【本編完結】私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。

橘ハルシ

文字の大きさ
4 / 57
第一章 イザベル 前編

4、父達の鼎談 前編

しおりを挟む

 翌日、城内のとある場所でギュンター・ヴェーザー伯爵は気合いを入れていた。
 
 よし、行くぞ。
 
 大きく深呼吸をしてからノックして扉を開く。
 
 なんだか薄暗い部屋だな。
 
 城内の執務室はどこも大きな窓があるので明るいはずなのに、そう思うのはこの部屋の主に対して良い思いを抱いてないからだろうか。
 
 「失礼します、ヴィスワ伯爵。」
 
 そう声を掛けながら奥の机へ視線を向ければ、そこに座る人物と目があった。
 その初老の少々肥り気味の男は明らかに迷惑そうな顔をしていたが、今日はそんなことくらいで引き下がるわけにはいかない。
 
 「ヴェーザー伯爵、何の用件だ?」
 「昨日文書でお伝えした娘のイザベルと貴方の息子のゲラルト殿の件です。」
 
 俺が来ることは分かってただろうが!と怒鳴りたいのをぐっと堪えて笑顔で答える。
 
 執務机に座ったままのヴィスワ伯爵に近づき、五十過ぎの白髪が多くなっている頭を見下ろす。
 
 ・・・俺も白髪が増えてきたし、十年経たずこうなるのかなあ。
 いや待て、それどころか禿げたらどうしよう。妻のアレクシアは『ハゲても愛してる』と言ってくれているが、娘達はどうだろう?
 ハゲたお父様とは一緒にいたくない、なんて言われたら・・・!
 
 突然、脳裏をよぎったその考えにうっかり打ちのめされて青ざめるギュンター。
 
 そんなことを考えているとはつゆ知らぬヴィスワ伯爵は、急に無言になった大男から漂うえも言われぬ気迫に耐えられなかったようで、ガタンと乱暴に立ち上がった。
 
 「ヴェーザー伯爵!婚約破棄はそちらから言い出したことだというのに、今更あんなゲラルトを貶めるような手紙を送ってきて、なんなんだね?!」
 
 指を突きつけられ、言われた内容に首をひねるギュンター。
 
 「何を仰っているのです?昨日ゲラルト殿がうちの娘に無理やり婚約破棄を迫るまで、こちらは何も知りませんでしたよ。」
 
 ヴィスワ伯爵の目がこぼれそうなほど見開かれた。
 
 「そんなはずはない!一ヶ月以上前にゲラルトが『イザベルに好きな相手が出来てしまったからお互い同意の元で解消する』と言ってそちらのサイン入りの婚約解消の書類を持ってきたんだからな。」
 
 今度はギュンターの目が見開かれた。
 
 一体何を言っているのだ、この人は。
 
 「そんなはずはありません!何故、その時にうちに問い合わせてくれなかったのです?」
 
 「ゲラルトが、『イザベルは悪くない。俺もアイツとは合わないと思ってたから解消したかったんだ。俺も結婚したい人が居るし。だから黙ってサインして欲しい。』と言うもんだから、つい。新しい相手が侯爵令嬢だったし。」
 
 ギュンターは悪知恵の回る息子にいいように使われている父親を黙って見つめた。
 
 末っ子で目に入れても痛くないほど溺愛していると噂で聞いていたが、これは酷いだろう。ゲラルトの言いなりじゃないか。
 
 イザベルがいいと言うならとこの婚約を認めはしたが、一抹の不安はあった。・・・本当に、アイツが婿に来なくてよかった。
 
 いい年をしたおじさんニ人が見つめ合い、沈黙が部屋に満ちる。
 
 
 「ということは、一ヶ月前に提出されたヴェーザー伯爵家長女とヴィスワ伯爵家三男の婚約解消届けは偽造、ということになりますね?」
 
 そこに降って湧いたように新たな男の声が入ってきた。
 
 「変だと思ったんですよね、イザベル嬢の婚約解消手続きが終わったら、続けて直ぐに次の婚約を認可して欲しいと頼んだはずなのに、その日のうちに手続き完了書類が上がってきたから。」
 
 数日はかかるはずだったのに。と続けられて驚いて扉の方を振り返ったニ人の目の先には、美麗な男が一人、立っていた。
 
 「困ったな、イザベル嬢の次の婚約は昨日陛下の認可を受けちゃったんですよねえ。ギュンター殿さえよければ、この場で昨日の日付に書き直して通すこともできますけどどうします?ううん、文書偽造は重罪だから、やっぱりやった本人をきちんと罰しないといけませんかね。」
 
 その男は口では困ったと言いつつ、顔には貼り付けたような万人向けの笑顔を湛えてニ人に近づいてきた。
  
 ギュンターより少し低い背丈でスラリとした身体つきの、昨日の誰かを彷彿とさせる淡い金の髪と顔・・・。
 
 「え?ハーフェルト公爵閣下が何故此処に?!」
 
 隣のヴィスワ伯爵が声に出し、ギュンターは同じことを心の中で叫んだ。
 
 「ノックしたのですが、返事がなくて大声で言い合う声が聞こえたので何事かと思って勝手に入ってしまいました。」
 
 すみませんね、といいつつ全く悪いと思ってない顔のハーフェルト公爵。もちろん、イザベルの新婚約者パットの父である。
 
 娘の新旧婚約者の父親と一室に会することになったギュンターは一瞬、気が遠くなった。
 
 旧婚約者側のヴィスワ伯爵はそれなりに威厳のある頑固親父だと思っていたら実は子供の言いなりだし、ハーフェルト公爵に至っては城内では恐ろしい、の一言しかない。
 
 一対一でも面倒なのに、なんでニ人同時なんだ。公爵閣下は特に今は帰ってくれたほうがありがたいんだけど・・・。
 
 という、ギュンターの心の声が聞こえるわけもなく、ハーフェルト公爵はそのまま隣に来て二人の顔を交互に見てきた。
 
 「お取り込み中、失礼いたします。私の話も今お二人が話されていたことと関係がありますので、このまま参加させていただいてもよろしいですか?ヴィスワ伯爵、ギュンター殿。」
 「「ええ、もちろん。」」
 
 公爵は尋ねる体で言っているものの、拒否はできないことを二人はわかっていた。
 誰がこの貴族最高権力者の機嫌を損ねたいと思うだろうか。
 
 それに加えてギュンターは、いつも仕事中は役職名か爵位で呼ぶはずの彼が、わざわざ自分だけを名前で呼んだことに背すじがゾッとした。
 
 基本的に身内以外への情がない人なので、そういう態度をとるということは、何か意味があるはずで。
 
 ギュンターは密かに深呼吸をしてから口を開いた。
 
 「・・・ハーフェルト公爵閣下はどこからお聞きになりました?こちらは急ぎませんので、閣下のお話を先になさってはいかがでしょう?」
 「いえいえ、無理言って割り込んだのはこちらですから、私の方は後で結構です。そうですね、どこから聞いたかな?えーっと、ゲラルト殿を貶める書状をギュンター殿がヴィスワ伯爵に送ったとか。」
 
 それは、一番最初の会話じゃないか!公爵、貴方ノックしてないでしょう?!したとしてもわざと聞こえないようにしてそっと入ってきて、我々の会話をその食えない笑顔を浮かべて聞いてたんでしょう?!
 
 城の第一騎士団長の職にある俺にすら気配を悟らせずに入ってくるとか、相変わらずどうなってるんだ、この男は!
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...