こんな三角関係は嫌だ

zoubutsu

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 ーパスッ
 綺麗な弧を描いて、バスケットボールがゴールに入る。

 「あー、やってらんねえー!」
 男子生徒が、コートに座り込んだ。
 「さっきからさー、レオとリュウしかゴール決めてねえじゃん。もう二人でやれよー。」

 「いや、俺は…」
 ボールを持ったまま、レオは困り果てて曖昧に笑った。
 ある程度人付き合いをしておかなければというくらいの気持ちで、放課後の遊びに加わっていたのに、目立って反感を買うなど、本末転倒だ。

 「逃げんのかよ?」
 帰ろうと思ったレオを止めたのは、リュウだった。

 「…なんだと?」
 「勝てる自信が無いなら、敵前逃亡すればいい。」
 「…」
 「違うって言うなら、コートに上がれよ。」
 「…俺も少しお前に、思い知らせておかなければいけないと思っていた所だ。来いよ。」

 ボールの奪い合いが続き、リュウが先制点を入れた。
 「何を思い知らせるって?」
 口の端を上げて、リュウが笑ってレオを見る。

 「…昨日の事だ。」
 「昨日?」
 「昨日、バスルームでアオと二人きりで何をやってたんだ?」
 「あ?ああ。ははっ。」
 リュウはさも可笑しそうに、レオに嘲るような視線をくれて、笑った。
 「気になる?」
 リュウがレオの耳元に口を寄せ囁く。
 レオが、眉根を寄せ厳しい目でリュウを睨む。
 「おお。怖い。そんな顔すんなよ。本当、アオの事となると、余裕ないよな、お前。言った通りだ。別に何もしてねえよ。まだ、な?」
 「…」
 「それとも、何か?俺が羨ましかった?裸でアオと二人きりになって。お前もやりゃあいいだろ。同じ家に住んでんだし。ああ、そうか。自信が無いのか。」
 リュウは喉で嘲笑うと、バスケットボールを手に取った。
 「さ、そろそろやるぞ。」

 「誰が自信が無いって?」
 その直後、ギャラリーから黄色い声が上がる。
 レオが、シャツを脱ぎ捨て、上半身を顕にしていた。
 「お前…」
 あんなに目立つのを嫌っていたレオが。
 リュウは舌打ちした。

 「自信が無いのはお前の方じゃないのか?」
 レオが泰然として、リュウを見据える。
 リュウは奥歯を噛み締めた。
 負けている。
 何もかも。
 だが。
 またもや、ギャラリーから黄色い声が上がった。

 「へえ…」
 リュウがシャツを脱ぐのを見て、レオがさも意外そうに、片眉を上げる。

 リュウは、内心臍を噛む。
 自分がそれなりに優れているのは分かっているが、レオには、今一歩及ばない。
 何より腹が立つのは。

 レオが俺を歯牙にもかけないことだ。

 リュウはバスケットボールを操り、レオを睨む。
 レオの余裕綽々な顔を突き崩してやりたい。
 レオの弱みなど…
 「アオを俺に取られたら悔しい?」
 「ー!」
 レオが動揺して、ボールを取り落とす。
 他愛もない。
 リュウはボールを奪い、嘲笑う。
 「もし…もしも、アオがリュウを選ぶっていうなら、俺は…」
 「大人しく身を引くって?」
 「大人しく出来るかどうか分からない。だが、俺はアオの幸せを…」
 「お前、温いんだよ。」
 右へ左へ、ディフェンスをかいくぐりながら、相手を見据える。
 「女なんて、すぐ流される。一回やっちまえば、案外絆されるかもしれないぜ?」
 リュウは一瞬レオの姿を見失った。
 次の瞬間には、レオがゴールを決めていた。
 バスケットボールが転がり、ギャラリーから声援が起こる。

 「そんなことをしてみろ。俺は絶対にお前を許さない。」
 レオは目を細めリュウを見遣り、シャツを拾って肩にかけると踵を返した。

 リュウは、声を上げて笑い出したい気分だった。
 だが、ここはギャラリーが多すぎる。
 リュウもシャツを拾い上げると、何でもない振りをしてその場を去った。
 卒無くこなすのは、もう慣れた。
 だが、レオのことを思うと、心のざわめきが収まらない。
 人気の無い水場まで来ると、頭から水を被った。
 少しでも頭を冷やさないと、平静で居られない。

 「リュウ?」
 誰にも会いたくないと思っていたのに、選りに選って。

 「アオ…」
 
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