地図アプリにまつわる経済小説あるいは昼ドラバトル人格障害対決〜最後はばぁば無双〜

テジリ

文字の大きさ
93 / 127
アプリ計画、リブート中。

Mの幸福最大化

しおりを挟む
 Cは中学校からの帰り道。手帳を片手に、図書館の静かな書架を歩いていた。
T師から聴き取ったCのメモには、本の大まかな作者や、T師が読書を希望する内容が、きっちり書かれている。

「ジェレミー・ベンサム……功利主義思想……?」

Cは小声でつぶやき、首を傾げた。
本のページをめくると、鉛筆で線が引かれた箇所📝があった。
図書館の蔵書は公共物なので、たとえ鉛筆✏️だろうが、本来はNGだ。
かと言って、Cが消す時にページを破いては元も子もない。次の返却時に司書に伝えよう。そう考えながらCは手帳にメモを取る。

しかし――前に読んだヤツは何を思って、こんな箇所にワザワザ線なんか?

「もしある行為が快楽をもたらし、他者に苦痛を与えぬなら――
それを罪と呼ぶ理由は、いったいどこにあるのだろう?」

Cは目を細める。
(あれ……これ、なんか触ったりとか、セルフケア的な話……?)
ページ下には「Offences Against One’s Self」と英語の章題。
英語は苦手。解説を見ても、さっぱり分からない。

そのとき、横から軽やかな声した。

「ねえ、そこの子」

Cが顔を上げると、私服の年上が立っていた。
見た目は女子中学生~女子高校生の間くらい。

「Tさんのお手伝い?」

Cは少し驚き、答える。
「え……はい」

謎の年上は、にやりと笑う。
「それ、実は同性恋愛擁護やで~🫵」

Cは小さく肩をすくめた。
(へー……そういう話。分かりにくっ……)

それでもこれはT師のリクエスト。
「まあ、借りてくるか……」と本を抱え貸し出しカウンターへと向かった。

 謎の年上は当然のようにCについて来る。
 この人、中学生……?
 いや、Cと違って制服じゃないし、私服高校生?
 あるいは、不登校生?

「アナタがC? いつも図書館来てるよね」

 その見た目は、全然ヤンキーじゃない。
 髪も染めてないし、服を着崩したりもしていない。
 タバコ臭もしない。

「え……はい」

 Cは少し驚いて答える。
 謎の年上は、強いて言うなら、ちょっとスポーティでボーイッシュな雰囲気だ。
 しかし図書館なのにガムを噛んでいる。

(いいのか? 顔なじみの司書にチクろうかな?)

 Cはわりとチクリ屋だ。本人にはバレないように告げ口するのが、昔から得意。
 そんなの謎の年上には、知りようもないし。

「結構しっかりバイトしてるんだね。
 Tさんは昔から勉強熱心でさ、
 アナタみたいな子がいてくれて助かってるって言ってたわ~。
 やるじゃん、このこの~」

「そう……なんですか?」

 謎の年上は、いきなり馴れ馴れしく肘でグリグリ。
 CはT師の面影がチラついて、謎の年上にもイラついた。

「つーか名乗れよ。誰なんだアンタは」

「えー私、言ってなかったっけ? Mだよ!
 通信制に通ってるんだ~♪
 図書館には、よく自習に来ててさ。アナタのバイト前任者」

 Mは、元不登校生。しかしイジメや、ヤンキー化が原因ではない。
 彼女の母が不慮の交通事故によって、日常生活に支障を来たしたのだ。

 自賠責保険は下りたものの、相手は任意保険には未加入。支払い能力もゼロだった。
 父には日中仕事がある。やむなくMが母の介助。
 Mは学校にも行けなくなった。
 そこへ駆け付けたのが、T師だった。

 Mの母に介護施設を紹介。
 父には娘の権利と義務教育を怠るな! と滾々と説教。
 現在ではリハビリの甲斐あって、Mの母は日常生活レベルには回復した。

 そして現在のMは、ライフワークの登山に打ち込むため、通信高校を選択。
 父と協力しながら、母の生活をサポートする日々を送る。

「ウゲッC…ちゃんと読むの? ベンサムって、難しくない? 経済学者の長ったらしい話でしょ?」

「うん……“幸せの最大化”って書いてあるけど、
 どういうことか、まだわかんなくて」

「ま、T師はそういうの好きだからね。
 みんなが幸せになる方法、ってことだよ」

 Cは、先ほど読んだ一節を思い出す。
(でも、“みんな”の中に、誰が入ってるんだろう。
 誰も傷つけない人たちも、入れてるのかな)

 Cは少しだけ感心しそうになった。
 でも、金木犀の香りを思い出し、すぐに眉をひそめた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...