11 / 54
拾壱
しおりを挟む
「長き道のさぞ行き疲れさせ給うなり。やがて湯の整いはべりたれば、先づは御足を」
お萬という女性は屋敷に入る階の所に私を座らせ、草履を脱がせて顔や手を手ぬぐいで拭いた後、足を洗ってくれた。
それが済むと、「さ、こなたに」と一つの部屋に通される。
そこでお茶と饅頭を出され、飲んでいると(ちなみに饅頭は甘味控え目でまあまあ美味しかった)、お湯が沸いたらしくお風呂に案内された。
着物を脱がされ、檜の香りのする部屋に入れられると、むわっとした蒸気が籠る。
サウナか。
丁度座れるように段差に作られている。
「しばしここにおはしまし給え」
と言われたので、そのまま座って待つ。
汗が流れ始めた頃にお萬が出してくれて、大きな桶のある部屋に通された。
お萬とは別の女性が一人控えている。
背もたれのない木の椅子があり、そこに座らされた。
桶の中にはお湯がたくさん沸いており、お萬はそれを大きなひしゃくで掬うと私にかけていく。
サウナで出た汗が洗い流されて気持ちがいい。
別の女性が白い布包を桶で濡らして体全体を拭ってくれた。
桶の水が白っぽく濁っていたので米ぬかか何かなんだろう。匂いもそれっぽいし。
髪も含めて洗い上げられると、風呂から上がる。
水気を拭かれた後は白い浴衣みたいな着物を着せられた。
湿った髪の毛に黄色い油のようなものを塗られ、目の細かい櫛でゆっくり丁寧に梳かれていく。
その気持ちよさに、私はつい、うとうとと寝入ってしまっていた。
この後、大変な事をされるとも知らずに。
***
「姫御前、姫御前」
優しく揺さぶられ、うっすらと目を開く。
「わっ!!?」
いきなりその顔でのドアップは心臓に悪いです、お萬さん。
「驚かせ給うたりや。これより御身の化粧させ給わらんと存じて起こし奉りたりけるに」
起きてみると、金襴のかいまき布団みたいなものに寝かされていた。
周りには数名、お萬と似たような恰好の女性がいて、かちゃかちゃと化粧道具らしきものや着物を用意している。
「さ、姫御前」
鏡の前に座るよう促され、覗き込んだ瞬間、私はあまりのショックに口をぱっかーんと開けた。
ままま、ま、眉が…私の眉が……!!
私の大事な大事な眉毛が、眠ってる間に綺麗さっぱり剃り落とされていた!
あまりの事にはわはわとムンク状態で放心する私を尻目に、お萬は化粧を始めようと白粉を手に――
はっ!? 確か白粉って。
「ちょっと待った!」
それ、毒じゃないの?
毒、毒、と連呼する私。
お萬は白粉は毒じゃない、みたいな事を主張していたが、私は引かなかった。
言葉じゃ埒が明かないので、最終手段、筆談だ!と筆と紙を要求する。
多分平仮名片仮名はミミズののたうちまわったような字体だろうと思う。
文化的に書き言葉も通じて欲しいと祈りながらも、うろ覚えの漢文知識で『白粉是自鉛作也、鉛是毒也』などと適当に書くと、お萬は「男手を備えらるるか」と驚いて、果ては解読の為巣守隆康まで呼んでくる羽目に。
すったもんだの末、白粉は白粉の実という木の実由来のものだと判明して安心した。
白粉の実、実物まで持って来られて確認済。
巣守隆康の言うには、鉛成分の白粉も存在しているらしいが、それはあまりにも高価で限られた人しか使っていないらしい。
そんなこんなで馬鹿殿化粧を施され、打掛みたいな装束を着せられ。
油で髪を姫っぽくガチガチに固められ付け毛を付けられた私は、どっからどう見ても立派なお姫様――じゃなくてオカメそのものだった。
「あなや、以ての外に斯くも清らになられたるるや」
巣守隆康は私の顔を凝視して絶句する。
ああん?清らかだって?
確かに自分は「綾子ちゃん無表情で怒ると能面みたいで怖い」とか「綾子ちゃんは平安時代とかに生まれていれば美人なのにね(pgr)」とか散々言われて育ってきたさ。
年頃になっておしゃれ頑張って、やっと「常●貴子に似てるね」なんて言われ始めたと思ってたのに…。
それなのにこの頭イかれてるオカメ化粧、私が似合ってるって本気でそう思ってんのかよ。
思ってるんだな? よーし表へ出ろ。
……ううう、褒められてる筈なのにちっとも嬉しくないっ!!!
【後書き】
かつて白粉マロ眉にされたヒロインが居ただろうか、いやない!
