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第二章

第4話:幼馴染とストリップショー

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「……」
「……ひ、久しぶりッス」
「……ああ」

 水着姿で踊っている女性を見ながら、低い男の声を聞く。
 流石の俺もびっくりである。 目立つやつだからいつかは会うと思っていたが、まさかこんなにすぐに会うとは思っていなかった。

 リロが片方だけの翼を広げて威嚇している。

「……ヨク、お前、王都に来て間もないはずなのに、こんなところにきて……」
「お前もだろ」
「世界最強になるのはどうしたんスか。 世界最強におっぱいは必要ないと思うッスけど」
「世界最強におっぱいは必要だろう」
「……マジッスか」
「もし、戦闘中に相手がおっぱいを出してきたらどうする。 見惚れているうちに斬られるだろう」
「たしかに」
「これは一つの修行なんだ」
「そっすね」

 剣士三人揃ってるわけだし、実際にそれが正しい気がしてきた。

「……王都に来て思ったが、ヒトタチの信徒が多いな」
「あー、そうッスね。 確かに街を歩いていてもそれっぽい人が多いッス。 ここの客にも結構いるっぽいッスしね」
「……戦闘に従事するものが多いところほど、ヒトタチの信徒が多くなる。 私はサナミ=ヒトタチだ」
「俺はヨクだ。 来週の頭には世界最強になってる男だ」

 すげえ。

 ヒトタチという家名を無視出来るのもすごいし、一切水着の女の子から目を逸らさないのもすごい。
 やはり、こいつこそが俺の真のライバル……!

「あっ、ヨクに手伝ってほしいことがあるんスけど」
「断る」
「俺、今王女様の護衛やってるんスよね」
「何でも言ってみろブラザー」
「というか、ある程度用が済んだらその座を退くつもりなんスよね」
「愛してるぞブラザー」
「じゃあ協力するッスね」
「おうともさ」

 おそらくニートの剣士を手中に収めた。

「邪神の教団がいるみたいで、王女様とか聖女様が狙われてるみたいなんスよね。 もしかしたら別の人もかもしれないッスけど」
「……邪神って、また穏やかな話じゃないな。 レイヴ」
「んで、邪神信仰って結構な人数がいるッスし、他の能力使ってないみたいなんスよね」
「……邪神信仰の利点は、複数の信仰が出来ることだろ?」
「わざわざ能力を隠してるってことは、どっかの信徒のみって感じだと思うんスよ。 全員火の能力使ったら、火の神シンクの信徒がやらかしてるって丸分かりッスからね」
「……なるほどな。 最近、刃の道場で暴れまわってるが、それらしいのは見たことないが」
「まぁ、見つけたら報告よろ」
「分かった。 俺は毎週この日、この時間にはここにくるつもりだから、用があればここに来ればいい」
「分かったッス」

 協力をスムーズに取り付ける。 持つべき物はライバルということか。

「……待ち合わせをこんなところにするのって頭大丈夫なのか?」
「失礼ッスね。 可愛いんで許すッスけど」
「こんなところとはなんだ。 剣の修行場だぞ」
「そうッスそうッス」
「嘘をつけ。 というか、私には頼まないのか?」

 会ったばかりで信用出来ない。 と、思っても言えるはずもない。

「んー、俺よりも遥かに弱いッスからね。 可愛い女の子の言うことは聞いてあげたいッスけど。 怪我させるのも本意じゃないッスから」
「……私はこの男よりも劣っていると?」
「考え方によるッスけどね。 刃の信徒同士で一対一で戦うなら相当強い方だとは思うッスけど。 例えば火の神シンクの信徒に囲まれて、火を放たれたらどうするッス?」
「正面の奴に突っ込んで斬り殺す」
「んで、そのあと二、三人斬って、力尽きて死ぬつもりッス? 強くても生き残れないようなのは、いらねっッスよ」

 潰し合いなんてつまらない真似をする意味はない。 人を守るために人を失うのなんて馬鹿げており、欲しいのは可能か限り死傷しないうえに優秀で強い奴だ。

 牙炎の型と撃矢に習熟したヨクは強いかどうかは別として、非常に死ににくい。
 俺のように超強いわけではないが、そこらへんで死ぬということはないと確信出来る。

「とりあえず、撃矢の型から鍛えなおした方がいいッスよ。 なんなら、手取り足取り教えてあげるッスけど。 げへへ」

 エロい水着のお姉さんを見ながら、サナミに言った。
 返事はなく、立ち上がった音が聞こえてそちらを向けば、悔しそうな表情を隠そうともせずに俺を睨んでいた。

「……帰らせてもう。 修練を積まなければならない」
「うぃっす、また時間がある時にでも寄るッスよ」
「……ああ」

 去っていく背中を見ていると、踊っているお姉さんから目を離しもしないヨクが小さく口を開いた。

「良かったのか? お前、ああいうの好きだろ」
「まぁ可愛いから好きッスけど。 下心で協力を求めて危ない目に遭わせるとかアホらしいッスよ」
「他の言い方があったんじゃないか、と聞いただけだ」
「いい感じに断っても、別のやつに別の協力を求められた時に、死ぬことになるッスから。 嫌われても生きるための技術を身につけろと言っただけッス」

