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第一章

いつか

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 ざぶ、ざぶと、波の音だけが聞こえる。
ここは高校の近くの海。
砂浜が綺麗で、透明度の高い海水。意外と有名な海岸。
その砂浜に私は座っている。
夕立。真上の空は橙色だが、遥か遠くに見える、水平線の少し上の所は紫がかっている。

「夕日、綺麗だな…」

静かに言う。何だか時間がゆっくりと流れているような気がする。
今日は暇だから、暇潰しに海に来たのだ。

「…そろそろ帰らないと…」

暗くなっていくのが分かった。遅く帰ると母に怒られる。
私は急いで帰って行った。
そして、帰っている時。
海岸を歩いていれば、必ず富椿高校が目に入る。
夜だというのに、校舎の窓が開いているのが分かった。
その窓の縁に、誰かが座っている。
髪が長い。背が高そうだ。
…まさに、美女。

(何故今校内に…)

私は不思議に思いながらも、走って帰って行った。

 その翌日。もう4月が終わろうとしている。
ーーこうやって私が生きられる時間も少なくなっていくんだな。
こうして時が経つにつれて、ネガティブな発想が私を飲み込んでゆく。

(あー、ダメダメ。こんな悲しい考え方しちゃ。)

一度脳内をリセットする。

(生きている1秒1秒を大切にしなくちゃ…)

ネガティブではなく、ポジティブに。
よく母に言われていた。いつの間にかそれが私に定着していた。

 今日は優は来ていた。

「あ、優!大丈夫だった?」

昨日見舞った時は調子が悪そうで、強く咳き込んでいた。今日はマスクをしている。

「うん、大丈夫だよ。まだちょっと咳が出るけど…」

声が少し変だ。

「お大事にね」

私の癖の、「辛そうな人を見ると耐えられない」というのが露骨に出ていようだ。

 そして、その日の放課後。私は夕日が差す教室で1人、ノートを書いていた。

(早く書き終わらないと…)

と思いながら急いで手を動かしていたら、急に教室の扉が開き、誰かが入って来た。

「先輩…!」

それは、青芽先輩だった。

「やあ、木青。帰らないのかい?」
「先輩こそ、もう5時になりますよ。私もこれを書き終わったら帰るつもりですが…」

夕日がだんだんと西に落ちていく。もう校内に生徒は全く居ない。

「大丈夫だ。僕は生徒会副会長だから、生徒会の仕事で遅く帰っても良い事になっている」

先輩は生徒会副会長なのか。私はまだ生徒会長も知らない。

「そうなんですか…」
「今日は君に用があって来たんだ」

先輩が切り出した。先輩は私の元に歩いて来て、前の席に座った。

「用…?」
「そうだ。話せば長くなるのだが」

私は無意識のうちに書いていた手を止めていた。

「今日、うちのクラスの女子から悩み事を聞かされたんだ」
「悩み事…」

先輩は様々な人から好かれているようだ。

「飼い猫が居なくなったらしい」
「え…」

悩み事って…そういう事?

「名前はモコ。小さめの三毛猫で、腹に傷があるらしい」
「……」

何だかだんだん嫌な予感がしてくる。

「その猫探しを頼まれたんだ」
「えーっ…」

 その嫌な予感は当たっていた。

 何故先輩に猫探しを頼むのか。猫を脱走させたようなその飼い主が悪いのに。

「何故先輩に猫探しを頼むんですか。猫を脱走させたようなその飼い主が悪いのに」

 言い終わってから、はっとする。
どうやら思っていた事がそのまま口に出ていたようだ。

「す、すみません、いつもの癖で…」

 優にもよく言われる。

「はは。大丈夫だよ」

 先輩は誤魔化してくれた。良かった…

「何故猫探しを頼むのか。それはね…」

 机に肘をつき、笑いながら言う。

 「僕が、探偵だからだ。」

 (探偵…)

 これは心の底の本音だが、先輩は一体何なのか。1年後に死ぬ約束だったり、探偵だったり。

「え…探偵って…」
「探偵、というより、探偵助手と言った方がいいかな。これも話せば長くなるんだけど」

 先輩の人生は何だか複雑だ。

「僕の死ぬ約束をまとめてくれた探偵さんだよ。うちの遠縁の親族らしい。」
「その人の名前は…?」
殻釘 霾徒からくぎ はいと
「からくぎ、はいと?」
「ああ。少し変な名前だけど、優秀な探偵さん。その探偵さんに、僕は頭が切れる、探偵としての才能がある。て言われたのをその女子に話したら、猫探しをお願いされたんだ」
「そうなんですか…」

 先輩は頭がとてもいいのか。その探偵さんにもいつか会ってみたいな…。

「本来なら僕1人で解決する筈なのだが、情報が不十分なんだよ。だからーー」

 真剣な顔になり、じっと私の目を見てくる。

「君に、手伝ってほしいんだ」

 いつもの私なら、こんなお願い普通に断っている。だけど、今回は違う。先輩からのお願いだ。だったらーー受けるしかない。

「分かりました。やります」

 私も先輩と同じように、真剣な顔になる。

「…ありがとう。では一度、僕の家に行こう」
「あ、だったら、お母さんに言いに行かなきゃ…」

あまり遅くに帰ると、母が心配する。

「携帯電話、持ってないの?」
「はい」

 母は多額の借金を背負っている。携帯電話を買う程のお金が無い。

「じゃあ、一度君の家に行って断りを入れてから…」
「えっえっ」
「大丈夫、僕は外で待っているから」
「…ありがとうございます」

 そう言った後、私と先輩は教室を出て行った。

 (いつか、先輩と恋に落ちたい。いや、絶対に。絶対に、先輩との恋を成立させるぞーー。)
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