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第二章 ノア
22、お揃い
しおりを挟む続けて二人でクマに着せるセーターを選ぶ。私は迷わず深い緑を手にとってしまい、はっとクラウスを見上げた。
案の定、彼の顔は喜びに満ちていた。
気まず過ぎてもう一枚同じ色のセーターを取り、彼の手に押し付ける。
「黒に黒は地味すぎるので、お揃いでこれにしてください。」
「そう?僕はそう思わないけれど。黒に黒はかっこいいよ。でも、君がお揃いをって言ってくれたのは嬉しいから緑も買うね。」
鼻歌でも歌い出しそうな機嫌の良さで彼は緑と黒、両方のセーターを持って会計へ行く。
私も後を追い、列に並んで財布を取り出す。
最近使ってなかったから、このぬいぐるみは溜まっていたお小遣いでなんとか買えそうだ。後はクレープを食べたらもう残らないだろう。イザベルとのお揃いは諦めるしかない。
せっかく来たのに残念だな、と思いつつ包んでもらったぬいぐるみとセーターを持ち、店の外へ出た。
先に買い物を済ませて待っていてくれたイザベル達に合流して直ぐ、クラウスが私とイザベルにそれぞれ小さな包みを渡してくれた。
「今日の記念に二人へ僕からプレゼント。」
「クラウスさん、開けてもいいですか?」
「もちろん。」
許可を得たイザベルと共に私も開けてみれば、中には小さな金のチャームが入っていた。
指先くらいの大きさの三日月を象った繊細なデザインで、星をイメージした黄色い宝石がぶら下がっている。これは、トパーズか?
「わあ、かわいい。今チャームをぬいぐるみと一緒に着けるのが流行ってるのよね。あっノアとお揃いだわ!ありがとうございます!大事にします!」
私の手元を覗き込んで大喜びしたイザベルの言葉に私は戸惑った。
イザベルとお揃い?
隣のクラウスを見上げれば、ふわりと微笑まれた。
「クマを僕から君へのプレゼントにしたかったけど、君に断られそうな気がしたから、こっちにした。イザベル嬢とお揃いなら使ってくれるかなと思って。」
これで、私は降参した。本当はきっとずっと前から分かっていたけれど、彼には全く勝てないと悟った。
悔しいけれど、イザベルとお揃いは本当に嬉しかったので彼の袖を引いて小さな声で礼を言う。
「ありがとう、クラウス。すごく、嬉しい。」
「・・・よかった!僕も君に喜んでもらえてすごく、嬉しい。」
彼は軽く目を見開いた後、ぱっと笑顔を咲かせた。
だが、その後続けて手を差し出してきた彼の意図が分からず、私は無言でその手と彼の顔の間に視線を往復させた。
「手、繋ごう?」
「な、何で?!嫌だ!」
笑顔で当然のように告げた彼に私は飛び上がって全力で首を振る。
「でも、此処は人が多いから迷子になるかもしれないし、ほら、パット達も繋いでるよ?」
見ればイザベル達は本当に自然に手を繋いで先を歩いていた。
いや、でも彼等の場合は姉弟にしか見えないけど、私とクラウスが繋げばぱっと見、男同士になるのでは・・・。
断固拒否!と顔に書いてクラウスを見上げれば、彼は意地悪そうな目になって口の端をつり上げた。
「君が迷子になったら、『僕の大事な婚約者のノア』って大声で連呼して探すけど、良い?」
それも嫌だ!
