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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
お手手繋いで行きましょう。
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しかし、困惑は完全には隠しきれなかったようである。グレイが呆れたような溜息を吐いた。
「お爺様もお婆様も何でそんな何十年も前の古い服を着てるんだよ。マリーが戸惑ってるじゃないか」
「何をいうか、これは儂が一番気に入っている服なのじゃぞ」
「ほほほほ、上等な服は長く着れるのよグレイ。お婆ちゃまはこれで国王陛下にもご挨拶したものよ」
当時の国王は大変だな。きっと右を向いても左を向いても常に威嚇されてる状態だ。負けじと高速回転したら空の彼方に飛んで行けそうな一際デカい襟を付けたに違いない。
「威風堂々としてらっしゃるわ。素敵な襟ですわね」
戸惑ったのは事実だが、私は掛け値なしの賞賛の気持ちを込めて言った。
というのもエリザベス女王襟を欲しいと思ってしまったのである。貴族令嬢は時として女王様のような威厳が必要なもの――というのは建前で、エリザベス女王ごっこがしてみたい。
今度領地の祖母に聞いてみようか。まだ持ってたらお下がりが貰えるかもしれない。
グレイが正気か、とでも言いたげな表情でこちらを見た。彼的にはあまり受け付けない模様。
「ほら見ろ、マリアージュ姫の方がよほど分かっとるわい」
「ありがとう、この襟は昔とても流行したの。何年も手が届かなくて悲しい気持ちになっていたのだけれど、エディが贈ってくれたものなのよ」
成程、流行の付け襟が欲しいのに貧乏で買えなかったのを、プレゼントされたのか。それは大事なものに違いない。グレイの祖父は少し恥ずかしそうに鼻の脇を掻いている。
仲の良い老夫婦だ。彼らの気持ちと過去にあっただろうロマンスの欠片に触れてじーんとする。ちょっと目頭が。
グレイと私も年取ったらこんな風になりたいものだ。
「そんな大事な品を今日この日にわざわざ身に着けて下さったのですね。そのお気持ち、嬉しいですわ」
凄く歓迎されてるわ、これ。
私は温かい気持ちになって深々と淑女の礼をする。顔を上げると、足音が近づいてきた。
「こらグレイ、ぼさっとしてるんじゃない。俺達を忘れたのか」
「あっ、ごめんお父様。マリー、こちらは僕の両親。父のブルック・ルフナー子爵と母のレピーシェ・ルフナー」
グレイが慌てて紹介する。そちらを向くと、グレイの両親である中年の男女。
見事な赤銅色の長めの巻き毛を後ろで束ねたグレイの父は、映画『風と共に去りぬ』に出て来るレット・バトラーを思わせるちょい悪系の渋かっこいいおじ様だった。実用的な物を好むらしく、黒を基調としたシンプルで上品な出で立ちである。
グレイの母は栗毛で、ややぽっちゃりした小柄で優しそうな顔立ちのおば様。こちらもコンセプトはシンプルで、ベージュと黄色系のドレスに真珠のネックレスを合わせ、耳には一際大粒真珠のイアリングが下がっていた。髪を纏めて後ろに短目のベールが流れるレースキャップを被っている。
ここが一番の勝負である。私は心中で3つ数えて落ち着くと、マナー講師に教えられたように心持ちゆっくりを心がけて先程と同じように挨拶をした。
「――いずれ家族になる身。お爺様お婆様、お義父様お義母様も、私の事は気軽にマリーと呼び捨てて下さいまし。不束者ですがよろしくご指導の程をお願い申し上げます」
ナチュラルにもう嫁に来たみたいな言い方で締めくくって微笑むと、義父ブルックは気にした様子も無く、「これはご丁寧に」とにかっと人懐っこい笑みを浮かべた。
「お初にお目に掛かる、これの父親のブルック・ルフナーだ。キャンディ伯爵の掌中の珠たる三の姫のお噂はかねがね」
「初めまして、グレイの母ですわ。まあ、まあ。嬉しいわ。こんな愛らしい方が娘になるなんて。私、実は娘が欲しかったの」
特に結婚後一番関わりが深くなりそうな義母レピーシェが優しそうな人で本当に良かった、と思う。
「私もお会いできて嬉しいですわ」と返しながら、義父ブルックの台詞について考えていた。
グレイは一体何を義父に話したのだろうか。それとも本当に私に関する噂が巷に流れているのか。屋敷から一歩も出ず静かに生きて来たはずなのに。
後で訊いてみよう。噂の内容によっては揉み消さないといけないからな。
***
挨拶が一段落した所で義兄アールが声を掛けてきた。
「マリー様、お久しぶりです。先日の事、ありがとうございました」
「まあ、ご無沙汰しておりましたわ、アールお義兄様。お元気にしてらして? グレイから聞きましたが、何事も無く無事に解決出来て宜しかったですわ。そうそう、お義兄様。実はお土産として我が家のお菓子を持参致しましたの。食べるまで時間を置くと悪くなってしまいますので出来れば昼食と共に召し上がって頂きたいのですが」
私は侍女サリーナにお土産のバスケットを持って来させた。義兄アールは使用人を呼んでそれを受け取らせ、食事の最後のお茶と共に出すようにと命じていた。
「こら、アールにグレイ。何時までも外で立ち話をさせてはいけません。早くご案内しなさい」
