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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
未知との遭遇。
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時はあっという間に過ぎ。とうとう婚約式の日と相成った。招待客も多く来るので、屋敷中が上に下にバタバタしている。
社交界なんぞ糞食らえとボイコットしている私も、流石に今日の身内の一大イベントには付き合わねばなるまいとドレスアップをしていた。
コンセプトがラベンダーなので、ブルー系のガウンドレスに青薔薇とラベンダーの造花、グレイの瞳に合わせた緑の宝石を組み合わせて飾り付け。
青薔薇を選んだのは、新たに誕生するカップルに花言葉『神の祝福』を捧げるつもりだからだ。使いまわしエコ万歳。
あれからアン姉の書いた手紙、一応返事が来たらしい。
見知らぬ女性の正体は明かせないが、王子殿下の命でエスコートしていた、誤解だという事らしいが、さて……。
ただ、アルバート第一王子殿下も婚約式に興味を持たれたそうなので、招待する流れになってしまった。
先日の事があってから心配していた婚約式は、予想に反して邪魔が入る事も無く恙無く執り行われた。その後は招待客達がめいめい音楽やダンス、料理を楽しんでいる。
クジャク野郎ザイン・ウィッタードは王子と共にやってきたそうだが、遠目で見る限り今日は流石にアン姉をちゃんとエスコートしていた。してなかったら髪の毛毟ってやるところだった。
それを確認してひとまず安心した私は、サリーナを伴って庭に降りるテラスでかっぱらってきた料理でピクニックと洒落込んでいる。他人とダンスなんぞしたくないし人混みも腹の探り合いも嫌いだ。
式そのものは終わったし、約束しているグレイはそれより先に商売関係の挨拶回りがある。
挨拶回りが終わるまで自室に帰ってても良いかと父に聞いたのだが警備の関係で駄目だと言われた。一応会場付近に居れば自由にして良いとの事。
なので比較的静かな場所で食事しながら待っているという訳だ。
グレイ、早く来ないかなぁ。
そんな事を思っていると、誰かの足音が近づいて来た。
「これはこれは。夕方のピクニックとは風流な。キャンディ伯爵家の料理はどれもこれも美味ですね」
現れたのはグレイではなく、小さな花束を手にした濃いめの金髪の男だった。明かりに透かされた部分がピンクがかっているようにも見える。なかなか甘いマスクだ。
だが、その目に浮かぶ光にどこか薄気味の悪いものを感じる。私の警戒心はマックスになった。
サリーナがすっと私の前に移動した。
「大変失礼ですが……どちらさまでしょうか?」
男は気を悪くした様子も無く、「これは失礼、」と紳士の礼を取る。
「初めまして、私はメイソン・リプトンと申します。次期リプトン伯爵となる者です」
私は驚愕に目を見開いた。
こいつが!
メァオー! メァオー! バサァー。
クジャクの幻影が背後に見えた気がした。成程、アナベラ姉の言う通り、こいつもとびきりのクジャク野郎だな。
しかし問題起こしたと思われる奴も招待していたのか、いや、招待状を出した後に言い掛かり事案が発生したんだっけ。
ぐるぐると思考を巡らせる私。
サリーナがこちらを窺うように振り向いた。名乗られた以上は名乗り返さねばなるまい。
「……初めまして。マリアージュ・キャンディと申します」
しぶしぶと名乗ると、メイソンはおお! とわざとらしく驚いてみせた。
「やはり、キャンディ伯爵家の御令嬢でいらっしゃいましたか。麗しい母君に実によく似ていらっしゃる。しかし貴女のような陽光の如く美しい女性、社交界でお見かけした事が一度も無かったのですが。お出になっていないのは何故なんでしょう? 弱みでも握られているのでしょうか? そう、例えば赤毛の男なんかに」
「……いえ、私は体が弱くて。人の大勢いるような社交界はとりわけ苦手なんですの」
「なるほど、それでこちらの静かな場所で食事をされているのですね。深窓の花、という事ですか。だから騙されてしまったのですね」
ははあ、もしかして。アナベラ姉で失敗したから、グレイの婚約者である私に目を付けてきたんじゃ……。
だとしたら、なりふり構わず必死だな。
後、『深窓の花』と言った時にどことなく小馬鹿にされたような気がする。世間知らずだからフレール嬢同様どうとでも良いように転がせると思われたんだろうな。
私は困ったような笑みを意識して作った。
「あの……? なんだか、仰っている事が良く分かりませんわ」
「いえ、良いのです。私が先走り過ぎたようですね。貴女のような稀有で美しい女性にお会い出来て光栄です。これを……」
言って、気障な仕草で手に持っていた花束を差し出す。よく見ると、それは野の花――つまり雑草。
私は笑いを堪えるのに必死だった。
出たよ。『初恋の野の花』。
残念だな。それはこれからラベンダーに取って代わられる予定だ。お前の時代は終わりなんだよ。
少し遊んでやろう。私は天然を装って両手を胸の前で組み、わざとはしゃいで喜んだ。
