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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー⑲
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明朝、警備や使用人を幾人か引き連れて家を出た僕は、馬車に乗って再びキャンディ伯爵家へと向かった。
サイモン様にラベンダー修道院ことソルツァグマ修道院への使いを申し出ようと思い立った為だ。間に合えば良いけれど。
キャンディ伯爵家の者が不自然な時期に行くよりも、何度も訪問している僕が行く方が自然に見えるだろうというのもある。
アールの婚約白紙を無事に成就させるためには少しの油断もあってはならない。それに僕も兄の為に何かしてやりたかった。
キャンディ伯爵家に到着して先触れの無い非礼を詫びると、まだ使いは出していないとの事だった。良かった、間に合った。
サイモン様の了承を得て、僕は早速連れて来ていた家の者に命じて先触れの早馬を出した。
その間にサイモン様が手紙を認められたので、それを預かる。そうこうしている内に先触れの使いが戻ってきた。
修道院長が在宅でありかつ訪問の了承を受けたので、僕はキャンディ伯爵家を辞して今度は修道院へと馬車を走らせる。
マリーとデートした時と違って、今回は修道院の正面に馬車をつけた。ラベンダー畑のある方は裏口側だからだ。
馬車を降りると、見知った修道士達が迎え入れてくれた。
建物に入ると、修道院長がこちらにやって来るところだった。
「これはこれはグレイ殿。先日以来ですな。品物の納入はもう終わっている筈ですが、何かありましたかな」
「いつも良い品をありがとうございます。問題はありませんでしたよ。ただ、本日はメンデル・ディンブラ大司教様にお話がありまして参りました」
僕は修道院長をわざわざ名指しで呼んだ。いつもはメンデル修道院長と呼ぶのだけれど、今回は相手にこれが普通の訪問じゃない事を気付かせる為だ。
院長の出自は実はディンブラ侯爵家の庶子。王都大司教程の権限はないが、貴族の邸宅もそれなりにある郊外の管区を中心に裁量権を持っている。
院長――メンデル修道院長は目を瞬かせて首を傾げた。
「はて、私に話とは」
「結婚に関する事なのですが、その、少し恥ずかしくて」
言いながら、僕は目配せをした。院長はそれを正確に汲み取ってくれて、「おお、それならばご相談に乗りますぞ。院長室でじっくりお聞きしましょう」と案内してくれた。
院長室のテーブルで薬草茶を出されると、院長が人払いをしてくれた。僕はその心遣いへの礼を丁寧に述べ、サイモン様からの手紙を差し出した。
「まずはこちらをご覧ください」
手紙に捺してある封蝋の紋章を見て、修道院長は驚きの表情で顔を上げた。僕は頷く。
「本日はキャンディ伯爵家の名代として来たのです。実は――」
僕はアールの置かれた境遇と事情、先日キャンディ伯爵家であった事を話した。その上で修道院に協力を仰ぎたい、とも。
「何と、そのような事があったとは」
話を聞き終えたメンデル修道院長は、封蝋を解くと手紙を開いて目を通した。暫くして視線を再び上げると話をまとめる。
「つまり、リプトン伯爵令嬢の処女検査を行い、婚姻白紙を成立させる。その上でドルトン侯爵家子息との婚約を結ぶのに我らの助けを必要としていらっしゃるというのですな」
僕は頷いた。
「ええ。このままではお互い不幸になりますし、教会の観点から言ってもこのような婚姻の在り方は極めて不道徳であり、正しくありません。フレール嬢も侯爵子息殿と心を通わせ、婚姻を望んでいらっしゃいます。このまま僕の兄との婚姻を続けるのは酷というものでしょう。また、婚姻白紙の為に処女検査を行う事もフレール嬢本人がご了承済みです。
ただ、あまり事を大きくしたくありませんので、早急にこっそりと兄との婚姻白紙と侯爵子息殿との婚姻成立をしたいのですが……」
教会の教義も少し持ちだして続けた。それはこのソルツァグマ修道院を預かる者としても同意する事なのだろう、頷きを以て返される。
「確かに。白い結婚を続けながら夫以外の男と情を交わす、それは宜しくないことです。不義密通の罪を犯す前にそのようになさった方が宜しいでしょうな。ところで手紙には、結納金をリプトン家に貸し出す形になさるとありますが、これは?」
「ああ、それはサイモン様のご厚意です。僕とマリーの婚約もありますし、親戚になるルフナー子爵家と他家が金銭的に揉めて醜聞になるのは良くない、穏便に解決するのにただ結納金を差し上げるとしてもリプトン伯爵家の誇りを傷つけてしまう、との事でこのような形をとってはどうかと仰せになりまして」
「ははあ。貴族とは何よりも誇りと体面を重視しますからな。そう言う事ならば、すぐさま準備を整えましょう。」
「ありがとうございます」
これで良し。院長は快く請け負ってくれた。
僕は頭を深々と下げ、リプトン伯爵家へ乗り込む日時について話を詰めた。早ければ明日だ。
キャンディ伯爵家へ報告に戻ると、サイモン様の執務室に何故かマリーの姉君であるアナベラ様がいらっしゃった。
