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ノイシュロス市
#48 昔のこと (リーヌ)
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「待って、行かないで!!二度もベリアちゃんを失いたくない!!ごめんなさい!謝るから!!行かないで!!嫌だ…あぁ…。」
幼馴染のベリアは振り向きもせず、行ってしまう。私はその場に泣き崩れた。人目を気にすることなく泣いた。泣きながら昔のことが走馬灯のように蘇っていた。
ーーー八年前ーーー
私は当時一人でいるのが怖くて自分の意見はそっちのけで学校の同年の人たちの顔色を窺っては機嫌をとるような子だった。けれど、それが裏目に出てからは周りから疎まれるような存在になっていった。いじめられるようになったのだ。無視は当たり前。ノートには『死ね』の文字。今思うと子供のいたずら心のようなものだったのだろうと思う。だが、言われた側からすると何もしていないのに恨まれているという感覚があった。いつしか私の存在自体が否定されていると感じるようになった。消えたいと願うようになった。
そんな時、クラス替えで私はある女の子の隣の席になった。それがベリア・ハイヒブルックだった。その子はいつも一人ぼっちで可哀想な子だった。いや、可哀想な子だと思っていた。人に話しかけれれば笑顔で答えるし、頼まれごとはちゃんとやる子だった。クラスの子たちの相談にも乗っていた。けれど、遊んだりする場ではいつも一人だった。最初は気にも留めなかったが、自分が孤立してからは段々と気にするようになっていた。寂しかった私はこの子なら私を受け入れてくれるのではないかと思って、学校帰りに声をかけた。案の定私を受け入れてくれた。私はわざと明るく振る舞った。クラスの人気者がそうしていたからだ。そうすれば簡単に好かれると思っていた。
「リーヌちゃん。」
「ん?」
「苦しくない?」
「…なんで?」
「だって苦しそうに見えるよ。」
「え…」
私はその時初めて自分がもう表情のコントロールができていないことに気がついた。ベリアは私を心配するような目で言った。
「リーヌちゃん、いじめられてるの?」
「……うん」
「そっか。明日からは一緒にいよう。リーヌちゃんが話せれるようになったら話聞かせてよ。」
「いいの?…ベリアちゃんもいじめられるかもなんだよ?…」
「大丈夫。話せば分かってくれるよ。」
私はその言葉が信じられなかった。意味もなく私を傷つける人間が話のわかる奴だとは思えない。だが、あまりにもベリアが平然と言うものだから反発ができなくなった。
次の日から私たちは二人で行動するようになった。周りが私をどう思っていたか知らないが、少なくともベリアは偽善者とか良い子面とか散々言われていたのを覚えている。でも、直接的ないじめはすぐに無くなった。理由はいじめの主犯格である子がベリアに相談を乗ってもらっていた子だったからだ。私はこの時、ベリアの人脈に救われた。かっこいいと思った。いつかこの子のようになりたいと思った。
どんな話の流れか忘れたがベリアに言われた言葉が今でも心に残っている。
『リーヌちゃんは他人の顔色しか窺えないっていたけど、それは素敵なことなんだよ。常に誰かの気持ちを読み取ろうとするのは簡単なことじゃないからね。みんな分かってても出来ないことが多いから。』
その時の言葉は私の過去を肯定してくれた。周りから嫌がられていた私の側面を肯定してくれた。変えた方がいいと言われることは多かったが、それがいいと言われることは無かった。その後、心が暖かくなったのは嬉しさだけでなく、いつか私もこの子を救えるような人間になりたいという願望が芽生えたからでもあった。
ある日、いじめの主犯格であった子が私たちに話しかけてきた。
「ベリアちゃん!なんでそんな子と仲良くして私と遊んでくれないの!?そいつは自分の意見も言えないような気持ち悪い子なんだよ!」
「ロリアちゃん……」
主犯格であるロリア・フェルドオリギーは涙目になってベリアを睨んでいる。ベリアは妙に落ち着き払っていた。そしてベリアはゆっくりと話し始めた。
「私ね、ロリアちゃんの相手の本当の気持ちをちゃんと聞きたいっていう優しさとリーヌちゃんの人の心を読み取ろうとする優しさがぶつかり合って二人の仲が悪くなってしまったんだと思うんだ。きっとお互いがお互いを思う気持ちが上手く噛み合わなかったんだね。だって、好きも嫌いも相手を思う気持ちが無ければ芽生えないはずの気持ちでしょ?」
