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ノイシュロス市
#49 避難民移転届 (リーヌ)
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昔のことを思い出しながら泣き崩れていると、後ろから両親が来た。両親は何も言うことなく私の腕を取り、私を立ち上がらせた。父親は苦い顔をして私を見ていた。
「ベリアちゃんは行ってしまったか。」
「…うん。」
父親は昔から責任感の強い人だ。ベリアを置いていってしまってから毎日のように嘆いていた。まるで自分の子供を思うように毎日心配していた。
「これで良かったのよ。お互いが我慢してしまっては嫌な気持ちが続くだけよ。」
「お母さん、私ベリアちゃんのこと分かってなかった。自分だけの考えで動いて…。ベリアちゃんの気持ちをちゃんと考えれてなかった。ベリアちゃんみたいに相手の視点に立って考えるとか、出来なかった…。私、私…」
「ベリアちゃんも分かってくれるわよ。こんなにリーヌは優しい子なんだから。人のために泣けるんだから…。」
そう言いながら私を抱きしめる母は何故か泣いていた。父親も涙を堪えて私を見ている。私たちは改札前でしばらく立ち尽くしていた。
家に着いたのは夜の九時半過ぎだった。私は泣き疲れですぐに眠ってしまった。しかし、母と父はまだリビングに残っていた。
ーーーーーーー
「あなた…」
「どうした?」
「私は母親失格よ。リーヌはあんなにベリアちゃんを思っていたのに…、自分のことばかりで……」
リーヌの母親は泣き崩れた。贖罪の涙だった。
「お前の考え方も一つの正しさだ。気に病むことはない。ベリアちゃんが向こうで無事に生きられることを祈ろう。あの子だってもう子供じゃないんだ。それにさっきリーヌもファタング隊の人が付いてたと言ってただろう。大丈夫だ。」
父親は母親の肩を撫でながら自分に言い聞かせるように言った。
母親が落ち着いてから、父親はバックから説明書のようなものを取り出した。
「明日、避難民移転届を出さないといけないな。」
「何?それ?」
「お前には言っていなかったな。避難民がシュタンツファーに馴染めなくてナマイトダフや他の街に逃げるってのが増え出した時に出来た制度だよ。これを出さずに補助金を受け取ると違法になるからな。」
「そうなの。」
二人はなんとも言えぬ顔をして、避難民移転届を見ていた。
ーーー翌日 <シュタンツファー市役所>ーーー
私はベリアの避難民移転届を出すために一家総出で市役所に行った。弟たちはライヤ以外はしゃいでいた。ライヤは今朝起きた後にベリアが行ってしまったことを知り、深く傷ついているようだった。僕のせいだの一点張りだった。訳を聞いても答えようとしなかった。
市役所での手続きを両親がやっている間に私とライヤは弟たちの面倒をしながら受付で待っていた。するとそこには見覚えのある顔があった。
「ロリア?」
「…リーヌ!」
「久しぶり!!」
「久しぶり!元気してた?」
「もちろん!ロリアは?」
「まあ、ぼちぼちかしらね」
私たちは久しぶりの再会に嬉しさを噛みしめた。ワイルの一件から会っていなかった。ロリアはフェルドオリギー市からハイヒブルック市に引っ越してきたが、中学に上がる時にフェルドオリギー市に行ってしまったため、シュタンツファー市内でも私たちよりも遠い都市外部に避難した。そのため、滅多に会うことができないのだ。
「どうしてロリアはここにいるの?」
「避難民移転届を出しに来たのよ。ほら新聞に載ってた奇跡の生き残りの男の子いたでしょ?あれ、私の従兄弟なの。頑固な性格だから引き入れを拒まれるか不安だったけど、さすがに恐ろしい体験したら素直に来ると思って待ってたのよ。だけど、家に入るどころか、あいつ逃げたんだよ…。まぁ、あいつのことだし今頃ナマイトダフに行ってるわね…。待つのも無駄だし、もう避難民移転届出してもいいかなって。」
「そっか…」