フレール嬢に上手くいった旨の手紙を書くと言われたので、決行の日は結局その二日後になった。それでも異例の早さだと思う。
兎も角、これで全て整った。後はアールがサイモン様や教会関係者と共にリプトン伯爵家に乗り込むだけだ。
サイモン様にラベンダー修道院ことソルツァグマ修道院への使いを申し出ようと思い立った為だ。間に合えば良いけれど。
キャンディ伯爵家の者が不自然な時期に行くよりも、何度も訪問している僕が行く方が自然に見えるだろうというのもある。
アールの婚約白紙を無事に成就させるためには少しの油断もあってはならない。それに僕も兄の為に何かしてやりたかった。
キャンディ伯爵家に到着して先触れの無い非礼を詫びると、まだ使いは出していないとの事だった。良かった、間に合った。
サイモン様の了承を得て、僕は早速連れて来ていた家の者に命じて先触れの早馬を出した。
その間にサイモン様が手紙を認められたので、それを預かる。そうこうしている内に先触れの使いが戻ってきた。
修道院長が在宅でありかつ訪問の了承を受けたので、僕はキャンディ伯爵家を辞して今度は修道院へと馬車を走らせる。
マリーとデートした時と違って、今回は修道院の正面に馬車をつけた。ラベンダー畑のある方は裏口側だからだ。
馬車を降りると、見知った修道士達が迎え入れてくれた。
建物に入ると、修道院長がこちらにやって来るところだった。
「これはこれはグレイ殿。先日以来ですな。品物の納入はもう終わっている筈ですが、何かありましたかな」
「いつも良い品をありがとうございます。問題はありませんでしたよ。ただ、本日はメンデル・ディンブラ大司教様にお話がありまして参りました」
僕は修道院長をわざわざ名指しで呼んだ。いつもはメンデル修道院長と呼ぶのだけれど、今回は相手にこれが普通の訪問じゃない事を気付かせる為だ。
院長の出自は実はディンブラ侯爵家の庶子。王都大司教程の権限はないが、貴族の邸宅もそれなりにある郊外の管区を中心に裁量権を持っている。
院長――メンデル修道院長は目を瞬かせて首を傾げた。
「はて、私に話とは」
「結婚に関する事なのですが、その、少し恥ずかしくて」
言いながら、僕は目配せをした。院長はそれを正確に汲み取ってくれて、「おお、それならばご相談に乗りますぞ。院長室でじっくりお聞きしましょう」と案内してくれた。
院長室のテーブルで薬草茶を出されると、院長が人払いをしてくれた。僕はその心遣いへの礼を丁寧に述べ、サイモン様からの手紙を差し出した。
「まずはこちらをご覧ください」
手紙に捺してある封蝋の紋章を見て、修道院長は驚きの表情で顔を上げた。僕は頷く。
「本日はキャンディ伯爵家の名代として来たのです。実は――」
僕はアールの置かれた境遇と事情、先日キャンディ伯爵家であった事を話した。その上で修道院に協力を仰ぎたい、とも。
「何と、そのような事があったとは」
話を聞き終えたメンデル修道院長は、封蝋を解くと手紙を開いて目を通した。暫くして視線を再び上げると話をまとめる。
「つまり、リプトン伯爵令嬢の処女検査を行い、婚姻白紙を成立させる。その上でドルトン侯爵家子息との婚約を結ぶのに我らの助けを必要としていらっしゃるというのですな」
僕は頷いた。
「ええ。このままではお互い不幸になりますし、教会の観点から言ってもこのような婚姻の在り方は極めて不道徳であり、正しくありません。フレール嬢も侯爵子息殿と心を通わせ、婚姻を望んでいらっしゃいます。このまま僕の兄との婚姻を続けるのは酷というものでしょう。また、婚姻白紙の為に処女検査を行う事もフレール嬢本人がご了承済みです。
ただ、あまり事を大きくしたくありませんので、早急にこっそりと兄との婚姻白紙と侯爵子息殿との婚姻成立をしたいのですが……」
教会の教義も少し持ちだして続けた。それはこのソルツァグマ修道院を預かる者としても同意する事なのだろう、頷きを以て返される。
「確かに。白い結婚を続けながら夫以外の男と情を交わす、それは宜しくないことです。不義密通の罪を犯す前にそのようになさった方が宜しいでしょうな。ところで手紙には、結納金をリプトン家に貸し出す形になさるとありますが、これは?」
「ああ、それはサイモン様のご厚意です。僕とマリーの婚約もありますし、親戚になるルフナー子爵家と他家が金銭的に揉めて醜聞になるのは良くない、穏便に解決するのにただ結納金を差し上げるとしてもリプトン伯爵家の誇りを傷つけてしまう、との事でこのような形をとってはどうかと仰せになりまして」
「ははあ。貴族とは何よりも誇りと体面を重視しますからな。そう言う事ならば、すぐさま準備を整えましょう。」
「ありがとうございます」
これで良し。院長は快く請け負ってくれた。
僕は頭を深々と下げ、リプトン伯爵家へ乗り込む日時について話を詰めた。早ければ明日だ。
キャンディ伯爵家へ報告に戻ると、サイモン様の執務室に何故かマリーの姉君であるアナベラ様がいらっしゃった。
フレール嬢に上手くいった旨の手紙を書くと言われたので、決行の日は結局その二日後になった。それでも異例の早さだと思う。
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