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二章 騎士団と自警団
11話 後悔しない生き方を
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日が暮れる頃、ゼレーナは家に戻っていた。
ゼレーナの住まいは貧民街の中にひっそりと建っている。かつて家族と過ごし、師と暮らしていた家だ。
ろうそくを取り出し、魔法で火をつけた。椅子に座りテーブルに肘をついてちらちらと燃える炎をぼんやりと見つめ、物思いにふける。
師であるロレンツォ亡き後、ゼレーナは再び一人になった。魔法を使える者は周りに誰もいない。近くで魔物が出た時は出向いて退治していたが、それを繰り返すうちにゼレーナは浮いた存在になりいつしか陰で「魔女」と呼ばれるようになった。それでも師の教えをを忘れるようなことはしたくなかったため、魔法の修練は欠かさずしていた。
貧民街の外に働き口がないかと探してはみたが、いくら教養があっても出身故か下働きとしてすらも使われることがなかった。結局、貧民街の周辺で占い師をする生活に戻ることになった。それでも子供の時とは違い、毎日食べていけるほどには稼げるようになっている。
今までの日々を思えば、騎士団に入ることができるなんて奇跡だ。師がもし生きていたら、きっと大喜びしてくれただろう。
魔術師隊隊長のエカテリーンは、性根が曲がっておらず向上心と強い意志がある女性だった。職業柄、多くの人間を見てきたゼレーナが十分に信頼に足ると思える人物だ。彼女に師事できれば、魔術の腕は更に上がるだろう。
それが本当に自分のやりたいことだろうか。ゼレーナの脳裏に、ニールたちの姿がよぎる。
最初の出会いは偶然だった。その時にいたのはニールと小さなアロンだけだ。それからどんどん仲間は増えていった。
正直なところ、当初はここまで付き合うつもりはなかった。自分の周辺の魔物退治は行っていたが、王都の平和を守りたいだとか、そこまでの志はゼレーナにはない。それなのに毎日、足は勝手に拠点である宿屋へと向かっていく。
ニールやフランシエルは信じられないほど純粋で、厄介ごとに巻き込まれそうで見ていて危なっかしい。アロンはまだ子供で落ち着きがないし、エンディは次いつ倒れるのかと思うと冷や冷やする。ギーランはしょっちゅう後先を考えずに正面から魔物に突っ込むし、イオは何を考えているのか読めない。ルメリオは何が楽しいのか、一生懸命にゼレーナの気を引こうとしてくる。
彼らは驚くほどでこぼこで、それなのに対等だ。気を遣う必要も自分の考えを隠す必要もない。
家族を失い師を亡くし、どこか自棄になっていたゼレーナがたどり着いた、ありのままでいられる場所。心のどこかでずっと求めていて、手に入らなくて諦めたつもりでいたものがそこにある。
――それを手放して、代わりに得られるものは何だろうか。
ゼレーナは懐を探り、細い鎖がついたアミュレットを取り出した。ロレンツォが死の間際に、お金に困ったら売りなさいと手渡してくれた唯一の彼の遺品だ。銀色のメダルに、図形をいくつも組み合わせたような複雑な模様が彫ってある。裏面には冠を被り翼を生やした馬、その両脇に太陽と月の絵が丁寧に彫られている。
ろうそくの明かりを受けて、アミュレットがうっすらと光る。今際の際まで穏やかな表情を崩さなかった師の顔が浮かぶ。
(後悔のないように生きなさい)
何を迷うことがあったのだろう。答えならずっと昔に教えてもらっていた。
ゼレーナはアミュレットを再びしまい、ろうそくの炎を吹き消した。
***
そして翌日、一人で騎士団本部を訪れたゼレーナは再びエカテリーンと向かい合っていた。
「……さて、答えは出してくれたか?」
ゼレーナは頷いた。
「大変勿体ない話ですが、騎士団への入団は辞退致します」
