【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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月に向かって彼は吼えた今宵は母の命日だ

古代カリスマ美容師教育

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小寿林氏の奥地、山桜が咲き乱れる春。
傅役は6歳になった。

傅役は分家屋敷の奥座敷で、
今日も、生首を前にしていた。
処刑されたばかりの、まだ温もりを残す首。

「妹背♡ 今日はこれよ」

幽鏡は、白い指先で死者の髪を梳きながら、
傅役に微笑んだ。

「死してなお、美しくあらねばならぬ」

小寿林氏の分家は、代々「髪と美」を司る家系。
戦化粧も、婚礼の結髪も、死に化粧もーー

そのすべてが、 魂の儀式。
傅役は、それらすべて「幽鏡に似合うか」 で覚えた。

武人の束ねは、  
幽鏡が戦地に降り立ったときの姿を想像して。
婚礼髪は、幽鏡が、おのが花嫁になる日を夢見て。
死に化粧は、幽鏡が死んでも、
傅役の手で、永遠に美しくあるように。

古老は傅役を見て呟いた。

「これは……次代の“美の鬼”じゃ……」

幽鏡は、傅役の頭を撫でながら微笑んだ。

「妹背♡ ほんと器用。よい子の鑑や」

傅役は幽鏡の指に、そっと口づけた。

「幽鏡……ぼく、あなたのために。
 この技を極めたよ」

幽鏡は傅役を抱きしめ、耳元で囁いた。

「妹背♡ よう頑張った。褒めたげる」

その瞬間、傅役は完全に、幽鏡の妹背になった。





奥座敷の幽鏡母子は、今日も首実検。
年貢を払えず処刑されたばかりの、まだ血の滴る生首を前に、傅役は櫛を握っていた。
幽鏡は、隣で微笑みながら指導する。

「妹背♡ 頬の血はこう隠して……  
 唇は少し紅を残してあげると、  
 死んでもなお、うつくしくなる」

傅役は真剣に頷き、死者の唇に紅を差す。
そのとき、すっと障子が開いた。

領主(小寿林本家の当主)が、視察がてら顔を出したのだ。

「幽鏡殿、ご子息の進捗はいかがかな……」

領主の言葉は、目の前に広がる光景に凍りついた。
わらべが、首の髪を丁寧に梳きーー白粉を塗り、  
最後に、死者の唇に口移しで紅を差している。

傅役は無邪気に幽鏡へ訊ねる。

「妹背♡ これでいい? 綺麗になった?」

幽鏡の顔には恍惚の表情が浮かぶ

「うん♡ 完璧。妹背♡は神童ね」
「なんじゃこりゃあ!?😱……であえであえ!」

領主は心底震え上がる。

傅役は紅を差しながら振り返り、無邪気に言った。

「あ、領主。この死者の髪、ちょっと跳ねてしまい、困っておるのです。  
 どう思われますか?」

 領主は即座に後ずさる。

「い、いや……吾人は…急に腹が!  
 痛うなってきてかなわぬ~!」

傅役は、首を抱えて立ち上がった 

「じゃあ次は領主の御髪も──」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

ズダダダダダダ💥!!

領主は、庭を全力疾走して逃げ帰った。
残された幽鏡と傅役は、首を見ながら顔を見合わせる。

「ふふ、びっくりさせちゃった♡」  
「領主、顔色悪かったですよ?まるで生首みたい」  
「きっと妹背♡の腕前に感動したのね♡」

二人は再び和やかに、髪を梳かし続けるのであった。


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