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第二章 消えた金庫
風は 壱
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清少納言と十六夜は、診察室へと向かいながら、『患者』について話していた。
「で、その、患者なんだけど」
「うん」
「名は、森林竹雄という」
「何だか森に住んでいそうな名前ね」
早速小納言がツッコミ…の様な言葉を口に出す。
「その森林さんが、ちょっとした事故に遭っちゃってね。左脚と顔に大怪我を負ったんだよ」
「其れはまた…酷い」
いつの間にか、2人は診察室の前に来ていた。
「まあ、見て聞いた方が早いよ」
そう言って、十六夜は診察室のドアをガラッと開けた。
奥のベッドに1人、30代に見える大柄な男が寝ていた。
男は小納言たちに気付くと、むくりと起き上がった。
「む…十六夜くんか。横にいるのは……」
小納言ははっとした。
この小納言の服装…十二単や、平安時代の女性の化粧された顔からすれば、絶対に…絶対に、どんな人かと疑われる筈だ。
「あぁ…えっと、その…」
「この人、平安時代が大好きで、特に清少納言が好きで、好きすぎてコスプレしてしまうぐらいなんです。気にしないで下さい。名前は…小林三津子です。助手みたいな事をやってます」
小納言を庇うように、十六夜が咄嗟に言う。偽名も使って。
「は、はぁ…そうか」
小納言がふうと息を吹く。
「えっと、じゃあ、小林さんの為に、自己紹介。俺の名前は、森林竹雄。もう結婚していて、息子が1人いる。建築家をやっている。前に間違って階段から落ちてしまってね。脚を折ってしまったんだよ。それを十六夜くんに治してもらったんだよ」
「そ、そうなんですか…」
森林が一通り話終えると、次は十六夜が話し出した。
「…何か、悩み事があるんですよね」
十六夜に課せられた、患者の悩みを解決するという使命。何故そんな事をするのかはよく分かっていないが、小納言がそれを手伝うことになっている。
「…あぁ、確かに俺には今、悩みがある。長くなるが、聞いてくれるか」
「はい」
十六夜に代わって、小納言が返事をする。
十六夜は、うっすらと笑みを浮かべた。
「…それは、1ヶ月前の事だ。俺は夜の6時頃、母と息子が待っている自宅へ帰った。母と息子は、先に夜ご飯を食べていた。俺はそれを見て、平和だと思った。だが、この後、その平和は消え、悲劇が訪れる」
「悲劇…」
小納言が怖そうに眉を上げる。
「その日の夜。まあ、明確な時間は分かっていないのだが。事件が起きたんだ。俺が翌朝目覚めると、家の中は滅茶苦茶に荒らされていた。強盗でも入ったのかと思い、家の金庫を見てみた。案の定、予想通りだった。」
「金庫がこじ開けられていたりしたんですか?」
「いや、違う…金庫ごと、奪われていたんだ」
「金庫ごと…?開けられないんじゃ…」
「まあ、そうだな。だが家には、もっと信じられない事があったんだよ。俺はそれまででも充分驚愕したが、その驚愕を抑え、寝室にいる妻と息子のところへ向かった。妻と息子は、怪我をしていた。息子は胸に、妻は両脚に。息子の方は結構深い傷で、息子の身体は血だらけだった。その現実に耐えきれなかったのか、そこから先の記憶はあまり無い。気付けば、十六夜くんの病院の前で、横たわっていたんだ。もう、脚は骨折していた」
「うわわ…」
小納言が開いた口を手で塞ぐ。頭の中では「信じられない」と思っているに違いない。
「その時何故、骨折している脚をみて、階段から落ちたと思ったんですか?」
十六夜が聞いた。
「ああ、それは、何だか、それだけは記憶があったんだよ。階段から落ちたという、記憶がね。」
「…そうですか」
すると十六夜は立ち上がった。
小納言の方を向き、言った。
「じゃあ、最初の仕事として、この森林さんの悩みを解決するのを、手伝ってもらいます!小納言」
