貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(33)

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 「カーフィ・モカだと!?」

 「そうなんだ、お父様。キャンディ伯爵家に影の者を送り込んでいた。幸い、偶然が味方して文字通り火であぶり出されて事無きを得たから良かったものの……」

 ルフナー子爵家の居間。僕はアールと共にキャンディ伯爵家で起こった事を報告していた。全て聞き終わると、父ブルックは「まさかそこに目を付けるとはな」と渋面を作った。

 「まったくじゃ、抜け目ない男だのう」

 祖父エディアールも溜息を吐いている。「何はともあれ、伯爵家の方々が御無事で何よりじゃ。神の御加護に感謝せねばのう」
 僕は頷く。

 「それで、僕はこれを。片手でも扱える銃だとか。名工フェルムに任せようと思ってる」

 例の拳銃ピストルの紙を取り出してテーブルに広げ、弾丸の構造を説明する。皆興味深そうにしていた。

 「これはマリーの筆跡だろう? ふむ、成程。大したものだ。この金属製の胴体で爆発の効率を上げ、かつ指向性を高めるのだな。ただ、使い捨てになるだろうから運用には金が掛かるだろうが」

 「キャンディ伯爵家やうちなら問題ないよ。警備強化目的だから」

 費用は確かにかかるだろう。だけどこれはマリーを守るためのものだから度外視したい。
 そう割り切る僕。父は煙草に火を点けながら口を開いた。

 「フェルムなら口が固いだろうが……くれぐれも気を付けるんだぞ。これは銃の扱いが格段に簡単になる画期的なものだ。余計な災いを招かぬようにな」

 「勿論、分かってる」

 「ならば俺はカーフィ・モカの動向を見張ろう。どうせ銀行の事で金貸し達に関わって行くんだ。噂も流したいしな」

 アールが情報収集を請け負ってくれた。モカ男爵にはキャンディ伯爵家も目を付けただろうけど、監視の目は多いに越した事はない。
 後、噂というのはきっと銀行に先駆けて金貸しを脅すためのものだろう。モカ男爵は見せしめという訳だ。状況を上手く利用している。
 祖父がふと首を傾げた。

 「その、曲者はどうなったんじゃ。捕まえて、情報を吐かせたのじゃろう?」

 「……首だけ男爵家に」

 端的にそれだけを答えたアール。やや顔を青褪めさせる祖父と父。
 居間に静寂が下りた。

 「キャンディ伯爵家は普通の家じゃない。あまり首を突っ込まない方がいいよ、お爺様」

 ぽつりと呟くように言う。黙って頷く祖父。
 父ブルックは「まあ、そうだろうな……」と気を取り直すように煙草を咥える。
 何か知っているみたいだけど、僕達も敢えてこれ以上話すつもりは無い。
 拳銃の紙を仕舞いながら、僕は気持ちを切り替えた。


***


 「じゃあ、これでこの話はお終い。ところで、お爺様。訊きたい事があるんだけど」

 「な、何じゃ?」

 先程の余韻か、若干ビクつかれた。気にせず僕は続ける。

 「たとえば、十数年に一度の割合で、物が売れにくくなる時期が来たりしない?」

 「ふむ?」

 唐突な質問に目を丸くする祖父。

 「グレイ、お前何故それを知っておるのじゃ? 確かにそういう時期はあるぞ」

 「え、本当に?」

 「前はまだグレイが6つか7つ位の時じゃったかの。もうそろそろ来そうな塩梅じゃ」

 「そうなんだ……やっぱりマリーは凄いな」

 「やはりマリーか。退屈せんな」

 興味深そうに話して聞かせろという父。僕は望遠鏡にまつわる話を語る。
 父ブルックはあまりの内容に驚愕の表情になり、持っていた煙管を取り落とした。テーブルの上に火の粉と灰が散り、慌てて拾っている。

 「あつっ……なあ、グレイ。あの娘は、その、人間か? 人の姿を借りた何かと言われても驚かんぞ、俺は」

 「ちょっと、失礼な事言わないでくれるかな、お父様!」

 「そうじゃぞ、ブルック。わしはまるでいにしえの聖女様のようじゃと思ったぞ」

 「聖女様……」

 一瞬、そうかもと考え、いやいや、と思い直す。
 銀行だの株式だの、その目的だの、彼女の語った善良とは言い難い危険な内容を考えるとちょっと違うような気がする。どっちかと言えば、賢者の方が近いような。
 だけど古の帝国の賢者は男性だった筈。女性で賢者っているのかな?
 ぐるぐると考えこんでいると、先程テーブルの上に散らした灰を寄せ集めて灰皿に落としていた父が口を開いた。

 「それはそうとグレイ。マリーにクァイツの使い方を教わって来い」

 「えっ。それはまた何故?」

 「髪飾りとして売っていたが、考えが変わった。クァイツの使い方込みで貴族に売る。先日、キャンディ伯爵家から注文があっただろう? きっとマリー姫が使うのを見た家族も欲しがったに違いない。それで思いついてな。貴族は特別感が好きだ。だから、ああいった難しいカトラリーを使いこなせるという特別感を与えれば売れるぞ、きっと」

 確かにマリーの訪問の後、約束のフォークが届くと共にキャンディ伯爵家人数分のクァイツの注文があったっけ。
どうせ売れないし、と売らずに贈ったのだった。
 だけど。
 マリーがクァイツを使っているのを思い出す。結構難易度高そうだな。

 「うーん、僕に出来るのかな……まぁ、頑張ってみるけど」

 「習得にかかる時間等も実体験してみなければ分からんだろう。お前が使いこなせるようになれば今度は俺に教えろ、良いな」

 「分かったよ、お父様」

 言って、僕は首を竦めた。
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