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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
あの脂身、とうとうやりやがった!
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「ご覧になった通り、あれはこの世界を変える程の力を秘めたもの」
ただ、大型にするには時間も費用も技術者も必要になるだろう。
普及するにしてもトラス王国が先だが、条件次第では――と続けようとした、その時だった。
「大変ですぞ、聖女様!」
バン、と喫茶室の扉が開かれる。珍しい事に、血相を変えたアルトガルが姿を現した。余程急いでいたらしく、息が乱れている。
その隣には、久しぶりに見るカーフィの姿。くたびれた旅装のままであるあたり旅路を急いでこちらへ来たようだ。
「如何したのだ、アルトガル」
「らしくないぞ」
馬の脚共が注意をするも、アルトガルは「そんな場合ではないのだ」と構わず続ける。
「こちらのカーフィ・リプトン伯爵から情報が。神聖アレマニア帝国で、アブラーモ大司教が教皇を僭称、聖女様を魔女だと糾弾したのだと……!」
しん……と喫茶室が静まり返った。
私は深呼吸一つ。
「――何ですって?」
あの脂身、とうとうやりやがった!
あまりの事にわなわな震えていると、イドゥリースが皇帝イブラヒームに何やら耳打ちをしている。きっと通訳したのだろう、皇帝は「さあ、どうするのか?」とでも言いたげにこちらを見つめた。
精神感応を使って、『……今しがたの報告に関して、詳しく事情を探りたいですわ。蒸気機関車のお話はその後でも構いませんか?』と伝えれば、
『ふふ、面白そうだから聖女の用事が済むまで待つことにしようぞ。時間はあるのだから』と返事が。うーん、日を改めるつもりだったのだが、皇帝は待つつもりらしい。
台湾カステラを上品に食す皇帝イブラヒームを横目に、私は少し離れた座椅子へ向かい、精神統一を始めた。
皇帝以外、皆心配そうな目でこちらを見つめている。
結果、遠隔透視と精神感応で探り出した事によれば。
教皇僭称はマジだった。そうなった経緯も全て探り出した。
エトムント枢機卿や寛容派貴族を皇宮から退場させた隙を突いてやらかしたのだ。
しかも、疱瘡に効くという触れ込みでインチキな薬を、東方小国群に強制的に売りつけて金を巻き上げる屑な計画を立てていた。
その中心人物は以前話に聞いた司祭フォウツ。
精神感応を使うと、
「偽聖女の種痘とやらは迷信じみた怪しげな呪術に過ぎない。しかし私の薬は違う。
かつて類を見ない、人類史上初めての疱瘡に効く新薬。服した後で体に何らかの異常があっても、それは疱瘡を防ぐ程の強い薬だとの証左である」
と、そう嘯いていた。
司祭フォウツはご丁寧にも新たな調合薬だと称し、ご丁寧に無毒から猛毒まで様々な薬を用意している。
薬の効果をわざと一定にしない為だ。
薬を飲んだ後に死んだ者には「信仰心が足りなかった」「元々問題がある体だった。本当に薬の所為で死んだとは言えない」等と言えば、本当は疱瘡に何の効力も無い薬だということを誤魔化せる。偽薬効果でも疱瘡を自己免疫で生き残れば、「薬が効いた」と言えるだろう。
勿論、エスパーニャで疱瘡発生の報に怯える東方小国群の国主達には、「新薬を提供する代わりに問題があっても賠償を求めない」という一方的な条件を突き付けている。
条件を認めなければ薬は売ってやらない、という訳である。
名の知れた医者である司祭フォウツの名はそれほどにブランド力があったようで、ほとんどの国が条件を飲む結果となった。
一方的な条件に文句を言おうものなら、軍事力をちらつかされるというのもある。
神聖アレマニア帝国の影響が色濃い東方小国群は不寛容派の教えがかなり根強い。
寛容派も居るには居るが、不寛容派とフォウツにより流された噂の所為で種痘の成果はあまり芳しくない模様。
エトムント枢機卿は、と探すと。彼は教皇僭称事件後都落ちし、寛容派貴族の領地に身を寄せていた。
アブラーモ教皇僭称事件の日以降、宮殿は不寛容派達の巣窟となり。寛容派にとって危険な場所と化していたのだ。
『お久しぶりですわ、エトムント枢機卿。アブラーモ大司教が教皇を僭称したようですね。不寛容派の企みは全て見通しました。
種痘――神の刻印ですが、安心なさい。ちゃんと功を奏しております。いずれ疱瘡がアレマニアにも蔓延していけば、不寛容派は遅かれ早かれ自滅することになるでしょう』
ラブリアン辺境伯領のマンデーズ教会に疱瘡罹患者を抱えたカナールの民を迎えに行った顛末。
刻印を受けた者達がピンピンしている事を伝えると、祈りと感謝の言葉が返って来た。
『太陽神、そして聖女様の栄光が示されるその日まで――神の刻印を広め、信仰を強く保ち続けましょう』
序でに種痘の事を問い合わせる使者について訊かれたので、まだ会っていないと伝える。すると、近々着くのでよろしくお願いしますとの事。
ただ、大型にするには時間も費用も技術者も必要になるだろう。
普及するにしてもトラス王国が先だが、条件次第では――と続けようとした、その時だった。
「大変ですぞ、聖女様!」
バン、と喫茶室の扉が開かれる。珍しい事に、血相を変えたアルトガルが姿を現した。余程急いでいたらしく、息が乱れている。
その隣には、久しぶりに見るカーフィの姿。くたびれた旅装のままであるあたり旅路を急いでこちらへ来たようだ。
「如何したのだ、アルトガル」
「らしくないぞ」
馬の脚共が注意をするも、アルトガルは「そんな場合ではないのだ」と構わず続ける。
「こちらのカーフィ・リプトン伯爵から情報が。神聖アレマニア帝国で、アブラーモ大司教が教皇を僭称、聖女様を魔女だと糾弾したのだと……!」
しん……と喫茶室が静まり返った。
私は深呼吸一つ。
「――何ですって?」
あの脂身、とうとうやりやがった!
