貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

~告白~比翼連理。

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 残ったシチューを貰って食べようとした時、やけに視線を感じたので顔を上げたら、聖女様からお言葉を賜りたいと言われて適当に挨拶と話をしたんだっけ。
 グレイと同じ赤い髪の人から「『火の神は本当に邪悪だったのですか』」なんて質問が飛んできたから答えたり。

 そんな事を思い出していると、グレイがクスクスと笑った。

 「きっと、今日の事は『聖女の奇跡と最初の教え』とでも銘打たれて、劇になったり歴史に残ったりするんだろうね。信仰に篤い熱心な人達ばかりだったもの。赤髪の人間も、きっと生きやすくなってくると思う」

 「ありがとう、マリー」としみじみ言われた。い、いやあの適当に赤毛地位向上になるように話しただけなので恥ずかしいというか面映ゆいというか。

 「ど、どういたしまして……!」

 しどろもどろになって私は俯く。グレイがこっちをじっと見ているのを感じる。

 「ねぇ、マリー。実は僕、マリーが聖女の力に目覚めてから、時々君の姿が別の女性に見えるんだ」

 ――えっ?

 「っ、それって!」

 私は思わず顔を上げた。「どんな感じの女性なの? 思い出してみて」

 「……黒い髪と瞳の、異国の女性だよ」

 私は瞠目する。グレイから精神感応で伝わって来たその外見は、正に前世の私だったのだ。
 ……夫婦になる以上は、きっと話しておくべきなのだろう。

 暫く考え、覚悟をを決める。そして真っ直ぐに彼に顔を向けた。

 「……実はね、グレイ。私、生まれる前の記憶があるの」

 ランタンの揺らめく炎を反射してオレンジ色に煌めくグレイの瞳を見詰めながら、私はポツポツと彼に語った。
 こことは違う、別の世界の文明が進んだ国で生きた記憶がある事、グレイが見た女性は前世の自分である事、前世の死因、神に出会って転生させられた事、全てを。

 全てを聞き終わったグレイは、静かに「そうだったのか、」と呟いた。

 「この世界よりも遥かに進んだ世界、か。マリーの不思議な知識はそこからだったんだね」

 謎が解けたよ、と感慨深げに呟く彼に、私は頷いた。
 サタナエル様との会話を思い出す。

 「聖女は神の栄光を人々に示す事を期待されているわ。つまり、神の名代として『来るべき災厄』の事とその対処を伝え、出来る限り犠牲を少なくするように人々を導く事――この能力を授かったのもその為よ。
 初代聖女もそれで呼ばれたの。彼女は私とほぼ同じ時代の、同じ国の人よ」

 グレイが目を瞬かせた。

 「えっ? でも初代聖女とは時代が違うんじゃ……」

 「魂が世界を超えるのに、時間と空間は関係なくなるのだと思うわ」

 「はぁー……、僕には想像も付かないや」

 理解の範疇を超えたのか、彼は天を仰いだ。私はごくりと唾を飲み込む。

 「あの、グレイ……グレイはこんな私と結婚して本当に良かったと思う?」

 「……この期に及んでいきなり何を言い出すんだよ、マリー」

 呆れたような声に、だって、と反論をする。

 「本当は私……記憶がある分、グレイよりもずっと年上なのよ。それに、聖女として覚醒して、力を持ってしまった。
 神の力と言ったって、人からすれば恐ろしいものだと分かってるの。グレイはこんな私を恐ろしいと思ったり、気持ち悪く思ったりしないの?」

 訊くのに随分勇気を有した。それでも一番知りたかったのがそれだった。
 ましてや彼は昼間目の前で大司教が燃え上がるのや鳥達が私に応えて攻撃するのを目の当たりにしている。恐ろしくない訳がない。
 言っている内に目頭が熱くなり、大粒の水滴がぽたぽたと零れ落ち始めた。グレイははぁっと息を大きく吐く。袖で私の目を拭うと、私を抱きしめ温かい口付けを額に落とした。

 「馬鹿だね、マリー。聖女様になろうと前世を思い出そうと、そして神の力を持とうと――マリーはマリーだよ。君がその力を恐ろしい目的に使う事は無いと信じてる。勿論僕だけじゃない、マリーの家族や親しい人だってそうだよ。
 それに――何より僕は、そんなマリーを心から愛している」

 「グレイ……!」

 私は感極まって彼の胸に顔を埋めた。
 そして私達は深い口付けを交わし、そのまま柔らかなベッドに倒れ込んで生まれたままの姿になってお互いの熱を分かち合う。
 合歓綢繆ごうかんちゅうびゅう――二つの存在は交り合い、やがて一つに溶け合ったのだった。


***


 「聖女様、グレイ枢機卿、お二人が結ばれました事、心より寿ぎを申し上げます」

 「ありがとう存じます、お蔭様で晴れて夫婦となる事が出来ました」
 「心より感謝致します、猊下」

 一夜明け、嬉し恥ずかし名実共に夫婦となった私達。気恥ずかしさを我慢しながら、サングマ教皇に対面してお礼を述べていた。
 これで心置きなくトラス王国に帰る事が出来ようというものである。

 「妹夫婦の婚姻に多大なご助力を頂きまして感謝に堪えません、猊下。我が父サイモンも大変な名誉に思う事でしょう」

 カレル兄も身内として頭を下げている。サングマ教皇は鷹揚に微笑んで、なんのと手を振った。

 「途中、邪魔が入ってしまったのは口惜しい出来事でしたが、結果的に悪人が裁きを受け、一人のいたいけな少年の魂が救われたのです。聖女様の奇跡も居合わせた人々の目に焼き付いた事かと」

 まあ、伝わって来る限りではサングマ教皇の敵対勢力が一掃されたのである。たまたま脂身が救いようがないゲス野郎だったってだけで。教皇は内心笑いが止まらないだろう。

 私は聖女ではあるが、結婚した。聖職者が性的欲望に振り回されてはならぬという事で純潔を保つのが不文律みたいな所があるが、私的にはそれは逆効果だと思う。

 既婚者が連れ合いを亡くして出家する場合と、未婚で出家する場合では明らかに後者に問題が発生する確率が高い。
 あの脂身みたいに妙にねじ曲がった性癖になって犠牲者を出すよりは、普通に花街に行ってお姉さん方に頼む方がまだマシである。この問題を放置しておくと子供を誘拐した上にアド●△ク■ム欲しさに虐待してカニバるトチ狂った奴が出かねないからな。

 聖職者の性問題について改革案を提案し、それについて話し合っていると――「失礼します」とエヴァン修道士がやってきた。
 コリピサからキーマン商会の使いが訪ねて来て、イドゥリースの荷物を届けてくれたらしい。
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