【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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月に向かって彼は吼えた今宵は母の命日だ

母の死

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 小寿林の山奥は雪深く、寒椿がボタボタと
 花まるごと散っていた。

 幽鏡は寡婦だった。 
 同じく小寿林氏分家の夫は病に伏せり、
 幽鏡が極端な若年だろうが、子孫を遺さねばならなかった。

 夫は赤子が産まれる前に死んだ。  
 残されたのは、姉弟にしか見えない母子だけ。


 ✦


 小寿林氏は年々先細り、領主すら子を授からず、  
 白羽の矢が幽鏡に立った。

 婚礼の日。傅役は震える手で、幽鏡の髪を梳いた。

「妹背……だれよりも綺麗だよ」  

 幽鏡は、微笑みながら、傅役の頬に手を当てた。

「ありがとう……妹背♡」

 程なく、幽鏡は懐妊した。
 だが産褥が、幽鏡の命を奪った。

 異父弟・しつりは生まれた。  
 だが、生まれつきの精巣捻転。  
 片玉は腐り、もう片方も、間もなく機能を失った。

 傅役は、幽鏡の死に化粧役を任された。
 誰よりもうつくしく、誰よりも気高い幽鏡。


 ✦


 鳥葬場所は把握済み。
 真夜中、傅役は鳥辺野に忍び込み、  
 幽鏡の亡骸を腑分けした。

 瘢痕だらけの子宮。癒着した内臓。  
 しつりを産んだこと自体、奇跡だった。

 壊したのは、病死した父と、息子傅役。
 死なせたのは、領主と、異父弟しつり。

 傅役は、食事ものどを通らなくなった。
 幽鏡が付けた乳母が、その傍らに座り、背中をさすった。

「……お母さまの代わりにはならなくても、私はずっとお側にいます」

 だが元服の日。
 領主は、乳母に命じた。

「夜の手ほどきをせよ」

 やらなければ、乳母は解雇。
 古代では、一般常識。通常なら武勇伝。

「私は……お母さまの代わりですから……」

 傅役は、涙すら出なかった。  
 終わったあと、外へ駆け出した。
 下弦の月が、煌々と照らす。

 月に向かって彼は吼えた。
 今宵は母の命日だ。

「幽鏡!! なぜ俺を、置いていくんだ……」


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