「分かった。やろう」
そう言った小納言の目は、輝いていた。
初めて此処…東京に来た時の目とは違って。
「で、その、患者なんだけど」
「うん」
「名は、森林竹雄という」
「何だか森に住んでいそうな名前ね」
早速小納言がツッコミ…の様な言葉を口に出す。
「その森林さんが、ちょっとした事故に遭っちゃってね。左脚と顔に大怪我を負ったんだよ」
「其れはまた…酷い」
いつの間にか、2人は診察室の前に来ていた。
「まあ、見て聞いた方が早いよ」
そう言って、十六夜は診察室のドアをガラッと開けた。
奥のベッドに1人、30代に見える大柄な男が寝ていた。
男は小納言たちに気付くと、むくりと起き上がった。
「む…十六夜くんか。横にいるのは……」
小納言ははっとした。
この小納言の服装…十二単や、平安時代の女性の化粧された顔からすれば、絶対に…絶対に、どんな人かと疑われる筈だ。
「あぁ…えっと、その…」
「この人、平安時代が大好きで、特に清少納言が好きで、好きすぎてコスプレしてしまうぐらいなんです。気にしないで下さい。名前は…小林三津子です。助手みたいな事をやってます」
小納言を庇うように、十六夜が咄嗟に言う。偽名も使って。
「は、はぁ…そうか」
小納言がふうと息を吹く。
「えっと、じゃあ、小林さんの為に、自己紹介。俺の名前は、森林竹雄。もう結婚していて、息子が1人いる。建築家をやっている。前に間違って階段から落ちてしまってね。脚を折ってしまったんだよ。それを十六夜くんに治してもらったんだよ」
「そ、そうなんですか…」
森林が一通り話終えると、次は十六夜が話し出した。
「…何か、悩み事があるんですよね」
十六夜に課せられた、患者の悩みを解決するという使命。何故そんな事をするのかはよく分かっていないが、小納言がそれを手伝うことになっている。
「…あぁ、確かに俺には今、悩みがある。長くなるが、聞いてくれるか」
「はい」
十六夜に代わって、小納言が返事をする。
十六夜は、うっすらと笑みを浮かべた。
「…それは、1ヶ月前の事だ。俺は夜の6時頃、母と息子が待っている自宅へ帰った。母と息子は、先に夜ご飯を食べていた。俺はそれを見て、平和だと思った。だが、この後、その平和は消え、悲劇が訪れる」
「悲劇…」
小納言が怖そうに眉を上げる。
「その日の夜。まあ、明確な時間は分かっていないのだが。事件が起きたんだ。俺が翌朝目覚めると、家の中は滅茶苦茶に荒らされていた。強盗でも入ったのかと思い、家の金庫を見てみた。案の定、予想通りだった。」
「金庫がこじ開けられていたりしたんですか?」
「いや、違う…金庫ごと、奪われていたんだ」
「金庫ごと…?開けられないんじゃ…」
「まあ、そうだな。だが家には、もっと信じられない事があったんだよ。俺はそれまででも充分驚愕したが、その驚愕を抑え、寝室にいる妻と息子のところへ向かった。妻と息子は、怪我をしていた。息子は胸に、妻は両脚に。息子の方は結構深い傷で、息子の身体は血だらけだった。その現実に耐えきれなかったのか、そこから先の記憶はあまり無い。気付けば、十六夜くんの病院の前で、横たわっていたんだ。もう、脚は骨折していた」
「うわわ…」
小納言が開いた口を手で塞ぐ。頭の中では「信じられない」と思っているに違いない。
「その時何故、骨折している脚をみて、階段から落ちたと思ったんですか?」
十六夜が聞いた。
「ああ、それは、何だか、それだけは記憶があったんだよ。階段から落ちたという、記憶がね。」
「…そうですか」
すると十六夜は立ち上がった。
小納言の方を向き、言った。
「じゃあ、最初の仕事として、この森林さんの悩みを解決するのを、手伝ってもらいます!小納言」
「分かった。やろう」
そう言った小納言の目は、輝いていた。
初めて此処…東京に来た時の目とは違って。
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