【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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月に向かって彼は吼えた今宵は母の命日だ

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児相の面会室。
鏡太郎は、無戸籍少年──鮎──と対面する。
小柄で、感情の波をほとんど見せないその姿は、まるで白魚のようだった。

「これから面会交流を始める。今日は短時間だが、生活環境や安全面の確認も兼ねる」

鮎は黙って頷くだけ。鏡太郎は、手を伸ばし、少年のか細い手を軽く握る。
その瞬間、胸の奥であの日の母の命日を思い出す。死に際に握った母の手と同じ温度──
冷静であろうとする理性が、微かに揺れた。

「児相には、今日の面会は短時間で報告する。問題なければ、明日以降は少し長めにして家で過ごしてもいい、と相談するつもりだ」



翌日、鏡太郎は児相に電話を入れ、状況を説明した。
「彼は健康で、今日の面会も落ち着いていました。生活環境の確認のため、明日、一時的に私の自宅での面会を希望します」

児相の担当者は、了承した。
「安全上の配慮と、学校通学も含めた対応ですね。短期間なら問題ありません」

鏡太郎は、心の中で微かにほくそ笑む。
(一歩一歩、着々と。法に則った一時預かりだ……)



自宅マンション。
鮎はソファの端に小さく座り、鏡太郎は生活必需品を準備しながら、少年の動きを観察する。

「学校は好きか?」
「まさか! まだ図書室なら耐えられるけど」

鏡太郎は、形式上「生活支援の一環」として鮎の世話をする。
学校にもきちんと行かせる。



数日後、児相と法務局へ。
児相の協力で、一時保護者としての記録を正式に残す。

法務局では、戸籍未登録の少年に対して、後見人申請を経て戸籍作成手続きを進める。

名義は「鮎」とすることで、鏡太郎の命名意図も反映される。

鏡太郎は、必要書類に署名をしながら、少年の横顔を観察する。
無垢に見えるその表情の裏に、未来の可能性と、自分が与える影響の重みを感じた。

「今日から俺の家で暮らすことになる。法に則った手続きだ、安心しろ」

鮎は小さく頷く。
初めて、自分の名前を持った少年の目には、わずかな安堵が浮かんでいた。

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