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第1章「警察官になりました」
1話「それは霊障事件」
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兎澤舞雪。今は就活の真っただ中だった。
それなりに周りと変わらず生活できていることは運が良いと思っている。
里親が見つかったのは中学生になる頃だった。その里親は子どもを作りたくても
作ることが出来なかったのだ。それが兎澤家の夫婦だ。
彼らは舞雪が強い霊感を持っていることを知っている。
いつもと変わらない朝。真新しいスーツを着込む舞雪はこの日は久し振りに
事件に巻き込まれることになった。何の前触れも無かった。
「月輪舞雪様、お待ちしておりました」
「えっと、私は兎澤ですよ?」
「失礼いたしました。兎澤様、こちらへ」
舞雪は小首を傾げた。対応してきた女性は何処か生気のない眼をしている。
霊感を持つ舞雪だからこそ、女性への違和感に気付くことが出来た。
彼女は可笑しい。彼女だけではない。社員は何人たりとも社内に存在しない。
案内された場所は社長室だった。
まだ新米だし、社長とお話しするようなことは無いはずですけど…!
「お連れしました」
やはり可笑しい。この社長の様子が可笑しい。
「君の名前は何というのだね?」
「兎澤舞雪です」
「君の名前は何というのだね?」
「え、あの、ですから兎澤舞雪だと…」
「君の名前は何というのだね?」
会話が通じない。やはり可笑しい。入ってからというもの、違和感だけがあった。最初に
会った女性の様子も可笑しかった。目の前にいる社長も可笑しい。舞雪は席を立ち、慌てて外に
飛び出そうとするも彼女の行く手を先ほどの女性が阻んだ。
「君の名前は何というのだね?」「貴方の名前は何というのですか」
「君の名前は―」「貴方の名前は―」「君の―」「貴方の―」
「「名前は月輪」」
二人が前後に迫る中、舞雪はひたすらその名前を否定する。
「違う!私は、私は月輪じゃない!私は兎澤舞雪!!月輪、月輪舞雪じゃない!!―」
「違う?」「違うのですか?」「お前は月輪だろう」「貴方は月輪でしょう」
「月輪じゃない…私、私は兎澤、兎澤なの…」
舞雪の体から力が抜けていく。彼女もゆっくりと意識を手放した。その時に呟いたのも
自分は兎澤舞雪であるという現実だった。
白いベッドの上で舞雪は目を覚ました。近くに置かれていた時計に目を向けると既に昼過ぎ。
ここは会社の中では無いこともすぐに察した。
場所は会社では無く警察署だった。
「大丈夫かい?今はゆっくり休んでいた方が良い」
壮年の男は彼女を寝かしつけて、ここまでの経緯と自分について話した。
霊障対策室の課長である穂積雄二郎。彼を始め、霊障対策室に所属する職員は全員
何らかの霊能力を持っている。彼らが受け持つのは今回の様に霊や霊能者が
犯す犯罪、霊障だ。
「君は随分と強い霊感を持っているね。霊媒体質でもあるようだ。それにここに
眠っているときも月輪じゃない、兎澤だと何度も呟いていた。何か心当たりは
あるのかな?」
「分かりません。私は里子に出されてからの記憶しかなくて…でも月輪って
名前には全く心当たりがありません」
「そうか…里子、か…」
白い髭の生えた顎を彼は摩って呟く。彼は改めて舞雪に目を向けた。彼女はやはり
一般人にしておくには勿体無いのと同時に危うさのある大きな霊力を抱えている。
自分も既に年だ。そろそろフィールドワークから身を引くべき。
「君は学校で学級委員や部長などをやったことはあるかな」
「えっと、副部長なら…」
「それなら良い。僕の後を継いでくれるかな?」
「えぇ!?それは可笑しいですよ!だって警察学校だって通ってないし、警察の仕事だって
やったことも…」
「これからゆっくり学べばいいんだよ。周りは既に知っているからね。それに
霊障対策室改め、霊障対策課は特例で一般人を警察にすることも許可されている。その理由は
普通の事件を取り扱わず霊障を取り扱うからだ。君は素晴らしい霊力を持っている。
だからそれを使いこなす必要があるんだ」
そう言われて舞雪はもう少し考えさせてほしいと彼に伝えた。翌日、再び彼は
意見を聞きに来ると言って部屋を出た。最低、明日まではここにいることになるようだ。
それなりに周りと変わらず生活できていることは運が良いと思っている。
里親が見つかったのは中学生になる頃だった。その里親は子どもを作りたくても
作ることが出来なかったのだ。それが兎澤家の夫婦だ。
彼らは舞雪が強い霊感を持っていることを知っている。
いつもと変わらない朝。真新しいスーツを着込む舞雪はこの日は久し振りに
事件に巻き込まれることになった。何の前触れも無かった。
「月輪舞雪様、お待ちしておりました」
「えっと、私は兎澤ですよ?」
「失礼いたしました。兎澤様、こちらへ」
舞雪は小首を傾げた。対応してきた女性は何処か生気のない眼をしている。
霊感を持つ舞雪だからこそ、女性への違和感に気付くことが出来た。
彼女は可笑しい。彼女だけではない。社員は何人たりとも社内に存在しない。
案内された場所は社長室だった。
まだ新米だし、社長とお話しするようなことは無いはずですけど…!
