タイマヲマイタ 【中学生時代】

元同塾の蘇我ちゃん

優しい彼女は心配するが

　野々下 灯枇あけびは水泳部に所属することによって、仲の良いクラスメイトを二人も確保した。和紀わきも綸りんも真人間で、従姉や妃鞠や雲母の様に、灯枇あけびに嫌がらせして反応を楽しんだりするような人間達では無かったのも幸いだった。

　しかし学校教育の現場というものは、とかく奇数に残酷で、「はい、二人組になって」と何かしらの科目で教師から言われた際には、和紀わきにも綸りんにも悪気は無く、かと言ってどうしようも無く、灯枇あけびは一人だけ余ってしまう。しかも全部で９クラスあった灯枇あけび達の学年は、何故か１―９を余らせるのでは無く、先頭の１―１だけ単独にして体育の授業を行っていた。

　だから他のクラスであれば、体育の授業だけは隣のクラスと合同でやるので、もし隣に友達が居れば、まだ若干救われる余地があったのだが。これまた悲しい事に、実は野々下 灯枇あけびにも、１―２には図書室で知り合った友達の、優しい赤巻さんが存在したのだ。

　この頃の灯枇あけびは、人々から散々弄ばれた結果の自尊心の低さが災いして、相手から友達と明言されなければ、友達と自認出来なかった。だからヒヲス小学校でも、もしアニーが明言してくれなければ、灯枇あけびは、自分がアニーと友達だとは信じられなかっただろう。だからその瞬間までは、優しい赤巻さんは灯枇あけびにとって、親しく話した事のある、出来れば仲良くなりたい相手でしか無かった。


　その瞬間というのは、まあ些細な出来事ではあるのだが、その頃の灯枇あけびにとって忘れ難い幸運な出来事だった。それというのは、実は１―２には、他にも灯枇あけびの知り合いが居たのだ。彼は他校出身者で、灯枇あけびより先にさくら塾に通っていたが、その頃にはもうさくら塾を辞めていた。しかしお互いに顔は覚えていた。

「よっ、野々下さんじゃん。元気？」

　元同塾おなじゅくの蘇我ちゃんは、さくら塾に対する懐かしさからか、少し以前と変わらぬ笑顔で、同塾おなじゅくだっただけの灯枇あけびに廊下で軽く話し掛けた。

「こらーっ、蘇我。何ばしよっとね、あたしの友達をいじめんで！」

　灯枇あけびと蘇我ちゃんが話しているのを見掛けた赤巻さんは、灯枇あけびを心配して飛んできてくれた。濡れ衣を着せられた蘇我ちゃんは、楽しそうに笑いながら、違うって、前に同じ塾だったんだよと否定していたが、灯枇あけびは灯枇あけびで、塾では全く話せなかった蘇我ちゃんが良い人だった事や、赤巻さんに友達と呼ばれた事が本当に嬉しくて、二人と同じクラスではないのが酷く残念だった。