エカテリーンはすぐには何も言わず、眉を少し動かしただけだった。
「あなたの志、成し遂げようとしていることを無下にするつもりはありません。ですが、わたしは大義のために生きるよりも、自分らしくいられることを選びたい、それがあの自警団にいることです……彼らがわたしを必要としていなくても、わたしには彼らが必要なんです」
才能を生かして騎士団でエカテリーンと共に働き、女性であっても騎士を目指せる下地を作る――本当はそれが進むべき道なのかもしれない。けれど、今いる場所を出てしまったら後悔するだろう。
恵まれた立場や立派な住まいは必要ない。そんなものはなくても生きていける。今までだって生きてこれた。
「……そうか」
怒るでもなく残念がるでもなくエカテリーンは静かに言い、それからふっと微笑んだ。
「正直なところ、誘いを受けてくれるかどうか確率は半々だと思っていた……残念だが仕方ないな」
穏やかに言ったものの、肩を落としているのが伝わって来る。彼女は本当にゼレーナの力を買っていたのだろう。
「君はいい仲間を持っているのだな。少し羨ましいよ」
「……ええ。でも、才能があってあなたの考えに賛同してくれる人はきっとどこかにいると思います」
「そうだといいな……代わりと言ってはなんだが、聞いてもいいだろうか」
エカテリーンは少し寂し気な様子から一転切り替わり、初めて会った時のような毅然とした態度に戻った。
「わたしにお答えできることでしたら」
「誰に魔法を習ったのか教えて欲しい。失礼なのは承知だが、貧民街の出身なら魔術師に師事することは到底できないだろう。それなのにどうして君がその才能を伸ばせたのか知りたいんだ」
「流れ者の魔術師に習いました。ロレンツォ・ベイエールという者です……本名かどうかは分かりませんが」
その名前を聞き、エカテリーンは身を乗り出した。聞き覚えがある名前のようだ。
「ロレンツォ・ベイエール? 本当か? 出身について聞いたことは?」
「いいえ。すでに故人なので、聞くことも叶いません」
ゼレーナは師の形見であるアミュレットを取り出し、エカテリーンに差し出した。
「唯一の遺品です」
エカテリーンはそれを受け取り裏面を見つめて、ほう、と息を吐いた。
「……確かにクレストリア国の紋章だ。我が国とは海を隔てたところにある魔術の研究が盛んな国で、ロレンツォ・ベイエールはその宮廷に仕える魔術師たちの長の名前だよ。わたしもその名は聞いただけだったが……まさかここに滞在していたとはな」
それを聞いて、ゼレーナは驚きのあまり声が出なかった。本来なら貧民など歯牙にもかけないような立場の人物にずっと魔法を習い、その他のことも面倒を見てもらっていたのだ。
一度会ってみたかったものだな、とエカテリーンは呟きアミュレットをゼレーナに返した。
「これは間違いなく本物だ。大切にした方がいい。君は本当に恵まれているよ……はは、ますます惜しい人材だな」
さて、と呟きエカテリーンが席を立つ。
「もっと話していたいところだが生憎この後予定が詰まっていてね。じきにまた、戦地へ赴かなければいけなくなる」
ゼレーナも椅子から立ち上がり、彼女に向かって頭を下げた。
「お時間をとらせてしまい申し訳ありません」
「事の発端はわたしなんだ。君がそんな風に言う必要はない。会えて嬉しかったよ、ゼレーナ」
エカテリーンは微笑み、ゼレーナに向かって右手を差し出した。
「わたしは自分の正しいと思ったことを信じる。君も、自分が正しいと思ったことを大切にするんだ」
ゼレーナはその手をしっかりと握り返した。
「はい。そうします。後悔のないように」
***
エカテリーンに別れを告げ月の雫亭に戻ってきたゼレーナの目に飛び込んできたのは、いつもと変わらぬ顔ぶれだった。
「……全員揃って何をしてるんですか。もうとっくに見回りに出てる時間でしょう」
普段の調子で言ったゼレーナのもとに、フランシエルが歩み寄ってきた。顔に不安が浮かんでいる。