***
「長き道のさぞ行き疲れさせ給うなり。やがて湯の整いはべりたれば、先づは御足を」
→「長い道中さぞやお疲れでしょう。もうすぐ湯が沸きますので、まずはおみ足を(洗い申し上げましょう)」
「さ、こなたに」
→「さあ、こちらに」
「しばしここにおはしまし給え」
→「しばらくここにいらっしゃって下さい」
「姫御前、姫御前」
→「姫様、姫様」
「驚かせ給うたりや。これより御身の化粧させ給わらんと存じて起こし奉りたりけるに」
→「驚かせてしまいましたか。これより化粧をさせていただきとう存じまして起こし申し上げたのですが」
「さ、姫御前」
→「さあ、姫様」
「男手を備えらるるか」
→「漢字を嗜まれているのか」
「あなや、以ての外に斯くも清らになられたるるや」
→「なんと、予想外にこれほどまでにも美しくなられるとは」
お萬という女性は屋敷に入る階の所に私を座らせ、草履を脱がせて顔や手を手ぬぐいで拭いた後、足を洗ってくれた。
それが済むと、「さ、こなたに」と一つの部屋に通される。
そこでお茶と饅頭を出され、飲んでいると(ちなみに饅頭は甘味控え目でまあまあ美味しかった)、お湯が沸いたらしくお風呂に案内された。
着物を脱がされ、檜の香りのする部屋に入れられると、むわっとした蒸気が籠る。
サウナか。
丁度座れるように段差に作られている。
「しばしここにおはしまし給え」
と言われたので、そのまま座って待つ。
汗が流れ始めた頃にお萬が出してくれて、大きな桶のある部屋に通された。
お萬とは別の女性が一人控えている。
背もたれのない木の椅子があり、そこに座らされた。
桶の中にはお湯がたくさん沸いており、お萬はそれを大きなひしゃくで掬うと私にかけていく。
サウナで出た汗が洗い流されて気持ちがいい。
別の女性が白い布包を桶で濡らして体全体を拭ってくれた。
桶の水が白っぽく濁っていたので米ぬかか何かなんだろう。匂いもそれっぽいし。
髪も含めて洗い上げられると、風呂から上がる。
水気を拭かれた後は白い浴衣みたいな着物を着せられた。
湿った髪の毛に黄色い油のようなものを塗られ、目の細かい櫛でゆっくり丁寧に梳かれていく。
その気持ちよさに、私はつい、うとうとと寝入ってしまっていた。
この後、大変な事をされるとも知らずに。
***
「姫御前、姫御前」
優しく揺さぶられ、うっすらと目を開く。
「わっ!!?」
いきなりその顔でのドアップは心臓に悪いです、お萬さん。
「驚かせ給うたりや。これより御身の化粧させ給わらんと存じて起こし奉りたりけるに」
起きてみると、金襴のかいまき布団みたいなものに寝かされていた。
周りには数名、お萬と似たような恰好の女性がいて、かちゃかちゃと化粧道具らしきものや着物を用意している。
「さ、姫御前」
鏡の前に座るよう促され、覗き込んだ瞬間、私はあまりのショックに口をぱっかーんと開けた。
ままま、ま、眉が…私の眉が……!!
私の大事な大事な眉毛が、眠ってる間に綺麗さっぱり剃り落とされていた!
あまりの事にはわはわとムンク状態で放心する私を尻目に、お萬は化粧を始めようと白粉を手に――
はっ!? 確か白粉って。
「ちょっと待った!」
それ、毒じゃないの?
毒、毒、と連呼する私。
お萬は白粉は毒じゃない、みたいな事を主張していたが、私は引かなかった。
言葉じゃ埒が明かないので、最終手段、筆談だ!と筆と紙を要求する。
多分平仮名片仮名はミミズののたうちまわったような字体だろうと思う。
文化的に書き言葉も通じて欲しいと祈りながらも、うろ覚えの漢文知識で『白粉是自鉛作也、鉛是毒也』などと適当に書くと、お萬は「男手を備えらるるか」と驚いて、果ては解読の為巣守隆康まで呼んでくる羽目に。
すったもんだの末、白粉は白粉の実という木の実由来のものだと判明して安心した。
白粉の実、実物まで持って来られて確認済。
巣守隆康の言うには、鉛成分の白粉も存在しているらしいが、それはあまりにも高価で限られた人しか使っていないらしい。
そんなこんなで馬鹿殿化粧を施され、打掛みたいな装束を着せられ。
油で髪を姫っぽくガチガチに固められ付け毛を付けられた私は、どっからどう見ても立派なお姫様――じゃなくてオカメそのものだった。
「あなや、以ての外に斯くも清らになられたるるや」
巣守隆康は私の顔を凝視して絶句する。
ああん?清らかだって?
確かに自分は「綾子ちゃん無表情で怒ると能面みたいで怖い」とか「綾子ちゃんは平安時代とかに生まれていれば美人なのにね(pgr)」とか散々言われて育ってきたさ。
年頃になっておしゃれ頑張って、やっと「常●貴子に似てるね」なんて言われ始めたと思ってたのに…。
それなのにこの頭イかれてるオカメ化粧、私が似合ってるって本気でそう思ってんのかよ。
思ってるんだな? よーし表へ出ろ。
……ううう、褒められてる筈なのにちっとも嬉しくないっ!!!
【後書き】
かつて白粉マロ眉にされたヒロインが居ただろうか、いやない!
***
「長き道のさぞ行き疲れさせ給うなり。やがて湯の整いはべりたれば、先づは御足を」
→「長い道中さぞやお疲れでしょう。もうすぐ湯が沸きますので、まずはおみ足を(洗い申し上げましょう)」
「さ、こなたに」
→「さあ、こちらに」
「しばしここにおはしまし給え」
→「しばらくここにいらっしゃって下さい」
「姫御前、姫御前」
→「姫様、姫様」
「驚かせ給うたりや。これより御身の化粧させ給わらんと存じて起こし奉りたりけるに」
→「驚かせてしまいましたか。これより化粧をさせていただきとう存じまして起こし申し上げたのですが」
「さ、姫御前」
→「さあ、姫様」
「男手を備えらるるか」
→「漢字を嗜まれているのか」
「あなや、以ての外に斯くも清らになられたるるや」
→「なんと、予想外にこれほどまでにも美しくなられるとは」
0
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる