3 / 121
プロローグ
荒浪の惚気
しおりを挟む
教祖・衣縫(イヌイ)殺害の知らせを受けーー
射鬼(イオニ)と雨引(ウイン)は、
急ぎ現場となった尸魂宮(へごんきゅう)へ馳せ参じた。
✶
射鬼と雨引。
彼女達は、共に衣縫の弟子で、上位祈祷師である。
2人が到着すると、
衣縫の侍女・祈癒(キユ)が、
衣縫の亡骸に泣き縋っていた。
「衣縫さまっ、
嗚呼っ……本当に、何ということだ!
荒浪ッ、
貴方は何ら物音に気付かなかったというのか?」
傍らに棒立ちする男・荒浪(あらなみ)。
荒浪は、教祖・衣縫の事実上の夫である。
荒浪は、侍女・祈癒のきつい眼差しを受け止めながら、
沈痛な面持ちでそれに答えた。
「疑いたくなる気持ちは分かる。
だが手前は、普段から離れでひとり生活。
昨晩もそうだ。
朝起きてみればどうも人の気配がしないので、
手前は訝って人を呼びながら、衣縫の元に走った。
ーーさすればこの有様だ」
✶
祈祷師・射鬼は、一瞬目をつぶり嘆息する。
(だが……せめて、敷蓮(シクハス)さまがご無事でなにより。
衣打(イダ)さまも、ご存命なのは間違いない)
射鬼は、衣縫の遺児・敷蓮に向き直った。
「衣打さまは、どうなさったのですか?
敷蓮さまなら、何かご存知でしょう?」
✶
敷蓮は、憔悴しきった様子でポツリポツリと経緯を語る。
「こっちは真夜中、衣打に叩き起こされた。
訳もわからず窓から外へ出て、井戸の影に隠れていた。
だがそのうち見つかって、井戸に投げ込まれた。
衣打は……そのまま連れ去られたのだと思う」
射鬼は、その内容に絶望した。
更に追い打ちをかけるように、
荒浪はいきさつを付け加える。
「射鬼。
その他全員の名誉の為にも言っておく。
手前以外もそうだ。
見張り番も側近達も、手前が起こして回るまでーー
総じて熟睡状態だった。
殺害されたのは衣縫のみ。
いずこにも見当たらぬ故、
恐らくは不老不死の秘薬まで、何者かに奪われた」
✶
すると、祈祷師・雨引が口を開いた。
「恐らくそれは……
衣打さまの有験(うげん)による催眠術では?
他に被害が無いのは、襲撃者たちと予め連絡を付けていたのでは?
念写であれば、それも可能。
そんな話に乗る、相手も相手だがの」
侍女・祈癒は、涙ながらに否定した。
「まさかそんな……。
衣打さまは、衣縫さまの後継者なのですよ!?
産まれながらにして、
衣縫さまの有験(うげん)を、
既に半分は割取(かっしゅ)されておいででした。
何も母君を弑してまで、事を急く理由なんて……」
雨引の見立てが事実であればーー
衣打の常軌を逸した振る舞いは、
一体何を意味するのか?
✶
祈祷師・射鬼はうろたえる間もなく、
直後全員到着した教団幹部達との会合に呼ばれた。
祈祷師・雨引も同じく。
祈祷師ふたりは、遺児・敷蓮と共に、
緊急会合出席のため中座した。
✶
残されたのは、侍女・祈癒と、
衣縫の事実上の夫・荒浪だけ。
荒浪は、衣縫の亡骸の第一発見者だ。
もう一度、彼女に掛けた布を取去ろうか悩んでーー
結局止めた。
「衣縫、やはりあなたが言う大御神は、
畏れるに足りない。
だが唯一……あの話だけは、心底同意する」
✶
――だから手前の、
他愛のない昔話に付き合っておくれよ。
もうあなたは……信徒達の悩み苦しみに忙殺される事も、
有験(うげん)の為に、
あちこち駆り出される事も無いのだから。
【小説イメージMV】
https://youtube.com/shorts/cZ6ENKsFpJw?si=89AoCBmM5IX9Q-w6
使用曲【名探偵コナンのテーマ】三味線だけで弾いてみたら火傷したぜ [Detective Conan:Main Theme - Japanese Music Shamisen Cover]
しゃみお - Shamisen player Shamio様演奏
2020年5月4日投稿
キャラクタームービーはZEPETOで作成
射鬼(イオニ)と雨引(ウイン)は、
急ぎ現場となった尸魂宮(へごんきゅう)へ馳せ参じた。
✶
射鬼と雨引。
彼女達は、共に衣縫の弟子で、上位祈祷師である。
2人が到着すると、
衣縫の侍女・祈癒(キユ)が、
衣縫の亡骸に泣き縋っていた。
「衣縫さまっ、
嗚呼っ……本当に、何ということだ!