「ねえゼレーナ、結局どうなったの? 騎士団に入るの?」
「ああ、それならきっぱり断ってきましたよ」
それを聞いたエンディが目を丸くした。
「えっ、断ったの!?」
「ギーランの言う通り、騎士なんてお高くとまったつまらない連中ばかりです。そこに混じるくらいなら、あなたたちといた方がまだ退屈せずに済みますからね」
「良かったぁー!」
ぎゅう、とフランシエルがゼレーナを抱きしめた。
「ちょっと、何です、大げさな……」
「だって、ゼレーナがいないと寂しい!」
「もう……分かりましたから離れてください」
フランシエルを軽く押しのけたところで、ニールが近づいてきた。
「ゼレーナ、ごめん」
ゼレーナが今までに見たことがないほど沈んだ表情だ。
「俺、ひどいこと言ったけど……ゼレーナのことは大切な仲間だと思ってる。だから応援しないといけなかったんだ。なのに」
「もういいですよニール」
ゼレーナはため息をつき、腰に手を当てた。
「危なっかしくて見てられないんですよ。あなたも、フランも、他の皆もそうです。わたしがついていないと、何をしでかすか分からないんですから。だからこれからも付き合ってあげます」
暗かったニールの表情に、徐々に明るさが戻ってきた。
「……ありがとう。俺もゼレーナがいてくれた方が嬉しいよ。すごく頼りになるからな」
「いつもの優しくないゼレーナがもどってきた!」
アロンが笑いながら言う。ルメリオが頷いた。
「私は戻ってきてくださると最初から分かっていましたよ。ゼレーナさんが私を置いて行くはずがありませんから」
「一度その口にも氷を突っ込んだ方がいいかもしれませんね」
ひとしきり笑った後、ゼレーナは再びニールに向き直った。
「さて、こんなところで油を売ってる場合ですか?」
「いや、出発しよう。ゼレーナも一緒に」
エカテリーンにだけ話した本心は、恥ずかしくてとても彼らには話せない。
そんな天邪鬼で素直でない自分を受け入れてくれる、頓珍漢な仲間たち。それはもうゼレーナにとって日常だ。
――この選択に、これからも後悔はしない。
ゼレーナの住まいは貧民街の中にひっそりと建っている。かつて家族と過ごし、師と暮らしていた家だ。
ろうそくを取り出し、魔法で火をつけた。椅子に座りテーブルに肘をついてちらちらと燃える炎をぼんやりと見つめ、物思いにふける。
師であるロレンツォ亡き後、ゼレーナは再び一人になった。魔法を使える者は周りに誰もいない。近くで魔物が出た時は出向いて退治していたが、それを繰り返すうちにゼレーナは浮いた存在になりいつしか陰で「魔女」と呼ばれるようになった。それでも師の教えをを忘れるようなことはしたくなかったため、魔法の修練は欠かさずしていた。
貧民街の外に働き口がないかと探してはみたが、いくら教養があっても出身故か下働きとしてすらも使われることがなかった。結局、貧民街の周辺で占い師をする生活に戻ることになった。それでも子供の時とは違い、毎日食べていけるほどには稼げるようになっている。
今までの日々を思えば、騎士団に入ることができるなんて奇跡だ。師がもし生きていたら、きっと大喜びしてくれただろう。
魔術師隊隊長のエカテリーンは、性根が曲がっておらず向上心と強い意志がある女性だった。職業柄、多くの人間を見てきたゼレーナが十分に信頼に足ると思える人物だ。彼女に師事できれば、魔術の腕は更に上がるだろう。
それが本当に自分のやりたいことだろうか。ゼレーナの脳裏に、ニールたちの姿がよぎる。
最初の出会いは偶然だった。その時にいたのはニールと小さなアロンだけだ。それからどんどん仲間は増えていった。
正直なところ、当初はここまで付き合うつもりはなかった。自分の周辺の魔物退治は行っていたが、王都の平和を守りたいだとか、そこまでの志はゼレーナにはない。それなのに毎日、足は勝手に拠点である宿屋へと向かっていく。
