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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(202)
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知りたくもなかったアルビオン王の異常な性癖に絶句していると、喫茶室の扉がノックされた。
「今戻った……どうしたんだ?」
僕達の様子を見て、入って来るなり訝し気に問うカレル様。その後ろに続く高地の騎士ドナルドも僅かに首を傾げている。
「実は……」
かくかくしかじかと説明すると、カレル様は衝撃を受けたのか目を見開きポカンと口を開けた。騎士ドナルドは既に知っていたのか無表情のままだ。
「アルビオン王への対処をどうするか話し合おうとしていたのですが――」
マリーがあああ、と声を上げて頭を掻きむしる。
「一体どうしたら良いのかしら。『化け物には化け物をぶつけんだよ!』って人は言うけど、あれに比肩する化け物で味方になりそうな人間が思い当たらないわ……!」
「化け物て」
「王族には王族……ということならアルバート殿下に応対して貰う? でもそうしたら殿下は兎も角、メティの貞操が危険になっちゃう! あの子美人だから!」
「アルバート殿下の貞操はどうでも良いんだ……」
間髪入れずうんと頷いたマリーの頭に、カレル様が無言で軽い拳骨を落とした。
少しふくれっ面になった彼女は、じろりとカレル様を見つめる。
「カレル兄なんて真っ先に背後を狙われるんだからね! というか、我が家って狙われそうな人ばかりしかいない!? あ、あわわ……皆を守らなきゃ!」
愕然とした様子のマリーに、「だから先程申したのです、聖女様」と騎士ドナルド。
「やはり我らが赴いて首級を――」
「待て、ドナルド卿。マリー、対処出来ないなら聖女降誕節の後すぐに全員で領地に向かってしまおう。
先刻グレイが言ったように、アルビオン王が来る前に、せめてリュサイ様だけでも聖地巡礼等の名目で王都から離れられた方が面倒を避けられて安全だと思うのだが」
「そ、そうね……『兵法三十六計逃げるに如かず』というものね」
「なんだそれは?」
「厄介事からは逃げるが勝ちってことよ。一旦引いて身の安全を確保した方が、ここは――」
「お言葉ですが聖女様、私は反対です!」
「ドナルド卿?」
「確かに今すぐにでも王都を離れるのも一手かと。しかし、聖地に逃れたとて執念深い好色王のこと、我が女王や聖女様をどこまでもしつこく追って来ることでしょう」
ここで逃げたところで今までの繰り返しになるだけなのです、と騎士ドナルド。道中アルビオン王一行に遭遇する恐れもあり、そうなれば自分は迷わずその首級を落とす所存だと言った。
確かにそうなったら困るのはトラス王国だ。
「それだけではありません。事は、カレドニア王国の体面にも関わって参ります。『聖女の祝福を受けし国家連合』に加わった以上、我らが逃げ回り続ければ続ける程、他の加盟国に我が国は侮られてしまうのです」
確かになぁ。
騎士ドナルドが最も懸念しているのは、国家連合の中でカレドニア王国の軽重が問われるであろうということだ。
国家連合諸国の耳目ある今――アルビオン王を恐れて尻尾を巻いて逃げてしまえば、カレドニア王国はその程度であると軽んじられる。それは、国威を大きく損なう、と。
他の国々からカレドニア王国を贔屓し過ぎではと思われる可能性もあるだろう。
「今は聖女様達もトラス王国も我が女王に味方して下さり、この国に落ち延びて来たあの時と比べると状況も違ってきております。
かの好色王は先の戦の条約だの何だのと難癖を付け、トラス王に我が女王の引き渡しを願い出ることでしょう。
居並ぶ諸国の目のある場所で、我が女王には好色王に正々堂々立ち向かい、きっぱりと奴の要求を断って頂かなければ」
強い目で断言した騎士ドナルドに、それまで黙っていたコンラッド殿下が口を開いた。
「待ってください……それは、姉上が父に対峙するだけの強いお心を持てたらの話ではありませんか? 先程の姉上の様子を見た上でそれが可能だと?」
「もはや、可能不可能等という段階ではないのだ、アルビオンの王子よ。今後、リュサイ陛下がカレドニア王国を統べる女王で在り続ける以上、やって頂かなくてはならぬ」
しばし睨み合う騎士ドナルドとコンラッド殿下。
ドナルド卿はこの機会に女王としての自覚と成長を望んでいるのだろうし、コンラッド殿下は姉の心を守りたいと考えているのだろう。
僕としては心情的にはコンラッド殿下寄りだけれど、本当にカレドニア王国の事を考えるのであれば騎士ドナルドが正しいのだと思う。
カレル様は騎士ドナルド寄りなのだろう、「……確かに一理ある」と頷いた。
「アルビオン王とて他国の、それも王侯貴族達や諸国の目の中、下手な事は出来ないだろう。
それに、いつまでも逃げ続ける訳にはいかないだろうしな」
「それ聞いてちょっと安心したわカレル兄。ここで逃げるにせよ立ち向かうにせよ、リュシー様のことはお守りするつもりだけれど……リュシー様は、今?」
「何とか宥めすかして、よく眠れる薬を飲んで頂いた。今は侍女がついている」
「そう……リュシー様が起きたら、逃げるか立ち向かうか、どうされたいか訊いてみましょう。基本それに沿うように私達も動くつもりで――そうね、移動の準備だけは抜かりなく」
話がまとまったところで、僕は先程から考えていた案を話す事にした。