ベリアと同じ立場の人がもう一人ナマイトダフに行ってしまった。悔しいが、私は二人の本当の感じていることが分からない。長い時間周りから離され、助かった後にみる社会のギャップに対する感情は想像におえない。きっと想像が出来なかったからベリアは私の元を離れていったのだろうと思う。
「リーヌは?そういえばベリアちゃんの新聞見たよ!あんな事になってるなんて知らなかった…。今はリーヌのところにいるんでしょ?元気してる?」
「………。」
「…どうかしたの?」
私はロリアにこれまでの事を話した。ベリアの二年間を無かった事にしてしまったこと。補助金のことを隠してしまったこと。本音を言わずに浅はかな優しさで迎えてしまったこと。ベリアの気持ちをしっかり聞かなかったこと。そのことでベリアがナマイトダフに行ってしまったこと。全てを話した後、ロリアは真剣な顔つきで遠くを見ていた。
「そっか。ベリアちゃんも…。」
「うん。」
「難しいわね。私たちの思う優しさや幸せはあの二人にとっての苦痛にしかならない。どんなこと考えて、どんなこと感じてるのかは本人しか分からないんだわ。たとえ幼馴染でも従兄弟でも分からなくなるほど、あの二人が過ごした長い時間はあの二人の価値観を変えてしまったんだと思う。……落ち込むことないわよ!また元気になったら来てくれるわよ!…私の従兄弟は無いとしても、ベリアちゃんならきっと帰ってくるわよ。」
「ロリア…」
「ちょっ、何泣いてんの…。よしよし…」
私の背中を撫でるロリアの手は温かくて優しかった。ロリアはベリアが私に置いていってくれた優しさなのかもしれないと思うと、ベリアにまた会いたくなった。
その後はロリアの住所を聞いて連絡を取れるようにした。私たち一家も避難民移転届を出し終わり、何かに解放されたような、失ったような感覚をお腹の中にしまって家に帰った。
ーーー某所ーーー
「先程、ベリア・ハイヒブルックの避難民移転届が市役所に届いたそうです。」
「そうか。いよいよだな。」
「手元に置いておかなくても良いのですか?ワイルに何か起きれば…」
「今のままでは役立たずにすぎん。何も知らない口が余計なことを言うな。」
「も、申し訳ありません。」
白衣を着た謎の男は不敵な笑みを浮かべながらワイルを眺めていた。ワイルはその悠然たる姿を変えることなく、人類生き残りの国、リベフィラ國を見守っている。
「ベリアちゃんは行ってしまったか。」
「…うん。」
父親は昔から責任感の強い人だ。ベリアを置いていってしまってから毎日のように嘆いていた。まるで自分の子供を思うように毎日心配していた。
「これで良かったのよ。お互いが我慢してしまっては嫌な気持ちが続くだけよ。」
「お母さん、私ベリアちゃんのこと分かってなかった。自分だけの考えで動いて…。ベリアちゃんの気持ちをちゃんと考えれてなかった。ベリアちゃんみたいに相手の視点に立って考えるとか、出来なかった…。私、私…」
「ベリアちゃんも分かってくれるわよ。こんなにリーヌは優しい子なんだから。人のために泣けるんだから…。」
そう言いながら私を抱きしめる母は何故か泣いていた。父親も涙を堪えて私を見ている。私たちは改札前でしばらく立ち尽くしていた。
家に着いたのは夜の九時半過ぎだった。私は泣き疲れですぐに眠ってしまった。しかし、母と父はまだリビングに残っていた。
ーーーーーーー
「あなた…」
「どうした?」
「私は母親失格よ。リーヌはあんなにベリアちゃんを思っていたのに…、自分のことばかりで……」
リーヌの母親は泣き崩れた。贖罪の涙だった。
「お前の考え方も一つの正しさだ。気に病むことはない。ベリアちゃんが向こうで無事に生きられることを祈ろう。あの子だってもう子供じゃないんだ。それにさっきリーヌもファタング隊の人が付いてたと言ってただろう。大丈夫だ。」
父親は母親の肩を撫でながら自分に言い聞かせるように言った。
母親が落ち着いてから、父親はバックから説明書のようなものを取り出した。
「明日、避難民移転届を出さないといけないな。」
「何?それ?」
「お前には言っていなかったな。避難民がシュタンツファーに馴染めなくてナマイトダフや他の街に逃げるってのが増え出した時に出来た制度だよ。これを出さずに補助金を受け取ると違法になるからな。」