私は瞬時に周囲の人の多さを確認し、自分がよく知らないこの街で迷子になる可能性の高さを計算してから、無表情でクラウスの手に自分の手を乗せた。
「人が多い所を抜けたら離す!」
「何言ってるの、エルベじゃこのくらいの人出は少ない方だよ?広場に近付けばもっと増えるさ。」
「え、平日なのに?!」
「祭りの時はもっとぎゅうぎゅうでしょ?ということで、今日僕と君は最後までこのままってことだね。」
「やっぱり手を離して歩く!」
「ははっ、もう遅いよ。」
叫ぶ私を引きずってクラウスはイザベル達に早足で追いついて行った。
■■
家族以外の男性と手を繋いだのは初めてだったので、どこまで密着が許されるのか、握り返す力をどれくらいにすればいいのか分からず、妙な力が入ってしまい、コートを着るというこの季節に変な汗をかいてしまった。
「もう無理だ、今すぐ帰りたい。」
「ノア、大丈夫?あんなに緊張してる貴方は初めて見たわ。」
広場のベンチに座るやいなや、私はイザベルに泣き言を漏らした。イザベルがヨシヨシと肩を抱いて慰めてくれるが、どうもこの状況を楽しんでいるように思える。
いつもと逆になっているからだろうか?
クラウスとパトリック殿はクレープの行列に並んでくれている。
私は一緒に並ぶつもりだったのだが、イザベルとパトリック殿はさっと座る場所を確保する方と並ぶ方に分かれたので、私達もそれに習ったのだ。
座って待っている方が楽してるけどいいのか、とイザベルに聞けば、さらりと『ノアが思っているより彼等の体力は多いから私達は大人しくここにいる方がいいのよ』と教えられた。
そんなものかと納得して疲れ切った身体を休めている私に、イザベルがワクワクと話し掛けてきた。
「で、クラウス殿下とのデートはどう?!」
「どう、と言われても・・・よく知らない男の人と一緒に行動するのは慣れなくて緊張する。」
「よく知って慣れるためにデートするのよ!でも、二人でぬいぐるみを選んでいる時は楽しそうに見えたけど?貴方、こういうの大好きだものね。」
む。イザベルにはそう見えていたのか。彼女の言う通り、私はこういう雑貨が大好きだ。コツコツ集めた物が自室のあちこちに飾ってある。
将来持つ店には雑貨コーナーを作るつもりだった。
「そりゃ、私はこういうの好きだから。でも、男の人と買い物はハードルが高かった。」
「ええ?だって付き合い始めたら先ずはお揃いのぬいぐるみを持つでしょう?」
「イザベル、何度も言うけど、付き合ってないから。」
我々の婚約と想い合っている恋人同士のおつき合いとは全く違う。
「でも、結局お揃いのぬいぐるみを買ったのよね?どんなのにしたのか、見せてー!」
イザベルが嬉しそうにねだってきた。私とこういう話をするのが楽しくてしょうがないらしい。
どうせ鞄につけるから明日には見られるのにな、と思いつつ私は鞄からぬいぐるみの包みを出して膝の上で開いた。
「あ、一番人気のクマにしたのね。殿下の髪色ね。それと目の色のセーターかあ、いいな。」
「そろそろ寒くなるからとクラウスが決めたんだ。イザベル達はマフラーを見ていたが買ったのか?」
「もちろん!たくさん種類があってとっても迷ったわ。」
これ以上は照れくさくてイザベルへ話を向ければ、彼女もいそいそと自分の包みを出して見せてくれた。
私が見ていた時のものとは違って、赤地に白で雪の結晶の柄が入った毛糸のマフラーが出てきた。
小さいのに作りは丁寧で本物そっくりだ。それが人気の理由なんだろうな。
私も自分のクマのセーターを摘んで引っ張ってみた。思っていた以上に丈夫だ。
イザベルの方を見れば、早速淡い金色の犬の首にマフラーを巻いていた。
私も赤いクマを手にとってセーターを着せてみた。紐の部分にクラウスからもらった月のチャームを着けて目の高さまで上げてみる。
「ノア、お揃いね!」
私のクマの横に、灰色のチョッキを着て先程のマフラーを巻いた犬が並ぶ。二体とも同じ金のチャームが付いて光っている。
私はなんだかとても幸せな気分になった。
それで、ぬいぐるみ達を眺めながら、とんっとイザベルの肩に頭を預けた。
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