「まあ、素敵! 私、知ってますわ! 野の花を持ってヤギに求愛した男のお話を読んだ事がありますの。種族を超えた愛! 宜しければ庭師を呼んで家畜小屋まで案内させましょうか?」
心の中で豚野郎、と付け加える。
ひくり、とメイソンの頬が引き攣った。
社交界なんぞ糞食らえとボイコットしている私も、流石に今日の身内の一大イベントには付き合わねばなるまいとドレスアップをしていた。
コンセプトがラベンダーなので、ブルー系のガウンドレスに青薔薇とラベンダーの造花、グレイの瞳に合わせた緑の宝石を組み合わせて飾り付け。
青薔薇を選んだのは、新たに誕生するカップルに花言葉『神の祝福』を捧げるつもりだからだ。使いまわしエコ万歳。
あれからアン姉の書いた手紙、一応返事が来たらしい。
見知らぬ女性の正体は明かせないが、王子殿下の命でエスコートしていた、誤解だという事らしいが、さて……。
ただ、アルバート第一王子殿下も婚約式に興味を持たれたそうなので、招待する流れになってしまった。
先日の事があってから心配していた婚約式は、予想に反して邪魔が入る事も無く恙無く執り行われた。その後は招待客達がめいめい音楽やダンス、料理を楽しんでいる。
クジャク野郎ザイン・ウィッタードは王子と共にやってきたそうだが、遠目で見る限り今日は流石にアン姉をちゃんとエスコートしていた。してなかったら髪の毛毟ってやるところだった。
それを確認してひとまず安心した私は、サリーナを伴って庭に降りるテラスでかっぱらってきた料理でピクニックと洒落込んでいる。他人とダンスなんぞしたくないし人混みも腹の探り合いも嫌いだ。
式そのものは終わったし、約束しているグレイはそれより先に商売関係の挨拶回りがある。
挨拶回りが終わるまで自室に帰ってても良いかと父に聞いたのだが警備の関係で駄目だと言われた。一応会場付近に居れば自由にして良いとの事。
なので比較的静かな場所で食事しながら待っているという訳だ。
グレイ、早く来ないかなぁ。
そんな事を思っていると、誰かの足音が近づいて来た。
「これはこれは。夕方のピクニックとは風流な。キャンディ伯爵家の料理はどれもこれも美味ですね」
現れたのはグレイではなく、小さな花束を手にした濃いめの金髪の男だった。明かりに透かされた部分がピンクがかっているようにも見える。なかなか甘いマスクだ。
だが、その目に浮かぶ光にどこか薄気味の悪いものを感じる。私の警戒心はマックスになった。
サリーナがすっと私の前に移動した。
「大変失礼ですが……どちらさまでしょうか?」
男は気を悪くした様子も無く、「これは失礼、」と紳士の礼を取る。
「初めまして、私はメイソン・リプトンと申します。次期リプトン伯爵となる者です」
私は驚愕に目を見開いた。
こいつが!
メァオー! メァオー! バサァー。
クジャクの幻影が背後に見えた気がした。成程、アナベラ姉の言う通り、こいつもとびきりのクジャク野郎だな。
しかし問題起こしたと思われる奴も招待していたのか、いや、招待状を出した後に言い掛かり事案が発生したんだっけ。
ぐるぐると思考を巡らせる私。
サリーナがこちらを窺うように振り向いた。名乗られた以上は名乗り返さねばなるまい。
「……初めまして。マリアージュ・キャンディと申します」
しぶしぶと名乗ると、メイソンはおお! とわざとらしく驚いてみせた。
「やはり、キャンディ伯爵家の御令嬢でいらっしゃいましたか。麗しい母君に実によく似ていらっしゃる。しかし貴女のような陽光の如く美しい女性、社交界でお見かけした事が一度も無かったのですが。お出になっていないのは何故なんでしょう? 弱みでも握られているのでしょうか? そう、例えば赤毛の男なんかに」
「……いえ、私は体が弱くて。人の大勢いるような社交界はとりわけ苦手なんですの」
「なるほど、それでこちらの静かな場所で食事をされているのですね。深窓の花、という事ですか。だから騙されてしまったのですね」
ははあ、もしかして。アナベラ姉で失敗したから、グレイの婚約者である私に目を付けてきたんじゃ……。
だとしたら、なりふり構わず必死だな。
後、『深窓の花』と言った時にどことなく小馬鹿にされたような気がする。世間知らずだからフレール嬢同様どうとでも良いように転がせると思われたんだろうな。
私は困ったような笑みを意識して作った。
「あの……? なんだか、仰っている事が良く分かりませんわ」
「いえ、良いのです。私が先走り過ぎたようですね。貴女のような稀有で美しい女性にお会い出来て光栄です。これを……」
言って、気障な仕草で手に持っていた花束を差し出す。よく見ると、それは野の花――つまり雑草。
私は笑いを堪えるのに必死だった。
出たよ。『初恋の野の花』。
残念だな。それはこれからラベンダーに取って代わられる予定だ。お前の時代は終わりなんだよ。
少し遊んでやろう。私は天然を装って両手を胸の前で組み、わざとはしゃいで喜んだ。
「まあ、素敵! 私、知ってますわ! 野の花を持ってヤギに求愛した男のお話を読んだ事がありますの。種族を超えた愛! 宜しければ庭師を呼んで家畜小屋まで案内させましょうか?」
心の中で豚野郎、と付け加える。
ひくり、とメイソンの頬が引き攣った。
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