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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(217)
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「ちょ、ちょっといきなり何を……!」
沈黙を打ち破ったのはララだった。上げた顔には隠し切れない戸惑いの表情が浮かんでいる。
彼女にしてもこの申し出は予想外だったに違いない。先程とは打って変わって明らかに狼狽えている。
アーベルトはアルトガルを見つめたまま、何も答えない。彼女はアルトガルの方を振り仰いだ。
「駄目です、アルトガル様! アーベルト様――メレン家には何の責任もありません! それに、私なんかを娶ったら、アーベルト様のお立場が――」
「本気か? アーベルト・メレン殿」
ララを一顧だにせず問いかけるアルトガル。アーベルトは「無論だ」と頷いた。当事者なのに置いてけぼりにされた状態のララは、口をパクパクさせている。
ちょっと可哀想だけど、ララに選択権は無いということなのだろう。
「形式上とはいえ、ララを預かったメレン家にも幾ばくかの責任はあると言えよう。それに、俺は善意や好意、憐れみだけでこのようなことを申しているのではない。理由は幾つかある」
そう言えば、ララは『ララ・メレン』として働いていたっけ。
「一つ――雪山としては追放の上、機密を漏らさぬようにしたい。俺が彼女を娶ればその目的も果たされるし、機密性は保たれ舌を切らせる必要もなくなる。雪山の対面も保たれるだろう。
二つ――我らは祖を同じくする雪山と血を再び一つにするという方向性で同意している。新たな里である海之庄計画も進んでいる今、穏便な解決が望ましい。
三つ――俺に嫁が出来る。叔母のマリエッテが侍女頭だからか、俺の嫁になれば厳しくされるかも知れない……と思われているのだろう、縁談においてどうも敬遠されがちでな。それが解決する。
四つ――グレイ様やマリー様、カレドニアの客人達の心理的安寧が得られる」
僕達の目の前で右手を掲げ、指折り説明するアーベルト。
「そして五つ――ここが重要だ。グレイ様がカレドニア王になられるのであれば、仕える俺達もまた、カレドニア語を学ぶ必要が出てくる訳だ。
先々、カレドニアにも『海之庄』を築いていくことになるだろう。教師としてララは適任のように思う――カレドニア語を教える仕事もして貰いたいというのもある」
その為にも喉を潰されては困るのだ、とアーベルトは締めくくり、握り拳となって役目を終えた右手を下げた。
「罪を償うまたは相応の成果や実績をあげ、それが認められるまで――ララは一切の重要任務から外されることになる。
暫く監視付きで過ごした上、子が出来た後はメレン家の領地から出ずに子育てに専念して貰うことになるだろう――少なくとも十年は、カレドニアに行くことも許されぬ。それでも良ければ、だが」
「……良いんじゃないかな。僕は賛成するよ」
ちょっと引っ掛かる言葉も無いわけじゃないけど、少なくとも舌を切って放逐するよりはずっと良い。
アーベルトは色々と理由を挙げていたけれど、きっと本当はララの事を気にかけていたからなんじゃないかと思う――何となく、だけど。
「マリーはどう思う?」
「そうね……それが一番良いと思うわ。もっとも、ララの気持ち次第だけれど」
マリーが頷き、僕達は揃ってアルトガルを見る。アルトガルは、大きな溜息を吐いた。
「……そういう事であれば仕方がありませんな。アルドゥイン」
「はっ」
アルトガルの言葉に、アルドゥインがララに掛けられた縄を解き始める。
「ララ、これだけの罪を仕出かしておきながら、生きのびる道を頂けたのは望外の幸運だと思うがいい。アーベルト殿が差し出して下さった手を取るかどうか、お前自身はどうしたい?」
「あ……えっと」
アルドゥインの言葉にララは戸惑っていたが、再三どうするのかと問われ、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にしながら頷いた。
「アーベルト様……ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」
「ああ、末永く……宜しく頼む」
穏やかに優しく微笑むアーベルトだけど……僕は言いようのない不安を覚える。
ララにひたと当てられたその眼差しは、まるで籠の中の鳥を舌なめずりして観ている猫のようで。
……大丈夫かなぁ?
