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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

「メァオー! メァオー!」バサァー。

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 「言い掛かりをつけられて、それでどうしたの?」

 「そのような事実は無い事、この婚約はお父様も認めている事、私も納得している事を言ったのだけど、騙されてるの一点張りで信じようとしなかったわ。何を言っても話が通じないから、いい加減頭に来て。その場で私からアール様に口づけをして、そして言ってやったの。『赤の他人が何と言おうとも私は幸せですわ。真実愛する方と婚約出来るんですもの』って」

 おおう。凄い事になってんな。同じ言葉を話していても通じないなんて。前世にもそういう奴は居たけど、メイソンという男もまるで宇宙人みたいだな。

 アン姉がその瞬間を思い出したのか、口に手を当てている。

 「あの時は凄かったわ。悲鳴まで上がっていたもの。本当、思い切った事をしたわよね、アナベラ」

 「そ、それで」

 「そうしたら今度はあの男、顔を真っ赤にして『私はこの男に騙されたんだ!』と言い出したのよ」

 私は思わず眉をしかめた。その思考回路が良く分からない。

 「どういう事?」

 「つまりね、」

 アナベラ姉がうんざりしたように説明する。
 メイソンの言葉を要約すると。

 全てこの卑しい赤髪男が私を陥れる為に仕組んだ計略だった、私はあの癇癪持ちのフレール嬢と結婚するように仕向けられ、借金付きの伯爵位まで押し付けられた。そうでなかったら今頃アナベラと結婚していたのは自分だったのに。

 ……どこから突っ込んで良いのだろうか。

 まてよ? 暫し思考を巡らせる。

 そういう事か! 私は閃いた。

 「マリー、分かっちゃった! 結婚式の後、リプトン伯爵位を継ぐにあたって、メイソンは借金の存在を聞いたのでは? 当てが外れた、騙されたと思っている所にアールお義兄様とアナベラ姉の婚約発表があった」

 片や、爵位目的の結婚で得た借金付きの貧乏伯爵位。

 片や、美女と評判のアナベラ姉との婚約、裕福なキャンディ伯爵家の娘婿。

 さぞや面白くなかったに違いない。

 私の言葉にトーマス兄が「成程な」と頷く。「ましてや、あの男はアナベラをしつこく狙っていた。それも理由の一つだろう」
カレル兄も「違いないな」と同意する。

 「遅かれ早かれそのような問題は起こると思っていた。それで、どのように場を収めたのだ?」

 父サイモンが続きを促した。アン姉が、それは私から…と口を開く。

 「アール様が口を開こうとした所に、アルバート殿下がいらっしゃいましたの。そして、私はこう聞いている、と」

 第一王子とはこれまた大物が出て来たな。

 第一王子アルバート殿下は社交界で公式に知られているメイソンとフレール嬢との馴れ初めを語りだし、「そちらの方は『野の花』で祝福されたお二人の為に身を引かれたというのに、『結婚するように仕向けられた』というのは穏やかではないですね」と言ったという。

 「奥方は今どちらでしょう? 今時珍しい純愛を育んだ時の人にお会いしてみたかったのですが」と追い打ちをかけるように訊かれ、メイソンはそれ以上二の句が継げず、礼を取って顔を伏せ、「生憎妻は病で臥せっております、元気になればいずれお目通り致しましょう」とだけ言って逃げるように去って行ったそうだ。

 「その後、私と二人は殿下にご挨拶をしましたの。お礼を申し上げて、そこまでは良かったのですけれど。ザイン様がそこへ現れたのですわ。見知らぬ美しい女性をエスコートなさって……」

 なん……だと。

 「本当ならザイン様とアンお姉様、アール様と私で夜会に出る筈だったのよ。どうしても外せない用事があって、とお姉様にお詫びの手紙が来ていたから仕方なく三人で……でもまさかこんな事になるなんて」

 アナベラ姉が気遣わし気な視線を向ける。アン姉は首を振り、寂しそうに笑った。

 「仕方ないわ。私も、妹達を見ていて忘れていたみたい。貴族同士の結婚なんですもの。恋愛はまた別物……」

 「待て、ザインはウィッタード公爵子息、殿下の学友でもある。殿下に付き添っていたのなら何も不思議じゃない。その、見知らぬ女性だって事情があっての事かも知れないじゃないか」

 カレル兄が慌てて待ったを掛けた。しかしそれが真実だったとしてもいまいち納得出来ない。

 「でもアン姉に何の説明も無かったんでしょ。あのクジャク野郎……」

 「クジャク野郎?」

 トーマス兄が聞きなれない言葉が気になったのか、意味を訊いてきた。私はここぞとばかりに得意になって説明する。

 「そうよ。思わせぶりに落ち着かなげに前髪を掻き上げたり、窓や鏡気にしたりして格好つけるじゃない、あの人。観察してみたら私達姉妹だけじゃなく、可愛い侍女の前でもやってたから、いつもそうやってる人なんだなーって思ったの。
 その様子がね、雌の前で発情してる癖に気取った様子で、メァオー! メァオー! バサァーって尾羽を広げるクジャクそっくりなのよ。だからクジャク野郎」

 私はクジャクの鳴き真似と羽を広げるジェスチャーをした。弟妹達が「メァオー!」とそれを真似してきゃっきゃとはしゃぐ。
 兄二人は愕然とした表情になった。

 「ザイン様が、クジャク……」

 アン姉も目を丸くして呟いている。
 それまで黙って話を聞いていた母ティヴィーナが笑い出した。

 「ク、クジャク男ですって! ふふふ、マリーちゃんは面白いわね。その理屈で言うと貴族ってクジャク男ばかりよ?」

 「私もそう思うわ。メイソンもクジャク男よ、それもとびっきりのね」

 アナベラ姉が肩を竦めると、トーマス兄が難しい顔をして顎に手を当てた。

 「言われてみれば確かに。社交界はクジャクの集まりか……」

 「俺もクジャクとか呼ばれないように気を付けよう」

 カレル兄は特に気を付けた方が良いかもな。イケメン程クジャク率は高い。

 「鳥の雄が派手で綺麗な場合ってさ、求愛の為でもあるけど、いざという時妻子を守るために自分が敵を引き付けて囮になる為でもあるってマリーは思うのよ。だからクジャク野郎が許されるのは妻子の為に命を捨てる覚悟をした時だけ~」

 アン姉を泣かせたらマリーがザインを処す! 大事なところを蹴ってやるんだから! と意気込む。イサークとメリーが僕も私もと参加表明。青筋を立てた父に教育に悪い下品な事を言うんじゃないと叱られた。

 「はぁ……アン。先ずは手紙ででも良いから問いただしてみなさい。真実が分からない内から悩んでも仕方がないのだからな」

 「はい…お父様」
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