溺愛Domの優しいコマンド

忙殺

2

「あー……」

　やっとキリがついてグッと伸びをする。
　時計に目をやって時刻を確認すると、一気に疲れが増した気がした。
　最後に帰った先生がいつだったか覚えていないが、俺が最後だと声を掛けられたということは……深谷先生も今日は帰ってしまっている。

「……」

　寂しさが募ってきて机に突っ伏した。
　頭が痛い。
　気持ち悪くなってきて、本気でヤバいと思うほどの吐き気に襲われる。

「っ……はっ……」

　息苦しいと思った瞬間、本当に息ができなくなって上体を起こした。
　それでもうまく吸えなくてパニックになる。
　苦しさと恐怖で訳がわからない。
　うまく回らない思考の中でふと“死”が過よぎって、イスから転げ落ちる。
　震えが止められない。

「先生？っ!!周防先生っ!!」

　声が聞こえた気がして、急に両肩を掴んで起こされる。
　抱き締められて色々言われている気はするが、言葉として認識ができない。
　苦しくて、怖い。
　不意に強い力で顎を固定されて口に押し付けられた。
　鼻も押さえられて、その苦しさに頭を振ろうとしてもビクともしない。
　大きく口を開けたままピタリと合わされたのが口であることに気付いて目を開く。
　涙で滲んでよく見えないが、何とかその合わせた口の中の僅かな空気をやり取りしているうちに鼻が解放された。

「大丈夫ですか？」

　口も離れて俺の目元を拭ってくれる優しい手。
　いつものおすわりの姿勢になっていた俺はゆっくり顔を上げて、心配そうな顔をして撫でてくれている深谷先生に抱きついた。