貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(53)

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 やがて、マリーの誕生日当日になった。

 普通、貴族の誕生会と言えば交流のある他家の貴族を呼んだりして行うものだけど、マリーの場合は社交界に出ていないので、家族だけのものだった。
 豪華な料理に舌鼓を打ち、食事が終わりかけたその時。使用人達がテーブルの上の燭台の火を消していった。
何が起こるんだろう。マリーに囁いて訊ねると、キャンディ伯爵家の誕生日を祝う習慣だそうだ。火のついた蝋燭が刺さっている大きなケーキが運ばれてきた。マリーの目の前にどんと置かれる。

 どこからかリュートを奏でる音。それに合わせて皆が歌いだす。
 僕が知らない曲だったが、単純な詩に節回しなので覚え易かった。

 『親愛なるマリアージュの誕生日に幸あれ~♪』

 「皆、ありがとう」

 誕生日を寿ぐ歌が終わると、マリーは周りを見渡すと微笑んだ。そして息を大きく吸い込むと、蝋燭の火に吹きかけて消す。
 そこで拍手が上がり、口々におめでとうの声。僕もそれに合わせて拍手とおめでとうを言った。再びテーブルの上の燭台に火が灯され、明るくなる。ケーキが切り分けられ、お茶が運ばれてきた。

 マリーに習慣の事を訊けば、年齢の数だけの蝋燭を灯すそうだ。確かに引き抜かれていく蝋燭の数を見てみると、十四本ある。
 では、サイモン様なんかは蝋燭が凄い数になるだろう。どうするのかと聞けば、色々やりようがあるそうだ。
 ケーキは果物がクリームと挟んであって美味しかった。流石はキャンディ伯爵家の菓子。

 ケーキを食べ終えると、贈り物の時間。アールはマリーは海に憧れているとの僕の助言を受けて、大粒の真珠のアクセサリーを用意していた。

 最後は僕の番だ。素直にオコメが間に合わなかったと言って被せていた布を取って鳥籠を渡す。マリーは目を大きく瞠って笑顔になった。

 「まぁ、可愛い!」

 鳥について詳しく説明をすると、驚いた様子。世話や餌についての質問に幾つか答えた後、上気した頬で手を握られて大事にすると言われた。それが自分に言われているようにも感じてしまい、僕は恥ずかしくも喜んで貰えた喜びに満たされていた。


***


 食事が終わった後。

 僕はマリーの部屋で二人きりになっていた。
 忙しくてなかなか二人だけの時間がゆっくり取れなかったので嬉しい。

 「グレイ、今日はありがとう。素敵な誕生日だったわ」

 「うん。僕もマリーのやり方で誕生日しようかな」

 おどけて言うと、彼女は「良いと思うわ」とクスクスと笑う。

 「来年、グレイの誕生日が楽しみね」

 「マリーが祝ってくれるなら僕も楽しみだ」

 何となく、お互い微笑み合い。そして軽く口づけを交わす。

 「最近はあまりグレイと会えなくて寂しかったわ」

 「僕もだよ。来月はなるべく時間を作るように頑張るから。ところで、最近どうしてたの?」

 近況を訊くと、マリーは渋面になった。

 「実は……ウエッジウッド子爵に会ってしまったの。グレイとお昼を一緒に食べた、あの日の午後の事。しかも普段客を入れる事の無い、奥向きの場所でよ?
 アン姉の客としてザインお義兄様やアルバート第一王子殿下と一緒に来たらしいわ。本人は迷い込んで来たとか言ってたけど、どうにも怪しくて……」

 何だって!?

 「その時は上手く追い払ったのだけど、話を聞いたアルバート殿下が話を聞きたいと言われたそうで。何度かは上手く用事や言い訳を作って逃げたけれど、結局はアン姉様の面目の手前、殿下にご挨拶する羽目になったの。アン姉様は一度お会いすればそれで終わるからと仰っていたけれど……」

 話を聞き終わって、僕はやはり警戒すべきはギャヴィン・ウエッジウッド子爵なのだと思った。
 その事を僕の持つ情報と合わせてマリーに伝える。なるべく子爵には会わない方が良いと言うと、多少青褪めながらももう会う事はないと思うと頷いた。

 何かを考え込むように無言で下を向くマリー。

 ……少し不安にさせ過ぎたかな。

 心配になって声を掛けようとすると、彼女はぱっと顔を上げるなり手をぱちんと叩いた。

 「それよりも! グレイ、金貨十二枚でクジャク何羽買えるの?」

 クジャク? 金貨十二枚?

 僕は面食らう。さっきとは脈絡の全く無い話だ。

 マリーは少し意地悪な笑みを浮かべて話し出した。
 何でも、アン様の婚約者のザイン様はマリーやアナベラ様と顔を合わせると挙動不審になり、目を逸らしたり髪を掻き上げたり等の落ち着かない態度を取るそうだ。
 第一王子殿下との茶会に呼ばれている間、マリーは大人しくしながらもザイン様のそうした行動を『クジャク行為』と称して数えて遊んでいたらしい。
 それが合計十二回。『クジャク行為』の数だけの金貨でクジャクを買う事を決めたそうだ。

 僕はマリーの所業に腹を抱えた。何となく分かる気がする。きっとザイン様は美女を目の前にするとそうなってしまうのだろう。お気の毒に。

 しかしクジャクは高価だが、案外手に入りやすい鳥だ。金貨十二枚は多すぎる。
 希少な純白種を入れるなら予算的には良いかも知れない。
 そう請け負うと、マリーは楽しみだと微笑んだ。

 その後、誕生日の歌をせがまれたのには参った。あまり歌は得意じゃないから小声で勘弁して欲しい。
 それでも僕のたどたどしい歌に嬉しそうに耳を傾けるマリー。僕ばかり恥ずかしいのが少し悔しくなったので、歌詞の『親愛なる』を『僕の最愛の』と変えてやった。
 頬をリンゴのように染めるマリーの顔にささやかな勝利を感じながら、僕は彼女を抱きしめる。そして、深い深い口づけを落としたのだった。
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