「うっ……」
「それにどんな理由があっても人の心を傷つけてはダメだよ。言ってはいけないこととやってはいけないことがあるからね。そんなことをする人とは仲良く出来ないな。」
「ベリアちゃん…、うっうっ、うわぁーん!」
ベリアの優しくも鞭ある言葉にロリアは目に溜まっていた涙を大粒にして流した。
「私っ、リーヌちゃんが何も言わないからっ、信用されてないんだと思って、ぐすっ、嫌われてると思ったの…。ごめんなさい!ひどいことしてごめんなさい!いっぱいいっぱいごめんなさい!」
「……リーヌちゃんはどうしたい?」
泣きじゃくるロリアを横にして優しい顔して問いかけてくるベリアは何倍にも年上に見えた。私は何故だか泣きじゃくるロリアを見て許そうと思った。
「いいよ。許すよ!」
「…ぐすっ、リーヌちゃん、本当?」
「うん。」
「本当にごめんなさい…」
それ以来、自然と私はロリアと一緒にいることが多くなった。お互い根に持つものも無く、休日に遊びに行ったりした。しかし、そこにはベリアはいなかった。私がいじめられる前と同じようにベリアは一人でいることが多くなった。
「ベリアちゃん、どうしてみんなと遊ぼうとしないの?」
「ん?うーん、疲れちゃうからかな。」
「疲れる?」
「うん。私、人から相談事受けさせてもらう時、相手の気持ちを想像するんだけどね、それがなかなかに体力を使うんだよね。見えるって言い方が正しいのかな…。その癖が日常でも出るようになっちゃって…。最近は人と長時間話すことは避けてるかな…」
「……それって寂しくない?」
「うん、寂しいかな…」
悲しそうなベリアの顔を初めて見た。私はこの子を救わなきゃと思い、手をとって話した。
「私が側にいてあげる。話は無理してしなくていいから。」
「いいの?つまらなくない?」
「大丈夫。」
「……ありがとう。」
それから私たちは頻繁に会いに行くわけでも無かったし、一緒にいるときはお互い黙ったままで違うことをしていた。それでも心地は良かった。きっとベリアもそう思っていたと思う。中学に入ってからはベリアは遊びに行くことも増えたし、普通の女の子になっていた。だが、ベリアの祖父が病気になってからはベリアの明るさはみるみると消えていった。まるで、心が削り取られていくように。
幼馴染のベリアは振り向きもせず、行ってしまう。私はその場に泣き崩れた。人目を気にすることなく泣いた。泣きながら昔のことが走馬灯のように蘇っていた。
ーーー八年前ーーー
私は当時一人でいるのが怖くて自分の意見はそっちのけで学校の同年の人たちの顔色を窺っては機嫌をとるような子だった。けれど、それが裏目に出てからは周りから疎まれるような存在になっていった。いじめられるようになったのだ。無視は当たり前。ノートには『死ね』の文字。今思うと子供のいたずら心のようなものだったのだろうと思う。だが、言われた側からすると何もしていないのに恨まれているという感覚があった。いつしか私の存在自体が否定されていると感じるようになった。消えたいと願うようになった。
そんな時、クラス替えで私はある女の子の隣の席になった。それがベリア・ハイヒブルックだった。その子はいつも一人ぼっちで可哀想な子だった。いや、可哀想な子だと思っていた。人に話しかけれれば笑顔で答えるし、頼まれごとはちゃんとやる子だった。クラスの子たちの相談にも乗っていた。けれど、遊んだりする場ではいつも一人だった。最初は気にも留めなかったが、自分が孤立してからは段々と気にするようになっていた。寂しかった私はこの子なら私を受け入れてくれるのではないかと思って、学校帰りに声をかけた。案の定私を受け入れてくれた。私はわざと明るく振る舞った。クラスの人気者がそうしていたからだ。そうすれば簡単に好かれると思っていた。
「リーヌちゃん。」
「ん?」
「苦しくない?」
「…なんで?」
「だって苦しそうに見えるよ。」
「え…」
私はその時初めて自分がもう表情のコントロールができていないことに気がついた。ベリアは私を心配するような目で言った。
「リーヌちゃん、いじめられてるの?」
「……うん」
「そっか。明日からは一緒にいよう。リーヌちゃんが話せれるようになったら話聞かせてよ。」
「いいの?…ベリアちゃんもいじめられるかもなんだよ?…」
「大丈夫。話せば分かってくれるよ。」
