化すような言葉を話す。
「……相談役の仕事が問題ないならな」
「それなら大丈夫だ。先代とは違って優秀だしな。それに、王都の状況を見てくるのも重要な仕事だ」
シロマは「坊ちゃんに伝えてくる」と外に出て行く。
俺は思わずニエを見る。ニエは役に立った、とばかりに俺を見返す。
……いや、まぁ、シロマは色々と博学そうだし、領主の相談役になれるような奴だから頼りにはなるが…….。
素直な子供って強いな。と、感心してしまう。
「……傭兵、大丈夫か?」
「まぁ、幼いとは言えどエルフがいると心強くはある。もしもの時、エルフは魔法の専門家だからな」
……あれで? と、昨夜の湯当たりをして倒れたシロマを思い出す。
「……ミルナも、王女であることを話すことになるが構わないか?」
「うん。大丈夫。……ありがとう、カバネ」
「……礼はいい」
礼をされると心苦しい。
シロマが戻ってきて、テキパキと旅の準備をし始める。
「……行くか」
「はい。行きましょう」
かなり急な旅にはなるが、ニエと二人で歩いていたときとは比べものにならないメンバーだ。ただ時間稼ぎをして移動する旅としては充分な余裕があるだろう。
罪悪感と使命感を持って、再び旅が始まった。
「……ふん」
俺がそう鼻を鳴らすと、ニエとシロマが注文したらしい大量のデザートがやってくる。……少し空気を読んでほしい。
今真面目そうな話をしているのに甘味でわーきゃーと盛り上がらないでほしい。
「ほらカバネさん、美味しそうです。えへへ」
「……そうだな。今日はいいけど、甘いものばかりじゃなくてちゃんとした食事も取れよ?」
俺達が注文したものが来たからか、訳知り顔の男は気を使って去っていった。
何か話しかけてくる理由があったわけじゃなくて、ただの親切なおっさんだったのか……。
周りの筋肉率が凄く高いのに、ここの机だけ甘い菓子がたくさん置かれてファンシーな雰囲気になっているせいでものすごく浮いている。
微妙な居心地の悪さを感じるが、ニエが喜んでいるので良しと思おう。
ミルナと傭兵は大丈夫だろうか。そう思っていると、店内がざわつき始める。
どうやら衝撃的なニュースが出たらしい。その内容は、当然のように……昨日傭兵から聞いた、王都での出来事だ。
「ッ!」
思わず立ち上がる。思っていたよりも遥かに早い。
「か、カバネさん、どうしたんですか」
「ニエ、急いで戻るぞ」
「えっ、あの、どうしたんですか?」
「説明は後でする。ミルナを引き止める」
「ミルナさん? 王都……あっ……」
ニエは気がついたらしく、食べる手を止めて立ち上がった。シロマも名残惜しそうに立ち上がる。
まだ少し残っていて勿体ないが、それどころではないだろう。
ミルナが領主の屋敷にいるとは限らないが、荷物を置いているから会えるはずだ。
ニエを置いて行かない程度の早足で歩いていると、道の真ん中で立ち尽くすミルナと、少し離れたところに立っている傭兵の姿が見えた。
「ミルナ!」
「カバ……ネ……。あ……私、どうしよう……どうしたら……」
ミルナはフラフラと俺の方に歩き、俺は覚束ない足取りの彼女を抱き留める。
「大丈夫だ。大丈夫。落ち着け」
思っていたよりも弱々しい反応。隠していた罪悪感が湧くが……俺のやるべきことは、これからおうとにを向かおうとするだろうミルナを引き留めることだ。
「い、行かないと……助けに……」
「落ち着け。一度、戻って状況を整理しよう」
自分の心配する声がひどく空々しい。
心配するフリをしながら泣きかけているミルナの手を押さえて、一人で走って行かないようにする。その狡猾さに嫌気が差すが、それでもこの子を守るためだと自分に言い聞かせる。
「……カバネ、わたし、助けに行かないと……」
「助けに行くにも、一人で行っても何も出来ないだろ。一度落ち着け、みんなでどうしたらいいか考えよう。ミルナは一人じゃないんだ」
「カバネ……カバネぇー!」
泣いて俺に抱き付くミルナを抱き返しつつ、恨みの籠もった目を傭兵に向ける。
上手くやれたというのがひどく心をささくれ立たせる。少女を上手く騙せたなんて、恥でしかない。
ミルナを支えながらゆっくりと戻る。支えている身体はとても軽く、風が吹けば飛んでいってしまいそうなほどだ。
「ミルナさん……」
ニエの心配そうな声が聞こえる。王都が落とされたという唐突で大きなニュースは、闘技大会で集まっていた多くの人が話をしているせいで、歩いているだけでたくさんの情報が耳に入ってきてしまう。
「大丈夫だ。きっと、ミルナの家族は無事だ」
「……うん」
嘘を吐いた。こんなにも残酷な嘘があるのだろうか。
「ミルナが無理をして死んだら、家族が悲しむことになるだろ」
無茶苦茶なことを言う。最悪だ。半ば脅しのような言葉を優しげに言い放つなど、下衆にも程があるだろう。
自己嫌悪をしながら歩いてゆっくりと屋敷に戻った。
俺とニエが寝泊まりしている部屋に入り、窓の近くに傭兵が座ったのを見て、俺は扉の近くに椅子を置いて座る。