 鼻を鳴らしたヨクはつまらなさそうに口を開く。

「雑念が多いんだよ。 だから、瞬閃の型も撃矢の型も鈍い」
「人間、単独の強さなんてしょぼくれたものッスよ。 超強い俺でさえ、ヨクが10人もいれば負けるッスしね」
「俺もお前が100人いれば相打ちがやっとぐらいだな」
「そんなもんッスから、アホみたいに剣を振ることより大切なことはあるんス」

 頭の上で寝ているリロを撫でて立ち上がる。

「死にはするなよ」
「うぃっす」

 エロい水着姿の女の子の足元に小銭を置いてから、受付のおばちゃんの元に再び向かう。

「うぃーす、見てきたッス。 エロかったッス。 それで、レイノーラさんに手紙なんスけど」
「はいはい。 預かっとくよ」
「それ、人からの預かりものなんで本当に頼むからッスよ?」
「任せておきなさい。 お客さんの頼みなら、これぐらい聞くわよ」
「あざっす。 あと手紙じゃなくて伝言なんスけど……」

 クラヤからの伝言を言おうとして、やっぱりやめておく。

「いや、何でもないッス」
「そう? じゃあまた来なさいね」

 礼を言ってから外に出る。

『……こんなあっさりと出てきて良かったのか? 前からストリップにこだわっていたじゃないか』
「いや……みんながいるときにテンションあげて最前列で大喜びするわけにもいかないッスし。 不必要に長居してリロに怒られるのも勘弁ッスから、また隠れてくるッス」

 それに、調査も進めなければならないから仕方ない。
 やはり、人力でするのも限界があるので神に頼るか。
 協力を取り付けられている神は、結局クラヤとアオイぐらいか……今夜ヒトタチに会うから頼んで見るか。

 ライトは人を舐めているので説得は難しい、ブラウはそもそも邪神に興味がないので無理、シンクはプライドが高いのできつい、スカートめくりの神とロム爺辺りなら協力してくれるかもしれないか。

 でも、スカートめくりの神だからなぁ、交換条件にリロのスカートをめくらせろって言わらたら困る。

「んぅ……かあ、おはよう」
「あっ、起きたッスか。 どっか行きたいところとかあるッス?」
「んー、ないかな」
「なら、きぃちゃんのところにでも顔を出すッスかねー」
「……誰?」
「魔術の師匠のお爺ちゃん。 ちょっとしか習ってないッスからね」
「……私が、弱いから?」

 沈んだようなリロの声が聞こえる。 急にどうしたのだろうかと考えて、一つの考えが浮かぶ。

「クラヤにちょっかいかけられたッスか?」
「……ううん」

 間のある否定。 おそらくは、先程の睡眠の間か、昨夜にでもクラヤに話しかけられたのだろうと分かった。

「気にしなくてもいいッスよ。 ヒトタチの信徒にしたくて、俺とリロを引き離そうとしてるだけッスから。 あれは俺のために何か言ってるわけじゃないッス」
「だとしても、私が力不足で困ってるのは……確かだから」
「……人に与えられる神の力なんてしょぼいもんッスよ。 ヒトタチの身体強化があったとしても、倒せるのが一人から二人になる程度で、単身で無理を出来る力にはならないッス。 単純に七柱の中で一番強いブラウの能力でもさして変わらないッス」

 そもそもの話、相手は二つの神の力を持っているのだ。 神の力だけで言えば勝ち目がない。

「かあ……」
「重要なのは頭の数ッスよ。 協力的な神と契約するってのは、考え方が増えるッスから強い能力を得るのよりよほどいいッス」
「……あの人も、多分協力してくれる」
「ヒトタチは俺と発想が似てるから意味ないッス」
「……あの人、おっぱい大きい」
「いや、像のは盛ってあるだけで本当はリロと変わらないッスから」
「……えっ」