あまりの事にわなわな震えていると、イドゥリースが皇帝イブラヒームに何やら耳打ちをしている。きっと通訳したのだろう、皇帝は「さあ、どうするのか?」とでも言いたげにこちらを見つめた。
精神感応を使って、『……今しがたの報告に関して、詳しく事情を探りたいですわ。蒸気機関車のお話はその後でも構いませんか?』と伝えれば、
『ふふ、面白そうだから聖女の用事が済むまで待つことにしようぞ。時間はあるのだから』と返事が。うーん、日を改めるつもりだったのだが、皇帝は待つつもりらしい。
台湾カステラを上品に食す皇帝イブラヒームを横目に、私は少し離れた座椅子へ向かい、精神統一を始めた。
皇帝以外、皆心配そうな目でこちらを見つめている。
結果、遠隔透視と精神感応で探り出した事によれば。
教皇僭称はマジだった。そうなった経緯も全て探り出した。
エトムント枢機卿や寛容派貴族を皇宮から退場させた隙を突いてやらかしたのだ。
しかも、疱瘡に効くという触れ込みでインチキな薬を、東方小国群に強制的に売りつけて金を巻き上げる屑な計画を立てていた。
その中心人物は以前話に聞いた司祭フォウツ。
精神感応を使うと、
「偽聖女の種痘とやらは迷信じみた怪しげな呪術に過ぎない。しかし私の薬は違う。
かつて類を見ない、人類史上初めての疱瘡に効く新薬。服した後で体に何らかの異常があっても、それは疱瘡を防ぐ程の強い薬だとの証左である」
と、そう嘯いていた。
司祭フォウツはご丁寧にも新たな調合薬だと称し、ご丁寧に無毒から猛毒まで様々な薬を用意している。
薬の効果をわざと一定にしない為だ。
薬を飲んだ後に死んだ者には「信仰心が足りなかった」「元々問題がある体だった。本当に薬の所為で死んだとは言えない」等と言えば、本当は疱瘡に何の効力も無い薬だということを誤魔化せる。偽薬効果でも疱瘡を自己免疫で生き残れば、「薬が効いた」と言えるだろう。
勿論、エスパーニャで疱瘡発生の報に怯える東方小国群の国主達には、「新薬を提供する代わりに問題があっても賠償を求めない」という一方的な条件を突き付けている。
条件を認めなければ薬は売ってやらない、という訳である。
名の知れた医者である司祭フォウツの名はそれほどにブランド力があったようで、ほとんどの国が条件を飲む結果となった。
一方的な条件に文句を言おうものなら、軍事力をちらつかされるというのもある。
神聖アレマニア帝国の影響が色濃い東方小国群は不寛容派の教えがかなり根強い。
寛容派も居るには居るが、不寛容派とフォウツにより流された噂の所為で種痘の成果はあまり芳しくない模様。
エトムント枢機卿は、と探すと。彼は教皇僭称事件後都落ちし、寛容派貴族の領地に身を寄せていた。
アブラーモ教皇僭称事件の日以降、宮殿は不寛容派達の巣窟となり。寛容派にとって危険な場所と化していたのだ。
『お久しぶりですわ、エトムント枢機卿。アブラーモ大司教が教皇を僭称したようですね。不寛容派の企みは全て見通しました。
種痘――神の刻印ですが、安心なさい。ちゃんと功を奏しております。いずれ疱瘡がアレマニアにも蔓延していけば、不寛容派は遅かれ早かれ自滅することになるでしょう』
ラブリアン辺境伯領のマンデーズ教会に疱瘡罹患者を抱えたカナールの民を迎えに行った顛末。
刻印を受けた者達がピンピンしている事を伝えると、祈りと感謝の言葉が返って来た。
『太陽神、そして聖女様の栄光が示されるその日まで――神の刻印を広め、信仰を強く保ち続けましょう』
序でに種痘の事を問い合わせる使者について訊かれたので、まだ会っていないと伝える。すると、近々着くのでよろしくお願いしますとの事。
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