ニールやフランシエルは信じられないほど純粋で、厄介ごとに巻き込まれそうで見ていて危なっかしい。アロンはまだ子供で落ち着きがないし、エンディは次いつ倒れるのかと思うと冷や冷やする。ギーランはしょっちゅう後先を考えずに正面から魔物に突っ込むし、イオは何を考えているのか読めない。ルメリオは何が楽しいのか、一生懸命にゼレーナの気を引こうとしてくる。
彼らは驚くほどでこぼこで、それなのに対等だ。気を遣う必要も自分の考えを隠す必要もない。
家族を失い師を亡くし、どこか自棄になっていたゼレーナがたどり着いた、ありのままでいられる場所。心のどこかでずっと求めていて、手に入らなくて諦めたつもりでいたものがそこにある。
――それを手放して、代わりに得られるものは何だろうか。
ゼレーナは懐を探り、細い鎖がついたアミュレットを取り出した。ロレンツォが死の間際に、お金に困ったら売りなさいと手渡してくれた唯一の彼の遺品だ。銀色のメダルに、図形をいくつも組み合わせたような複雑な模様が彫ってある。裏面には冠を被り翼を生やした馬、その両脇に太陽と月の絵が丁寧に彫られている。
ろうそくの明かりを受けて、アミュレットがうっすらと光る。今際の際まで穏やかな表情を崩さなかった師の顔が浮かぶ。
(後悔のないように生きなさい)
何を迷うことがあったのだろう。答えならずっと昔に教えてもらっていた。
ゼレーナはアミュレットを再びしまい、ろうそくの炎を吹き消した。
***
そして翌日、一人で騎士団本部を訪れたゼレーナは再びエカテリーンと向かい合っていた。
「……さて、答えは出してくれたか?」
ゼレーナは頷いた。
「大変勿体ない話ですが、騎士団への入団は辞退致します」
エカテリーンはすぐには何も言わず、眉を少し動かしただけだった。
「あなたの志、成し遂げようとしていることを無下にするつもりはありません。ですが、わたしは大義のために生きるよりも、自分らしくいられることを選びたい、それがあの自警団にいることです……彼らがわたしを必要としていなくても、わたしには彼らが必要なんです」
才能を生かして騎士団でエカテリーンと共に働き、女性であっても騎士を目指せる下地を作る――本当はそれが進むべき道なのかもしれない。けれど、今いる場所を出てしまったら後悔するだろう。
恵まれた立場や立派な住まいは必要ない。そんなものはなくても生きていける。今までだって生きてこれた。
「……そうか」
怒るでもなく残念がるでもなくエカテリーンは静かに言い、それからふっと微笑んだ。
「正直なところ、誘いを受けてくれるかどうか確率は半々だと思っていた……残念だが仕方ないな」
穏やかに言ったものの、肩を落としているのが伝わって来る。彼女は本当にゼレーナの力を買っていたのだろう。
「君はいい仲間を持っているのだな。少し羨ましいよ」
「……ええ。でも、才能があってあなたの考えに賛同してくれる人はきっとどこかにいると思います」
「そうだといいな……代わりと言ってはなんだが、聞いてもいいだろうか」
エカテリーンは少し寂し気な様子から一転切り替わり、初めて会った時のような毅然とした態度に戻った。
「わたしにお答えできることでしたら」
「誰に魔法を習ったのか教えて欲しい。失礼なのは承知だが、貧民街の出身なら魔術師に師事することは到底できないだろう。それなのにどうして君がその才能を伸ばせたのか知りたいんだ」
「流れ者の魔術師に習いました。ロレンツォ・ベイエールという者です……本名かどうかは分かりませんが」
その名前を聞き、エカテリーンは身を乗り出した。聞き覚えがある名前のようだ。
「ロレンツォ・ベイエール? 本当か? 出身について聞いたことは?」
「いいえ。すでに故人なので、聞くことも叶いません」
ゼレーナは師の形見であるアミュレットを取り出し、エカテリーンに差し出した。
「唯一の遺品です」
エカテリーンはそれを受け取り裏面を見つめて、ほう、と息を吐いた。