 リロを撫でていると、鞄の中からケミルの声が聞こえる。

『胸の大きさに影響されるのは否定しないんだな』
「いや……気にしないッスよ?」
「……神の力を使ったら胸大きくできるかな」
「リロは今のままで最高に可愛いッスから、そういうのはいいッスよ」

 女の子はだいたい何でも可愛い。 特にリロは可愛い。

「まぁ、どんな神と契約していてもあんまり行動に変わりはないッスよ。 どんな神でもそれだけでは足りないッスから」
「……うん」
「という訳で、レッツゴーッス」
「れっつごー……っす」

 きーちゃんの元に向かう。 途中で腹が空いてきたが、きーちゃんに頼ればいいだろう。
 インクとカビの匂いのする建物に入り、昼間なのにランプが灯されたままの室内で声をあげる。

「レイヴッスよー! きーちゃん師匠いるっす?」
「ああ、レイヴさん。 ……きーちゃんって、誰ですか?」

 近くにいた眼鏡をかけた色の白い灰色の髪をした男が紙を見ていた顔をあげて、俺に目を向ける。

「あっ、お久しぶりッス。 あれ、きーちゃんって名前なんだったっけ……。 あー、俺の師匠の性格悪そうな爺さんなんスけど」
「性格悪そうな老年の男性ですか……。 アルハムトですか? 名前に「き」は付いていませんが」
『何故それで特定出来る』
「あっ、そうっす。 いるっすか?」
「いえ、一週間ほど前から遠方に出かけておりますね」
「あー、マジッスか。 休日なんでご飯たかりついでに、魔術を習いにきたんスけど」
『主目的が逆転してるぞ』

 男は手に持っていた紙を軽く片付けて、俺に提案する。

「なら、私が教えましょうか? 丁度、仕事が片付いたところですので」
「えっ、悪いッスね。 頼むッスよ」

 俺は鞄の中からケミルを取り出して、適当に机の上に座らせる。 リロも跳ねて机の上に待機する。

「賢い子ですね」
「まぁ神ッスから、人間ぐらいの知能はあるッスよ」
「えっ……ああ、そういえばそんな話を聞きましたね……。少し頼みたいことが出来たんですけど、いいですか?」
「リロ……この子に頼むことなら、この子がいいって言えばッスね」
「ああ、そりゃあそうですね。 ちょっと契約したり契約を解除したりと繰り返したいのですが、いいですか?」
「……はぁ、どういうことッスか? というか、どっかの神と契約してるんじゃないッスか?」
「ああ、それは解除するから大丈夫だよ」

 意味が分からずに問うと、予想外の答えが返ってきた。
 普通神との契約は一生もので、よほど激しく戒律を犯さない限り……例えば、アオイの信徒が大量殺人を犯したりでもしなければ、契約が切れることはない。
 契約する神を変えようとしても、二重契約ほどではないが若干嫌がられてもらえる力が減ったりといいことがほとんどないから死ぬまで契約するのが、普通だ。

 こんな風に思いつきで契約を打ち切るのは普通ありえないことである。

「……かあ、どういうこと?」
「どういうことッスか?」
「ああ、魔術師なんだけど、神と契約していない者ほど強い魔力を持つという仮説があってね。 実際明らかに差があるんだけど、それが本当に原因なのかを確かめたくてね」
「……それで、神との契約を捨てるんスか?」
「そうだね」

 リロに目を向けると、表情は分からないが若干嫌そうに見える。 神の感覚は分からないが、気分の良いことではないのだろう。

「リロ、どうッス?」
「……かあ、んぅ……んぅ……んぅ」
「あー、嫌みたいッス」
「あー、やっぱりそうかぁ」
「ケミルは?」
『当然断る』
「二人ともダメって。 申し訳ないッスね」

 残念そうな男を見たリロがトントンと机から椅子に移動したと思ったら、人の姿に変わる。
 白い服の上から、片方だけの翼でぐるりと身体を覆っていたリロは、目を丸くしている男を見てゆっくりと口を開く。

「……私にも魔術を教えてくれたら、いいよ」

 俺がその言葉に驚いていると、目を丸くしていた男が首をかしげる。

「えっと、彼女はなんと言っているんですか??」
「あー、魔術を教えてくれるなら交換条件として手伝うらしいッス」
「……神に、魔術を?」

 男は立ち上がってリロを見る。
 異様な形相に怒っているのかと思ってリロの前に手を置いて庇おうとすると、男は大きな声をあげる。

「サイッッッッコウに面白そうだ! 是非! 魔術を教えさせてくれ!!」
「お、おう」
「か、かあ……」

 異様な喜びようの男に若干引きながらだが、話はまとまった。
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