「ミルナ、傭兵。……俺達はさっき飲食店で話を聞いただけなんだ。……ただの噂という可能性はないか?」
「……まぁ、それも十分に考えられるな。全て事実だと真に受けるべきじゃない。衝撃的な話がデタラメだったなんて、よくある話だ」
「まぁ、だからと言ってデタラメと切り捨てるわけにはいかないだろ」
予めある程度の落とし所が決まっている八百長議論をする。
傭兵と目配せをして、話の方向性を決めていく。
……この街は情報の通りが良すぎるから、とりあえずは別の田舎街に移動するのがいいだろう。
「攻めて来ている国とかは分かるのか?」
「いや、分からない。情勢として攻めてくる可能性のある国ならあるが……」
「シロマ、詳細な地図を持っていたら貸してくれないか?」
「えっ、あっ、うん。古いのでもいいか?」
「……可能な限り新しいのにしてくれ」
数百年前のとかを出されても困る。
シロマは状況を理解していないだろうが、尋常ではないことは分かったらしく、急いでパタパタと走っていく。
事情を知らないニエが本気で心配そうにミルナの方を見る。
「……ミルナさん、その……私も、何かお手伝い出来ることがあれば」
「……ありがと、ニエ」
ニエのおかげで俺と傭兵から意識が逸れている。その間に軽い目配せをし直す。
シロマが戻って来て、持ってきた地図を見る。
「……関係が不安定、敵対的だった国はこことここと……あとここもだな」
「……現状、どの国の仕業かは分からないか」
「ああ」
「そうなると海路と海沿いは危険だな。占領されたところにノコノコと行くことになりかねない。……どこから王都に向かうにも危なそうに見えるが」
「いや、この山を軍隊が帰ることは出来ないから、ここから王都に向かうのは危険が少ないだろう」
「多少は遠回りになるが……。急がば回れと言うか」
本当は王都が少人数で占領されたらしいので道中に危険はないだろうが……時間をかけて向かった方が、ほとぼりが冷めて安全になる。
「カバネも……一緒に来てくれるの?」
「……まぁ、こうなるとな。乗り掛かった船だ仕方ない」
「ありがとう……カバネ」
礼を言われるのは心苦しい。
俺がミルナを慰めようとしたとき、シロマが俺の服を摘んだ。
「……あ、カバネ……明日は……」
シロマは寂しそうにそう言ったあと、ハッと我に返ったように首を横に振る。
「い、いや、何でもない。何でもないんだ。ああ、すぐに出発するんだったら、荷物とか馬車とか手配するからな!」
明日? ……あっ……と、思い出す。約束をした、また同じ店に行くと……。
しかし、そんな呑気なことをしている場合ではない。だが、寂しそうにしていたシロマを放って行くのも薄情も過ぎる。
「シロマ……その……」
「いや、いいんだ。別にそんな、あんな雑談の中の言葉をそう大事にするようなもんでもない。それより、よく分からないが仲間が大変な状況なんだろう」
見た目に反した大人びた反応。200歳を超えた人としては子供っぽさが残っているようにも思えるそれは、子供が無理をしているようで痛々しい。
傭兵に目を向けると、彼も困ったような反応をする。
シロマとの約束を放棄するしかないのか、という考えの中、ニエがシロマの手を握る。
「約束は果たせません。ですから、その代わりに、一緒に行きませんか?」
いや……それは無理だろ。シロマは子供のように見えるが、一応は研究者で領主の相談役だぞ。
そんなの無理に決まっている。そう考えていたら、シロマは俺の服を引く。
「……一緒に行ってもいいの?」
「いや……」
無理だろ。その言葉を言うに言えず、目を逸らしながら誤魔化すような言葉を話す。
「……相談役の仕事が問題ないならな」
「それなら大丈夫だ。先代とは違って優秀だしな。それに、王都の状況を見てくるのも重要な仕事だ」
シロマは「坊ちゃんに伝えてくる」と外に出て行く。
俺は思わずニエを見る。ニエは役に立った、とばかりに俺を見返す。
……いや、まぁ、シロマは色々と博学そうだし、領主の相談役になれるような奴だから頼りにはなるが…….。
素直な子供って強いな。と、感心してしまう。
「……傭兵、大丈夫か?」
「まぁ、幼いとは言えどエルフがいると心強くはある。もしもの時、エルフは魔法の専門家だからな」
……あれで? と、昨夜の湯当たりをして倒れたシロマを思い出す。
「……ミルナも、王女であることを話すことになるが構わないか?」
「うん。大丈夫。……ありがとう、カバネ」
「……礼はいい」
礼をされると心苦しい。
シロマが戻ってきて、テキパキと旅の準備をし始める。
「……行くか」
「はい。行きましょう」
かなり急な旅にはなるが、ニエと二人で歩いていたときとは比べものにならないメンバーだ。ただ時間稼ぎをして移動する旅としては充分な余裕があるだろう。
罪悪感と使命感を持って、再び旅が始まった。
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