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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(59)
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マリーは甚だ不本意だったのだろう、地団駄を踏んで幼い子供のように癇癪を起した。悔しい、友達にならされたと怒り狂うマリー。僕も不安でたまらなくなっていた。もし、マリーが第一王子に望まれれば、僕は逆立ちしたって身分的に太刀打ち出来ない。
僕はマリーを離すまいと、そして心中の不安の漣を静めようとぎゅっと抱きしめる。しばしの間、彼女の纏う薔薇の香りにほうと落ち着きを取り戻した。冷静に考えるんだ、グレイ。殿下は本当にマリーを欲しているのだろうか。
いや、と思い直す。ギャヴィンの言い方では、欲しているのは彼女の頭脳だ。
そう考えれば確かに身分を傘に着て脅してでも手に入れる価値はあるのかも知れない。何せ、聖女に選ばれるぐらいの神の恩寵なのだから。きっと、ギャヴィンは出世を、そして殿下は王になる前の功績を望んでいる。その為にマリーの知恵を欲しているのだろう。
不安そうにしている彼女にとっては、一般的な貴族令嬢と違って第一王子殿下に望まれても嬉しくないのだ――身分によらず、僕と結婚したいと思ってくれているんだと喜びを感じていた。
考える。ギャヴィンは殿下がマリーを召し出さないように自分と友人関係になれと強要した。という事は、ギャヴィンはマリーが王妃に望まれるのは反対なのだろうと思う。
だから、今の時点では何とも判断出来なかった。マリーが本当に召し出されるのかどうかは。
それよりも。
「マリー。さっき様子がおかしかったけれど、何かあいつに弱みでも握られているの?」
僕にとっては寧ろこっちの方が気になっていた。弱みを握られていなければギャヴィンに屈することもなかったのだから。
問われたマリーは「に、握られてなんかないわ!?」と目をあちこちに彷徨わせている。握られているんだな。
それは僕にも言えないことなのだろうか? 面白くない。
「嘘はいけないよ、マリー。婚約者である僕にも言えない事なの?」
言えば、マリーは黙って下唇を噛んで俯いた。ちらりと僕を見やる目の中に縋るような色が見える。言うべきかどうか迷っているんだろう、もう一押しかも知れないと彼女の名を呼んで催促する。
マリーは決断したらしく、顔を上げて僕と視線を合わせると口を開いた。
「あ、あのね、グレイ……」
その時、がちゃりと扉が開かれる。
「マリー! 無事か!?」
「メイソンに襲われたって聞いたぞ」
口々に言いながら入ってきたのは、サイモン様とカレル様だった。
後少しだったのに。何て間の悪い。
***
サイモン様とカレル様にマリーが襲われた経緯を話していると、メイソンが捕まったとの報告があった。
僕達が睡蓮や釣りを楽しんだあの池で取り押さえたらしい。
マリーは襲われたというのに気丈にも検分に着いてくると言い張った。僕はせめてと思い、彼女の手を取ってエスコートする。
功労者はやはりというか、前足のヨハンと後ろ足のシュテファンだった。
庭師――その実は世を忍ぶ騎士でもある彼らから捕まるまでの顛末を聞かされた僕は、笑いを堪えるので精一杯だった。蜂の巣箱に鳥達――マリーの智恵や趣味がメイソンをこっぴどく痛い目に合わせ、捕縛へとつながったのだから。
きっとマリーは神に愛されているに違いない。流石は聖女というべきか。
魚のように網で捕らえられ、ぐるぐる巻きに縛られてぐったりしているメイソン。
あの時は余裕も無く気付けなかったけど、よく観察すればサイモン様の仰る通り下級貴族のような服装だ。
警備兵が鬘と付け髭を発見した事で、招待客の誰かが手引きした可能性が高くなった。
招待客への聞き取りの結果――やはりというか、メイソンを連れてきたのはザイン様だという事が判明した。
先日娼館を調査した時にはメイソンとザイン様に接触は無かったというが、まさか娼館の外で変装した上で接触していたなんて思いもよらなかった。ここは兄さんと僕の思慮不足、見通しの甘さ、落ち度としか言いようがない。
客室で事件を知らされたザイン様は青褪めて深々と謝罪している。マリーの話ではメルローズ様も標的になっていたらしい。もし、マリーやメルローズ様が害されていたら……その咎はザイン様にもある。アン様は気絶しそうになった程だ。それでも踏みとどまり、恐る恐るマリーの安否を確かめている。
パーティーが終わって後からやってきたアールもまた事件とその顛末を聞いて、自分がメイソンを追い詰め過ぎたせいだと土下座せんばかりに謝っていた。
サイモン様もマリーも、偶然が重なった不幸で、ザイン様にも責がある事だし、結果的に死人が出なかっただけ良かったと兄さんを許したが、帰りの馬車でもアールはずっと自分を責め続けていた。
それよりも、と思う。
「兄さん、もう過ぎた事は仕方がないよ。挽回しなきゃ。リプトン伯爵家を調べないとね」
僕の言葉に、アールは息を吐いて頷いた。
「……そうだな。今後気を付ける事としよう。そもそもカーフィ・モカはリプトン伯爵位を狙っていた男だ。戻ってきたとしたら執念深いな。流石は蛇という事か」
マリーの言葉で分かった、フレールの近くに金貸しの中年男――カーフィ・モカ男爵が居る可能性。僕達の家にやってきた時は、金持ちの男と結婚させられると言っていただけだから気付かなかったけれど。