「……確かにクレストリア国の紋章だ。我が国とは海を隔てたところにある魔術の研究が盛んな国で、ロレンツォ・ベイエールはその宮廷に仕える魔術師たちの長の名前だよ。わたしもその名は聞いただけだったが……まさかここに滞在していたとはな」
それを聞いて、ゼレーナは驚きのあまり声が出なかった。本来なら貧民など歯牙にもかけないような立場の人物にずっと魔法を習い、その他のことも面倒を見てもらっていたのだ。
一度会ってみたかったものだな、とエカテリーンは呟きアミュレットをゼレーナに返した。
「これは間違いなく本物だ。大切にした方がいい。君は本当に恵まれているよ……はは、ますます惜しい人材だな」
さて、と呟きエカテリーンが席を立つ。
「もっと話していたいところだが生憎この後予定が詰まっていてね。じきにまた、戦地へ赴かなければいけなくなる」
ゼレーナも椅子から立ち上がり、彼女に向かって頭を下げた。
「お時間をとらせてしまい申し訳ありません」
「事の発端はわたしなんだ。君がそんな風に言う必要はない。会えて嬉しかったよ、ゼレーナ」
エカテリーンは微笑み、ゼレーナに向かって右手を差し出した。
「わたしは自分の正しいと思ったことを信じる。君も、自分が正しいと思ったことを大切にするんだ」
ゼレーナはその手をしっかりと握り返した。
「はい。そうします。後悔のないように」
***
エカテリーンに別れを告げ月の雫亭に戻ってきたゼレーナの目に飛び込んできたのは、いつもと変わらぬ顔ぶれだった。
「……全員揃って何をしてるんですか。もうとっくに見回りに出てる時間でしょう」
普段の調子で言ったゼレーナのもとに、フランシエルが歩み寄ってきた。顔に不安が浮かんでいる。
「ねえゼレーナ、結局どうなったの? 騎士団に入るの?」
「ああ、それならきっぱり断ってきましたよ」
それを聞いたエンディが目を丸くした。
「えっ、断ったの!?」
「ギーランの言う通り、騎士なんてお高くとまったつまらない連中ばかりです。そこに混じるくらいなら、あなたたちといた方がまだ退屈せずに済みますからね」
「良かったぁー!」
ぎゅう、とフランシエルがゼレーナを抱きしめた。
「ちょっと、何です、大げさな……」
「だって、ゼレーナがいないと寂しい!」
「もう……分かりましたから離れてください」
フランシエルを軽く押しのけたところで、ニールが近づいてきた。
「ゼレーナ、ごめん」
ゼレーナが今までに見たことがないほど沈んだ表情だ。
「俺、ひどいこと言ったけど……ゼレーナのことは大切な仲間だと思ってる。だから応援しないといけなかったんだ。なのに」
「もういいですよニール」
ゼレーナはため息をつき、腰に手を当てた。
「危なっかしくて見てられないんですよ。あなたも、フランも、他の皆もそうです。わたしがついていないと、何をしでかすか分からないんですから。だからこれからも付き合ってあげます」
暗かったニールの表情に、徐々に明るさが戻ってきた。
「……ありがとう。俺もゼレーナがいてくれた方が嬉しいよ。すごく頼りになるからな」
「いつもの優しくないゼレーナがもどってきた!」
アロンが笑いながら言う。ルメリオが頷いた。
「私は戻ってきてくださると最初から分かっていましたよ。ゼレーナさんが私を置いて行くはずがありませんから」
「一度その口にも氷を突っ込んだ方がいいかもしれませんね」
ひとしきり笑った後、ゼレーナは再びニールに向き直った。
「さて、こんなところで油を売ってる場合ですか?」
「いや、出発しよう。ゼレーナも一緒に」
エカテリーンにだけ話した本心は、恥ずかしくてとても彼らには話せない。
そんな天邪鬼で素直でない自分を受け入れてくれる、頓珍漢な仲間たち。それはもうゼレーナにとって日常だ。
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