【本編完結】私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。

橘ハルシ

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第二章 ノア

21、初デートの定番とは

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 「ノア」
 「ク、ク、クラ・・・無理です!不敬罪で捕まりたくありません!」
 
 デート中のお互いの呼び方を練習させられるも、我が家の没落がチラついて全く出来ない。
 
 既にウキウキと私を呼び捨てにしている王子は、私が呼べないことがとても不思議らしい。
 
 だが、子爵令嬢が王族を呼び捨てになどしたら、直ぐに捕まって牢に放り込まれそうだ。
 
 「ノア、僕が良いって言ってるのだから、不敬罪にはならないよ?」
 
 そんなこと言われても騙されるものか、この世で口約束ほどあてにならないものはない。と思ったところで閃いた。
 
 私はおもむろに鞄から紙とペンを取り出し、王子に差し出す。
 
 「では、その旨をここに一筆書いてください。『王子を呼び捨てしても不敬罪に問わない』と。」
 
 王子は真剣な私と手元の紙とペンを交互に見た後、爆笑した。
 
 「あっはっは!いいよ、それだけで呼んでくれるなら喜んで書こう。」
 
 王子がきっちりサインまでするのを確認してから受け取った私は、笑顔で彼を呼び捨てた。
 
 「では、クラウス。今日はよろしく頼む。」
 「なるほど、こうすれば君は動いてくれるんだね。」
 「何でもは無理だけどね。口約束は信用できない質なんだ。」
 「慎重なのは良いことだ。そして僕は一生君とこのままフラットな会話を続けたいと思う。というわけでさっきの紙に無期限で、と書いておいたからよろしくね、ノア。」
 「はい?」
 
 慌てて手の中の紙をよく読めば、米粒のような字で確かに『無期限で』と記されていた。
 
 いつの間に?!この王子、本当に食えない!
 
 「いつまでも君に敬われていたんじゃイザベル嬢の位置に行けないから、先ずは会話から、だよ。」
 「え、私?」
 
 いきなり会話で自分の名が出たイザベルが動揺した。
 
 「クラウス兄さんは、イザベルと同じくらいノア姉さんと仲良くなりたいんだって。」
 
 すかさず婚約者を落ち着かせて、どさくさに紛れて手を握っているパトリック殿に感心する。
 
 この子は確かにクラウスの血縁だ。しかもすっかり設定に馴染んでいる。役者だ。
 
 「そっか、そうだったわね。じゃあ、最初にぬいぐるみ店に行きましょうか。」
 「了解。クラウス兄さん達もそれでいいかな?」
 
 イザベルの希望ならと私が頷き、私がいいならとクラウスも了承した。
 
 ■■
 
 「どう?!かわいいでしょ?ぬいぐるみのカスタマイズパーツは、このお店が一番品揃えがいいの!」
 
 イザベルに連れて行かれた先は大きなぬいぐるみ店で、私は天井までぎっしりと詰まった様々なぬいぐるみ達に圧倒された。
 
 昨今、ぬいぐるみは子供の玩具だけでなく、記念の品としても重宝されている。
 そういえば、友人や恋人同士でお揃いのぬいぐるみを持つことも定番なのだっけ。
 
 大興奮のイザベルに私もつい笑みが浮かぶ。デートで連れてきた店でこんなに喜んでくれたら、パトリック殿もさぞ嬉しかろう。
 
 二人でお揃いのものを買うのだろうと、一歩下がって見守る体勢を整えたところで、ふと記憶を探る。
 
 ん?でも随分前にイザベルはパトリック殿とお揃いだと言って手のひら大の犬のぬいぐるみを鞄につけていたような?
 
 「パット、そろそろ寒くなってきたし、ふわふわのマフラーを着せない?」
 
 鞄に下げているお互いの髪の色の犬に、お揃いの白いマフラーを当ててイザベルがパトリック殿に相談している。
 
 なるほど、こうやって小物を増やしていくのか。上手い商売方法だな。
 
 何かの参考になるかも、と他の客の様子も眺める。
 男性女性の組み合わせよりも女性同士の方が若干多いようだ。皆手に小さなぬいぐるみを持ってあれこれ小物類を選んでいる。
 
 ・・・私もイザベルとお揃いのぬいぐるみが欲しい、と言ったらダメだろうか。
 
 どれにするか考えるだけならいいだろう、とぬいぐるみの棚の方へ視線を移せば、背の高い後ろ姿だけで目を惹かれるような男性がいた。
 
 彼はどうやら一人でぬいぐるみを選んでいるらしい。やたら熱心に見ているなと観察したところで、はたと気がついた。
 
 あれは私の連れではないか!彼は一体何をそんなに真剣に見ているのだ。
 
 そっと背後に移動して覗きこめば、クラウスは両手に黒いクマのぬいぐるみを持って真面目な顔で見比べていた。
 
 ・・・黒い、クマ?
 
