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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

昔の流行に強烈な世代間ギャップを感じるのです。

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 今日は馬車だ。ルフナー子爵家の紋章入りのそれは立派なもので、外観はシンプルである。
 二人して馬車に乗り込むと、内装は豪奢な作りになっていた。
 外を見ると小型の使用人の馬車にサリーナが乗り込むのが見え、馬の脚共がルフナー家の護衛らしき人に交じって馬に跨っていた。それって何の冗談だろう。庭師なのにと思って思わず声を掛ける。

 「何でお前たちもついてくるの?」

 「ははっ、薔薇園を見せて頂こうと思いまして志願致しました」

 「他家の庭を見るのも勉強になるのでございます」

 そのような返答が返ってくる。そんなものなんだろうか。
 首を傾げていると、グレイが「キャンディ伯爵家の使用人達は皆忠実で仕事熱心だからね」と言う。

 「うちの薔薇園が見事だって聞いて、是非にと言われたんだ。マリーが薔薇が好きだから張り切ってるみたい」

 そうなのか。それなら後でご褒美を出さないとな。信賞必罰は上に立つ者として必須である。

 グレイが出せと命じ、馬車が動き出した。思ったより揺れが少ない。多分サスペンション付いてる。グレイにどうかしたかと聞かれたので、揺れを軽減するばねのような装置が付いてるよね、と訊いてみた。
 すると驚いた顔で「最新式なのによく知ってるね」と言われる。生まれてこの方生活が屋敷の敷地内で完結し、どこにも出かけない私にとって馬車は無用の長物だったので、知識を提供する事も無く手付かずだったのである。

 馬車について、辻馬車のような交通手段があるのかと聞くと、あるらしい。時間制で料金を決めるそうだ。ただ結構高くてぼったくりも多く、御者の質もピンキリとの事。
 バスみたいに停留所を設けて、決まったルートで走らせれば安価に出来るんじゃないかと言うと、それは盲点だったらしく、グレイは顎に手を当てて考える仕草をした。僕が話題を振るからルフナー子爵家で話してみて貰えないかなと言われたので快諾する。

 そんな事を話している内、馬車が停止して外から声を掛けられた。いつの間にかルフナー子爵家に到着していたようだ。
 私は胸を押さえた。他人の家への初めての訪問、かなり緊張している。ましてや未来の家族へのご挨拶である。

 お土産は焼きプリンとチーズケーキ。行ってすぐ渡して、出来れば食事と共に出して貰うつもりである。
 気に行って貰えれば良いけど。


***


 「さあ、マリー。ようこそ、ルフナー子爵家へ」

 馬車から先に降りるとグレイが手を差し出してエスコートしてくれる。その手を取って馬車を降りるとグレイの家族と思われる方々が少し離れた場所に勢揃いしていた。義兄アールも居る。

 グレイと共にそちらへ歩を進めると、立派な出で立ちの老夫婦が前へ出た。

 「マリー、紹介するよ。こちらは僕の祖父エディアール・フォートナム男爵。そして横にいるのが祖母のパレディーテ・フォートナム。お爺様、お婆様、こちらはマリアージュ・キャンディ伯爵令嬢、僕の婚約者です」

 私はやや緊張しながら淑女の礼を取った。

 「お初にお目に掛かります、お爺様、お婆様。マリアージュ・キャンディと申します。以後、何卒よろしくお願い申し上げます」

 「おお、これはこれは薔薇の妖精のような姫君じゃのう。グレイ、お前は果報者じゃ。マリアージュ姫、ようこそ。こちらこそよろしくのう」

 「そうね、こんな可愛いお嬢さんなんて。お会いできて嬉しいわ」

 私はポーカーフェイスを必死に保っていた。というもの、彼ら二人の服装が強烈だったからである。

 グレイの祖父エディアールはまず立派な髭が目を引いた。顔は皺はあるもののまだ若々しさを感じさせるが、髪はすっかり白髪になっている。大きめのカイゼルに顎鬚が組み合わさって厳めしい印象を与えるかと思いきや、その恰幅の良さと大きな目、茶目っ気のある表情がコミカルな親しみを感じさせていた。

 ただ、着ているものが立派ではあるが、こう……非常に世代間ギャップを感じさせる一昔前の服装だった。

 スリットの入ったポワン――二の腕部分が提灯になってるジャケットで、スリットの下には白いシャツを覗かせている。上がこうだから下もやっぱり提灯ブルマー。ブルマーの丈が膝ぐらいまであった事に感謝した。さもなくばある意味視界の暴力だっただろう。膝下は普通に靴下と靴である。
 頭には長靴をはいた猫が被ってるような大きなつばの羽飾りの付いた帽子を被り、黒く長い帯を胴と肩にゆるく締めていた。
 そして何より特筆すべきはザビエル襟――白いレースがついてこれでもかと折り畳まれたエリマキトカゲの如きヒダヒダの襟である。

 一方祖母のパレディーテは凛とした白髪の上品な老婦人だった。ただ、こちらも祖父と同じ世代の服装である。袖は膨らんでいなかったが、ドレスの上から羽織るだけのガウンマントに、やっぱり襟。こちらはエリザベス女王のような扇襟である。結いあげた髪にかっちり嵌る旧タイプのヘッドドレスをしていた。

 もしかして私、威嚇されてる?

 そんなアホな事を考えながらも私は「ありがとうございます」と微笑んだ。
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