沈黙を打ち破ったのはララだった。上げた顔には隠し切れない戸惑いの表情が浮かんでいる。
彼女にしてもこの申し出は予想外だったに違いない。先程とは打って変わって明らかに狼狽えている。
アーベルトはアルトガルを見つめたまま、何も答えない。彼女はアルトガルの方を振り仰いだ。
「駄目です、アルトガル様! アーベルト様――メレン家には何の責任もありません! それに、私なんかを娶ったら、アーベルト様のお立場が――」
「本気か? アーベルト・メレン殿」
ララを一顧だにせず問いかけるアルトガル。アーベルトは「無論だ」と頷いた。当事者なのに置いてけぼりにされた状態のララは、口をパクパクさせている。
ちょっと可哀想だけど、ララに選択権は無いということなのだろう。
「形式上とはいえ、ララを預かったメレン家にも幾ばくかの責任はあると言えよう。それに、俺は善意や好意、憐れみだけでこのようなことを申しているのではない。理由は幾つかある」
そう言えば、ララは『ララ・メレン』として働いていたっけ。
「一つ――雪山としては追放の上、機密を漏らさぬようにしたい。俺が彼女を娶ればその目的も果たされるし、機密性は保たれ舌を切らせる必要もなくなる。雪山の対面も保たれるだろう。
二つ――我らは祖を同じくする雪山と血を再び一つにするという方向性で同意している。新たな里である海之庄計画も進んでいる今、穏便な解決が望ましい。
三つ――俺に嫁が出来る。叔母のマリエッテが侍女頭だからか、俺の嫁になれば厳しくされるかも知れない……と思われているのだろう、縁談においてどうも敬遠されがちでな。それが解決する。
四つ――グレイ様やマリー様、カレドニアの客人達の心理的安寧が得られる」
僕達の目の前で右手を掲げ、指折り説明するアーベルト。
「そして五つ――ここが重要だ。グレイ様がカレドニア王になられるのであれば、仕える俺達もまた、カレドニア語を学ぶ必要が出てくる訳だ。
先々、カレドニアにも『海之庄』を築いていくことになるだろう。教師としてララは適任のように思う――カレドニア語を教える仕事もして貰いたいというのもある」
その為にも喉を潰されては困るのだ、とアーベルトは締めくくり、握り拳となって役目を終えた右手を下げた。
「罪を償うまたは相応の成果や実績をあげ、それが認められるまで――ララは一切の重要任務から外されることになる。
暫く監視付きで過ごした上、子が出来た後はメレン家の領地から出ずに子育てに専念して貰うことになるだろう――少なくとも十年は、カレドニアに行くことも許されぬ。それでも良ければ、だが」
「……良いんじゃないかな。僕は賛成するよ」
ちょっと引っ掛かる言葉も無いわけじゃないけど、少なくとも舌を切って放逐するよりはずっと良い。
アーベルトは色々と理由を挙げていたけれど、きっと本当はララの事を気にかけていたからなんじゃないかと思う――何となく、だけど。
「マリーはどう思う?」
「そうね……それが一番良いと思うわ。もっとも、ララの気持ち次第だけれど」
マリーが頷き、僕達は揃ってアルトガルを見る。アルトガルは、大きな溜息を吐いた。
「……そういう事であれば仕方がありませんな。アルドゥイン」
「はっ」
アルトガルの言葉に、アルドゥインがララに掛けられた縄を解き始める。
「ララ、これだけの罪を仕出かしておきながら、生きのびる道を頂けたのは望外の幸運だと思うがいい。アーベルト殿が差し出して下さった手を取るかどうか、お前自身はどうしたい?」
「あ……えっと」
アルドゥインの言葉にララは戸惑っていたが、再三どうするのかと問われ、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にしながら頷いた。
「アーベルト様……ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」
「ああ、末永く……宜しく頼む」
穏やかに優しく微笑むアーベルトだけど……僕は言いようのない不安を覚える。
ララにひたと当てられたその眼差しは、まるで籠の中の鳥を舌なめずりして観ている猫のようで。
……大丈夫かなぁ?
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