「その。リュサイ様の返事を待つ間に、私達だけで出来る事を考えてみたのですが。
アルビオン王自体は下手な事は出来ない……ならば、警戒すべきはその手足となる配下達、特に毒竜ですね。マリーの力で奴を炙り出して確保してしまうのはどうでしょう?」
「今戻った……どうしたんだ?」
僕達の様子を見て、入って来るなり訝し気に問うカレル様。その後ろに続く高地の騎士ドナルドも僅かに首を傾げている。
「実は……」
かくかくしかじかと説明すると、カレル様は衝撃を受けたのか目を見開きポカンと口を開けた。騎士ドナルドは既に知っていたのか無表情のままだ。
「アルビオン王への対処をどうするか話し合おうとしていたのですが――」
マリーがあああ、と声を上げて頭を掻きむしる。
「一体どうしたら良いのかしら。『化け物には化け物をぶつけんだよ!』って人は言うけど、あれに比肩する化け物で味方になりそうな人間が思い当たらないわ……!」
「化け物て」
「王族には王族……ということならアルバート殿下に応対して貰う? でもそうしたら殿下は兎も角、メティの貞操が危険になっちゃう! あの子美人だから!」
「アルバート殿下の貞操はどうでも良いんだ……」
間髪入れずうんと頷いたマリーの頭に、カレル様が無言で軽い拳骨を落とした。
少しふくれっ面になった彼女は、じろりとカレル様を見つめる。
「カレル兄なんて真っ先に背後を狙われるんだからね! というか、我が家って狙われそうな人ばかりしかいない!? あ、あわわ……皆を守らなきゃ!」
愕然とした様子のマリーに、「だから先程申したのです、聖女様」と騎士ドナルド。
「やはり我らが赴いて首級を――」
「待て、ドナルド卿。マリー、対処出来ないなら聖女降誕節の後すぐに全員で領地に向かってしまおう。
先刻グレイが言ったように、アルビオン王が来る前に、せめてリュサイ様だけでも聖地巡礼等の名目で王都から離れられた方が面倒を避けられて安全だと思うのだが」
「そ、そうね……『兵法三十六計逃げるに如かず』というものね」
「なんだそれは?」
「厄介事からは逃げるが勝ちってことよ。一旦引いて身の安全を確保した方が、ここは――」
「お言葉ですが聖女様、私は反対です!」
「ドナルド卿?」
「確かに今すぐにでも王都を離れるのも一手かと。しかし、聖地に逃れたとて執念深い好色王のこと、我が女王や聖女様をどこまでもしつこく追って来ることでしょう」
ここで逃げたところで今までの繰り返しになるだけなのです、と騎士ドナルド。道中アルビオン王一行に遭遇する恐れもあり、そうなれば自分は迷わずその首級を落とす所存だと言った。
確かにそうなったら困るのはトラス王国だ。
「それだけではありません。事は、カレドニア王国の体面にも関わって参ります。『聖女の祝福を受けし国家連合』に加わった以上、我らが逃げ回り続ければ続ける程、他の加盟国に我が国は侮られてしまうのです」
確かになぁ。
騎士ドナルドが最も懸念しているのは、国家連合の中でカレドニア王国の軽重が問われるであろうということだ。
国家連合諸国の耳目ある今――アルビオン王を恐れて尻尾を巻いて逃げてしまえば、カレドニア王国はその程度であると軽んじられる。それは、国威を大きく損なう、と。
他の国々からカレドニア王国を贔屓し過ぎではと思われる可能性もあるだろう。
「今は聖女様達もトラス王国も我が女王に味方して下さり、この国に落ち延びて来たあの時と比べると状況も違ってきております。
かの好色王は先の戦の条約だの何だのと難癖を付け、トラス王に我が女王の引き渡しを願い出ることでしょう。
居並ぶ諸国の目のある場所で、我が女王には好色王に正々堂々立ち向かい、きっぱりと奴の要求を断って頂かなければ」
強い目で断言した騎士ドナルドに、それまで黙っていたコンラッド殿下が口を開いた。
「待ってください……それは、姉上が父に対峙するだけの強いお心を持てたらの話ではありませんか? 先程の姉上の様子を見た上でそれが可能だと?」
「もはや、可能不可能等という段階ではないのだ、アルビオンの王子よ。今後、リュサイ陛下がカレドニア王国を統べる女王で在り続ける以上、やって頂かなくてはならぬ」
しばし睨み合う騎士ドナルドとコンラッド殿下。
ドナルド卿はこの機会に女王としての自覚と成長を望んでいるのだろうし、コンラッド殿下は姉の心を守りたいと考えているのだろう。
僕としては心情的にはコンラッド殿下寄りだけれど、本当にカレドニア王国の事を考えるのであれば騎士ドナルドが正しいのだと思う。
カレル様は騎士ドナルド寄りなのだろう、「……確かに一理ある」と頷いた。
「アルビオン王とて他国の、それも王侯貴族達や諸国の目の中、下手な事は出来ないだろう。
それに、いつまでも逃げ続ける訳にはいかないだろうしな」
「それ聞いてちょっと安心したわカレル兄。ここで逃げるにせよ立ち向かうにせよ、リュシー様のことはお守りするつもりだけれど……リュシー様は、今?」
「何とか宥めすかして、よく眠れる薬を飲んで頂いた。今は侍女がついている」
「そう……リュシー様が起きたら、逃げるか立ち向かうか、どうされたいか訊いてみましょう。基本それに沿うように私達も動くつもりで――そうね、移動の準備だけは抜かりなく」
話がまとまったところで、僕は先程から考えていた案を話す事にした。
「その。リュサイ様の返事を待つ間に、私達だけで出来る事を考えてみたのですが。
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