シャハルとハルシヤ

テジリ

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幕間 庇護の国

バロルド亭の放課後

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 首都ポンチェト=プリューリにあるバロルド亭という店名は、言わずもがな逆賊バロルドに由来していて、初代イェノイェは彼を殺して名を上げたーーまでは良かったが、その後の宴の席でしたたかに酔っぱらった挙句、くだを巻いて当時の帝王の不興を買い、追手を差し向けられて命からがら逃げ出した。悲しいかな、それが私の先祖である。ただしこの店のハンバーグステーキは絶品で、鉄板焼きのトマトチーズスパゲティもなかなかいける。



バロルド亭のドアベルが鳴り響き、遅れて来たクサンナが現れた。

「どうも皆さん、お待たせしました」

「待ってたよクサンナ、さあ座って」

私は彼女の為に椅子の隣を空けた。クサンナは洋装のジムスリップを着て、白地のカンカン帽を被っていた。
クサンナが通う玫瑰まいかい女学院の制服は、他の学校に通う私達と同様に、二部式着物の上衣に、指定色の青袴キュロットを合わせた姿なのだが、玫瑰まいかい女学院は厳しい規則で寄り道を固く禁じ、放課後は学校のシスター達で街中見張られているため、どうしても一度帰宅して着替える必要があった。

帽子を脱いで荷物籠に置き、持参した革鞄から教科書や筆記具を取り出したクサンナには、彼女の向かいに座った、緑の袴キュロットを履いた連大附属の女子生徒が付いて勉強を見始め――私はというと、同じ学校に通う特待生のアマンに、万年筆で手の甲を小突かれた。

「痛っ」

「ハルシヤ~、アンタも集中しなよ。明後日から中間試験だろ」

「げっ。もうそんなに、この前あったばかりじゃないか」

「ま、普段からやってりゃ、何の問題もないのさ。でもそうじゃないから、あたしゃこうして小遣い稼ぎができるってわけで。毎度あり~、ソピリヤさん」

「いつも協力してくれて、ありがとねアマン。本当に助かる」

「いーえ、これからも御贔屓に。ところで、ここに居るトーリエ共は、全員スミド出身者の樟会くすのきかいだっけ。いいねヨウゼンさんは。すこぶる優秀ならこ~んな大都会にだって進学さしてくれるんだ。同じセーアン地方でも、アヂマサのオトガル・タエンなんて、あたしらリンダ群島の事は余所者としか思ってないだろうからね~…でもいいさ、これからは学問の時代だから」

「何だかんだでアマンって凄いよな、首都教学院から直々にスカウトが来て、毎月小遣い貰って学校通ってるんだもんな」

私が褒めると、アマンは誇らしげに胸を反らした。

「ま、これぞ雇われ優等生って奴かな~。学力の尖兵、最終的に一人で名門大学に合格しまくって、学校の実績を上げる要員。それが私立首都教学院・特待生に課された唯一の使命っ、連邦大学男子部・女子部附属中学校のトーリエ共には負けーんっ」

そう言ってアマンからびしっと指差さされた樟会くすのきかいの人達は、気を悪くすることもなく笑顔で“おう頑張れよ”と返し、私達の勉強会は、どうにかこうにか噛み砕いて理解できるまで続けられた。

今日も今日とて遅くなってしまったので、店に頼んでロンシュク家から迎えを寄越してもらった。連大附属の面々はヨウゼン家、というより実際はロミネ様がポケットマネーで手配した下宿先へ、アマンは首都教学院の寮へとそれぞれ見送られて行き、私達3人はロンシュク家のお屋敷へと送り届けられた。到着すると、真っ先にケイレブ様が出迎えてくれた。

「おかえりなさい。今日ね、逆上がりが出来たんです。板を駆け登ってぐるんって」

ケイレブ様はソピリヤ様の甥っ子で、どなたに似たのか少し気が弱く、あがり症で緊張すると嘔吐癖があり、ロンシュク家の長男ながら、将来を危ぶまれている。…私はそんな事ないと思うけど。
ソピリヤ様は、ケイレブ様のお話しを聞きながら手を繋いで歩き始め、私とクサンナはその後ろに続いた。


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