その相手がもし奴だったらリプトン伯爵領から富を吸い上げる事が非常に難しくなる。それに、あの男はキャンディ伯爵家に暗殺者を差し向けた男だ。生かしておいては後々の害になる。
今度は絶対に逃さないようにしないと。
そう決意した僕達は、家に辿り着くまでの間、あれやこれやと話し合うのだった。
僕はマリーを離すまいと、そして心中の不安の漣を静めようとぎゅっと抱きしめる。しばしの間、彼女の纏う薔薇の香りにほうと落ち着きを取り戻した。冷静に考えるんだ、グレイ。殿下は本当にマリーを欲しているのだろうか。
いや、と思い直す。ギャヴィンの言い方では、欲しているのは彼女の頭脳だ。
そう考えれば確かに身分を傘に着て脅してでも手に入れる価値はあるのかも知れない。何せ、聖女に選ばれるぐらいの神の恩寵なのだから。きっと、ギャヴィンは出世を、そして殿下は王になる前の功績を望んでいる。その為にマリーの知恵を欲しているのだろう。
不安そうにしている彼女にとっては、一般的な貴族令嬢と違って第一王子殿下に望まれても嬉しくないのだ――身分によらず、僕と結婚したいと思ってくれているんだと喜びを感じていた。
考える。ギャヴィンは殿下がマリーを召し出さないように自分と友人関係になれと強要した。という事は、ギャヴィンはマリーが王妃に望まれるのは反対なのだろうと思う。
だから、今の時点では何とも判断出来なかった。マリーが本当に召し出されるのかどうかは。
それよりも。
「マリー。さっき様子がおかしかったけれど、何かあいつに弱みでも握られているの?」
僕にとっては寧ろこっちの方が気になっていた。弱みを握られていなければギャヴィンに屈することもなかったのだから。
問われたマリーは「に、握られてなんかないわ!?」と目をあちこちに彷徨わせている。握られているんだな。
それは僕にも言えないことなのだろうか? 面白くない。
「嘘はいけないよ、マリー。婚約者である僕にも言えない事なの?」
言えば、マリーは黙って下唇を噛んで俯いた。ちらりと僕を見やる目の中に縋るような色が見える。言うべきかどうか迷っているんだろう、もう一押しかも知れないと彼女の名を呼んで催促する。
マリーは決断したらしく、顔を上げて僕と視線を合わせると口を開いた。
「あ、あのね、グレイ……」
その時、がちゃりと扉が開かれる。
「マリー! 無事か!?」
「メイソンに襲われたって聞いたぞ」
口々に言いながら入ってきたのは、サイモン様とカレル様だった。
後少しだったのに。何て間の悪い。
***
サイモン様とカレル様にマリーが襲われた経緯を話していると、メイソンが捕まったとの報告があった。
僕達が睡蓮や釣りを楽しんだあの池で取り押さえたらしい。
マリーは襲われたというのに気丈にも検分に着いてくると言い張った。僕はせめてと思い、彼女の手を取ってエスコートする。
功労者はやはりというか、前足のヨハンと後ろ足のシュテファンだった。
庭師――その実は世を忍ぶ騎士でもある彼らから捕まるまでの顛末を聞かされた僕は、笑いを堪えるので精一杯だった。蜂の巣箱に鳥達――マリーの智恵や趣味がメイソンをこっぴどく痛い目に合わせ、捕縛へとつながったのだから。
きっとマリーは神に愛されているに違いない。流石は聖女というべきか。
魚のように網で捕らえられ、ぐるぐる巻きに縛られてぐったりしているメイソン。
あの時は余裕も無く気付けなかったけど、よく観察すればサイモン様の仰る通り下級貴族のような服装だ。
警備兵が鬘と付け髭を発見した事で、招待客の誰かが手引きした可能性が高くなった。
招待客への聞き取りの結果――やはりというか、メイソンを連れてきたのはザイン様だという事が判明した。
先日娼館を調査した時にはメイソンとザイン様に接触は無かったというが、まさか娼館の外で変装した上で接触していたなんて思いもよらなかった。ここは兄さんと僕の思慮不足、見通しの甘さ、落ち度としか言いようがない。
客室で事件を知らされたザイン様は青褪めて深々と謝罪している。マリーの話ではメルローズ様も標的になっていたらしい。もし、マリーやメルローズ様が害されていたら……その咎はザイン様にもある。アン様は気絶しそうになった程だ。それでも踏みとどまり、恐る恐るマリーの安否を確かめている。
パーティーが終わって後からやってきたアールもまた事件とその顛末を聞いて、自分がメイソンを追い詰め過ぎたせいだと土下座せんばかりに謝っていた。
サイモン様もマリーも、偶然が重なった不幸で、ザイン様にも責がある事だし、結果的に死人が出なかっただけ良かったと兄さんを許したが、帰りの馬車でもアールはずっと自分を責め続けていた。
それよりも、と思う。
「兄さん、もう過ぎた事は仕方がないよ。挽回しなきゃ。リプトン伯爵家を調べないとね」
僕の言葉に、アールは息を吐いて頷いた。
「……そうだな。今後気を付ける事としよう。そもそもカーフィ・モカはリプトン伯爵位を狙っていた男だ。戻ってきたとしたら執念深いな。流石は蛇という事か」
マリーの言葉で分かった、フレールの近くに金貸しの中年男――カーフィ・モカ男爵が居る可能性。僕達の家にやってきた時は、金持ちの男と結婚させられると言っていただけだから気付かなかったけれど。
その相手がもし奴だったらリプトン伯爵領から富を吸い上げる事が非常に難しくなる。それに、あの男はキャンディ伯爵家に暗殺者を差し向けた男だ。生かしておいては後々の害になる。
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