かくりよにようこそ。

弓狩ヨゾラ

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1話「かくりよへ」

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その頃から泳ぐのは苦手だった。水をかいても水が襲ってくる。
全身を川の水が包んでしまった。泳げない私ではもう、どうすることも
出来なかった。

『溺れてしまったのか。ここは危険だと伝わっていたはずなんだけど』

蛇のようにも見える巨体が人の姿に変わったのが見えた。幼いながら、私は
この大河にいる龍神の姿を見ることが出来たのだ。綺麗な青い長髪と女性と
見間違うほど美しい顔立ちが見えた。岸辺に私を寝かせると何かを私の近くに
置いて姿を消した。貰ったのは蝶の耳飾りだった。
18歳になって私は出かけるときにその耳飾りを身に着けるようになったのだ。

ある僧侶曰く、それはかくりよへ繋がる鍵。
ある僧侶曰く、夜の帰りに気を付けるべき。

その日は夜だった。あの日から私は色々と見えるようになっていた。
霊媒体質になっていたのだ。だからこの日も見えてしまった。醜い妖怪が
こちらに向かって飛んでくるのが。

『美味そうな人間だァァァァ~』

私の足はすぐに動いた。走る。走る。走る。走る。走る。走る。
―こっちだ、娘。
何処だよ!?
―鳥居に向かって走れ。
目の前に聳え立つ赤い鳥居を抜ける。後ろに張り付いている妖怪も
鳥居を抜けて来た。その手が私の背中に触れることはない。
二人の間に入った長身の男がいた。妖怪はその男を知っている
ようで慌てふためいている。

『あ…おまっ…貴方様は…!!!?』
「この人間を喰らうのは止めてもらうぞ」

私でも分かるほどの威圧感があった。妖怪は恐ろしくなって
逃げだした。それを確認してから男は私の方を見た。男の
顔は般若の面で覆われていた。

「渡辺真姫。お前、龍神殿に出会っているな?」
「会いました。溺れたことがあって、その時に助けてもらって…」
「その耳飾りも貰った、と」

今にも羽ばたきそうな蝶の耳飾りを男は見た。既にここは
元居た場所とは違うらしい。妖怪や神が住まう「かくりよ」
という場所だ。人間が来ることなど滅多に無い。男が住まう
家の中に通された。
先ほどのような妖怪も少なくないらしい。

「貴方は…」

聞いても彼は名乗らない。しかし神ではあると答えた。

「特に鬼はお前を恨んでいる者が多い」
「え、どうして?」

そう聞くと彼が首を傾げた。知っているんじゃないのか?と
言いたげな様子だ。

「自分の家の事を知らないのか」
「あ…あ~!!」

妖怪退治を行った源頼光の四天王の一人、渡辺綱の子孫が
私だ。酒呑童子退治にも私の先祖である渡辺綱は参加している。
鬼からすれば自分たちの頭領を殺したのだから恨むだろう。

「衣食住は俺が手を回して用意しよう。鬼には
気を付けろよ」

そう警告された。鬼…人間を軽く超える怪力を持っているイメージが
ある。大柄で酒好き。私は酒なんて飲んだことも無いが酒の種類で
「鬼殺し」という酒があることは知っている。

「…気を付けろ、とは言ったがそこまで怖がる必要は無い。
お前は運が良い。龍神殿に気に入られ、加護が与えられている」
「貴方も神だから、人間に加護が与えられる?」
「そうかもしれないな」

話は何処かに反らされてしまった。曖昧な返事で納得はいかない。
風呂まで用意されていた。

「あ、でも私なんかが入っていいの?」
「構わない」
「服が…」
「そこにあるだろ。龍神殿に感謝しろ。外から持って来たらしいからな」

龍神様…一体どんな人なんだろう。少ししか見たことが無かったから
どんな人なのかは分からない。私は湯船に肩まで浸かる。
感情の起伏が少なく不思議な人。彼は何処か私に献身的だった。
妖怪から私を助け、そして衣食住も保証するために手を回すと言っていた。
布団まで用意されていてその日はそこで寝た。
目が覚めた時には既に男が起きていたのだ。彼の用意した朝食を食べてから
この家の扉を誰かがノックした。

「おはようございます。たけるさん」

フワフワした九つの尾と耳を持つ狐の妖怪がやって来た。彼は私の存在に
気が付いて微笑を浮かべ会釈する。

「銀月、悪いな」
「構いませんよ。彼女ですか?龍神様の加護を受けているという人間は」

仮面の男の名前は尊というらしい。銀月と呼ばれた九尾がこの世界での
私の住居に案内してくれるようだ。

「ありがとうございました」

そう礼を言ってから私たちは尊の元から去った。背中を向けていたので彼の
顔は見えなかった。


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