貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

過去の透視は場所を選ばないと大変な事になります。

 金やダイヤモンドも良いが、私は何より温泉に入りたい。
 その為に私はあらかじめ温泉を掘る方法まで必死で脳内検索してきたのだから。

 と言っても、掘削機も無いこの世界。やれる方法は限られている。
 掘る方法はパイプ管を使った井戸掘りが良さそうだが、場合によっては大掛かりな仕掛けの要る上総掘りも検討しなければならないだろう。
 ただ、問題はここが山地であるという事。

 山地だから木材も豊富だし、やってやれない事はないだろうが、パイプ管掘りや上総掘りに適しているのは平野、低地でも地中に硬い岩盤等が無い場合に限られる。
 山は岩等も多く埋まってるだろうし人力での温泉・井戸掘りにはあまり適していない。低地を探さねば。

 温泉の熱水脈の中で、一番地表に近いかつ温泉脈まで硬い岩盤等が無い場所が理想的である。自然、候補地は鳥ノ庄の街周辺で探す事になった。
 現地で詳しく透視して分かったが、鳥ノ庄付近からずっとダージリン領方面にかけて休眠火山が連なっている。
 その範囲で詳しくサーチしていくべきだろう。


***


 鳥ノ庄の城へ戻った明くる日。

 父が鳥ノ庄当主ジェロックと共に金鉱山とダイヤモンド鉱山の掘削計画を立てている間、私はグレイと馬の脚共(三対)、アルトガル、エヴァン修道士、サリーナ、案内役のエロイーズを引き連れて別行動をする事になった。野外活動なので迷彩服着用である。
 昨日もそうだったが、流石に愛馬ハリボテは無理があるのでグレイとリディクトにタンデム。何かを訴えるような馬の脚共の視線が煩いが、この普通の馬に乗れる喜びよ。

 「やれやれ、やっと動ける。数日の間、我輩達はリーダー殿だけが慰めでしたよ」

 ――カァ!

 馬に揺られながらため息交じりに零すアルトガル。その肩でリーダーが一声鳴いた。
 エヴァン修道士も「待機の間、見逃していた奇跡があったかと思うと……!」と頷いている。
 流石に鉱脈関係は機密事項なので、アルトガルとエヴァン修道士は調査の間は街で待機。エヴァン修道士は執筆するというので、アルトガルが寂しかろうとリーダーを付けていたのである。それなりに仲良くなったようだ。
 温泉ぐらいならまあよかろうと父サイモンが外出許可を出した。
 私達が居ない間、さぞかし警戒の視線に晒されていたことだろう。

 透視によるサーチの結果、私が見つけたのは鳥ノ庄を貫く流れる川沿いの地下にある熱水脈。川を伝って街から出て少し下流に下る。
 熱水脈を辿りながら草原を行く道をそれて行くと、森林地帯の手前に不自然な人工物があった。

 「何かあるわね」

 近付くと、薄汚れて折れた白い柱、積み上げられている石のレンガらしきもの。
 朽ちた何かの建造物がそこにあった。筋の入った、古代ローマ帝国の神殿を思わせるような柱だ。
 ぐるりと見渡すと、結構大きな規模の建物だったのではないかと思える。

 「いつの時代のものかは存じませんが、地元の者は『いにしえの祭壇』と呼んでおりますわ」

 エロイーズが説明してくれた。
 私はその建造物に近付き、そっと手を触れて透視能力を使ってみる。

 「うぎゃっ!?」

 思わず令嬢らしからぬ悲鳴を上げて能力を切った。
 というのも、いきなり私の目に飛び込んで来たのはでムキムキのおっさんが、腸詰をブラブラさせながら歩く姿だったのである!

 「マリー様!」等と馬の脚共が焦ったように声を掛けて来る。グレイも「大丈夫!?」と心配顔で抱きしめてくれた。

 「何か分かったの?」

 そう訊かれるも、ナニを至近距離で見てしまったなどと答えられる筈もない。

 「だ、大丈夫よ。ちょっと驚いただけ」

 そう言って、今度は少し離れてから透視を再開した。過去の透視は場所を選ばないとえらいこっちゃ。
 目の前に蘇る、湯けむりと――石造りの浴槽の中で疲れを癒す裸の男達。着衣で控えている使用人らしき者の姿も見える。
 そして、美青年とキスしているさっきのおっさん……てか、お前はハドリアヌス帝(※美青年アンティノウスを愛した古代ローマ皇帝)かよ!