「そうなの。」
二人はなんとも言えぬ顔をして、避難民移転届を見ていた。
ーーー翌日 <シュタンツファー市役所>ーーー
私はベリアの避難民移転届を出すために一家総出で市役所に行った。弟たちはライヤ以外はしゃいでいた。ライヤは今朝起きた後にベリアが行ってしまったことを知り、深く傷ついているようだった。僕のせいだの一点張りだった。訳を聞いても答えようとしなかった。
市役所での手続きを両親がやっている間に私とライヤは弟たちの面倒をしながら受付で待っていた。するとそこには見覚えのある顔があった。
「ロリア?」
「…リーヌ!」
「久しぶり!!」
「久しぶり!元気してた?」
「もちろん!ロリアは?」
「まあ、ぼちぼちかしらね」
私たちは久しぶりの再会に嬉しさを噛みしめた。ワイルの一件から会っていなかった。ロリアはフェルドオリギー市からハイヒブルック市に引っ越してきたが、中学に上がる時にフェルドオリギー市に行ってしまったため、シュタンツファー市内でも私たちよりも遠い都市外部に避難した。そのため、滅多に会うことができないのだ。
「どうしてロリアはここにいるの?」
「避難民移転届を出しに来たのよ。ほら新聞に載ってた奇跡の生き残りの男の子いたでしょ?あれ、私の従兄弟なの。頑固な性格だから引き入れを拒まれるか不安だったけど、さすがに恐ろしい体験したら素直に来ると思って待ってたのよ。だけど、家に入るどころか、あいつ逃げたんだよ…。まぁ、あいつのことだし今頃ナマイトダフに行ってるわね…。待つのも無駄だし、もう避難民移転届出してもいいかなって。」
「そっか…」
ベリアと同じ立場の人がもう一人ナマイトダフに行ってしまった。悔しいが、私は二人の本当の感じていることが分からない。長い時間周りから離され、助かった後にみる社会のギャップに対する感情は想像におえない。きっと想像が出来なかったからベリアは私の元を離れていったのだろうと思う。
「リーヌは?そういえばベリアちゃんの新聞見たよ!あんな事になってるなんて知らなかった…。今はリーヌのところにいるんでしょ?元気してる?」
「………。」
「…どうかしたの?」
私はロリアにこれまでの事を話した。ベリアの二年間を無かった事にしてしまったこと。補助金のことを隠してしまったこと。本音を言わずに浅はかな優しさで迎えてしまったこと。ベリアの気持ちをしっかり聞かなかったこと。そのことでベリアがナマイトダフに行ってしまったこと。全てを話した後、ロリアは真剣な顔つきで遠くを見ていた。
「そっか。ベリアちゃんも…。」
「うん。」
「難しいわね。私たちの思う優しさや幸せはあの二人にとっての苦痛にしかならない。どんなこと考えて、どんなこと感じてるのかは本人しか分からないんだわ。たとえ幼馴染でも従兄弟でも分からなくなるほど、あの二人が過ごした長い時間はあの二人の価値観を変えてしまったんだと思う。……落ち込むことないわよ!また元気になったら来てくれるわよ!…私の従兄弟は無いとしても、ベリアちゃんならきっと帰ってくるわよ。」
「ロリア…」
「ちょっ、何泣いてんの…。よしよし…」
私の背中を撫でるロリアの手は温かくて優しかった。ロリアはベリアが私に置いていってくれた優しさなのかもしれないと思うと、ベリアにまた会いたくなった。
その後はロリアの住所を聞いて連絡を取れるようにした。私たち一家も避難民移転届を出し終わり、何かに解放されたような、失ったような感覚をお腹の中にしまって家に帰った。
ーーー某所ーーー
「先程、ベリア・ハイヒブルックの避難民移転届が市役所に届いたそうです。」
「そうか。いよいよだな。」
「手元に置いておかなくても良いのですか?ワイルに何か起きれば…」
「今のままでは役立たずにすぎん。何も知らない口が余計なことを言うな。」
「も、申し訳ありません。」
白衣を着た謎の男は不敵な笑みを浮かべながらワイルを眺めていた。ワイルはその悠然たる姿を変えることなく、人類生き残りの国、リベフィラ國を見守っている。
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