「お連れしました」
やはり可笑しい。この社長の様子が可笑しい。
「君の名前は何というのだね?」
「兎澤舞雪です」
「君の名前は何というのだね?」
「え、あの、ですから兎澤舞雪だと…」
「君の名前は何というのだね?」
会話が通じない。やはり可笑しい。入ってからというもの、違和感だけがあった。最初に
会った女性の様子も可笑しかった。目の前にいる社長も可笑しい。舞雪は席を立ち、慌てて外に
飛び出そうとするも彼女の行く手を先ほどの女性が阻んだ。
「君の名前は何というのだね?」「貴方の名前は何というのですか」
「君の名前は―」「貴方の名前は―」「君の―」「貴方の―」
「「名前は月輪」」
二人が前後に迫る中、舞雪はひたすらその名前を否定する。
「違う!私は、私は月輪じゃない!私は兎澤舞雪!!月輪、月輪舞雪じゃない!!―」
「違う?」「違うのですか?」「お前は月輪だろう」「貴方は月輪でしょう」
「月輪じゃない…私、私は兎澤、兎澤なの…」
舞雪の体から力が抜けていく。彼女もゆっくりと意識を手放した。その時に呟いたのも
自分は兎澤舞雪であるという現実だった。
白いベッドの上で舞雪は目を覚ました。近くに置かれていた時計に目を向けると既に昼過ぎ。
ここは会社の中では無いこともすぐに察した。
場所は会社では無く警察署だった。
「大丈夫かい?今はゆっくり休んでいた方が良い」
壮年の男は彼女を寝かしつけて、ここまでの経緯と自分について話した。
霊障対策室の課長である穂積雄二郎。彼を始め、霊障対策室に所属する職員は全員
何らかの霊能力を持っている。彼らが受け持つのは今回の様に霊や霊能者が
犯す犯罪、霊障だ。
「君は随分と強い霊感を持っているね。霊媒体質でもあるようだ。それにここに
眠っているときも月輪じゃない、兎澤だと何度も呟いていた。何か心当たりは
あるのかな?」
「分かりません。私は里子に出されてからの記憶しかなくて…でも月輪って
名前には全く心当たりがありません」
「そうか…里子、か…」
白い髭の生えた顎を彼は摩って呟く。彼は改めて舞雪に目を向けた。彼女はやはり
一般人にしておくには勿体無いのと同時に危うさのある大きな霊力を抱えている。
自分も既に年だ。そろそろフィールドワークから身を引くべき。
「君は学校で学級委員や部長などをやったことはあるかな」
「えっと、副部長なら…」
「それなら良い。僕の後を継いでくれるかな?」
「えぇ!?それは可笑しいですよ!だって警察学校だって通ってないし、警察の仕事だって
やったことも…」
「これからゆっくり学べばいいんだよ。周りは既に知っているからね。それに
霊障対策室改め、霊障対策課は特例で一般人を警察にすることも許可されている。その理由は
普通の事件を取り扱わず霊障を取り扱うからだ。君は素晴らしい霊力を持っている。
だからそれを使いこなす必要があるんだ」
そう言われて舞雪はもう少し考えさせてほしいと彼に伝えた。翌日、再び彼は
意見を聞きに来ると言って部屋を出た。最低、明日まではここにいることになるようだ。
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