貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
749 / 753
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(217)

しおりを挟む
 「ちょ、ちょっといきなり何を……!」

 沈黙を打ち破ったのはララだった。上げた顔には隠し切れない戸惑いの表情が浮かんでいる。
 彼女にしてもこの申し出は予想外だったに違いない。先程とは打って変わって明らかに狼狽えている。
 アーベルトはアルトガルを見つめたまま、何も答えない。彼女はアルトガルの方を振り仰いだ。

 「駄目です、アルトガル様! アーベルト様――メレン家には何の責任もありません! それに、私なんかを娶ったら、アーベルト様のお立場が――」

 「本気か? アーベルト・メレン殿」

 ララを一顧だにせず問いかけるアルトガル。アーベルトは「無論だ」と頷いた。当事者なのに置いてけぼりにされた状態のララは、口をパクパクさせている。
 ちょっと可哀想だけど、ララに選択権は無いということなのだろう。

 「形式上とはいえ、ララを預かったメレン家にも幾ばくかの責任はあると言えよう。それに、俺は善意や好意、憐れみだけでこのようなことを申しているのではない。理由は幾つかある」

 そう言えば、ララは『ララ・メレン』として働いていたっけ。

 「一つ――雪山としては追放の上、機密を漏らさぬようにしたい。俺が彼女を娶ればその目的も果たされるし、機密性は保たれ舌を切らせる必要もなくなる。雪山の対面も保たれるだろう。
 二つ――我らは祖を同じくする雪山と血を再び一つにするという方向性で同意している。新たな里である海之庄計画も進んでいる今、穏便な解決が望ましい。
 三つ――俺に嫁が出来る。叔母のマリエッテが侍女頭だからか、俺の嫁になれば厳しくされるかも知れない……と思われているのだろう、縁談においてどうも敬遠されがちでな。それが解決する。
 四つ――グレイ様やマリー様、カレドニアの客人達の心理的安寧が得られる」

 僕達の目の前で右手を掲げ、指折り説明するアーベルト。

 「そして五つ――ここが重要だ。グレイ様がカレドニア王になられるのであれば、仕える俺達もまた、カレドニア語を学ぶ必要が出てくる訳だ。
 先々、カレドニアにも『海之庄』を築いていくことになるだろう。教師としてララは適任のように思う――カレドニア語を教える仕事もして貰いたいというのもある」

 その為にも喉を潰されては困るのだ、とアーベルトは締めくくり、握り拳となって役目を終えた右手を下げた。

 「罪を償うまたは相応の成果や実績をあげ、それが認められるまで――ララは一切の重要任務から外されることになる。
 暫く監視付きで過ごした上、子が出来た後はメレン家の領地から出ずに子育てに専念して貰うことになるだろう――少なくとも十年は、カレドニアに行くことも許されぬ。それでも良ければ、だが」

 「……良いんじゃないかな。僕は賛成するよ」

 ちょっと引っ掛かる言葉も無いわけじゃないけど、少なくとも舌を切って放逐するよりはずっと良い。
 アーベルトは色々と理由を挙げていたけれど、きっと本当はララの事を気にかけていたからなんじゃないかと思う――何となく、だけど。

 「マリーはどう思う?」

 「そうね……それが一番良いと思うわ。もっとも、ララの気持ち次第だけれど」

 マリーが頷き、僕達は揃ってアルトガルを見る。アルトガルは、大きな溜息を吐いた。

 「……そういう事であれば仕方がありませんな。アルドゥイン」

 「はっ」

 アルトガルの言葉に、アルドゥインがララに掛けられた縄を解き始める。

 「ララ、これだけの罪を仕出かしておきながら、生きのびる道を頂けたのは望外の幸運だと思うがいい。アーベルト殿が差し出して下さった手を取るかどうか、お前自身はどうしたい?」

 「あ……えっと」

 アルドゥインの言葉にララは戸惑っていたが、再三どうするのかと問われ、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にしながら頷いた。

 「アーベルト様……ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」

 「ああ、末永く……宜しく頼む」

 穏やかに優しく微笑むアーベルトだけど……僕は言いようのない不安を覚える。
 ララにひたと当てられたその眼差しは、まるで籠の中の鳥を舌なめずりして観ている猫のようで。

 ……大丈夫かなぁ?
しおりを挟む
感想 1,005

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。 「お前との婚約は破棄だ」  ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!? ※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日20時に一話投稿となります。 ※他の投稿サイトにも掲載しています。 ※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。