 私は透視能力を切ると、深呼吸して荒ぶった精神を落ち着けた。

 「……ここは、祭壇じゃないわ。これは……浴場テルマエよ」

 「テルマエ?」

 「そうよ、グレイ。遠い昔、ここは温泉だったのよ。入浴施設ね」

 どうも古代帝国に支配されていた時代に掘られた温泉であったようだ。
 浴場テルマエが現役だった頃の時代を精神感応で見せてやると、皆どよめいていた。
 何人かは全裸の刺激が強かったようで少し顔を赤らめている。千数百年越しに覗きをされるとは当時の人々も想像すらしてなかったに違いない。

 続けて地下を透視してみると、ここにあった熱水脈が何らかの理由で随分移動してしまっている事が分かった。
 恐らく温泉が枯れたから放棄されてしまったのだろう。そして時代を経て朽ち果て、土に埋もれてしまっている、と。
 しかし移動した先の上から温泉を掘り直せば。

 「行きましょう」

 熱水脈を追って進むと、開けた河原へ出た。
 私は川へ近付く。
 谷になっている場所で熱水脈からの距離も近く、傍に川があるので温度調節もしやすい。
 河原の岩石はあるが、途中に障害物も無く掘りやすそうではある。
 私はヨハンに声を掛け、良さそうなポイントに布を結び付けた目印の棒を立てさせた。
 ここでも熱水脈は近いし良さそうだけど……もう少し浅い場所が無いだろうか。

 「マイティ―を」

 シュテファンが、腕に止まっていたマイティ―を飛ばした。
 私は目を閉じ、精神集中。マイティ―の視界を借りる。

 「――あった!」

 一旦道へ引き返し、もう少し下流へ。森林地帯手前で馬を置いた後はヨハンのおんぶで見つけた場所へ移動、そこで下ろして貰った。

 「多少岩石はあるけど、上だけだからどかせばいけそう」

 私は靴を脱いで迷彩ズボンを捲り上げた。

 「マリー様!?」

 サリーナがぎょっとしたように声を上げる。
 私は構わず川に入って石を積み始めた。

 「なりません! このような事はヨハン達にお命じ下さいまし!」

 思いのほか力が強いサリーナに羽交い絞めにされて強制執行を受ける。
 エヴァン修道士はあっと目を覆い、アルトガルにも「うら若き貴族婦人が素足を晒すのは感心しませんよ」と苦言を呈された。
 ちっ、やってみたかったのに。お貴族様は案外不便である。
 仕方ない、馬の脚共に申し付けるか。

 「お前達。石を積んで、川の水をぐるっと堰き止めるのだ。それが済んだら水底を掘り進めるように。温かい水が出て来る筈だ」

 「はっ!」
 「ははっ!」
 「了解です―」

 私の下知を受けて馬の脚共が動き出す。アルトガルも手伝ってくれるようだ。
 流石に男四人がかりだと仕事が早い。

 「おお、本当に熱水が出てきましてございます!」

 感動したように燥いでいるヨハン達。グレイが近付いて水に手を浸した。

 「本当だ、温かくて気持ち良いね。アヤスラニ帝国の浴場を思い出すよ」

 私も続いてみると、浸かるのにいい塩梅の湯加減である。

 「やったわ! お前達、身を隠せるような垣根をこの周りに作るのだ!」

 次の命令を高らかに下すと、サリーナがあ然としている。

 「何をなさるつもりですか……まさか」

 「勿論裸になって温泉を堪能するのよ! 一番風呂は私のものなんだから!」

 無意味に天を指差し、仁王立ちになって宣言すると――

 「「「駄目(だよ)です!」」」

 その場に居た全員から駄目出しを食らってしまった。野外で裸身になるなどもっての外、と叱られたのである。
 すったもんだの押し問答の末――足湯で譲歩する代わりに、ちゃんとした施設が完成した時の一番風呂の権利を勝ち取る事が出来た。

 「気持ちいい~♪」

 サリーナとエロイーズを巻き込んでの足湯。二人共足湯を気に入ったようだ。
 私も火山の恵みを堪能して幸せいっぱいだった――鳥ノ庄で報告を聞いた父サイモンから拳骨と説教を食らうまでは。
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