荒浪ッ、
貴方は何ら物音に気付かなかったというのか?」
傍らに棒立ちする男・荒浪(あらなみ)。
荒浪は、教祖・衣縫の事実上の夫である。
荒浪は、侍女・祈癒のきつい眼差しを受け止めながら、
沈痛な面持ちでそれに答えた。
「疑いたくなる気持ちは分かる。
だが手前は、普段から離れでひとり生活。
昨晩もそうだ。
朝起きてみればどうも人の気配がしないので、
手前は訝って人を呼びながら、衣縫の元に走った。
ーーさすればこの有様だ」
✶
祈祷師・射鬼は、一瞬目をつぶり嘆息する。
(だが……せめて、敷蓮(シクハス)さまがご無事でなにより。
衣打(イダ)さまも、ご存命なのは間違いない)
射鬼は、衣縫の遺児・敷蓮に向き直った。
「衣打さまは、どうなさったのですか?
敷蓮さまなら、何かご存知でしょう?」
✶
敷蓮は、憔悴しきった様子でポツリポツリと経緯を語る。
「こっちは真夜中、衣打に叩き起こされた。
訳もわからず窓から外へ出て、井戸の影に隠れていた。
だがそのうち見つかって、井戸に投げ込まれた。
衣打は……そのまま連れ去られたのだと思う」
射鬼は、その内容に絶望した。
更に追い打ちをかけるように、
荒浪はいきさつを付け加える。
「射鬼。
その他全員の名誉の為にも言っておく。
手前以外もそうだ。
見張り番も側近達も、手前が起こして回るまでーー
総じて熟睡状態だった。
殺害されたのは衣縫のみ。
いずこにも見当たらぬ故、
恐らくは不老不死の秘薬まで、何者かに奪われた」
✶
すると、祈祷師・雨引が口を開いた。
「恐らくそれは……
衣打さまの有験(うげん)による催眠術では?
他に被害が無いのは、襲撃者たちと予め連絡を付けていたのでは?
念写であれば、それも可能。
そんな話に乗る、相手も相手だがの」
侍女・祈癒は、涙ながらに否定した。
「まさかそんな……。
衣打さまは、衣縫さまの後継者なのですよ!?
産まれながらにして、
衣縫さまの有験(うげん)を、
既に半分は割取(かっしゅ)されておいででした。
何も母君を弑してまで、事を急く理由なんて……」
雨引の見立てが事実であればーー
衣打の常軌を逸した振る舞いは、
一体何を意味するのか?
✶
祈祷師・射鬼はうろたえる間もなく、
直後全員到着した教団幹部達との会合に呼ばれた。
祈祷師・雨引も同じく。
祈祷師ふたりは、遺児・敷蓮と共に、
緊急会合出席のため中座した。
✶
残されたのは、侍女・祈癒と、
衣縫の事実上の夫・荒浪だけ。
荒浪は、衣縫の亡骸の第一発見者だ。
もう一度、彼女に掛けた布を取去ろうか悩んでーー
結局止めた。
「衣縫、やはりあなたが言う大御神は、
畏れるに足りない。
だが唯一……あの話だけは、心底同意する」
✶
――だから手前の、
他愛のない昔話に付き合っておくれよ。
もうあなたは……信徒達の悩み苦しみに忙殺される事も、
有験(うげん)の為に、
あちこち駆り出される事も無いのだから。
【小説イメージMV】
https://youtube.com/shorts/cZ6ENKsFpJw?si=89AoCBmM5IX9Q-w6
使用曲【名探偵コナンのテーマ】三味線だけで弾いてみたら火傷したぜ [Detective Conan:Main Theme - Japanese Music Shamisen Cover]
しゃみお - Shamisen player Shamio様演奏
2020年5月4日投稿
キャラクタームービーはZEPETOで作成
0
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる