同期とルームシェアしているつもりなのは、私だけだったようです。

橘ハルシ

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16、朝

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 目が覚めたら朝で、いつもと違うベッドにいた。

 ここ、どこよ?

 起き上がって辺りを見回す。視界がいつもより狭いことに気がついて、目が腫れていると気がつく。そういえば、昨日たくさん泣いたような。そこから怒涛のように昨夜までの記憶が蘇ってきた。

 クロードに求婚されて無理やりキスされて、ルキウスと恋人同士になって、それから。

 そろっと自分の状態を確認する。とりあえず、寝間着らしきものは着ている。でも、ここは私の部屋ではない。ということは、ルキウスのベッドか、これ。意外と広いの使ってたんだな。本棚と大きな机があるのは私の部屋と一緒だ。それに加えて私の部屋は床に物が散乱しているけども。さすが、彼の部屋は整理整頓されて、塵一つない。お互いの個室には入ったことがないから、ベッドの上に座ったまま、物珍しげにあちこち見ているとお腹が鳴った。夕飯食べてないもんね。

 それが聞こえたわけではないだろうが、扉が開いてルキウスが入ってきた。起き上がっている私を見て、目を瞬かせると、幸せそうな笑顔を浮かべつつ、照れた。

「おはよう、ラシェル。昨日はごめん。身体、大丈夫か?」

 相手の照れがうつって、私も赤くなる。顔がまともに見られないので、うつむいたまま首を縦に振る。本当は身体が重たくてだるい気がするけど、そんなこと言えるわけがない。恥ずかしすぎる。

「顔が見えないと寂しいから、こっち向いて?やっぱり、目、腫れてるな。」

 そう言いながら側に来た彼が顔を覗き込んで、眉をひそめる。私はぎゅっと目を閉じて羞恥をどこかに追いやって普段通りに振る舞おうと努めるのだが、直ぐにはできそうもない。

「そう照れられると、昨夜の繰り返しになりそうなんだが。朝ごはんできてるぞ?」

 それは困ると、慌てて目を開けて彼の顔を見る。笑顔が、眩しい。私の顔は腫れてひどいだろうけど、彼は爽やかな朝を迎えているようだ。

 さっさと、治そうと治癒魔術を自分にかけようとしたら、その手を掴まれ、代わりに両目にキスが落とされる。視界が元に戻ったと同時に、身体のだるさもなくなった。

 治癒魔術をかけるのに、キスは必要ではないと思うのだけど。

 非難の目で見上げれば、嬉しそうに両手を広げて待っている。なんだろ?と首を傾げたが、彼の態勢から、すぐに昨日の約束に思い至った。

『朝起きたら、抱きついてキスをして』

 いやー、こんな状況で?するの?無理じゃない?

 しかし、逃げたいと思っても扉は彼の向こう側だ。それに、頼まれて受けたことだし、さっさとやってしまおう。お腹も空いている。

 ベッドから降りて、違和感の正体を知る。今着ているの、ルキウスの寝間着の上着じゃないか。

 ぶかぶかで、袖もおばけみたいになってるよ、私。

 もう、やけくそになって、そのまま待っている彼の腕の中にえいっと飛び込んで抱きつく。

「おはよう、ルキウス。」

 ぎゅっと抱きしめ返される幸せを味わう。

 後はキスだけ、と顔を見たら、遠い。身長差がありすぎる。

「ルキウス、かがんで。」

 シャツを引っ張りながらいうと、にやけた顔が近づいてきたので、さっと頬にキスをして腕を抜け出し、逃げた。

「シャワーして着替えてくる!」

 赤い顔をなんとかしたくて、滝行のような勢いで冷たいシャワーを浴びる。当然、体が冷たくなるので、お湯に切り替えて温まる。私、何やっているんだろ。

 きゅっと水栓を閉めて、ぱっと手を振る。これで、お風呂の掃除も終わりだ。でも、魔力が少ない人は手で洗うのか。孤児院では私もそうしてたし、魔力節約のため、今度自力でやってみようかな・・・。

 普段気にせず使っていた魔力量について考えながら、制服の上下に着替える。

 なんだか、今日は行きたくないなあ。クロードに会う確率はすごく低いけど、とにかく会いたくない。復讐案もまだ考えていないし。

 ぐずぐずしていたら、がちゃっと扉が開けられてルキウスが覗いてきた。

「遅いから倒れてないか見に来た。お前、髪ちゃんと乾かせよ・・・。」

 言いながら魔術でさっと乾かしてくれる。これも日常なんだけど、魔術師でなければ非日常なことなんだよね。

 約束通り、いつもより豪華な朝ごはんがテーブルに並んでいる。具だくさんのスープに丸パンとオムレツ、サラダ。デザート付きなんてルキウス、朝から張り切ったな。今朝はさすがに残さずに食べる。
 食べながら、レオさんの話をしたら、彼も研究中は残量を気にしているから、今度やり方を教えてくれることになった。

「ルキウス、髪を結う時に術かけないで欲しいのだけど。」

 そうお願いしたら彼がブラシを構えたまま、固まった。
 
「え、なんで気づいた?」
「いや、まあ、なんかあるなとは思ってたよ。はっきり、知ったのは昨日クロードに言われたからだけど。」
「あいつ、どこまでも・・・許せん。」

 クロードが許せないのは同意だけど、他の人にまで迷惑がかかるなら止めて欲しい、と頼むと、
「それは、大丈夫だ、お前に悪意を持つやつと邪な気持ちを抱くやつにしか迷惑はかからないから。」
と嬉々として結い始めたので、
「待ってよ、男除け?は外してよ。」
と慌てて言う。すごく不満そうな気配が後ろから伝わって来たので、私の気持ちを言ってみる。

「せっかく貴方が可愛く結ってくれたのに、無理やり外されるのが嫌なのね。あと、こ、恋人になったからもういらないんじゃないかと思うんだけど?」

 彼の動きがまた、止まる。

 しばらく葛藤していたようだけど、渋々、了承してくれた。

「本当は恋人になったからこそ、掛けまくりたいんだが。まあ、彼女にそこまで可愛いことを言われたら、聞くしかないよな。解けたら解除される欠点を直さなかった俺が悪いんだし。わかった、髪にかけるのやめる。」

 そう言いながら、手早く結ってくれた。今日は初心に返ってみつあみアレンジらしい。仕上げにリボンを結ぶ気配に、昨日のリボンのことを思い出す。

「あっ、昨日のリボン落としたままだわ!でも、あそこに行きたくない・・・。」

 城内だし、クロードに会う確率が跳ね上がる。私のつぶやきにルキウスは低い声で答える。

「それ、これだろ。位置情報ついてるから今転移させた。似合ってたけど、夜露で濡れてるし、誰かに踏まれてるし、嫌なことを思い出すから、もう捨てる。」

 驚いた私は振り返って、彼が持っている物を見る。本当に、昨日着けていた白っぽいリボンがそこにあった。汚れてよれよれになって可哀相だ。

「それ、お気に入りだったんだけどな。」

 でも、確かに、見る度にあれを思い出すような気がする。そこからの流れも。それは結構厳しい。

「まあ、だいぶ傷んできていたしな。頃合いだろ。そうだ、似たような新しいリボン、今度の休みに一緒に買いに行くか?」
「行く。それは初デートの記念になるね。」
「……ずっと我慢してたのに、そう可愛いことばかり言わないでくれ。」

 何気なく言ったことだったが、彼の何かに触れてしまったらしい。

 そのまま深く口付けられ、魔術を掛けられる気配がする。

「術を掛けたね?」

 顔が離れた瞬間、責めるように見上げると、さっと目を逸らされた。そのまま見つめ続けると、早々に降参したらしく、ぼそぼそと言い訳をしてきた。

「本当は出勤前にしようと思ってたんだが、可愛すぎて、我慢がきかず。頼むから位置情報と保護だけは掛けさせてくれ。あと、クロード限定除けも。本当は全方位に男除け掛けたいのに我慢してるんだからそれくらいいいだろ。じゃなきゃ、俺はお前から離れられない。」

 さすがに全方位にされたら、私は歩く災厄になりかねない。クロード除けは今日は欲しかったから、まとめて了承した。

 その時、私の時計のアラームが鳴り出した。これが鳴るということは。

「大変、転移でもギリギリの時間だわ!」

慌てて二人でローブと鞄を掴んで、転移した。
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