 「あ、ノア。どっちのクマがかわいいと思う?」
 「え、こっち、かな・・・?」
 
 いきなりぱっと振り返って尋ねられ、思わずやや丸っこい方を指差す。
 
 「うーん、だけど君は細いし似てるのはこっちな気がする・・・」
 
 その台詞にカッと顔が熱くなる。彼は私に似ているぬいぐるみを探しているのか?!
 言われてみれば、黒は私の髪と目の色だ。ということは、彼はお互いの色のぬいぐるみを持とうとしているのか?!
 
 そうか、イザベルが最初に此処に行こうと言ったのはそういうことだったのか・・・遠回しすぎる気もするけど、彼女なりのクラウスへのアシストだったのだろうな。
 
 とくれば、私はイザベルとのお揃いよりもこちらを優先せねばならないだろう。
 
 内心でため息をついてぬいぐるみの群れに目をやる。色とりどり、種族様々すぎて、どれを選んでいいやら分からない。
 
 クラウスは何故、クマにしたのだろうか?
 
 私は横で瞬きを忘れてクマを見つめている彼を眺めた。
 
 「クラウス、クマを選んだ理由は?」
 「え、ぬいぐるみといえばクマじゃない?」
 
 ぼそっと尋ねてみれば、なんとも単純明快な答えが返ってきた。
 
 まあ、確かに私もぬいぐるみといえばクマを連想するな。
 
 「うん、やっぱり君が選んでくれた方にするよ。ノアは緑と赤、どっちのクマにする?」
 
 既に選ばれ、クラウスの腕に下げられた籐製の籠に入っていたそれぞれの色のクマが、私の前に差し出された。
 
 緑は彼の目、赤は髪の色。どちらも可愛らしいが・・・。
 
 「これを買ってどうするんだ・・・?」
 「え。だって、僕達は婚約者同士でしょ?!お互いの色のぬいぐるみを持たなきゃ!」
 
 城住まい城勤めの王子が、この可愛らしいぬいぐるみを何処につけるのかと疑問に思っただけなのに、クラウスはとてつもなく心外なことを言われたとばかりに傷ついた顔を作ってみせた。
 
 その表情は大袈裟すぎるとしても、多分私が言ったことに彼がショックを受けたのは本当だろう。
 
 私は面倒くさがりで言葉が足りないと、兄によく注意される。直そうと心掛けてはいるのだが、まだまだのようだ。
 
 「いや。私は鞄につけられるけど、貴方はどうするのかと思っただけだ。その、普段は鞄など持ち歩かないだろう?」
 
 クラウスは瞬時に笑顔になって手の中の黒いクマを愛おしそうに見つめた。
 
 「そんなの決まってるよ。いつでも何処でも肌身はなさず連れ歩く・・・」
 「絶対!買わせない!却下だ!」
 
 皆まで言わせず、即反対した私に周囲からの視線が突き刺さった。
 
 しまった!ここは連れ歩く派が多数だったのか!
 でも、私は彼が私の代わりにクマを持ち歩くかと思うとゾッとするんだ!
 
 でもこれ以上、下手なことを言うと他の客全員を敵に回すかもしれない。私はどうすればいいか分からず、口を噤んだ。
 
 困惑する私の頭にぽん、と大きな手が優しく置かれてクラウスが耳元で囁いた。
 
 「分かった。このぬいぐるみは机に飾っておくよ。それならいいでしょ?間違っても君の代わりに抱きしめたりベッドに持ち込んだりしない。それは君自身だけで行うと約束する。」
 
 ・・・なんて返事のし辛い内容なんだ。
 だけど確かに私の代わりにぬいぐるみにアレコレされるのは不快だし、私自身については断ればいいだけではないかと結論づけ、了承した。
 
 大人しく頷いた私へ笑顔のクラウスから再度緑と赤のクマが差し出さた。私はしばらく考えた後、赤を手にとった。
 
 ・・・彼は赤い髪の印象が強いから、な。
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