義母の叱責にルフナー子爵家兄弟は顔を見合わせて肩を竦める。その仕草が面白くて、「じゃあ二人でエスコートして下さいな」と両手を差し出した。笑いながらも手を取ってくれる兄弟。私達は三人でお手手を繋いで仲良く屋敷に入ったのであった。
「お爺様もお婆様も何でそんな何十年も前の古い服を着てるんだよ。マリーが戸惑ってるじゃないか」
「何をいうか、これは儂が一番気に入っている服なのじゃぞ」
「ほほほほ、上等な服は長く着れるのよグレイ。お婆ちゃまはこれで国王陛下にもご挨拶したものよ」
当時の国王は大変だな。きっと右を向いても左を向いても常に威嚇されてる状態だ。負けじと高速回転したら空の彼方に飛んで行けそうな一際デカい襟を付けたに違いない。
「威風堂々としてらっしゃるわ。素敵な襟ですわね」
戸惑ったのは事実だが、私は掛け値なしの賞賛の気持ちを込めて言った。
というのもエリザベス女王襟を欲しいと思ってしまったのである。貴族令嬢は時として女王様のような威厳が必要なもの――というのは建前で、エリザベス女王ごっこがしてみたい。
今度領地の祖母に聞いてみようか。まだ持ってたらお下がりが貰えるかもしれない。
グレイが正気か、とでも言いたげな表情でこちらを見た。彼的にはあまり受け付けない模様。
「ほら見ろ、マリアージュ姫の方がよほど分かっとるわい」
「ありがとう、この襟は昔とても流行したの。何年も手が届かなくて悲しい気持ちになっていたのだけれど、エディが贈ってくれたものなのよ」
成程、流行の付け襟が欲しいのに貧乏で買えなかったのを、プレゼントされたのか。それは大事なものに違いない。グレイの祖父は少し恥ずかしそうに鼻の脇を掻いている。
仲の良い老夫婦だ。彼らの気持ちと過去にあっただろうロマンスの欠片に触れてじーんとする。ちょっと目頭が。
グレイと私も年取ったらこんな風になりたいものだ。
「そんな大事な品を今日この日にわざわざ身に着けて下さったのですね。そのお気持ち、嬉しいですわ」
凄く歓迎されてるわ、これ。
私は温かい気持ちになって深々と淑女の礼をする。顔を上げると、足音が近づいてきた。
「こらグレイ、ぼさっとしてるんじゃない。俺達を忘れたのか」
「あっ、ごめんお父様。マリー、こちらは僕の両親。父のブルック・ルフナー子爵と母のレピーシェ・ルフナー」
グレイが慌てて紹介する。そちらを向くと、グレイの両親である中年の男女。
見事な赤銅色の長めの巻き毛を後ろで束ねたグレイの父は、映画『風と共に去りぬ』に出て来るレット・バトラーを思わせるちょい悪系の渋かっこいいおじ様だった。実用的な物を好むらしく、黒を基調としたシンプルで上品な出で立ちである。
グレイの母は栗毛で、ややぽっちゃりした小柄で優しそうな顔立ちのおば様。こちらもコンセプトはシンプルで、ベージュと黄色系のドレスに真珠のネックレスを合わせ、耳には一際大粒真珠のイアリングが下がっていた。髪を纏めて後ろに短目のベールが流れるレースキャップを被っている。
ここが一番の勝負である。私は心中で3つ数えて落ち着くと、マナー講師に教えられたように心持ちゆっくりを心がけて先程と同じように挨拶をした。
「――いずれ家族になる身。お爺様お婆様、お義父様お義母様も、私の事は気軽にマリーと呼び捨てて下さいまし。不束者ですがよろしくご指導の程をお願い申し上げます」
ナチュラルにもう嫁に来たみたいな言い方で締めくくって微笑むと、義父ブルックは気にした様子も無く、「これはご丁寧に」とにかっと人懐っこい笑みを浮かべた。
「お初にお目に掛かる、これの父親のブルック・ルフナーだ。キャンディ伯爵の掌中の珠たる三の姫のお噂はかねがね」
「初めまして、グレイの母ですわ。まあ、まあ。嬉しいわ。こんな愛らしい方が娘になるなんて。私、実は娘が欲しかったの」
特に結婚後一番関わりが深くなりそうな義母レピーシェが優しそうな人で本当に良かった、と思う。
「私もお会いできて嬉しいですわ」と返しながら、義父ブルックの台詞について考えていた。
グレイは一体何を義父に話したのだろうか。それとも本当に私に関する噂が巷に流れているのか。屋敷から一歩も出ず静かに生きて来たはずなのに。
後で訊いてみよう。噂の内容によっては揉み消さないといけないからな。
***
挨拶が一段落した所で義兄アールが声を掛けてきた。
「マリー様、お久しぶりです。先日の事、ありがとうございました」
「まあ、ご無沙汰しておりましたわ、アールお義兄様。お元気にしてらして? グレイから聞きましたが、何事も無く無事に解決出来て宜しかったですわ。そうそう、お義兄様。実はお土産として我が家のお菓子を持参致しましたの。食べるまで時間を置くと悪くなってしまいますので出来れば昼食と共に召し上がって頂きたいのですが」
私は侍女サリーナにお土産のバスケットを持って来させた。義兄アールは使用人を呼んでそれを受け取らせ、食事の最後のお茶と共に出すようにと命じていた。
「こら、アールにグレイ。何時までも外で立ち話をさせてはいけません。早くご案内しなさい」
義母の叱責にルフナー子爵家兄弟は顔を見合わせて肩を竦める。その仕草が面白くて、「じゃあ二人でエスコートして下さいな」と両手を差し出した。笑いながらも手を取ってくれる兄弟。私達は三人でお手手を繋いで仲良く屋敷に入ったのであった。
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