私はその言葉が信じられなかった。意味もなく私を傷つける人間が話のわかる奴だとは思えない。だが、あまりにもベリアが平然と言うものだから反発ができなくなった。
次の日から私たちは二人で行動するようになった。周りが私をどう思っていたか知らないが、少なくともベリアは偽善者とか良い子面とか散々言われていたのを覚えている。でも、直接的ないじめはすぐに無くなった。理由はいじめの主犯格である子がベリアに相談を乗ってもらっていた子だったからだ。私はこの時、ベリアの人脈に救われた。かっこいいと思った。いつかこの子のようになりたいと思った。
どんな話の流れか忘れたがベリアに言われた言葉が今でも心に残っている。
『リーヌちゃんは他人の顔色しか窺えないっていたけど、それは素敵なことなんだよ。常に誰かの気持ちを読み取ろうとするのは簡単なことじゃないからね。みんな分かってても出来ないことが多いから。』
その時の言葉は私の過去を肯定してくれた。周りから嫌がられていた私の側面を肯定してくれた。変えた方がいいと言われることは多かったが、それがいいと言われることは無かった。その後、心が暖かくなったのは嬉しさだけでなく、いつか私もこの子を救えるような人間になりたいという願望が芽生えたからでもあった。
ある日、いじめの主犯格であった子が私たちに話しかけてきた。
「ベリアちゃん!なんでそんな子と仲良くして私と遊んでくれないの!?そいつは自分の意見も言えないような気持ち悪い子なんだよ!」
「ロリアちゃん……」
主犯格であるロリア・フェルドオリギーは涙目になってベリアを睨んでいる。ベリアは妙に落ち着き払っていた。そしてベリアはゆっくりと話し始めた。
「私ね、ロリアちゃんの相手の本当の気持ちをちゃんと聞きたいっていう優しさとリーヌちゃんの人の心を読み取ろうとする優しさがぶつかり合って二人の仲が悪くなってしまったんだと思うんだ。きっとお互いがお互いを思う気持ちが上手く噛み合わなかったんだね。だって、好きも嫌いも相手を思う気持ちが無ければ芽生えないはずの気持ちでしょ?」
「うっ……」
「それにどんな理由があっても人の心を傷つけてはダメだよ。言ってはいけないこととやってはいけないことがあるからね。そんなことをする人とは仲良く出来ないな。」
「ベリアちゃん…、うっうっ、うわぁーん!」
ベリアの優しくも鞭ある言葉にロリアは目に溜まっていた涙を大粒にして流した。
「私っ、リーヌちゃんが何も言わないからっ、信用されてないんだと思って、ぐすっ、嫌われてると思ったの…。ごめんなさい!ひどいことしてごめんなさい!いっぱいいっぱいごめんなさい!」
「……リーヌちゃんはどうしたい?」
泣きじゃくるロリアを横にして優しい顔して問いかけてくるベリアは何倍にも年上に見えた。私は何故だか泣きじゃくるロリアを見て許そうと思った。
「いいよ。許すよ!」
「…ぐすっ、リーヌちゃん、本当?」
「うん。」
「本当にごめんなさい…」
それ以来、自然と私はロリアと一緒にいることが多くなった。お互い根に持つものも無く、休日に遊びに行ったりした。しかし、そこにはベリアはいなかった。私がいじめられる前と同じようにベリアは一人でいることが多くなった。
「ベリアちゃん、どうしてみんなと遊ぼうとしないの?」
「ん?うーん、疲れちゃうからかな。」
「疲れる?」
「うん。私、人から相談事受けさせてもらう時、相手の気持ちを想像するんだけどね、それがなかなかに体力を使うんだよね。見えるって言い方が正しいのかな…。その癖が日常でも出るようになっちゃって…。最近は人と長時間話すことは避けてるかな…」
「……それって寂しくない?」
「うん、寂しいかな…」
悲しそうなベリアの顔を初めて見た。私はこの子を救わなきゃと思い、手をとって話した。
「私が側にいてあげる。話は無理してしなくていいから。」
「いいの?つまらなくない?」
「大丈夫。」
「……ありがとう。」
それから私たちは頻繁に会いに行くわけでも無かったし、一緒にいるときはお互い黙ったままで違うことをしていた。それでも心地は良かった。きっとベリアもそう思っていたと思う。中学に入ってからはベリアは遊びに行くことも増えたし、普通の女の子になっていた。だが、ベリアの祖父が病気になってからはベリアの明るさはみるみると消えていった。まるで、心が削り取られていくように。
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